五等分の花嫁 JUVENILE REMIX 作:people-with-名無し
風太郎の性格を考えると、ここで止めれば理由を知ろうとするだろう。俺は、彼の追及を躱せるか? 基本的には鈍感でデリカシーのない男だが、その誠実さと勤勉さゆえに、はぐらかす事はできないだろう。かといって、彼を納得させる嘘というのも難しい。ここで説明した場合、中野家の五つ子にも聞かれるからだ。少なくとも、四葉さんは風太郎に敵意を持っていない……名前しか書いてないのテストを前に唸っているのが演技でなければの話だが。本気で取り組んでいるのなら、二乃さんが薬を盛って授業を中断させる事は知らないだろう。では、他の人はどうか……五月さんは知らない筈だ。家庭教師が風太郎でなければ歓迎していたであろう彼女が、薬を盛る事に協力するとは思えない。また、三玖さんも関係なさそうだ。家庭教師や風太郎よりも自分のジャージを優先しているから。そうなると、多くても一花さんとの共犯だが……それ程の敵意を抱く男の前で寝る人はいない、筈だ。いや、敵意がなくても眠らないとは思うのだが。
「風太郎、ちょっと来て」
「ゴクッゴクッ、なんだよ?」
薬を盛ったのは二乃さんで、共犯者はいない。家庭教師に協力的なのは四葉さん、無関心なのが三玖さんと一花さん(風太郎には興味がありそう)。反対しているのが二乃さんと五月さん。なら、これが最善の筈だ。
「男の膝枕で残念だったね」
「は? ……んあ?」
呆けた表情の友人が目を瞑り、バランスを崩す。宣言通り、俺の膝元に彼を寝かせた。
「えっ!? ちょっと、何やってるのよ!?」
動揺する二乃さん。
「ズルい」
不満そうな三玖さん。
「良いなあ」
羨ましそうな四葉さん。
「ど、どういう事ですか!?」
混乱する五月さん。
「Zzz」
そして、まだ眠っている一花さん。もしかすると、彼女が最も手ごわい相手かもしれない。
さて、これからどうしようか。先に二乃さんを責めるか、それとも五月さんを絆すか。まあ、二乃さんからで良いだろう。クッキーも食べ切ってないし。
「ねえ、三玖さん」
「……なに?」
何故か(心当たりはあるが勘違いだろう)不満そうな目つきの彼女に問いかける。
「この家の救急箱って、どこにあるの?」
「……そこの棚、だけど……でも、二乃がアンドーの目を盗んで取りに行くのは無理だと思う」
どうやら、睡眠薬には気が付いたようだ。
「二乃さんが、俺や風太郎、ましてや姉妹の目を盗んでリビングを歩くのは無理そう?」
「アンドーと二乃が料理してた時は知らないけど」
頬を膨らませた三玖さんが答える。
「ありがとう。なら、ちょっとキッチンのゴミ箱を見てくるよ」
風太郎の頭を鞄の上に置いて立ち上がる。それから、ふと思い出したかのように口を開く。
「そうだ、そろそろ二乃さんからジャージを返してもらったら? まあ、絶対に返せないだろうけど」
「……ッ!」
二乃さんが目を見開く。
「「え?」」
四葉さんと五月さんが首を傾げる。
「アンドー、説明して。貴方が知ってる事を、全部」
「じゃあ、その前に質問を一つ。皆は、薬と言われたら何を連想する?」
真っ先に挙手したのは四葉さんだった。
「はい!」
「はい、四葉さん」
「ドーピングです! インターハイでも手を出す人がいるって、バスケ部の人から聞きました!」
「……他の人は?」
この状況で、なんで思考がそっちに行く?
「はい」
「はい、五月さん」
「……貴方が先生ごっこをしているのに思うところはありますが、風邪薬を連想しました」
「まあ、それが普通だよね。じゃあ、それの見た目を教えて?」
そう言うと、四葉さんを除く全員が深く頷いた。
「我が家で常備しているのは、こう、苦い粉薬ですね」
「良薬の証拠さ。じゃあ、それを飲む時、まずは何をする?」
「水と、口直しにお菓子を用意します」
「おい病人。……次は?」
「薬を飲みます」
「その間に、やる事はない?」
そう問いかけると、五月さんは頭を抱えてしまった。どうやら、かなり頭が固いようだ。
「袋の口を開ける、でしょ?」
答えたのは一花さんだった。いつから起きていた? そもそも寝ていたのか?
