五等分の花嫁 JUVENILE REMIX   作:people-with-名無し

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恋バナ その1

 学園祭の1ヶ月前という事で、教室の空気は浮足立っていた。中心になるのは3年生なのだが、逆に言えば最も自由に遊べる時だからな。

「安藤、バンド組もうぜ!」

「エアギターしかできないけど、それで良いなら」

「いや、お前はエアドラムやってくれ。それかエアベース」

「金爆かよ」

というか、エアギターとエアベースの違いってなんだ? 朝のホームルームが始まるまで島とバカ話をしつつ、そんな疑問を持つ。

「で、残りはボーカルなんだが、誰か候補はいるか?」

「エアボーカルで良いんじゃないか? CDとラジカセは家にあるし」

「今時ラジカセかよ。つーか、せめて口パクする人は必要だろ」

それもそうだ。なら、集客を見込めそうな人を呼ぶとしよう。

「慎一かアンダーソン、それか武田でも誘うか?」

「やめろ! 俺がモテる為のエアバンドなのに、俺より顔が良い奴を呼ぶんじゃねえ!」

「なら、俺もクビになるんじゃないか?」

「いや、お前は大丈夫だろ。そこそこ顔は良いけど彼女いるしな」

島が真顔で妙な事を言う。

「いや、俺も独り身だ。告白は全部バイトとかを理由に断ってるし」

「じゃあ、お前から中野さんに告白したのか?」

「……いや、付き合ってないぞ?」

「「「「え?」」」」

教室にいる全員(1限が始まる直前だから殆ど全員)が振り向いた。

「島、俺なんか変な事言ったか?」

「…………マジか」

何故か白い目で見られた。

「おはよー、って何この空気。また安藤がやらかしたの?」

慎一が入って来た。そして、事情を聴いて一言。

「正気?」

同じように入って来たアンダーソンも一言。

「面白い冗談ですね」

彼らから話(おそらく俺の悪口)を聞いていた三玖さんは

「付き合ってないよ……ないよね?」

自信をなくしていた。

「いや、告白した覚えもされた覚えもないから。自分の記憶に自信持って」

「だよね。なんで誤解されたんだろ?」

二人で首を傾げるも、思い当たる節はない。いや、厳密に言えば一つだけある。

『責任、取ってよね』

図書館でそう言われたが、その場に居合わせたのは風太郎と四葉さん、後は図書委員くらいだ……図書委員はどのクラスにもいるんだったな。なるほど、そこから噂が広まったのか。

「なんでコイツら見つめあったまま固まってるの?」

「どうせ、また変な事考えてんだろ」

「これで付き合ってない……だと……」

 

 そんな感じで妙な活気が残ったまま、ホームルームが始まった。学園祭の準備に関わる注意(羽目を外すなとか節度を守れとか法律違反はするなとか)をした後は自習となる。

「島、本当にバンドやるの?」

慎一が口火を切る。まあ、自習と言われて自習する奴なんていないよな。

「どうすっかな。顔は良くて彼女いる奴で揃えたいんだけどよぉ」

「まあ、イケメンが少ないし、付き合ってる事を秘密にする人もいるからね。どっかの考察魔とか」

「だよなぁ。つーか、日の出祭りだの林間学校だので告白しようとしてる奴も多いし、彼女持ちがいねえ」

「この時期だとカップル未満な人が多いよね、何処ぞの主夫とか」

「あと、一緒に回る相手を見繕ってる人もいますよね」

「アンダーソンも誘われてたね。あと、転校生と仲良しな誰かさんも」

「慎一、喧嘩なら後払いで買うぞ」

「踏み倒す気だよね?」

「いや、賠償金をふんだくる」

「喧嘩売ってる?」

「前金100万、成功報酬200万でな」

「ちょっと高いね、割引ないの?」

「ない」

さて、真面目に友人の相談に乗るとしよう。

「潤也でも呼ぶか? 彼女いるし、顔も良いし、歌もそこそこ歌える」

「……そうだな、頼んどいてくれ」

「前金100万、成功報酬200万だが、良いか?」

「彼女できたら払ってやるよ」

「1曲100万か、ボロい商売だな」

「できない前提かよ!」

「もしできたら、ご祝儀200万くらいは出してやるさ」

「それ、前金も返す流れじゃねえのか? つーか、もう一人はどうすんだよ?」

どうしたものか……俺も顔が広い訳ではないからな。というか、周囲に変人が多く、つまり地に足のついた人が少ないのだ。

「とりあえず、部の方で聞いてみるよ」

「ああ、頼む。つーか、新聞部にフリーの美人いねえか?」

「満智子さんはどう?」

「フリーで美人だけど女傑はなぁ……」

まあ、本人も恋より仕事な性格だから、脈はないのだが。

 

 それから授業をやり過ごし、昼休みになった。

「アンドー、来て」

「……何処に?」

三玖さんに腕を引っ張られる。頬が膨れており、何か文句でも言いたそうな顔だ……この顔を見た回数は、片手では収まるまい。

「……学食とか?」

「なんで疑問形?」

「考えてなかった」

「ま、いいけどな」

そんな訳で、学食に向かう。何故か一転して機嫌が良くなった彼女の奏でる鼻歌には、少し聞き覚えがあった。

「それ、何の曲だっけ?」

「サクラメイキュウ。CCCの曲」

「……ああ、コラボイベで聞いたのか」

「アンドーもFGOやってるの?」

「まあ、嗜む程度にね。ちょっとしたニュースから虚淵って人を知って、そこから」

「ニュース……もしかして、仮面ライダーの脚本やるっていう?」

「よく分かったね」

隠すつもりはなかったが、これだけの情報から分かるものか?

