五等分の花嫁 JUVENILE REMIX 作:people-with-名無し
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食堂に入ると、島・慎一・アンダーソンの3人が蕎麦湯を飲んでいた。慎一は弁当だったから、俺の分の麺つゆがなくなったという事だ。つまり、俺の麺は彼らの胃の中にあるのだろう。まあ、食事を終えた男子高校生の前に手付かずの料理があったら、そうなるよな。
「遅かったじゃねーか、安藤。って誰だよ隣の美人ちゃんは!?」
「財布持ってきてないから、明日返すよ」
「安藤さんにも春が来たんですね!」
狼狽える島、居直る慎一、勘違いして喜ぶアンダーソン。とりあえず、春の所に来るのは彼女じゃなくてストーカーだ、という冗談は止めておこう。俺のバイト先なんて興味ないだろうし。
「彼女じゃないよ。転校生で、食堂まで案内しただけ。あと、せめてお前だけでも蕎麦代を返せアンダーソン」
「銀行に行ってからでいいですか?」
駄目だ。というか、なんで全員が金欠なんだよ。
「そろそろ並ばないと、次の授業に間に合わないよ」
我が物顔で蕎麦湯を啜る慎一に促され、注文の列に並ぶ事にした。
昼休みは中盤なのに、まだ列が残っていた。渋滞がなぜなくならないのか、と不思議がっていたのはCDショップで一晩中立ち聴きしていた客だったか。ワンオペのバイトだったし、交代した日勤の人の話を合わせると、丸一日いた計算になるんだよな。そういえば、7晩連続で会ってからは見かけていないな。転勤したのか?
「……むの?」
転勤・転居、移動しないと達成できない物事が存在する以上、渋滞は回避できないのだろうか。仮に道を増やしたとしても、高速化した経路を前提とした物流が行われるから、最終的には渋滞するだろう。
「何頼むの?」
そもそも、渋滞するのは車が故障したりといった異常事態が原因だ。緊急事態への対処を重視すると、効率が犠牲になる。事故による渋滞と、交通量による渋滞を同時に回避するのは、右と左を同時に向くような物なのかもしれない。
「何頼むの!?」
耳元で叫ばれた。儚げな外見からは想像できないような大声で、少し耳が痛い。
「ああ、だいぶ列が短くなってるね」
「気づいてなかったの?」
「うん」
思考に没頭して、周囲を疎かにしてしまう。考察魔なんて呼ばれるコレは、俺の悪い癖だな。
「注文だっけ? 金ないし、焼肉定食焼肉抜きかな」
さっき財布を見たが、他に買えるメニューはライスだけだった。だったら、味噌汁と漬物がある方が良い。
「お勧めは?」
「そうだな……走ったし、大盛り無料の蕎麦とか良いんじゃない? あと、かき揚げも美味しいよ」
蕎麦どころか、かき揚げを買う金もないのだが。厳密には、かき揚げ1枚なら買えるが、それよりは炭水化物を食べたい。
「ご注文は?」
思考の海に沈む前に、注文の順番が来たようだ。
「焼に」
「笊蕎麦の大盛りと並盛を一つずつ。あと、かき揚げを2枚ください」
少女に割り込まれた。
「笊蕎麦の大盛りと並盛を一つずつに、かき揚げを2枚ですね。780円になります」
「ちょっと待っ」
「千円からで」
「220円のお返しになります」
……実は彼女が大食いだったりするのだろうか。いや、俺の注文を遮る必要はないし、わざわざお勧めを聞く必要もない。
「ありがとう。明日返すよ」
つまり、昼食代を立て替えてくれたのだろう。生活費を崩す訳にもいかないし、春に給料の前借を頼むか。
「お礼を言うのは私の方」
「……え?」
いや、道案内しただけで奢ってもらうのは悪いだろう。
「助けてくれて、ありがとう」
……か細い声なのに、なぜか明瞭に響いた。
席に戻ると、島しかいなかった。
「お、戻ってきたか。んじゃ、後は若い二人でごゆっくり」
「合コンの次はお見合いのセッティングか?」
「まあな。黒薔薇にいい子がいたら紹介するよう頼んでくれ」
本人の前でそう頼んだ島は、本当に教室へ帰っていった。
「とりあえず、食べようか。授業が始まったら、職員室から先生がいなくなる」
「そうだね」
「「いただきます」」
食べながら少女を観察する。黒薔薇と言えば、お嬢様が通う女子高だったな。使い込んだであろうヘッドホンを身に着けているから、転校前から愛用していたのだろう。校則が厳しいであろう場所でそんな物を装備できたって事は、特別待遇、つまり相当なお嬢様なのだろう。食事の所作も丁寧だし、髪や爪・肌もよく手入れされている。メイクこそしていないようだが、これだけ元が上質なら必要ないという判断だろうか。
「食べないの?」
「ん、ああ、食べるよ」
