〜輝夜視点〜
「輝夜ー。どうせ寝てるだけなんだから早くでてこーい」
……その声で目が覚めた。
私の名前は蓬莱山輝夜。
そしてこの声の主は……。
「ほら、起きろー。もう昼だぞ。一緒に食べよう」
そう言って荷物を片手に
腐れ縁とも言うべき知り合いだ。
「……はぁ」
「いきなり溜息なんてついてどうしたんだ」
「……なんでもないわよ」
弁当を包んでいた風呂敷を取り、竹の葉で包んだ握り飯を渡してきた彼女を見て溜息をつく。
妹紅は気不味くないのかしら、と思いながら貰った握り飯を食べる。
握り飯は海苔で包まれており、中は胡麻と鮭の粉末らしきふりかけで味がつけられていた。
「美味しいか?」
「ええ、美味しいわ」
屈託のない笑顔でそうかそうかと笑っている妹紅。
……これを第三者が見たら何故気不味いのか不思議に思うであろうから説明しよう。
それは数日前に遡る。
〜数日前の輝夜視点〜
私は同居人の因幡てゐが廊下の板に細工しているのを見ながら、部屋でお茶を飲んでいた。
「たまには、こうしてゆっくりするのも悪くないわね。そうは思わないかしら、てゐ?」
「そうだねぇ……」
てゐは返事はしたものの作業に集中している為か、話が続かない。
……暇だわ。ゆっくりするのは良いとは言ったが退屈が良いとは言っていないのである。
私を含めて暇こそが私達、蓬莱人を殺す。故に退屈こそが最大の敵と言っても過言ではない。
「……鈴仙を呼んで何か持ってきて貰おうかしら」
「鈴仙なら、私が呼んでこようか。姫様」
細工を終えたのかてゐが立ち上がって私に聞いてくる。
「そうね。お願いしようかしら」
「りょうかーい!」
てゐは返事をすると直ぐ様走っていった。
静かになった私は暇なので、仕方なく食べる予定ではなかった煎餅を棚の奥から出して食べる事にした。
バリ、バリ、という音をたてて煎餅を噛じる。女性としてはしたないのだろうが、煎餅とはこういう物である。そう思いながら醤油で味付けされた煎餅を食べていた。
「姫様ー。何か御用ですかぁー、あああぁぁぁ!!!」
鈴仙は走ってきて、私に話しかけようとしたところ、そのまま床下へと落ちていった。歩いてそこまで行くと床下には更に落とし穴があり、かなり深く常人では脱け出せない程の深さであった。
「てゐぃぃいいい!!!」
鈴仙は足を曲げて力を溜め、勢いよく跳躍して、戻ってくる。このままこの子を眺めるのも面白いのだが、てゐの所へ行ってしまいそうなので呼び止めた。
「ねえ、鈴仙」
「……なんですか姫様」
こちらへと振り向いた鈴仙は、今にも飛び出しそうなのを堪えて話を聞く体勢となる。
「何か面白い物はないかしら」
「……またですか」
彼女は私の何時もの無茶ぶりに対して死んだ魚のような目をしている。
「私はこれから昼御飯の用意があるのですが……」
「そんなことより面白い物ない?」
私が手を出してねだっていると、思い出したかのように彼女は言った。
「ああ。そう言えば、今日は妹紅さんが来る日では?」
「……忘れてたわ」
妹紅とは週に何回か会って
「なら、もうそろそろ来る頃かしらね」
そう呟くと同時に空を駆ける炎の塊が見えた。そして、庭へと落ちてきて煙が舞う。煙が晴れると白い長髪の
「よう、輝夜。遊びに来たぞ」
「いらっしゃい妹紅」
そう返し、挨拶変わりの炎が飛んでくるだろうと身構えていた。が、何時まで立っても炎が飛んでこない。
「今日はその……。話があってだな」
何時もとは態度が全然違う彼女。何故か顔を背けながら頬を赤く染めて話し始める。その態度を見たこともない筈なのに既視感を感じながらも、私は話を聞いた。
「お前と再開したときのこと、覚えてるか?」
「再開した時と言うと、出会い頭に炎をぶつけてきた時のことかしら」
彼女とはこの幻想郷で再開した。それまでは千年近く会ってなかった為か、私は彼女のことを忘れていた。だが、妹紅は覚えていて私に向かって炎を投げつけてきたのだ。
痛くはあったが今では日常のようなものだから、今の今まで正直、忘れていた。
