かぐもこ はやれ   作:エスカリボルグ

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続けるつもりなかったのに続きました。次話は失踪してから書きます。

後これ、時系列的に永夜抄より前です。どの辺りの異変が起きたかまでは、はっきり言ってしまうと考えていませんがね。


第2話

~輝夜視点~

 

ジー。目の前を見ると擬音が聞こえてきそうな程の視線を向けてくる妹紅が目に入る。そんな視線に耐えきれず、つい声をかけてしまう。

 

「……ねえ、妹紅」

「なーに? 輝夜」

 

話しかけられた妹紅は凄く嬉しそうな笑顔で返事をした。

 

「そんなに私を見ていて楽しい?」

「うん、輝夜だから楽しいんだよ。他の人ではこうはならないさ」

 

……何だろうか。自分のことを言われているのにそんな気が欠片もしない。これも常日頃から愛想を振り撒くことなくつんけんした態度をとっていた妹紅の口からでたせいだろう。告白してきた日から、彼女はでれっとしており、いつもこんな調子だった。

 

「かーぐやー」

「……何かしら」

「一緒に出掛けない?」

「……それってつまり逢い引きしたいと?」

 

そう聞くと彼女は先程よりも顔を赤くしながら答える。

 

「まあ、そうだね。実は最近、人里で商売し始めたんだ。その時に美味しそうな団子を売ってる店を見つけたの。だから、一緒に行ってみないかな」

 

そう言われて妹紅の変化に気付く。彼女は蓬来人の性質上、あまり人に関わろうとしなかった。なのに最近になって商売を通して関わっている。いずれ別れる有象無象と付き合いを持つこと自体、蓬来人はあまりしない。

 

「残念だけど無理よ。月から追われている私が迷いの竹林から出れる訳がないじゃない」

「そっかぁ……」

 

目に見えて残念がる妹紅。それを後目に本の続きを読む。

 

……。

 

何時までもがっかりしている妹紅が視線に入る。私は溜め息をついて話し掛ける。

 

「なら買ってきてもらえる?」

「……え?」

「二人きりで月を見ながら食べるの。どうかしら?」

 

そう言うと、妹紅は花が咲いたような笑顔を見せて大きく

 

「うん!」

 

と頷いた。

 

……そんな妹紅を不覚にも可愛いと思ってしまう辺り感化されてるなぁ、と感じる。

 

私は無言で手招きして妹紅を引き寄せる。いきなりどうしたのかという顔をして、首を傾げながら近づいてくる。私は本を置いて、妹紅を抱き寄せた。

 

「うわっ!」

 

急に抱きしめられたから、驚いたのかそんな声をあげる妹紅も可愛くて、そのまま頭を撫でてしまう。少し経ってから彼女の顔を見ていると表情が(とろ)けていた。

そして気がついた。私が彼女に抱いている想いは、友愛でも信愛でもなく、我が子を可愛がる母親に近いのだと。だって、今の彼女を見ていると愛していると言うよりも可愛らしいとしか思わない。

本人に聞かれたら悲しむだろうけど、この関係は始まったばかりだし、気長に待ってもらいましょう。

 

だって、時間だけは無限にあるのだから。

 

 

♢♢♢♢♢

 

~妹紅視点~

 

私は今、気持ちが浮き出し*1ていた

 

「ふん、ふふ~ん♪」

「あら、妹紅ちゃん。御機嫌じゃない。もしかして良い人でも見つかった?」

 

そんな風に声をかけてくれたのは、何時も炭を買ってくれるお客さんの一人だった。

 

「いや~。そう言うわけでも……」

「まあ、照れちゃって。隠さなくていいのよ。皆、心配してたんだから」

「心配?」

「ええ。妹紅ちゃんって成人してるでしょう? それなのにこんな綺麗な子が独身だなんて。家族もいないって話だし」

「あははは……。確かにそうですよね。お気遣いありがとうございます」

「いいのよ。それよりお相手はどんな男性なの?」

「……うーん。秘密ですね」

 

彼女に相手について聞かれて気がついた。普通は男だろうと思うだろう。だが、違う。父上の愛した人であり、仇でもある存在(女性)なのだ。そんな人に恋をするだなんて狂人か何かだと言われても可笑しくない。

 

お客さんと会話を終えて、そんなことを考えながら団子屋に向かう。

しかし、考えても考えても思考が纏まらない。私は確かに彼女を愛しているのだ。どんなに何かを考えても輝夜に繋がる程に想っている。

 

……本当にそれでいいのか? 父上の好きな人を後から奪うような真似をして。父上の仇を愛するような事をして。

 

「っと、ついたか」

 

考え事をしているといつの間にか目的の団子屋についていた。

中に入ると、老若男女問わず人が入っており、屋内の水墨画を見たり、外の風景を見ながら食べたりと、中々に繁盛している。

因みに、この店の絵は外から流れ着いたという古く、ぼろぼろな水墨画を香霖堂で買い、それを魔術という西洋の技術で復元したら名のある作品であったとのこと。それを売りにして今のように二階建ての大きな団子屋になるまで儲けたと言うから、店主の手腕はすさまじい。

 

「すいませーん。みたらしと黒ごま一つ!」

「はーいっ!」

 

