マザーズ・フロントライン   作:ペニーボイス

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10話 捕虜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕虜にならない、捕虜は取らない☆」

 

「マテマテマテマテマテマテマテマテ待て待て待てコラ!待て!待たんかい!」

 

 

 ダーリャママン(DP28)が投降した民兵に穴を掘らせ始めたので私は大慌てで彼女を止める。

「捕虜は取らない☆」じゃねえんだよ。

 アンタいつまで1945年(独ソ戦)エディション引きずってんだよ。

 もう21世紀も半分を過ぎたんだからさ、少しは現代に適応してくれ頼むから。

 

 

「どうして止めるの、坊や?」

 

「あのな、民兵が我々を攻撃したのは事実だけど我々には何らの実損も無かったし…」

 

「でも坊や!この地域の住人はコミンフォルムから脱退したファシストじゃない!プチブルだわ!裏切り者よ!」

 

自主管理社会主義をファシストと同列に扱うんじゃないッ!根底から全く異なるだろうがッ!そもそもいつの話してんだ!いい加減に目を覚ましてくれぇッ!!……はぁ。どちらにせよ、彼らからは情報を引き出す必要がある。」

 

 

 交戦時間自体はそんなに長いものではなかった。

 民兵集団は最初の奇襲こそ勢いよかったものの、我々が反撃すると急激に追い込まれてすぐに投降したのだ。

 この手の問題になると、きっと第2小隊のドイツ連中は大戦中の記憶からパルチザンアレルギーを起こすので第1小隊連中に捕虜の拘束を命じたのだが。

 結果的にはあまり変わらなかった。

 このロシア勢人形達はコミンフォルムから外れた旧ユーゴスラビアの地域住民を未だに反革命分子かなにかと見做しているようだ。

 

 無線機で車両による周辺巡回を行なっている第3小隊のアメリカ勢を呼び出して、ロシア勢と交代させることにする。

 もうこの時点でめんどくさいが、ドイツ勢もロシア勢も基本的に捕虜を取らないスタンスだから仕方ない。

 少なくとも彼女らの中では絶滅戦争が継続中のようだった。

 

 やがて車両巡回から帰ってきた第3小隊と第2小隊のメンツを交代させる。

 これなら少なくとも捕虜を勝手に殺害されない…オイオイオイオイマテマテマテマテコラ、勝手に捕虜にチョコバーとかガムとか渡すんじゃねえ。

 ギブミーチョコレートじゃねえんだよ。

 バレンタインじゃねえんだよ。

 時期的にはそうかもしれないけど戦闘によって囚われた捕虜にいきなり「ぎっ、義理なんだから//」とか言ってチョコバー渡したところで困惑されるだけだからね?

 なんでアンタらもアンタらで1945年(GHQ)エディション引きずってるの?

 

 勝手に進駐軍を始めたこの馬鹿タレ共だが、何度も言うが捕虜を勝手に殺しかねない連中よりはマシだと考えねばならない。

 私は第3小隊のメンツに命じて捕虜を並ばせてから第1小隊の連中を遠ざける。

 とりあえず、現時点で私が行うべきはこの捕虜達の尋問。

 なんで我々の隊列を見た瞬間にロケット弾をぶっ放してきたのかを問いたださなければならない。

 

 第3小隊の連中も勝手な行動が目立ったが、しかし彼女達の場合は思わぬ功名をもたらしてくれた。

 民兵の捕虜は腹を空かしていたらしく、突如始まったツンデレバレンタインによる収穫に迷う事なくかぶりついていたのだ。

 顔色は若干綻んでいたし、尋問も行いやすいはず。

 

 私は民兵のリーダーに当たりをつける。

 1人だけ年配だし、AK74で武装した他の人員とは違ってサブマシンガンを持っていた。

 彼の前へ進み出ると、他の人間とは違ってチョコバーをポケットにしまい込んだその老兵に質問をぶつけてみる。

 

 

 

「本職はグリフィン&クルーガー人形部門のディミトリ・ペトレンコ大尉だ。…おたくは?」

 

「………スロヴェニア自警団連合、クラエニッツ少佐。」

 

「では少佐、お聞きしたい。貴官の部隊が我々へ攻撃をした理由は何か?」

 

「………」

 

「今回はお互いに死傷者が出なかった。…誠に幸運な事だが、だからこそ我々は運に感謝しなければならない。」

 

「…こちらの銃弾がそちらの人形に当たっても、それは"人的損害"にはならないのではないか?」

 

「質問の本質を違えないでいただきたい。本職はそちらが先制攻撃に至った経緯をお聞きしたい。」

 

「…………」

 

 

 クラエニッツ少佐は、おそらく"間抜け"の類ではない。

 正規軍時代に後方で規律のない軍隊生活を謳歌したり、小山の大将として威張り散らしていただけじゃない人間という事だ。

 彼の徽章と略章を見るに、現役時代は第一線の歩兵部隊にいたに違いない。

 その証拠に少佐は我の形勢が不利と見るや無用な損害が出る前に投降したのだ。

 きっと自身の率いる民兵達の練度が最低限を下回ることを熟知してこその判断だろうし、更には決死の判断で攻撃したというよりは精々"追い払いたい"程度の目標に拠る攻撃であろう。

 

