五等分の花嫁 JUVENILE REMIX 作:people-with-名無し
とりあえず、中野さん達の家にお邪魔する事になった。いくら最上階を丸ごと借りているとはいえ、廊下で話す事でもない、という判断だ。
「あれ、俺がいる必要あるか?」
風太郎は中野さんの親に連絡し、五つ子は部屋に戻ってしまった。そもそも、俺が関わる前に顔合わせも終わっている。
「安藤、アンタ暇でしょ? ちょっと付き合いなさいよ」
ジャージを羽織った二乃さんが出てきた。
「いや、まあ、暇だけど……もう帰っていいよね?」
高級かつ女の子の暮らす空間という事で、物凄く気まずいんだが。
「そう。そんな事言うと、ジャージ返してあげないわよ?」
そう言って、二乃さんは腕を大きく広げる。命令には従うから、一つだけ言わせてもらいたい。
「それ、俺のじゃないよ」
三玖さんのだ。というか、大きさで気づけよ。
生地を捏ねながら、二乃さんと話し合う。
「そういえば、アンタ何しに来たのよ」
「そうだな……まず、風太郎と五月さんを仲直りさせる為ってのと、三玖さんに家庭教師を紹介する為かな」
「……マジであの冴えない男が家庭教師なのね」
「頭は良いよ。全国模試で3位とか取るレベルだし、テストは基本100点だから」
「らしいわね。でも、なんで同級生が家庭教師なのよ」
「まあ、いくつかメリットはあるよ。同級生との接点を作るとか、虫よけとか」
とはいえ、それは三玖さんに対してであって、社交的な二乃さんには不要かもしれない。
「ふーん。ねえ、それって家庭教師である必要はなくない? こういう子が来るから仲良くやってくれ、で済む話じゃない」
「……言われてみれば、確かに妙だ」
金銭関係がなければ信用できないという余程の人間不信(金だけ貰ってトンズラするかもしれないのに?)か、家庭教師とボディーガード(風太郎の体力で?)を合わせての経費削減か、或いは(赤毛連盟よろしく)風太郎に家庭教師の仕事をさせたい理由でもあるのか。何にせよ、あまりにも不合理な状況だ。というか、この家に住めるレベルの金持ちなら、一人一人に(または科目ごとに)家庭教師を付けるくらいはできただろう。
「ちょっと、手が止まってるわよ!」
「あ、ごめん」
部屋には男、父親の痕跡がない。手つきを見るに、二乃さんは普段から料理している……つまり家政婦はいない。かといって、母親がいる訳でもない。まあ、母親は外出しているのかもしれないが。いや、食事用と思しきランチョンマットの置いてあるテーブルは、マットも椅子も5人分しかない。驚くほどに、五つ子の生活痕しかない。
「てかさー、ぶっちゃけ家庭教師なんていらないのよね」
「いや、必要だろ」
二乃さんの話題が別の場所に飛んでいた。一応、顔合わせの手伝いを頼まれていたのでフォローする。
「アンタに何が分かるのよ」
「まあ、転校した理由くらいは」
黒薔薇は電車で通える程度には近いし、金も十分にある。であれば学内でのトラブルだが、二乃さんと五月さん……というか三玖さん以外を見るに、人間関係で何かがあったという線はない。人慣れしていない小動物のような、トラウマを抱えているような気配はないからな。
「成績不振で退学になった、或いはなりかけた、ってところかな?」
「うげ……本当に分かってたのね」
「少し考えれば分かるよ」
おそらく、この後の展開も。
リビングに出ると、階段(なんで家の中に階段がある!?)の上で三玖さんと風太郎、兎耳リボンの四葉さん、ピアスを付けた一花さんが揉めていた。
「知らない方がいい。少なくともフータローは」
「俺、関係ないだろ……つーか興味もないし」
いや、生徒には興味を持てよ。どんな情報が手掛かりになるかなんて分からないだろ。
「おーい、そこで何やってんの?」
二乃さんがシリアスな空気を断ち切った。
「クッキー作りすぎちゃった。食べる?」
まあ、3割は俺の所為だな。2割は二乃さんのストレス発散で、5割はおそらく……
「二乃、今はそれどころじゃ」
「あ! あのジャージって……」
四葉さんが二乃さんの胸元を指さす。
どうやら、二乃さんが三玖さんのジャージを勝手に持ち出して、それを風太郎の所為と誤解したらしい。
「よし、これで4人だ。五月はいないが始めてしまおう」
風太郎が勉強道具を取り出す。
「まずは実力を測る為にも小テストをしよう!」
彼はそう言って自作のプリントを机に叩きつけるが
「「「「いただきまーす」」」」
まあ、お菓子の方が、優先順位が高いよな。誰も勉強する気配はないようだが、この状況は逆に利用できるかもしれない。
「五月さん、クッキー焼きすぎちゃったから、処理に協力してくれない?」
足に鞭打って階段を上り、五月さんの部屋の扉を叩く。
