かぐもこ はやれ   作:エスカリボルグ

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題名がかぐもこなのに、今回はかぐもこ要素ないです。

許して




第4話

~永琳視点~

 

「……」

 

私は机の上で試験管に二つの薬を入れ、混ぜ合わせながら上の空だった。

大事な売るための薬を、そんな態度で作って失敗しないのかと言うと別にそんなことはない。何千年とやってるから体が覚えているというのもあるが、それよりかは()()と呼ばれる力によるものでもある。

 

「……し、師匠?」

「わっ!?」

 

試験管は床に落ちて、大きな音をたてて割れてしまう。それを見て溜め息をつきながら振り向くと、怒られないかと不安になって怯えている鈴仙の姿があった。

 

「全く……。この程度の事で怒るほど器は小さくないつもりよ」

「す、すみません……」

「……はぁ。次から気を付けてくれればそれで良いわ」

 

彼女はそう言って人里へ薬を売りにいくための準備を始める。

私は手早く割れた試験管をゴミ箱へと入れ、新しい試験管を取り出して、作業を再開する。作業をしながら鈴仙見ると、彼女は私から説教が飛んでこないか震えていた。

私はこれまで、彼女に対してあまり厳しくしていないし、怒鳴ったこともないのだが……。そう言えば、てゐが私を見ながら鈴仙に話しかけたあと、鈴仙が震えていたような。

あの時は分からなかったが、あれっててゐが何か吹き込んだのだろうか。この作業を終えたら問い詰めるとしよう。

ああ、でもてゐも薬売りに付き合う時があるからこのあとは無理か。

何時なら良いだろうか……。

 

 

♢♢♢♢♢

 

「へっくしゅん!」

「あら、てゐ。風邪でもひいたの?」

「それはないなぁ。……はっ! きっと大国主様に噂されてるウサ~」

「……平和ねぇ」

 

茶を飲みながら浮かれているてゐを無視する蓬莱山輝夜であった。

 

 

♢♢♢♢♢

 

というかあの兎詐欺、私には直接的な悪戯はしないが、持ってくるように頼んだ薬を黙って変えたり、何か書くときに墨汁を醤油に変えたり、私に教えを乞う割にはそれ相応の態度ではないし。これ、舐められてるのではないだろうか。

そう思うと何だが苛ついてきた。今度、分からせることにしましょう。

 

「……あ、あの師匠」

 

支度を終えたのか、鈴仙が声をかけてきた。だが、その割には声が何故か震えている。

 

「何かしら」

「いや……。それ、気付いてないんですか?」

 

鈴仙が私の手元を指差す。そう言われて見てみると、人差し指と親指で摘まんで持っていた試験管が真ん中から割れて膝に落ちていた。

またやってしまった、と溜め息をついて近くのゴミ箱を持ち上げて膝の割れた試験管を入れていく。そして立ち上がって調合し終えた薬を鈴仙に手渡す。

 

「時間も時間だし、今日はこれくらいで良いかしら」

「そうですね。大丈夫だと思いますよ」

「なら宜しく頼むわ。ああ、そうだ。てゐは一緒にいくの?」

「今回は行くみたいですよ。何でも部下から人参の種を買ってきてほしいと頼まれてるらしくて、自分で見ておきたいのだとか」

「そう。なら、帰ってきたら話があると伝えてちょうだい」

「わかりました」

 

鈴仙は薬を背負い籠(しょいご)に入れていく。丁寧に積めて、財布を服の衣嚢(いのう)に入れて、頭の兎の耳を隠すために笠を被る。

 

「それでは行ってきますね」

「ええ、気を付けてね」

 

彼女はそう言って出掛けていった。

 

 

♢♢♢♢♢

 

~鈴仙視点~

 

「はい、丁度ですね。ありがとうございました」

 

礼をしながら最後に買いに来た客を見送る。

 

「それじゃ帰りましょうか、てゐ先輩」

「そうだね、そろそろ日が沈む。そこいらの妖に負けないけど荒事をわざわざ起こす意味もない。『兵は拙速を尊ぶ』ウサ」

「孫子、ですね」

「まあ、そこはどうでもいいのさ。重要なのは言葉の出所より意味ウサ」

「はーい」

 

二人で荷物をまとめて背負い篭に入れる。それらを持って二人で横にならんで歩き始めた。人里の人々は暗くなって既に寝る準備をし始めている。月にいた頃だと夜遅くまで町が明るかったから、日と共に起き日と共に眠るこの生活に、まだ慣れていない。

 

「この生活には慣れてきた?」

「え? ……そうですね、ぼちぼちですかね」

「それならいいウサ」

 

こうして気にされると言うことは、私も永遠亭の仲間になれているのだろうか。聞いてみたくはあるが、聞いたら怒られそうで怖い。

 

「ねえ、先輩」

「なにかな」

「先輩って何で悪戯をやめないんですか」

 

何となく話を変えるために適当な話題を出してみたが無言のままだ。

 

「……そこは自分で察するウサ」

「えー。ならせめてヒント下さいよ」

 

そう言うと彼女は上を向いてうーん、と唸ったあと、私を見て答えた。

 

「息抜き、かな」

「息抜き、ですか?」

「永遠に対するちょっとした反抗みたいなものさね」

「うーん……?」

 

やはりなんのことかわからない。だが、考えがあってのことなのだけは理解した。ならば、なにも言わない方が良いのだろう。

私達はそのあとは夕飯の献立について話ながら、帰路についたのであった。

 

 


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