 しかしながら、彼がもし今は予備役とはいえ、かつて正規軍将校としての経験を積んでいたのだとすれば。

 それが賭けに近い行動であったことも勿論承知していたはずだ。

 確かにこちらはティグル装甲車3両に分乗した小部隊に過ぎないが、それでもれっきとした偵察部隊として見るのが一般的であろう。

 つまりは下手に攻撃を行なって刺激すれば本隊に増援を要請され、少佐の指揮する民兵団にとって致命的な戦いを強いられることは容易に想像できたはずだ。

 もし少佐が勝ち目の薄い賭けに打って出て、万が一にでも我々が手を引くことを期待したというのなら相応の理由がなければならない。

 

 

「少佐、どうか正直におっしゃってください。あなたが賭けに出た理由は何でしょう?」

 

「………」

 

 

 少佐は黙り込んでいたが、彼の部下達は何も語らずとも雄弁だった。

 彼の民兵団を構成する者は皆徴兵適齢期に達していないか或いは通り過ぎた人間ばかりで、自身の方から攻撃した相手から差し出されたチョコバーにいちもにもなくかぶりついた時点で現状は把握できる。

 

 

「あなたの15名の部下の内、3人は年端のいかない少年兵だ。残りも対戦車火器を持ち上げるのがやっとでしょう。それでもあなたは正規軍レベルの装備を整える我々に攻撃を仕掛けた。…理由を知りたい。」

 

「………2週間前に別の地区が攻撃を受けた。小さな村だがこっちの自警団より装備の整った部隊が駐屯していた。」

 

「彼らは?」

 

「全滅したよ。」

 

「攻撃したのは何者です?」

 

「………」

 

 

 クラエニッツ少佐が押し黙り、その寡黙な瞳がチラチラと私の奥の方を覗き見ている。

 その視線の方向を振り返ると、私の部下がいた。

 スプリングフィールドが少佐の部隊の中で最年少の兵士に温かなココアを差し出していた…ちょっと待って、お湯なんて持ってきてなかったと思うけどそのココアどっから出した?

 

 

 ココアの出どころはともかく。

 私は少佐の意図を察してガーランドに捕虜の監視を命じ、少佐と2人で捕虜達や私の部下達とは離れた場所に向かう。

 文字通り2人きりの状況になったところで、私は自警団長の少佐に疑問を問いかけた。

 

 

「…戦術人形が?」

 

「ああ。それが専らの噂だ。」

 

「少佐、あなたのような士官が噂話で判断を下したのですか?」

 

「違う。残念ながら、村の防衛部隊からの通信記録が残っていた。…彼らを襲ったのは野盗でも鉄血人形でもない。アンタ達の戦術人形だ。」

 

「まさか…そんな、あり得ません。何かの間違いかと。」

 

「私だってそう願っているし、今ではよりそう信じたくなっている。…君の部下の人形達を見るに我々の敵では無さそうだ。だが、君の装甲車にRPGを撃ち込むまではわからんかった。…ウチの隊員の練度が最低限以下で助かったよ。」

 

「………」

 

「…まあ……やってしまったことは仕方あるまい。本当に申し訳ないとおもっているが…それで許されるとも思っていない。私を拘束して、本社まで引っ立てて行くというなら勿論従おう。どのみち自警団の長は解任される。だが、どうか私の部下達だけは」

 

「…少佐、それよりも……通信記録の方を引き渡していただけますか?」

 

「こんな老人の妄言かもしれん証言を信じるのかね?」

 

「考察の価値はあるでしょう。あなたに対する処遇は私が決めることじゃない。」

 

「…色々と…私の立場で言えないが、すまない、そしてありがとう。君で良かった。」

 

「ご安心は早いかと。自警団は引き上げて、今後は無謀な奇襲攻撃は避けてください。この件は本部に報告しなければなりませんから、そこはご了承を。」

 

「ああ…もちろんだとも。」

 

「それと、もう一つお伺いしたいことがあります。」

 

「何だね?」

 

「…こんな事を言うのは失礼ですが、あちらの傭兵部門の車列の残骸は、あなた方に拵えることは不可能でしょう?何かご存知ありませんか?」

 

 

 少佐が目線を黒焦げのT72戦車の方へ向ける。

 そうしてから私の方に向き直ってゆっくりと頷いた。

 

 

「確かに。君の言う通りだ。我々なら戦車を止める前に微塵切りにされる。…確か…2日ほど前の夜にとんでもない爆発音と共にアレが燃えていた。」

 

「どこかに通報されましたか?」

 

「通報!?…いったいどこに?政府はもう何年も前から機能しておらん。何故こんな寄せ集めの自警団がいるのか知らないわけじゃなかろう?」

 

 

 確かに、言われてみればその通り。

 崩壊液と第三次大戦は地球上の多くを無法地帯にしたし、それはスロヴェニアも例外じゃない。

 だからこそグリフィン&クルーガーのような会社は業績を拡大できたのだ。

 

 

「アレも戦術人形の仕業でしょうか?」

 

「いいや。我々のうちの何人かがあの夜にヘリを目撃してる。」

 

「ヘリ?」

 

 

 ヘリだって?

 グリフィン&クルーガー傭兵部門の車列については十分な情報を、ここに向かう前のブリーフィングで知らされている。

 ところがその中には車列を護衛するヘリの存在なんて語られていなかった。

 

 だとすると車列を廃車に変えたのはそのヘリの可能性が高い。

 しかしながら判断は我々の仕事ではないので、このことは自警団による"少々迷惑な事故"や全滅した村の無線の件と合わせて、ただ本部に報告することにした。

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