かぐもこ はやれ   作:エスカリボルグ

3 / 5
眠いので失踪します。起きたら再開します。

今回は顔合わせ回です。



第3話

~輝夜視点~

 

「……よく寝たわ」

 

寝ぼけ眼を擦りながら、布団の誘惑をはね除けて起きる。そして、昨日の夜に帰らずに膝枕の上で寝た妹紅は、私の隣の布団で未だに寝ていた。彼女は布団を蹴って掛け布団を全て足下に移動させて、自分は寒さで震えている。

何というか、子供みたいな一面もあるんだなと微笑ましかった。そして、布団を掛けてあげてから、縁側へ向かう。外は丁度太陽が登り始めたようで、雲が薄く赤色になっているのがとても美しいと感じた。

 

「あれ? お早いウサね、お早う姫様」

 

庭にいたてゐが挨拶してくる。

 

「うん、お早うてゐ」

 

そう返すと満足したのか穴堀を再開する。

 

「また、落とし穴かしら。それこの前もやってなかった?」

「ウッシッシ。同じ悪戯では華がないウサ」

 

そう言うと今度は穴を分かりにくくして、元に戻した。そして、その上に人参を一本置いて、近くに用意していた竹梯子を持ってくる。彼女は竹筒に水を入れたものを手に、梯子を登って人参の上の方にある竹に切れ目を入れて、そこに紐で結んで仕掛けた。

 

「器用ねぇ、貴女」

「弄り甲斐のある存在が近くにいると、自然と鍛えられるもんさ」

 

彼女は紐の先を近くの林へと持っていくのを見ながら、思い出す。因幡てゐと鈴仙・優曇華院・イナバの関係性とは、家族以上、恋人未満という感じだ。

因幡てゐ、彼女は自分の部下である竹林の兎をまとめる為に、他者の感情を察することに長けていた。日頃は御飯や永琳の補佐をするときくらいにしか会話をしない鈴仙の事を良く見ているのか、鈴仙が苛ついている時にしか悪戯を仕掛けない。

多分だが、悪戯をする、それについて怒る、追いかけっこが始まるというのが概ねの流れなのだが、追いかけっこという運動をさせることによって多少は苛つきを緩和させているのだと思う。

 

そして鈴仙自身、悪戯をされることに喜んでいる節がある。悪戯と言えば物によっては死ぬ危険性もあるが、てゐの場合だと長い年月の末の知識を元にやっているため、加減がわかっているのか危険性はそこまでない。悪戯をかわすための知恵比べも楽しんでいたり、そこには絶対に互いに傷つけ合わないだろうという安心感があった。

そもそもの話、元々軍人であった鈴仙が度々簡単な罠にかかるというのも可笑しな話ではある。彼女、罠対策を軍人時代にちゃんと学んでいる筈だろうに。かつて、月へと移動する前は妖怪対策の為、富国強兵が国是であった。その時の影響で私ですら行軍等には参加しなかったが訓練事態はしている。

故に、てゐの罠は割りと見抜けるのだが、鈴仙は単純に見極められていないだけなのだろうか。後で聞くことにしよう。

 

「ふぁ~……。お早う、輝夜」

 

振り向くと布団から出て背伸びをしている妹紅の姿があった。

 

「お早う妹紅。良く眠れたかしら」

「うん、熟睡できたよ」

 

そう言って頭を掻きながら朝日を見る。思考して気づかなかったが、もう朝ごはんを食べてもいいぐらいの時間になっていた。

 

「ねえ、妹紅。朝ごはん、食べてく?」

「んー……。そうだね、御相伴にあずかるよ」

 

私達は自分の布団を畳んでから、食堂へと向かうのだった。

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

てゐが伝えてくれたのか、何時もより多く五人分の御飯が並んでいた。品物は、玄米に人参と里芋の煮物、川海苔という希少な海苔に、小松菜と油揚げと豆腐の味噌汁、甘い煮豆だ。何故、白米ではなく玄米なのかというと永琳言わく、そちらの方が栄養があるのだと。

蓬莱人の私達ではなく、うどんげやてゐに気を使った形の食事なのだ。永琳とうどんげの二人で作る料理なのだから、美味しさよりも栄養重視なのである。まあ不味い訳ではなく、舌の肥えた私が美味しいと思うのだから、その努力が窺える良い料理だ。

 

「あら、お早う姫様」

「お早う、永琳」

 

丁度、料理を終えたのか前掛けで手を拭きながら台所を出てきた。私の隣にいた妹紅を見ると柔和な眼差しで見ながら挨拶をする。

 