「で、薬の飲み方にこだわった理由は何かな?」
「その前に、質問をもう一つ。薬を飲んだ後、袋はどうする?」
「んー、置きっぱなしかな」
「ちゃんと捨てろよ、自分が出したゴミなんだから」
一花さん以外が高速で首を縦に振る。そんなに掃除ができないのか?
「……そっか、だから、返せないんだ」
等と脱線して考えていると、三玖さんが呟いた。
「ああ、そういう事ね」
一花さんが手を打つ。
「どういう事?」
四葉さんが首を傾げる。
「分かりません」
五月さんが頭を抱える。
「はぁ……全部わかってるんでしょ? さっさと言いなさいよ」
二乃さんが吐き捨てる。
「では、遠慮なく。二乃さん、風太郎に睡眠薬を飲ませて、その空袋をジャージのポケットにしまったよね? ちなみに、厳密には何を飲ませたの?」
「……ええ、そうよ。まあ、ちょっとした理由で持ち歩いてる痛み止めを盛ったわ」
「教えてくれてありがとう。犯人しか知らない事を、ね」
見捨てておいてアレだが、俺は風太郎の事を友人だと思っている。つまり、ここまで冷静に探偵ごっこと教師ごっこをしてきたが……怒っているのだ。
さあ、報復を始めよう。
『風太郎に睡眠薬を飲ませて、その空袋をジャージのポケットにしまったよね? ちなみに、厳密には何を飲ませたの?』
スマートフォンから俺の声が響く。
『……ええ、そうよ。まあ、ちょっとした理由で持ち歩いてる痛み止めを盛ったわ』
そして、二乃さんの声が続く。いや、事情を知らなければ、この音質では中野家の誰か<・・>としか分からないだろう。
『教えてくれてありがとう。犯人しか知らない事を、ね』
もう一度、俺の声が響く。そして、少女たちは事態を察したようだ。
「アンドー君、優しそうな顔してる割に役者だねぇ。お姉さん感心しちゃったよ」
拍手する一花さん。本当に、この人の考えは読めない。
「安藤、アンタ、汚いマネするじゃない……!」
悔しそうな二乃さん。動機は分からないが、思考と行動はかなりシンプルだ。
「アンドー、一つ聞いてもいい?」
手を上げる三玖さん。案外、最も分かりやすい人かもしれない。
「安藤さん、えっと、何がどうなってるんですか?」
何故か風太郎に膝枕をしている四葉さん。行動も思考もシンプルだが、やはり動機が不明だ。
「安藤君、なぜ録音なんてしたのですか?」
俺を睨む五月さん。その顔には「二乃を脅す気ですか」と書いてある。彼女も分かりやすい側だろう。
「まずは一花さんからで、強面の役者の方が少ないだろ。次に二乃さん、撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。三玖さんは、少し待ってて。四葉さんは……後で一花さんにでも教えてもらって。最後に五月さん、
全員に返事してから、その少女を見る。
「ねえ、アンドー。貴方が脅迫したいのは、私たち全員?」
「……とりあえず、根拠を聞こうか」
「あの録音、フータローしか名前で呼ばれてない。二乃の名前が入ってないのは、誰が答えたのかを分からなくする為、そうでしょ?」
三玖さん、頭の回転は速いんだよな。なんで退学レベルで成績が悪かったんだ?
「アンドー?」
「あ、ごめん。続けて」
「……誰が答えたのかが分からなければ、一花や四葉、五月、私の事も脅せる。そうだよね?」
「例えば、バスケ部の人に『四葉さんと話してた時に録音した』と言ってこれを流したら、信じるかな?」
話を振られた少女のリボンが伸びる(兎の耳じゃあるまいに)。暫く唸ってから、答えを出した。
「たぶん、信じないと思います。きっと、口調が違う、とか、四葉さんがそんな事するわけない、って言ってくれます!」
「何人が?」
「え?」
「はたして、それを心から信じるのは何人いる? いや、ほんの少しも疑わない人がどれだけいる? こんな奇妙な物を聞かされた、と誰かに言う人だっているだろう。もしかしたら、あまり面識のない男子バスケの人が盗み聞きしているかもしれない。そうやって広まっていく中で、中身が変わらないという保証はある?」
そして、俺は脅迫を始める。
「これを流せば、転校したばかりの美人姉妹の評判は地に堕ちる。賭けてもいい」