店の店員に頼んでから、持参している竹の水筒を取り出して入れてある茶を飲んで一息つく。我ながら婆臭いと思いながらも、やはり椅子に座り落ち着いて飲む茶程、美味しいものはないと思う。

ふと、水墨画を見てみると、それは天高くそびえ立つ山を背に都の様子が描かれている。まるで、かつて父上と過ごしていた都のようだった。

 

「……思えばあれから幾星霜。随分と遠い所まで来た」

 

永いようで短い。例え、人という存在が滅びるときが来ようとも、私は幾度も思うのだろう。

 

……ああ、永かった(短かった)と。

 

こんなにも時の流れとは残酷なものなのかと。

私を可愛がり愛してくれた父の思いも、私を心配して止めようとしたあの男の純粋な気持ちも、時は全てを運び去る。

 

 

「お待ちどうさまー」

 

そう店員に声をかけられ長考していた思考が止まった。

店員から団子を受け取りながら、馬鹿なことを考えていたと自嘲する。

それと同時に思うのだ。

 

「団子、すっごい美味しい……」

 

と。いつの世も、女の子は甘いものに弱いのである。

 

 

~輝夜視点~

 

妹紅に頼んだその晩。みたらしに餡に黒ごまが三本ずつ乗った皿を持ってきた。そして、私の部屋の前の縁側に腰掛け私が来るのを待っている。私はその隣に腰を下ろして団子を一本貰った。

 

「……ねえ、輝夜」

「何かしら」

 

彼女は思い詰めたような顔をして何かを話そうか迷っているようだった。まるで、迷子の子供のように泣き出しそうな妹紅に苦笑いしながらも、悩みを聞くことにする。彼女が話すまでゆっくりと待ち、覚悟を決めたのか口を開いた。

 

「私に輝夜を愛する資格はあるのかな」

「……何を言い出すかと思えば、よりにもよってそれ?」

 

私は妹紅の悩みに対して、はっきり言うと失望した。愛する事に、誰かを想うことに資格なんて存在するわけがない。それなのに、有りもしないことで悩むだなんて。

 

「愛する事に資格何て無いわ。あるのは愛する事、それ事態に感じる罪悪感のみよ」

 

そう、資格なんて存在しないのだ。それを資格だと思うならば、それの正体はただの罪悪感でしかない。

親や恋敵、果ては自分の子供。その時その時の関係性による近しい人への罪悪感のみ。

 

「そんなものに邪魔されるくらい、貴女の愛は弱いのかしら」

「……! そんなことない!」

「なら、良いじゃない。それで」

 

私は言い終えて彼女に寄りかかった。妹紅はいきなりで驚いたのか慌てたものの、私の邪魔にならないように動かないでくれる。

 

「……不思議ね」

 

本当に不思議だ。私が彼女と居て安心感を覚えていることに。彼女が向けてくる愛に対して、かつて求婚されたときと違い、忌避感が起きない。多分、家族に対する愛、いわゆる性欲を伴わない愛に近いからなのだと思う。

 

「何が不思議なんだ?」

「永琳や鈴仙、てゐと一緒にいるときと同じくらい落ち着いている事が」

「……ということは私は恋人というより家族扱いなのか」

「そう、落ち込む事ないじゃない。私は蓬莱人である以前に月の民だった。只でさえ、死という概念が遠い存在だ。だからこそ、他人から向けられる感情に対して何か思うこともあまりなかった。そんな私が同じ蓬莱人である貴女から受けた感情を享受している。今までの私からしたら大きな変化だと思うわ」

「……えーと、つまり?」

 

話が長くて理解するという考えを途中で放り投げたわね、こいつ。私は呆れて溜め息がでながらも話す。

 

「つまりは貴女から受ける愛は悪くないってことよ」

「ふーん、なるほど……。え!?」

 

納得して頷いたかと思ったら、声をあげて赤面する。なんで、顔を赤くしているのか疑問に思ったが、少し考えて理解した。いまの台詞はまるで、この前の告白に対する返事ではないか。

 

「あ、うあ……」

 

妹紅はもはや、服の色と同じくらい顔を赤くして、声にならない声を発している。この子、こんなに(うぶ)だったかしら。何時も、男っぽい口調で話すから割りと知識豊富なのかと思ったけど。この様子だと、本当に男性経験なさそうね。

 

「ほら、おいで」

 

彼女に寄りかかるのを止めて膝をポンポン、と叩く。彼女は意味がわからずに少し考えていたが、理解すると同時に再び赤面して逡巡する。

段々、妹紅を弄るのが楽しくなってきたが今は単純にしてあげたくなっただけだ。この行為に特に意味はない。

 

少し迷ってからおずおずと私の膝に頭を乗せる妹紅。彼女の頭を撫でると透き通るように白く、艶のある髪だった。

 

「綺麗な髪」

「う、う……」

 

誉められなれてないのか赤面してそわそわしている。月明かりが反射して輝く髪は、まるで絹のようだった。こんな彼女を見ながら星空が背景の見慣れた景色はとても美しかった。

 

そして彼女を肴に食べる団子は中々どうして美味しかった。

 

*1
嬉しくて落ち着かない様子、また上機嫌な様子。浮き足立つとは別の意味

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