「昨日、言ってくれた言葉を調べた時に見たの」

「……ああ、電王のか」

「ライダー戦国時代、とか言われると見てみたくなる」

「それ、怖いもの見たさだろ」

「だって虚淵脚本だもん」

まあ、パイセンのようにバッドエンドだけではないのだが……等と話しながら行列に並ぶ。

「ところで三玖さん、なんで俺を呼び出したの?」

「んー、もういいかな」

彼女は首を傾げてから、一つ頷いて微笑んだ。

「もういい、って何が?」

「今は、これで十分」

「だから何が?」

三玖さんは満足そうにメニューを眺めているが、俺としては不満が残る。何か辛い物でも食べてストレス発散するか。

 

 麻婆ラーメンをすすりながら、三玖さんのスマホを見せてもらう。

「ヘクトールに新茶に柳但にシェイクスピアに……この面子でレジライがいないのはなんで?」

「人の顔してないのはちょっと……」 

「ああ……」

俺が納得していると、三玖さんがスマホを突き出した。

「ねえ、アンドーって無課金なの?」

「まあね。そういう三玖さんは結構してそう」

「ううん、月5千円だよ」

……設定画面を見ると(留年していたとしても)16~19歳の三玖さんは月3万円まで課金できる筈だ。五月さんがタクシー代を平然とカードで払った事を考えるに、親から金に関する制限は受けてなさそうだ。そうなると、設定を変えていないだけか? マイルームを見るに始めたのは中学時代の筈で、その時からカードを貰っていた? それなら真っ当な金銭感覚がないのも納得だが、親はそれを教育しなかったのか? だとすれば、金だけ与えて育児放棄(ネグレクト)しているような物だ。それなのに、家庭教師を付けるというのは、やはり矛盾している。どうにも雇い主のキャラが読めない。

「食べないの?」

「食べてるよ」

辛いから、箸が進みにくいのだ。興味を示したから、スープをすくったレンゲを差し出す。

「……(から)い」

「だろうね。牛乳を飲むと収まるらしいよ」

「買ってくる」

即決だった。そこまで(つら)いか……(つら)(から)さだな。俺のも頼めば良かった。

「飲む?」

「ありがと……う?」

戻ってきた彼女の手には、抹茶オレなる飲み物が握られていた。

「三玖さん、それ美味しいの?」

「抹茶ソーダよりは人気だよ。飲んでみる?」

「じゃあ、頂こうかな」

……意外と合う。いや、紅茶にミルクを入れるのだから、抹茶に牛乳が合わないというのも妙な話か。

「どう?」

「良いね」

「ふふん」

何故か自慢げな三玖さんがストローを咥える。薄緑色の液体が透明な筒を通り抜ける、色が微妙だから紙パックで良かった。

「なーにイチャついてるのかな?」

そこに一花さんが寄ってきた。

 

 一花さんは友人と一緒に昼食を摂っていたらしく、誰かに手を振ってから俺の隣に座った。

「せめて左に座ってくれ。食べにくい」

「フータロー君といいアンドー君といい、ちょっと女の子に興味なさ過ぎない?」

等と言いつつ、三玖さんの隣に移ってくれた。まあ、俺の左は壁だからな。

「一緒にするな。風太郎は老若男女問わず興味ないだろ」

「つまり、アンドー君は男には興味あると?」

「まあ、気になる男性はいるかな」

風太郎の雇い主は彼女たちの父親だから、男性の筈だ。

「……アンドー、噓つきは泥棒の始まりだよ」

「嘘じゃないよ。それが恋愛関係の興味じゃないだけで」

「あっと、そんな事を言いに来たんじゃなかった」

話題を振った相手にスルーされた。どうやら、一花さんは出まかせを言っていると考えたようだ。

「アンドー君と三玖が付き合ってないっていう噂を聞いたんだけど、本当なの?」

……そういえば、この女は俺のファンクラブという謎の組織に所属しているんだったか。ニヤニヤと笑う一花さんを見て、少しだけ殴りたくなってしまった。

「まず、噂になるのは付き合って()()、じゃないのか?」

「いや、だって……学食であーんし合うのなんてカップルくらいでしょ?」

「辛<から>さが気になっただけ。それで、(から)いのには牛乳が良いって言うから」

「アンドー君も三玖もお互いの事が好きなんじゃないの? じゃあ付き合っちゃえば良いのに」

……まあ、俺が三玖さんの事を嫌っていないのは事実だ。だが、俺が俺の事を好んでないというのは置いておくとしても、一つ間違いがある。

「一花さん、恋愛と友愛を一緒くたにするのは良くないよ」

「難しく考え過ぎだよ。どんな愛でも、好きだったら付き合っちゃえば良いのに」

「……なんで好きな人と付き合うんだろう?」

三玖さんが呟いた。

「そういえば、なんでだ?」

好きな相手には幸せになって欲しいが、俺が幸せにできる訳でもない。付き合う事で与えられる物が、幸せになる為に必要な物なのだろうか。

「その人の事が好きで好きで堪らないから、じゃないかな」

一花さんが微笑む。ただ、その目は何処か遠くを見ているのが印象的だった。

 

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