いかん、また思考に没頭していた。見れば、彼女の蕎麦は半分が消えている。少し行儀は悪いが、啜る蕎麦の本数を増やそう。
「食べないの?」
「食べてるよ?」
「かき揚げ」
「……食べていいの?」
いくらお勧めしたとはいえ、他のを頼まないのはチャレンジャーだな、と思っていたが俺の分だったのか。首を傾げた少女が頷くのを見てから、皿の端に抹茶塩を振る。
「何それ?」
「抹茶塩。意外と合うよ」
それを付けたかき揚げを頬張る。
「うん、うまい」
「美味しい」
麺つゆに浸して食べる奴が多いので、同士ができたのは嬉しい。けど、食べかけのを塩に付けて、その塩を俺が使ったら間接キスにならないだろうか。まあ、美味しいから付けるのだが。
「蕎麦湯飲む?」
「飲む」
最後の蕎麦を啜り、ウォーターサーバーの所にあるポットを持って行く。
「どうぞ」
「ありがとう」
そういえば、蕎麦湯が出るって事は乾麺を使ってないんだよな。安い早い美味いを地で行くこの食堂は黒字経営できているのだろうか。全部売り切れたとしても、人件費で赤字になりそうな物だ。インスタントじゃないなら、パートじゃない本職の調理師とかもいるだろうし。本職で思い出したが、職員室まで案内するんだった。
「じゃ、行こうか」
器とお盆を重ねて返却口まで持って行くと、予鈴が鳴った。慌てて少女の手を取って廊下を走る。なぜか、時間がないからだ。そりゃ、熱い蕎麦湯をチビチビ飲んだりすれば、時間は経つよな!
職員室に少女を投げ込み、教室まで走る。本鈴がなるのと同時に、扉を開けて滑り込んだ。
「間に合った!」
席に座って黒板の方を見る。教師はいなかった。
「お疲れ。報われない人選手権があったら、優勝しそうな走りっぷりだったよ」
「賞金でも、貰えないと、割に合わない」
今日は走ってばかりだな。夏なのに何故か体育は持久走だし、不良に追われたり、時間に追われたり。彼女が奢ってくれなかったら、食後なのに空腹のまま授業を迎えることになっていただろう。そう考えると、少し報われているから3位止まりだな。
「全員いるね」
瀬川先生が入ってきた。俺たちの担任である彼は数学教師で、この時間は英語の授業の筈なんだが。うん、家が英語教室をしているアンダーソンが寝ているから、間違いない。
「突然だけど、英語は自習になった。それと、転校生が来たから紹介するよ」
その言葉で、クラス中がざわめく。男か女か、イケメンか美少女か、部活に勧誘できるか。俺の周囲を除き、彼女とは会っていないから期待が膨らんでいるようだ。
「ふぁあ、安藤さんの隣の空席は、その為だったんですね」
目を覚ましたアンダーソンが呟く。
「報われない人選手権は受賞を取り下げたようだね」
慎一が冗談めかして言う。
「そういえば、黒薔薇の子は紹介してもらえたのか?」
島がデリカシーのない事を言う。この時期に転校してくるなんて、何かトラブルがあったに決まっている。そこまで遠い学校じゃないし、金に困っている様子もない。立地・金銭ではない問題で転校したという事は、前の学校でトラブルがあったという事だ。元クラスメイトを紹介してもらうなら、そこを詮索する事になるからな。
「あ、ちょっと待って」
先生が廊下に出て行った。
「考えてみたら、その服装で人前に出るのはまずい。ジャージと三角巾はリュックにしまって」
いくら変人の巣窟とはいえ、第一印象は大事だろう。というか、ジャージに書いてある名前を見られたら
「安藤は後で職員室に来るように」
まあ、そうなるよな。廊下で一悶着していたのは見られているし、この学年に他の安藤はいない。
「さて……改めて、転校生を紹介しよう」
入ってきたのは、先ほどの少女だった。そういえば、名前を聞いてなかったな。
「中野三玖です。よろしくお願いします」
主に男子生徒から歓声が上がる。この学校、何故か同性愛に寛容なんだよな。潤也によれば、俺たち兄弟をネタにしたBL同人が出回っているそうだ。ちなみに、編集長は弟で、副編集長はその彼女だ……業が深いな。
「席は安藤の隣、そこの空いている席に座って」
その言葉で歓声が上がる。さっきの言葉と、瀬川の手元にあるジャージで、大体の関係性は察せるからだ。
「運命を感じるね」
神様がいるなら一言だけ伝えたい。余計なお世話だ。
二乃が上杉風太郎に薬を持った時、安藤は止めますか?
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風太郎への教訓として「止めない」
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風太郎の友達として「止める」