五等分の花嫁 JUVENILE REMIX   作:people-with-名無し

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全員で100点 その3(完)

 三玖さんと四葉さんに宿題を解かせている間に、風太郎が相談してきた。

「なあ、安藤。このペースで卒業まで持っていけると思うか?」

「三玖さんと一花さんは余裕だろうね。というか、よっぽどサボってない限り、二人が追試に落ちるとは思えない」

「ギクッ」

名前を呼ばれた方の少女が擬音を口走る。

「お前ら、よっぽどサボってたのか……」

「「うぅ……」」

中野姉妹が俯く。風太郎が怒りをぶつける前に、話題を変えるとしよう。

「んで、二乃さんは不明。とはいえ、家庭教師がいらないレベルとは思えないけどな」

「だよなぁ」

「五月さんは微妙だな。退学、もとい転校をきっかけに真面目になったなら良いんだが、前から勉強家だったら厄介だぞ」

「……ちゃんと勉強して28点だからな」

風太郎が頭を抱える。自分の不用意な発言で関係が拗れ、勉強法を根本から変えさせないといけない相手に嫌われただけあって、デリカシーのない彼も流石に反省したようだ。

「らいはちゃんと合わせてようやくスタートラインに立てるレベルの嫌われようだからな……うん?」

ふと、自分の発言に違和感を抱く。合わせてようやくスタートライン?

「風太郎、この前のテストの結果、何かに纏めてあったりする?」

「ああ、ノートを作っておいたが……」

彼が差し出したのは【五つ子卒業計画】と書かれたノートだ。その中には、テストの結果も書いてあった。

「やっぱりそうだ」

「おい、何がそうなんだよ?」

いや、待て……俺の考えが正しいとして、これは寧ろマイナスなんじゃないか? これが正しければ5人で合計100点になるのも納得だが、ある意味では合計0点でもあるのだ。とはいえ、いずれ彼も気がつくだろうし、隠し通せる事でもないか。

「五つ子さん達は、正解した問題が一問もかぶってない。5教科の全範囲、文字通り全てを一人で教えるような物だ」

二年生の範囲では、誰も分からない場所だってあるだろう。相場の五倍の報酬に相応しい難易度かもしれないが、人間のスペックには限界があるのだ。全ての単元を一人で教える……なんて事ができたら、今の高校制度は存在しない。

「マジか……」

若干ナルシストな面のある風太郎も絶句する。いくら全科目が満点といえど、全てを教えるには時間が足りないのだ。

「ねえ、それなら……たぶん、二乃と五月は合格できると思う」

宿題のプリントから顔を上げて、三玖さんが俺を見る。風太郎のノートを読んだその目には、諦念とも希望ともつかない物が宿っていた。

「アンドーが言った裏技なら、私と互角の知識にはなれるんだよね?」

「まあ、局所的だけどね」

「だったら、私が歴史を教えればいい。場所を絞れば、私の分くらいは覚えられる。皆32点は上げられる」

彼女は今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべる。自分にできる事は他の姉妹にもできる……だから、自分の特技を姉妹に与える。ただ、それは三玖さんの中にある僅かな誇りを切り売りするような行為だ。彼女の成績は上がらないし、心は沈んでいくだろう。

「それだ!」

風太郎がおもむろに立ち上がり、愉快そうに叫ぶ。

「お前らが互いに教え合えるようになれば、俺が教える量は減る! 姉妹から言ってやれば、二乃も五月も勉強する! 互いに互いを教え合えば、学力の穴を補い合えば、全員で100点になれる! 全員が100点になれる!」

「「「!」」」

一人で五人を教えるのではなく、六人で五人を教える。まさに逆転の発想であり、現状を打破する切り札でもあった。

「そうなると、話を聞かせるきっかけが欲しいな。三玖さん、四葉さん、他の姉妹の趣味や特技、分かる限りで良いから教えて」

「また悪い事に使う気ですか?」

四葉さんに睨まれた。ここまで嫌われていたとは予想外だ、一晩眠れば忘れるようなアホの子ではないらしい。仕方ない、何故か好感度の高い風太郎から頼んでもらおう。

「四葉、あいつらの事を教えてくれ」

「まあ、上杉さんが言うのなら」

「……アンドー、何するの?」

「沼に落とすのさ」

好きな物を契機として勉強させる、という風太郎の手法は悪くない。一花さんと二乃さんは、この方法で勉強に取り組んでくれるだろう。とはいえ、彼その物を嫌っている二乃さんと五月さんには、別の方法でのアプローチも必要だろう。

 