「お早う、妹紅。貴女も食べてくのよね?」

「ああ、お早う。せっかく用意されたんだから頂くよ。そうじゃないと用意された料理に失礼だからね」

「なら、良かったわ」

 

そう言うと椅子に腰掛ける。私達も椅子に座ると、鈴仙とてゐもやってきた。我が家では、自然と全員揃って朝と夜を取るという決まり事というか暗黙の了解があった。

始まりは何だったのかは忘れたが、何かあったときの報告の場としても丁度良い為か、誰も文句は言わなかった。

 

「「「「「頂きます」」」」」

 

そう手を合わせてから食べ始める。蓬莱人とは言え、餓死しないわけではないため、食事は体を保つ上で必要なのである。

 

「そう言えば姫。妹紅と関係を持ったって本当なのかしら」

 

それを聞いて隣に座っていた妹紅が飲んでいた水を吹き出した。気管に入ったのか、勢い良く噎せている。その様子に苦笑しながらも永琳の問いに答えた。

 

「返答中かしらね」

「ほぉー。そうですか。あれだけ断ってきた姫が考えると。ほぉー」

 

……薄く笑って一見すると祝福しているようにも見えるが、長年付き合っているから分かる。あれは確実に馬鹿にしている目だ。普段、私を弄れる事なんてないからこれを種に弄るつもりなのだろう。

実際、彼女自身は百合というのか同性愛については理解はあるのだ。だが、昔はありふれていたのに今は隠す方が主流なのだ。

それを理解しているのか、永琳は弄るつもり満々なのだろう。意地の悪い笑みを浮かべている。

その様子にため息をつきながらも、家族のような関係なのだ。これくらい目くじらたてるような内容でもないか。

 

「今更ですが姫って男性経験ありましたっけ」

「……いや、ここで聞くの?」

「それはまあ、気になりますから」

 

この従者めんどくさい、と思いながらも答える。

 

「求婚されたことはあってもお付き合いした方はいないわね」

「そうですよね」

 

……妹紅はその小さくやってる握り拳を握って、昔の男たちに勝ち誇るのを止めなさい。見えていないようで見えてるから。ほら、永琳も見て笑っているし。

呆れてため息をつきながらも、勝ち誇る妹紅の様子が可愛らしくて笑ってしまう。それを気づいているてゐと永琳も意地の悪い笑顔を浮かべている。

気付いていないのは煮豆に夢中の鈴仙と勝ち誇っている妹紅だけである。

 

「まったく……」

 

そんな二人に呆れながらも舌鼓を打つのであった。

 

 

♢♢♢♢♢

 

~永琳視点~

 

味噌汁を飲みながら思う。姫様ってこんなに乙女心満載の人だったかと。私は姫に対して長年一緒に居たせいか、家族のような情がある。あるにはあるのだが、それよりも従者として仕える忠誠心と言った感情の方が強いのだ。

そんな私だが、最近は、資金を稼ぐ為に薬屋の真似事をしていたので姫様とは食事以外で関われていない。

そんな姫様が蓬莱人とは言え寂しがり、そこに漬け込まれたのかと思っていたのだが……。

 

頬を薄く染めて愛しい人(妹紅)を見つめる視線に熱を帯びていれば、その心配も杞憂だったか、と思う。

 

というか姫様って男性相手だと身持ち固いのに、女性相手だとそんなに御されやすかったかと疑問に思う。

でも、昔から綺麗な女性はちらほらと居たのに反応はなかった。

つまり、色恋を知る段階に最近になって、ようやく成長したという事なのだろうか。

 

……月の頭脳と言われた私でも、流石に教え子の成長具合。それも精神力までは、進歩のない停滞した生活をしている身では図る機会があまりない。

 

これが俗にいう「子の成長は早い」という奴なのだろうか。

それに嬉しいと思う反面、その成長を感じ取れなかった事がとても悲しく、そして悔しかった。

家族よりも先に外の人間の方が気づくだなんて、と。

 

そんなことを思いながら箸を進めるのだった。

 




永琳の抱いている想いは簡単に言うと嫉妬ですね。輝夜を一番近くで見ていて、一番長く共にいたのに、気付いたのがぽっと出の千年近く前の少し見掛けた程度の他人。
そりゃ、嫉妬の一つもしますよ。

……まあ、妹紅自身は単純に告白しただけなんで、成長とか何も分からないので、真相はただのすれ違いですね。はい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。