「そう言って、上杉君の家庭教師に巻き込むつもりでしょう」
「残念ながら、家庭教師ができる空気じゃないんだ。クッキーを食べきって、緩んだ空気を引き締めないと始まらないよ」
もっとも、そうなる前に家庭教師の時間が終わるだろう。大量のクッキーとお喋りで、時間を浪費させる腹積もりに違いない。でなければ、いらない家庭教師にまで振舞うものか。
「……本当に、お菓子を食べるだけですからね!」
五月さんが部屋から出てきた。……ちょろい。
「ねえ、五月さん。つかぬ事を伺うけど、風太郎に『太るぞ』とか『ダイエットした方が良いんじゃないか?』とか言われた事を怒ってるの?」
「聞いてたんですか!?」
「いや、アイツなら言いそうだと思っただけ」
そうなると、面倒な事になったな。体重の話は女の子の地雷だし、食べ物(特に食事量)は風太郎にとって地雷だ。双方が内心では激怒している状況で、まともな関係を構築できるとは思えない。
「クッキーで呼び出しておいて体重の話を振るって、本当に私を授業に参加させたいんですか?」
「どっちでも良いかな。どうせ今日は授業できないだろうし」
今日は顔合わせと割り切って、挨拶と信頼関係の構築だけを行えば十分だろう。そんな事を考えつつ、2階から飛び降りた。今日はもう、階段の上り下りはしたくない。
「えっ!?」
「おぉっ!」
五月さんと四葉さんは驚いていた。
「忍者みたいだね」
一花さんは感心していた。
「ちょっと、埃が飛ぶじゃない!」
二乃さんは怒っていた。
「アンドーも食べる?」
三玖さんはクッキーを差し出した。
「ありがとう。いただきます」
それを受け取って食べる。うん、美味い。レシピを覚えているうちにメモしよう。
「おい安藤、全員揃ったし勉強させるぞ!」
上杉が期待の眼差しを向けてくる。
「今日は顔合わせと自己紹介だけで十分だろ。知らない同級生に対して、警戒しない奴はいないさ」
「あ~、食べたら眠くなってきた」
一花さんが欠伸した。
「いたぞ、警戒しない奴」
風太郎が頭を抱える……まあ、何事にも例外は付き物か。
暫く五つ子達がお喋りしているのを眺めていると、急に二乃さんがこっちを向いた。そういえば、まだ三玖さんのジャージを着たままなのか。
「クッキー嫌い?」
「いや……そういう気分じゃ……」
二乃さんが風太郎にクッキーを勧めた。あれだけ言ってはいたが、学友としての彼には敵意がないのかもしれない。
「警戒しなくてもクッキーに薬なんて盛ってないから。安藤も見てたでしょ?」
前言撤回、彼女には敵意しかない。
「まあね」
「ほら、食べてくれたら勉強してもいいよ」
……風太郎のカロリー摂取を邪魔するのも悪いし、まだ止めないで良いだろう。あのクッキーは焼き立てだから、俺が見ていた生地で作った筈だ。それに、大皿から持ち出した物だから、他の人が食べる危険があったのだ。
「うわっ、モリモリ減ってる! そんなに美味しい?」
「あ、ああ……美味いな……」
「嬉しいな~」
今の二乃さんは明らかに不自然だ。何を企んでいる?
「あ、そだ。パパとどんな約束したの?」
良い気分にさせて情報を引き出す、ハニートラップの常套手段だ。とはいえ、酒か性が入っていなければ、口を滑らせる男は少ない。
「特に何も……」
とはいえ、あれだけ露骨に迫られれば、挙動不審にはなる。そして、嘘の精度は下がる。
「うっそ~? 君ってそんな事するキャラじゃないっしょ」
やはり彼女も見抜いたか。いや、元から風太郎の嘘が下手だっただけか。
「ぶっちゃけ家庭教師なんかいらないんだよね~」
二乃さんが豹変した。そして、すぐに笑みを浮かべる。
「なんてね。はい、お水」
おそらく、あの水に薬を仕込んだのだろう。準備に時間はなかった筈だから、家にある薬……睡眠薬か強い酒といったところか。それを飲ませて、タクシーにでも乗せてボッシュートするつもりだろう。
「ありがとう。でも、水筒が微妙に残ってるから」
「お……おう……サンキュー……」
俺は空っぽの水筒に口を付けてやんわりと断る。さて、風太郎は流されて受け取ってしまったが、どうしようか?
生徒への注意不足に対する罰として受け入れるか、犯罪だから止めるか。俺は、どちらを選ぶ?
アンケートは締め切らせていただきました。ご協力ありがとうございます。
次回は止めないルートとなりますが、止めるルートも番外編として書く予定です。気長にお待ちください。
二乃が上杉風太郎に薬を持った時、安藤は止めますか?
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風太郎への教訓として「止めない」
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風太郎の友達として「止める」