 そんな事を考えた翌日の朝、俺は新聞部の部室に呼び出されていた。

「なあ、潤也」

「何、兄貴?」

「なんで皆、生暖かい目で俺を見ているんだ?」

「昨日の昼に五つ子さんとデートしたからだよ」

誤解なんだが……ストーカーまがいの事をしていたと知られるよりはマシか。

「あれか、俺が昨日の集まりをサボったから吊し上げされるのか?」

「いや、そこまではしないぞ!?」

それなら良いんだが、いや良くないか。俺とデートしたなんて噂が流れれば、三玖さんにも迷惑がかかる。

「お待たせ~!」

満智子さんが戻ったきた。副部長だが最高権力者な先輩は、何故か上機嫌だった。つい最近まで、ネタがないと嘆いていた筈なのに。

「そりゃ、ネタが転校してきたんだもの。おかげで、夏休みに仕入れたのは全部【日の出祭】で使えるようになったわ」

「友達の情報を切り売りする趣味はありませんよ」

上機嫌な先輩に釘を差す。もっとも、この人に限っては無用な心配だろうが。

「分かってるわよ。正確な情報を載せる為にも、本人に直接インタビューするのが最適でしょ。で、相談なんだけど」

と、満智子さんが距離を詰めてくる。五つ子達とは違うベクトルで美人、しかも彼女たちと互角のスタイルを誇る先輩が迫ってくると、少し目のやり場に困る。

「どの子に誰がインタビューするかを考えて欲しいのよ。ほら、五人とも個性的みたいじゃない」

……個性的、というのには語弊がある。おそらく、一人一人が一つのラブコメでヒロインを張れるレベルの個性を持っているだろう。その上で五つ子という極めて複雑な特性を持っているのだ。

「分かりました。俺の所感ですが、それでも良いですか?」

 

 まず、一花さんについて整理してみよう。好きな食べ物は塩辛で、ドラマをよく見ている。半年前からバイトをしていて、シフトは不規則らしい。(一応)得意科目は数学。

「個人的な印象ですが、情報を引き出すのが最も難しいのは彼女でしょう。半年も続けているのに、バイト先の情報が全く分からないってのも妙ですしね」

おそらく、気さくな態度と笑顔で感情を隠すタイプだ。意図的に本音を隠しているし、はぐらかすのが上手い。

「嘘か本当かを見抜ける人、その上である程度押しが強くないと誤魔化されると思います」

 

 次に、二乃さんの情報を出してみる。好きな食べ物はパンケーキで、バラエティーをよく見ている。三玖さん曰くメンクイで、(一応)得意科目は英語。

「気の強い性格ですが、社交性は高いそうです。まあ、俺とか好感度が低い奴が取材に行かなければ、ある程度の情報は得られるでしょうね」

直情的・攻撃的な面もあるが、女子力の高さ(というか美意識の高さ)や姉妹思いな面から察するに、一度懐に潜り込んでしまえば最も与しやすい相手だろう。

「イケメンか、彼女の友達の友達、その辺りの人が取材すれば良いと思いますよ」

 

 で、三玖さんの事は省略。

「なんでだよ!」

「いや、俺が聞けばいいだろ。同じクラスだし」

「本当にそれだけ?」

「あと、人見知りっぽいです」

「……本当に、それだけ?」

くどい。顔を覗き込んでくる満智子さんから距離を取る。

「それだけですよ」

 

 さて、四葉さんについてだが……

「改めて考えると、謎だな」

笑顔の仮面を被って動くのが一花さんなら、彼女は笑顔だけが動いているような存在だ。賑やかしや案内人に徹しており、自分の考えを見せていない。

「とりあえず、分かっている事だけ纏めます」

好きな食べ物は蜜柑で、アニメをよく見ている。お人好しで、運動神経が良い。姉妹の中でも勉強が苦手で、(一応)得意科目は国語だが他よりマシという程度だ。

「色んな部活の助っ人をしているみたいですし、その辺りから情報を引き出すのもアリですね」

助っ人と言えば聞こえは良いが、要はその場限りの付き合いだ。助けて貰った部員たちが、どれだけ彼女の事を把握しているかといえば……

「……純粋に底抜けの善人なら良いんですがね」

何か、裏がありそうだ。いや、捻くれた性格をしているが故の僻みだろうな。

 

 最後に、五月さんだ。好きな食べ物は肉(範囲広いな)で、ワイドショーをよく見ている。生真面目で食いしん坊だそうだ。

「正直、食べ物で釣れば簡単に取材できると思います」

というか、余程の事がない限りは協力的だろう……それを僅か一日でやりやがった風太郎の間の悪さよ。

 

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