五等分の花嫁 JUVENILE REMIX   作:people-with-名無し

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恋バナ その2

 午後の授業には今一つ集中できなかった。一花さんに言われた言葉が頭の中で渦巻いていたからだ。

「やっぱり、好きな人と付き合ってるイメージが湧かない」

「お前、そんなんで恋愛相談乗ってたのかよ」

俺の独り言に島がツッコミを入れる。軽い男だが、この軽さがありがたい。というか、人一人、ましてや好きな人の人生なんて背負えるものか?

「屈辱だが、潤也に聞いてみるか」

「ついでにバンドにも誘っといてくれ」

「おう。じゃ、行こうか、三玖さん」

「うん、場所取りしないと」

「四葉さんは来ないの?」

「バスケ部の助っ人だって」

教室のドアを閉める瞬間、声が飛んできた。

「やっぱ付き合ってるだろ!」

「「付き合ってないよ」」

「どう見ても付き合っ」

ドアを閉める。

「もうすぐ学園祭だけあって、何処も浮かれてるな」

「そういえば、アンドーは何かするの?」

「あー、部活で店番するくらいだな。ウチのクラスは自由研究の発表しかしないし」

「他のクラスは何かやるの?」

「まあ、場所によるね。とはいえ部活で出す方が多いし、後は引退した3年生がメインかな」

「じゃあ、来年は準備からできるんだ」

……どうやら、三玖さんは部活に入るつもりはないようだ。帰宅部を否定するつもりはないが、日本文化研究会(アンダーソンが入っている)もあるし彼女が体験入部すらしないというのは不思議だな。そうなると、赤点を回避する自信がないから、といった所か。

「まあ、俺も今年は仕切りを運ぶのとポスターを貼るくらいしか仕事ないけどな」

「そうなの?」

「取材は全部終わってるからね……あ」

そういえば、一花さんにオファーをかけるんだった。彼女を引き込めば、他の姉妹を相手にする上で有利になる……いや、そこまでしても2対3なのだが。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと一花さんに用事があったんだ」

「呼んだ?」

噂をしたら影が差した。

「でも、悪いけど先に私の用事からでいい?」

時間に追われているのか、視線が何度も窓の方を向いている。

「クラスの子たちに呼び出されちゃったんだけど、バイト行かないとなんだよね。学園祭の事で相談があるみたいなんだけど、三玖、いつものお願いできる?」

「分かった。アンドー、勉強会遅れるってフータローに言っておいて」

「……まあ、良いけど、何するの?」

「じゃ、後お願いね!」

一花さんは走り去っていった。三玖さんもトイレに入ってしまったし、風太郎の待つ図書館に向かうとしよう。

 

 と、思ったが三玖さんを尾行する事にした。風太郎にはメールすれば十分だろう。

『野暮用で少し遅れる。三玖さんも遅れるらしいし、一花さんはバイトで四葉さんは助っ人。勉強会を中止するようなら連絡くれ。三玖さんの宿題の添削とかは俺がやっておく』

男子トイレの用具入れの中でメールを書きながら耳をすます。狙うのは、一人分の足音だ。トイレであれ化粧であれ、女子は複数人で行く傾向があるからな。

「……」

ペタペタと、一人分の上履きの音がした。1秒待って外に出る。振り返られたらアウトだが、この距離なら腹話術の範囲内だ。一瞬だけ使った隙に物影に隠れるくらいはできる。

「♪~」

洋楽、ジャック・クリスピンの曲を口ずさんでいる一花さんがいた。いや、彼女はさっきバイトに行った筈……三玖さんが変装したのだろう。一花さんのクラスが何処かは知らないが、例年通りなら本格的に忙しくはならない筈だ。そうなると、転校生を頭数に入れる必要はないだろうし、クラスへ馴染ませる為の配慮か? 美人だし下心がありそうだな。

 

