五等分の花嫁 JUVENILE REMIX   作:people-with-名無し

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お宅訪問(真) その3

 風太郎の顔に冷や汗が浮かぶ。

「凄ぇ、100点だ! ……全員合わせてな!」

…………平均20点か。なるほど、成績不良で転校するのも納得だ。というか、どんだけサボってたんだ。

「これは前途多難だね」

「お前ら……まさか……」

どうやら、風太郎もようやく察したようだ。五つ子達は、冷や汗をかく彼からの逃走を計る。

「逃げろ!」

勉強と風太郎が嫌いな二乃さんが先頭で、五月さん、一花さん、三玖さん、四葉さんと続く。

「あ、待て! なんで四葉まで!」

まったくだ。

「というか、ここで逃げたらデータ消せないよ?」

復習するまでがテストです、なんて言うつもりはないが、風太郎が授業をしないと家庭教師としての素質を証明できないからね。途中退室は封じさせてもらおう。

「「「「「あっ」」」」」

 

 風太郎の指導は可もなく不可もなく、といった感じだった。誰かがやる気を見せると、誰かは退屈そうにする。意外とキャラが違う5人を同時に教える、その困難さに直面したような状況だ。

「次回は同じ範囲のテストから始める。しっかりと復習しておくように、以上!」

さて、本番はここからだな。

「風太郎、携帯貸して。立会人は……当事者の二乃さんと、観察力に自信のある人が良いかな」

「全員じゃダメなの?」

一花さんが声をかけてきた。起きている間は常に浮かべている、張り付けたような笑顔だ……態度は友好的なのに内心では警戒しているのだろう、厄介だな。

「人数が増えると、責任は分散するんだ。結果としてモチベーションが下がるし、集中力も落ちる」

「うぐっ、言ってくれるねぇ」

一花さんの笑顔がバツの悪そうな苦笑いに変わる。先程の授業がまさに、集中力を五等分している状態だったからな。珍しく弱気な間に畳みかけてしまおう。

「さっきの授業でも半分くらい寝てただろ。聞き逃した事とか、眠くならない方法とか聞いてきたら?」

「えー、勉強すると眠くなるんだけどなぁ。あ、でも、フータロー君とアンドー君の馴れ初めは聞き忘れてた」

「勘弁してくれ」

俺が頭を抱えると、彼女はニヤニヤ笑って風太郎を揶揄いに行った。このままいけば、彼と遊ぶために授業を受けてくれるだろう。たとえ不真面目でも、妹の妨害はするまい。結果として一花さんも少しは勉強する形になるから、風太郎にはコラテラルダメージとして割り切ってもらおう。

「外堀を埋めたね」

「半年もかけてられないんでね」

いつの間にか近寄っていた三玖さんに告げる。どうやら、彼女が立会人になったようだ。

「はい、バッテリー」

「ありがと……っ!」

彼女からバッテリーを貰った瞬間、思い出した。この柔らかい手を掴んで連れ回し、挙句の果てに膝枕までさせてしまったのだ。

「大丈夫? 顔、赤いよ」

「な、なんでもない。そういえば、昨日ジャージと三角巾を貰い忘れたから、後で返してくれない?」

「うん、取ってく……る……」

三玖さんの顔が朱に染まる。彼女も一昨日、昨日のもろもろを思い出してしまったのだろう。

「ねえ、さっさとデータ消しなさいよ」

二乃さんの声で我に返る。

「そうだね。じゃあ、どっちかの部屋に案内してくれない?」

 

 三玖さんの部屋は、和室のような洋室のような、不思議な空間だった。畳に行灯・飾り棚と和風の物がある一方で、ベッドやブラインドなど洋風な調度品もある。ある作品のキャラを示す、混ざらない和洋折衷、という言葉が相応しい表現だろう。綺麗だし。

「座って」

ベッドに腰かけた三玖さんが、自分の隣を手で叩く。

「ベッドに座れと?」

座布団(クッションか?)も転がっているし、別に畳に正座でも良いのだが。むしろ、そっちの方が良いまである。

「うん。あ、高級寝台って名前だった」

「俺に、ベッドに、座れと?」

「うん」

そんな簡単に男を布団の上に招くな! というか、膝枕は照れるのに隣に座るのは平気って、最近の女子高生の羞恥心はどうなっているんだ!?