「覚えているけど、それがどうしたの?」
「あの時、お前を見たときから胸が痛くなった。始めはただの輝夜に対する殺意からだと思っていたんだ」
……なんか急に語り始めたわね。
「だが、お前と別れた後。その痛みは収まるどころか段々と強くなっていった。試しに病気かと思って一回死んで見たんだ」
でた、蓬莱人あるある。治すのが大変なら体ごと再生する。
「でも、収まらないんだ。そして、何故こんなにも胸が苦しいのか考えに考えた」
……この流れってまさか。
「……多分、私はお前に一目惚れしたんだと思う」
これを聞いて私は頭を抱えた。見覚えあるに決まっている。彼女の父親が同じ事をしていたのだから。髪の色は違くとも、顔立ちは同じだ。そりゃ、既視感も感じるわけだ。
そう言えば、鈴仙が静かだからどうしたのだろうと思い、彼女を見ると顔を両手で隠しながら指の間から凝視していた。告白とかの恋愛経験があまりないのだろう、顔を真っ赤にしながら、瞬きもせずに見ている。
「ふぅ、すっきりした」
「いやいやいや。え?」
「ん? なんだ、輝夜」
「いや、なんだ。じゃなくて。返答を求めたりしないの?」
そう言うと彼女は清々しい笑顔を浮かべて言う。
「いきなり返事を求めても困るだろ? だから、返してくれるまで待つことにするよ」
「えぇ……」
私は酷く困惑した。昔、告白してきた人達は贈り物を持って結婚しろと迫ってくるのしかいなかったのに、妹紅は待つというのだ。
確かに蓬莱人には時間が幾らでもあるから待ちようはあるのだが……。
「あなたねぇ。私がずっと返答しないならどうするつもりなのよ」
「そりゃ、待ち続けるさ。輝夜が振り向いてくれるまで幾らでも」
「……はぁ」
妹紅の言葉に私は頭を抱える事しか出来ないのであった。
~現在の輝夜視点~
と言うわけなのである。
それからは私が一方的に気不味く感じて、互いに殺しあいすることもなくなってしまった。むしろ、告白してきた相手と遊び間隔で殺り合うとか気不味く感じない妹紅の方が可笑しいのだ。
別に意識しているとかではないのだ。
「でも、姫様は憎からず思っている所はあるでしょ」
「きゃっ!?」
妹紅と握り飯を食べていると隣の部屋からスコップを肩に乗せたてゐがずかずかと入ってきた。
「なによ、いきなり……」
「だって本当のことウサ」
わざとらしく語尾にウサをつけて入ってきたてゐ。
「へぇー。じゃあ嫌な理由があるならあげてみなよ」
「貴女のお父様に恥をかかせたり、貴女自身を蓬莱人にしてしまった間接的な原因だし……」
「他には?」
「……思い付かないわ」
「なら少なくとも私に対しての嫌がる理由は無いわけだ」
「それはそうだけど……」
確かに、今あげた理由は妹紅のお父さんと私が引け目に感じている点であって、妹紅自身を嫌がる理由は無かった。
「だからといって、貴女を好きになるかは話が別でしょう」
「それでもいいさ。少なくとも嫌われてはないってことだけ分かった。それだけでも、私は嬉しい」
なんか、何時もと違って口説き文句を言う妹紅は違和感があるけど、これはこれで新鮮味があって楽しいと感じてしまう。
これって惹かれてるってことなのかしら。今まで告白されたことはあるけど、心惹かれる用な相手は一人もいなかった。
……それってつまり、私は男性より女性の方が好きだったってことかしら。それも考えものだわ。
決めた。
「そうね。確かに悪くはないのかもしれないわね」
「お。その気になった?」
「勘違いしないでよ。別に、男性相手に蓬莱人になってくれって頼むよりはもうなってる人間に頼むべきと考えただけよ。だから、はい」
そう言って私が手を出すと、彼女は首をかしげる。
「まずはお友達からってことでどう?」
私がそう言うと、妹紅ははにかんで顔を赤く染めながら答えた。きっと、今の私も恥ずかしさのあまり顔が赤いのだろうな。
「……ああ!」
そう言って私の手を掴んだ妹紅の手はとても温かかった。
てゐ(焚き付けといて気不味いウサ。さっさと退散するウサ……)