五等分の花嫁 JUVENILE REMIX 作:people-with-名無し
軽い勘違い物としてお楽しみいただければ幸いです。
4
6時間目は地獄だった。左耳ばかりが敏感になり、気がついたら中野さんの方に聞き耳を立てている。
「この問題は、安藤」
「はい。a=2を代入してから①を2倍して……」
この程度の問題で良かった。無事に答えて着席すると、目が合った。……慌てて黒板を見る、もちろん板書の内容なんて頭に入らない。とりあえず、見たままを書き写す。
「島、起きろ」
瀬川先生がチョークを投げる。目を覚ましたコイツを壁に、居眠りしてしまおうか。そうすれば、余計な事を考えずに済む。
「ねえ、アンドー」
無理だった。中野さんに呼ばれて、思わず振り向いてしまう。
「どうしたの?」
「今、どのページ?」
新米(2年目)教師め、ちゃんと教えておけよ、と心中で毒づきつつページを示す。
「ここだよ」
「ありがと」
目がグルグルしている。何がなんだか分からないレベルで数学が苦手なのだろうか。
「後で教えようか? ほら、範囲とか違うだろうし」
「えっと、じゃあ、明日の朝に、お願い」
そういえば、放課後は手続きがあるんだったな。
「少し早いけど、今日の授業はここまで。宿題のプリント配るから後ろに回して」
島が回してきたプリントを受け取る。
「なあ安藤、熱でもあるのか?」
「え?」
「顔赤いぞ? いや、中野さんにお熱なのか?」
「……かもな」
冗談めかして答える。
「マジかよ!」
「そこ、静かに。次の授業で問3までやるから解いてきてください。それと、安藤と中野は職員室に来るように。では、号令」
「起立! 礼!」
そういえば、説教が待っているんだった。……中野さんも職員室に用があるのか、まあ、転校の手続きなら当然か。
「島、着いてきてくれ!」
「お、おう分かっ」
「ぶっとばすよ」
大西さんの脅迫に屈した。慎一は……笑顔で手を振っている。アンダーソンに至っては、ジェスチャーで「キスしろ」と言ってくる。
「ほら、三玖! そこの考察魔と一緒に行ってきなさい!」
お前の彼氏が泥棒だってバラしてやろうか。
「えっと、1回行っただけで、まだ場所に自信ないから」
「まあ、道に迷って変なのに絡まれても困るしな」
だから、手を繋ぐのは緊急避難だ。拍手したり口笛吹いたりした3バカからは、後で昼飯代を倍額で請求してやる!
高鳴る心臓の鼓動に任せて走る。心拍数も、汗も、顔が赤いのも、走ったからだと答える為に。
「着いたよ」
「誰もいない」
「まあ、瀬川先生も追い抜いたからね」
今更だが、手を繋いで走るのって目立つよな。
「中野さんは纏めて手続きするから、そこの応接室で少し待ってて。安藤は着いてこい」
瀬川先生が追いついた。息一つ切らしていない彼は、そこらの体育教師より動けるのではないだろうか。夏休みに一人でハイジャック集団を殲滅したという、グルカ兵のような噂も真実かもしれない。
「またね、アンドー」
「ああ、また明日」
中野さんは応接室の中に入っていった。仕方ない、職員室に向かうか。
職員室に着くと、瀬川が布切れを1枚出した。
「はい、帰っていいよ」
「え?」
「話は慎一とアンダーソンから聞いた。当て布を取りに職員室に向かう途中だったんだろ?」
「あ、はい、そうです」
「だから、当て布を渡したんだが、他に用事は?」
「……ないです」
つまり、俺が暴れた事は不問とするのだろう。
「では、帰りなさい。ああ、危ないから廊下は走らないように」
思ったより簡単に片付いたので、風太郎にメールを送る。まだ学校にいたから、図書館で合流する事にした。
「中野はどうした?」
「手続きがあるから、明日の放課後に会うってさ」
「……そ、そうなのか」
(参ったな。手続きが終わるのと、俺のバイトが始まるの、どっちが先だ?)
よほど早く会いたいのか、風太郎の顔に焦りが浮かぶ。
「中野さんとライン交換でもするんだったな。顔写真くらいは送れたのに」
「いや、既に会ったから写真はいらない。ああ、既に会ったから問題なんだよ!」
「喧嘩でもしたの?」
「まあな」
……懸念が現実の物となったか。
(安藤の奴、あいつと親しいのか? なら、いっその事、家庭教師に同席させれば!)
「なあ、明日バイトあるか?」
「ないよ。風太郎と一緒に、家庭教師すれば良いかな?」
「ああ、頼む」
まあ、中野さんと一緒にいられる理由が増えたのは嬉しいし、同席できるのは願ったり叶ったりだ。……なんで一緒にいたいんだろう。
(これで中野を大人しくさせる事ができる! 人間関係のトラブルとか下らない問題を片づけるのは、安藤の得意分野だからな!)
そういえば、なんで中野さんと風太郎の関係が拗れたのだろう。顔を合わせるタイミングなんて、朝礼から昼休みの間しかなかったのに。
(そういえば、いつ中野と安藤は仲良くなったんだ? 顔を合わせるタイミングなんて、朝礼から昼休みの間しかなかった筈だが)
俺たちが大きくすれ違っていた事を知るのは、明日の話だ。
翌朝。春と一緒に夜遅くまでトンネルの塗装(絵を描く場合も塗装でいいのか?)を行い、そのまま深夜テンションで弁当を作ったのが響いてるな。とはいえ、給料の前借に成功して、朝市で新鮮な食材を安く買い込めたんだから、今日はもう休んでいいだろう。
「おはよう、アンドー」
「おはよう、中野さん」
眠気が吹き飛んだ。そういえば、勉強する範囲を教える約束だった。
「じゃ、じゃあ早速始めようか」
「う、うん、そうだね」
俺の使い込んだ教科書と、中野さんの新品の教科書を机に並べる。
「はい、ノートのコピー。悪筆で悪いけど」
「四葉……妹の方が酷いから大丈夫」
どうやら、夢を見ていたようだ。
「起きろ安藤、一限は瀬川だぞ」
「ん、なんだ、島か」
「なんだとはなんだよ。つーか、中野さんの膝からいい加減どけよ」
「…………え?」
どうやら、椅子に横向きに腰かけた状態で前のめりに倒れ、机の方を向いていた中野さんの膝の上に頭が収まっていたようだ。
「ごめん!」
頭を上げて、土下座に移行する。
「別に、平気。驚いただけ」
そっぽを向いてしまった。きっと、内心では怒っているのだろう。とはいえ、ここで謝っても逆効果だよな。形だけでも赦してくれたのに、掘り返すのは怒らせるだけだ。
「あ、ありがとう」
「ど、どういたしまして」
早く来てくれ先生! この空気を換えてください!
二乃が上杉風太郎に薬を持った時、安藤は止めますか?
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風太郎への教訓として「止めない」
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風太郎の友達として「止める」