 訂正。下心しかなかった。

「あれ? えーっと、クラスのみんなは?」

と偽一花さん(中身は三玖さん)が訝しがるように、教室には男が一人いるだけだったからだ。

「悪い。君に来てもらう為に嘘ついた」

……男の表情は伺えないが、思惑はだいたい分かる。文言こそ殊勝だが、声は明らかに浮ついていた。

「一……私に用って?」

三玖さんが一花さんのように問いかける。一瞬、本物かと思う程に似ていた。

「俺と付き合ってください!」

……この男は、一花さんに告白するつもりだったようだ。この時期に告白とは珍しいが、学園祭を一緒に回りたいと思ったのだろうか。

「え、私と? なんで?」

「それは…………好き……だからです」

先ほどの浮ついた声とは違い、真剣に頼み込むような声だ。

「ありがとう。返事はまた今度……」

三玖さんは答えを濁した。一花さんに聞かずに決める訳にもいかないし当然だろう。ところが、

「今、答えが聞きたい!」

彼は強引に踏み込んできた。同時に、一歩分の足音が響く。

「えっ、まだ悩んでるから」

「という事は可能性があるんですね!」

足音が繰り返す。

「いやぁ、その」

「おっ? 中野さん、雰囲気変わりました?」

足音が止まった。歩数から考えるに、男は今、三玖さんの目の前にいるだろう。

「髪……ん? なんだろ……」

マズいな、どうやらカツラである事に勘づいたようだ。

「中野さんって五つ子でしたよね。もしかして……」

できる事なら、この男の思いを無下にはしたくない。だが、三玖さん(彼目線では一花さん)に強引に迫るのはいただけない。仕方ないから、荒療治といこう。

「その一花さんは偽物だよ」

 

 男と三玖さんの間に割って入りつつ、彼女のカツラを取り上げる。

「この一花さんの正体は、彼女の妹だよ」

そう告げると、少年は俺に噛みついてきた。自分を騙そうとした少女よりも、ソイツに馴れ馴れしく接する男の方に怒りが向いてくれて何よりだ。

「じゃあ、本物の中野さんは何処だコラ。つーか誰だよお前コラ。気安く中野さん、この場合も中野さんで良いのか? とにかく中野さんを名前で呼ぶんじゃねぇよコラ。俺も名前で呼んでいいのかなコラ」

……長い。

「一つずつ行くぞ。まず、呼び方はお前の自由で良いだろ、侮辱とかなら話は別だが。今言った理由から、俺が三玖さん達をどう呼ぼうと俺の勝手だ。次に、この場合も中野さんではあるから良いと思うぞ、少し分かりにくいけどな。んで、俺が誰かと言われれば、お前と三玖さんの同級生だとしか言いようがない。で、最後は……なんだっけ?」

「本物の中、一、中野さんは何処だって聞いてんだコラ!」

少しとぼけると、少年は大きく反応した。手が出なくて助かった……いや、答え次第では出そうだな。

「そうだった。本物の一花さんならバイトに行ったよ。お前の恋は、時給千円ちょっとに負けたんだ」

手が出た、胸倉を掴まれる。まあ、身長差がないから息苦しさもないし放っておこう。

「俺は負けてねえぞコラ! ダチに頼んで学祭の打ち合わせだっつったから、打ち合わせよりバイトを優先しただけだコラ!」

俺の腹話術は、相手に思った事を言わせる、ちっぽけな超能力だ。俺がこの超能力をちっぽけだと称する理由はいくつかあるが、その一つがコレだ。即ち

「中野さん<惚れた女>に嘘ついて、告白の段取りは友達<ヒト>任せ。そんな男に、誰が惚れる?」

相手の言葉を操るなど、超能力がなくともできる。

「それは……その……だな……いや、そりゃあ」

胸倉をつかんでいた手が緩む。声にも勢いがなくなり、目線が足元に落ちる。

「俺たちが黙っていれば、今日の事はなかった事になる。ラブレターでも書いて、正々堂々と勝負しに行くんだな。じゃなきゃ、お前の恋は俺の財布より薄っぺらなままだ」

少年の手を振り払い、背を向ける。メールの確認をする為にスマホを取り出す。ついでに、後ろから攻撃された際の対策として。

「じゃ、行こうか。先生が待ってるみたいだしね」

「待って」

三玖さんを連れていこうとしたら、本人に止められた。

「あの……騙してた私が聞くことじゃないと思うんだけど、なんで好きな人……一花に告白しようと思ったの?」

振り返ると、少年は机に座って頭を抱えていた。黒歴史を抉られたのだから、落ち込みもするか。

「今それを言うか……そーだな、とどのつまり、相手を……一花さんを独り占めにしたい、そう思ったんだよ。クソッ、だからって騙して独占するんじゃ、監禁だの誘拐だのと変わらねーよな」

少年が拳を、爪で掌を貫くように握る。冷静に振り返って、今更になって自分の醜さを認識してしまったのだろう。

「安心しろ、お前はほんの少し最低なだけだ」

だからなのか、少しお節介を焼いてしまった。

「少し……ってなんだよ。最低は最低じゃねーのか?」

「何処で聞いたか忘れたが、本当に最低な奴は自分を最低だなんて思ったりしない、らしいぜ」

それだけ告げて、教室を後にした。此処からどう変わるかは、俺が決める事じゃないからな。

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