「雪ノ下、どうしたんだ? 奉仕部に呼び出して?」
「うん、ゆきのん? どうしたのさ? あたし達も呼んで」
「雪乃先輩、どうしたんですか?」
「雪乃さん、どうしたんですか? 小町達も呼んで?」
「来てくれてありがとう。比企谷くん。由比ヶ浜さん。小町さん。一色さん。お茶を飲みながら、話そうと思うの・・・」
俺たちは雪ノ下に呼ばれて、奉仕部の部室に来ている。長机にはティーカップと人数分の紅茶が入れられていた。
もっろも、当の雪ノ下は、どこか気難しそうな表情をしていたが・・・
「まず、比企谷くん。あなたに話しておきたいことがあるの」
「お、おう」
「まず、比企谷くん。私自身、自慢ではないのだけれど、異性から告白をされているの。無論、友達としての告白ではなく、異性としてのね」
「えっと、ゆきのん。私たち、いないほうが・・・」
「ごめんなさい。今から話すことは、由比ヶ浜さんたちにも関係があるの。だからこそ、ここに居てほしいの」
「すぅ、はぁ・・・」と雪ノ下は息を整えて、話し出した。
「さっきも言った通り、異性からかなり告白はされているの。だけど、全て断っているわ。だって、相手のことはあまり知らないから。そもそも、魅力も興味も湧かないから・・・だけど、あなたは違う」
「雪ノ下・・・」
「奉仕部と出会って、色々と過ごしてきた。ひねくれているけど、優しくて、暖かくて、変なところでは意固地だけどね。だからこそ、あなたのことが、友達としてではなく、異性として好きよ。あなたに私の人生を全て捧げてもね」
雪ノ下の言葉を聞いて、俺は反応に困る。重い発言もあったが、由比ヶ浜や一色や小町がいるからだ。由比ヶ浜や一色や川崎はどこか悲しそうな表情で見つめており、小町はどこか嬉しそうな表情である。それでも、俺は雪ノ下の返事をしなければいけないだろう。
俺はなんとか雪ノ下の言葉に返事をしようとした瞬間、雪ノ下が話しを切り出した。
「だけどね、比企谷くん。あなたと付き合うことはできないの・・・ごめんなさい」
「ねぇ、ゆきのん? どういうこと! それって、あたし達に譲るために・・・」
「別に、そんなんではないわよ。好きな人を簡単にはいそうですか、と譲るわけないじゃない!」
雪ノ下が悲しそうな表情で、話しを続けた。
「私は結婚するの。正確に言うと、結婚前提のお付き合いのね」
「えっと、雪乃先輩? それって、やっぱり、家のことですかね?」
「えぇ、そうよ、プロムの件でお母様・・・いえ、雪ノ下家と対立したからでしょうね。本来なら、大学を卒業してからなのだけど、早められたのよ」
あぁ、なんとなく想像がつく。プロムを成功させるために、色々とやったのだ。ははのんいや、雪ノ下家にとっては気に入らないのだろう。
だが、この言い方からすると、たとえ、プロムの件がなくても、強制的に結婚はなっていたのだろう。人様の家にどやかく言うつもりはないが、ハッキリ言って、雪ノ下家はかなりえげつないのだろう。
俺はそんなことを考えていると、雪ノ下が話しを続けた。
「葉山君とのね、結婚するのよ。昔、家同士で結婚させることを考えていたのよ。本来なら、大学を卒業きに結婚させるつもりだったのだけどね」
「それって、何とかならないの? ゆきのんが不幸だよ!」
「・・・それとも、あなた達は駆け落ちしてくれるのかしら?」
「・・・駆け落ちってなに?」
「・・・愛し合っている男女が結婚するために、田舎や海外へ逃げることよ。だけど、現実的には不可能よ。あなた達は、私のために、大学進学を諦めてくれるのかしら?」
雪ノ下の言う通りだろう。人生を全てなげうってまで、簡単なものではない。そもそも、雪ノ下家がすんなりと諦めてくれるとは限らないだろう。
「だけど、ゆきのん・・・」
「雪乃先輩、そんなのって・・・」
「雪乃さん・・・」
「だから、あなた達にお願いがあるの。比企谷くんを幸せにしてほしい。私が彼を物にできない代わりにね。比企谷くんも私のことを忘れてほしいの。彼女達があなたの支えになってほしい。本物になってほしい。ただそれだけよ」
雪ノ下は、そのままどこかに行った。俺は追いかけることができなかった。俺は呆然とするしかなかった・・・
数年後・・・
俺たちは総武高校を卒業した。雪ノ下の存在を完全に忘れることはできずにだ。
「ハッチー、会いたかったよ」
「先輩、会いたかったです」
「おいこら、引っ付くな! あと、いろははいつも会っているだろうが!」
俺は、最終的には一色と由比ヶ浜と交際した。
由比ヶ浜は違う大学だが、休日にはこうして会うようにしている。一色は俺と同じ大学に入学した。あとは・・・
「あんたら、八幡が嫌がっているでしょ」
「八幡、鼻伸ばしすぎ、キモい!」
「ぐ腐腐腐! ちょっと、引っ付きすぎだよ!」
「ちょー、受けるんですけど!」
「ねぇ、一色さんや由比ヶ浜さん。引っ付きすぎだよ?」
何故か、川崎と留美と海老名と城廻と折本とも交際? している。
川崎は、居酒屋のバイトで知り合い、川崎に言い寄ってくる男たちからの男除けとして。留美や城廻は、教師を目指すために、掛け持ちで塾の講師で知り合い。そこから、留美や城廻に言い寄ってくる男除け。海老名や折本は同じ大学に入り、戸部みたいな連中からの男除け・・・ザックリ言えば、全員男除けとして交際している。
というか、男除けのつもりで交際しているなら、なぜにぐいぐいとくるのだろうか? 好意でもあるのだろうか?
念のために言っておくが、目は濁ったままさ。だが、雪ノ下がいなくなった消失感から、変わることを決意した。結衣やいろはから服のコーディネートをしてもらい、キモがられないように目をきょどったり、緊張したりせずに、話し上手・・・話術トレーニングをした。ザックリ言えば、上辺だけの付き合いを努力したのだ
理由は簡単だが、教師を目指すためだ。平塚先生に色々と救われた部分があったし、雪ノ下や俺みたいな奴を減らしたいが為である。そして、俺みたいな偽物の関係ではなく、本物を見つけてほしいためだ。
(なぁ、雪ノ下・・・結局、本物って何なんだろうな?)
俺はそんなことを考えながら、ポケットから煙草の箱を取り出し、一本だけだし、百均ライターで火をつける。
傍から見たら、ハーレムリア充の戯言である・・・
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 了