「さっさと座りなさいよ。ってか、なんで部屋に案内してるのよ!?」

「リビングでやったら、一花さんや四葉さんも立会人になるよ」

ちなみに、五月さんは授業が終わるや否や自室に戻っていった。不満げな二乃さんをこれ以上不快にさせるメリットもないので、大人しくベッドに座る。

「ほら、さっさと消しなさいよ」

「はいはい」

二乃さんまで隣に座ってきた。この姉妹、揃ってパーソナルスペースが狭くないか?

「電源入れて……パスワード入れて、ファイル開いて、削除っと」

パスワードが妹の誕生日な辺り、風太郎もかなりのシスコンだよな。まあ、俺も潤也の誕生日をパスワードにしているし、人の事は言えないんだが。

「終わったんだからさっさと帰りなさいよ」

二乃さんが俺の腕を引っ張る。

「いや、ジャージと三角巾持って帰らないと」

「三玖、さっさと渡しちゃいなさい!」

どんだけ嫌われたんだよ。クッキーを作っている間は友好的だったのに……まあ、自業自得か。俺を引っ張る手も震えているし、妹が何かされないか不安なのだろう。

「……アイロン、かけ直すから待ってて」

「「アイロン?」」

俺と姉が首を傾げると、三玖さんは通学に使っているリュックサックから三角巾を取り出した。どうやら、昨日返すつもりだったようだ。まあ、確かに少々シワになっているが。

「そのくらいなら大丈夫。ウチでアイロンするよ」

「でも、返せなかったのは、私のせいだから」

「それを言うなら、諸悪の根源は昨日の朝に寝落ちした俺だろ」

三玖さんの顔が羞恥に染まる。が、すぐに詰め寄ってきた。

「……き、今日は手ぶらでしょ? 鞄貸すから、少し待ってて」

「気持ちは嬉しいけど、その鞄を返すのを忘れそうだから遠慮しとくよ。ジャージと三角巾だけ掴んで帰るし、途中でシワになるからね」

「そのまま持って帰ったら痛んじゃう。それに、名前も書いてある。ビニール袋に入れるから、返さなくても平気」

「そういう事なら……あ、やっぱりアイロンは大丈夫。適当に詰めて帰るから」

「物は大事に使わないとダメ。ちゃんと畳んで」

「ああもう、新婚夫婦の痴話喧嘩か!」

二乃さんが俺を畳に放り投げた。大した痛みはないが、心が痛い。

「あんだけ好き勝手しといて、なんで今更アイロンを遠慮するのよ! 三玖も、ジャージだの三角巾だの普段使いする物がちょっと痛むくらい気にしなくていいでしょ!」

「俺にだって罪悪感くらいある」

ちゃんと洗濯してアイロンまでかけた上で返そうとしていたのを台無しにしたのは俺なんだ。二度もやってもらうのは申し訳ない。

「気にしなくていいのに」

とはいえ、三玖さんも頑固そうだ。頬を膨らませて、俺を睨んでいる。そして、噴き出した。

「ふふっ、アンドーって優しいのに頑固だね」

「くくっ、脅迫してきた奴が優しいって何だよ」

「だって、全力でフータローを助けただけでしょ」

「まあね、あんな奴でも友達だから、助けもするさ」

「だけど、二乃を脅迫した事は許さない。後で謝って」

「そりゃ、他の姉妹には悪いと思ってるけど、彼女はね」

「違うよ、謝るのは他の姉妹まで巻き込もうとした事だけ」

「確かに、弱点だからって罪のない人を巻き込むのはダメか」

気がついたら、普通に話せるようになっていた。

「三玖さん。悪いけど、もう一回アイロンお願いしてもいい?」

彼女は笑顔で頷いた。

「ねえ、私の事忘れてない?」

「ごめん、忘れてた。ついでに、姉妹も巻き込んでごめん」

「雑!」

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