マザーズ・フロントライン   作:ペニーボイス

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またか!またなのか!?
そうだよ、"また"だよ。


1話 引抜

 

 

 

 第一次世界大戦は少なくとも4つの帝国を滅ぼした。

 ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国…そしてロシア帝国。

 中でもロシア帝国とロマノフ家の終わり方は、世界中の資本家や王家を震撼させた。

 共産主義者達は王朝を斃しただけでは満足せず、その家族をも皆殺しにしたからだ。

 

 当然、世界の資本家や王家はこの共産主義者達を脅威と見做した。

 敵の敵は味方。

 そういうわけで、彼らは共産主義者の敵対勢力に武器兵器を垂れ流し始めたのだった。

 

 ロシア内戦、ウクライナ戦争、ポーランド戦争…共産主義者達はどうにか持ち堪えたが、しかし、いつまた敵が現れるかも分からない。

 国際連盟からはハブられ続け、資本家達は共産主義者を依然脅威と見做していた。

 平和を望むのなら戦争に備えよ。

 だがその備えは、急ピッチに進められなければならなかった。

 

 

 

 労農赤軍はそれまで、雑多な種類の外国製軽機関銃を使っていた。

 これでは弾薬の供給に問題を抱え、さらに部品供給もままならない。

 だから主力小銃と同じ弾薬を使用できる国産軽機関銃が…それも整備性・信頼性・生産性に優れたモノが求められたのだ。

 この無茶振りをどうにかした男こそヴァシリ・デグチャレフであり、そして創り出されたモノこそDP28軽機関銃である。

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 中国との国境地帯で私を助けたのも、先ほど私をムラサキ頭共から救い出したのも、このDP28軽機関銃だった。

 私が山小屋で助けられた時でさえ、設計から優に100年を超えていたハズだ。

 だが、どういうわけか今でもこの軽機関銃はちゃんと動作していた。

 ロシア製兵器というものは概ね信頼性が馬鹿高く作られているが…まさかここまでとは。

 

 

 

 デグチャレフの傑作機関銃は、いまや金髪碧眼長身美巨乳お姉さんと成り果てて、私の右側に立っている。

 正直、今彼女がここにいる必要はないのだが、彼女の方からついて来ると申し出てくれた事はとても有難い事だった。

 何せ、私は今、グリフィン&クルーガー社の一室で、任務失敗の責を問われているのだから。

 

 

「何故最後まで戦わなかったのかね?」

 

「弾薬も武器も無くしたのかね?」

 

「君の装甲車はどこへいった?」

 

「わ、私は傭兵大尉として精一杯戦いました!」

 

 

 どこぞの戦車マン劇画を思い浮かべたそこの方、きっと貴方は我が同志。

 まあ、それを思い浮かべなくとも、今私が陥っている立場の最悪さ加減についての理解は得られる事だろう。

 私を詰問しているのはグリフィン・クルーガー社の傭兵部隊上層部。

 つまり、人形の導入によって生身の人間からなる傭兵部隊が縮小されていく中でも、狡猾さと卑劣さを持って生き残ってきた連中だ。

 クルーガー氏に報告を挙げる際、自身に責任が降りかからないようにする為に、奴らは私に敵前逃亡を自白させるつもりでいるのだろう。

 

 

「ちょっと!この子が敵前逃亡をしたとでも言うのかしら?」

 

「君は黙っていたまえ、戦術人形が出る幕ではない。」

 

「黙っていられるわけないじゃない。こんな茶番を黙殺するわけにはいかないわ。…大丈夫よ、坊や。お姉さんが証人になってあげるわ。」

 

「!…こ、この!戦術人形ごときが生意気な口を…!」

 

「そこまで!茶番は終わりだ!!」

 

 

 DP28が割って入って弁護してくれた直後、モノクルを掛けた女性が部屋に入ってきた。

 

「やっ、奴だ!」

 

 途端に慌てふためく傭兵上層部。

 

 

「これより、ディミートリ・ペトレンコ傭兵大尉の身柄は我々人形部門が預かる事になった。」

 

「な、何を根拠に!党に報告してやるぞ!」

 

 党ってなんだよ。

 

「勝手にしろ。これはクルーガー氏の指示でもある。氏に反抗したいのであれば、好きにすると良い。」

 

「うぅ…」

 

 

 

 

 

 そう言うわけで、私は性格がキツそうなモノクルお姉さんと、長身美巨乳以下略お姉さんと共に、今ではグリフィン&クルーガー 人形部門の施設の廊下を歩いている。

 勿論、私の脳内は混乱に満ち満ちていた。

 人形部門が私に?

 一体なんのために?

 

 人形部門と傭兵部門は勿論良好な関係ではなかった。

 何せ、仕事を奪った側と奪われた側の関係だからだ。

 ただ、私としては生身の人間…今では貴重なリソースでもある…が大勢死ぬような事態より、誰もが死なずに済む戦術人形の導入の方が合理的だと思えた。

 実際、来年には退職を考えていたし、18の時から軍隊にいたので、この仕事にも飽きていた頃だったのだ。

 

 

 廊下を歩いていくと、どうやら戦術人形指揮所へと近づいているようで、通信機器やら何やらが段々と多くなっていく。

 突き当たりに指揮所の入り口らしきモノが見えた時、不意にモノクル女が口を開いた。

 

 

 

「貴官は護衛任務に失敗した。無罪放免になる事はない、ということは承知しているな?」

 

「…はい。私はルートの変更を怠りました。パターンを変えておくべきだった。」

 

「よろしい、正直な人間こそ必要だ。」

 

「必要?…どういう意味でしょう?」

 

「貴官の護衛対象は新しく着任する予定の戦術指揮官だった。彼には小隊を2つばかり率いてもらう予定だったが、彼は死んだ。」

 

「ちょっと待ってください。まさか…」

 

「その"まさか"だ。貴官には人形の指揮をしてもらう。」

 

「申し訳ありませんが、私に人形指揮の経験はありません!教育も何も受けていないんです!」

 

「そんな事は知っている。…ディミートリ・ペトレンコ。2024年のロシア・サンクトペテルブルク生まれ。18歳で陸軍に入隊…その年にロシア・中国国境紛争か、ツイてないな。」

 

「ええ、まったく。」

 

「第三次世界大戦の前年に長距離弾道弾部隊に転属、全面核攻撃が失敗に終わった後にはまた前線へ。砲兵とは名ばかりだな…戦歴を見れば殆どが近接戦闘だ。」

 

「電子装備がダメになって有視界戦闘に限定されるようになったんです。とはいえ、30手前で負傷して、そこからはずっと後方勤務でしたよ。」

 

「考え方を変えてみるべきだろう。貴官には前線での経験も、後方での経験もある。戦術人形の指揮にはそんな人間こそが必要だ。」

 

「………断れば?」

 

「キリル軍曹は辛いだろう。貴官と違って妻子もいる。」

 

「分かりました、引き受けましょう。護衛任務の失敗は私のミスです。彼には何の責任もありません。」

 

「心配するな、軍曹の待遇はこちらで取り計らっておく。」

 

「なら安心です。」

 

「素養は充分あると見ている。貴官は仲間を見捨てず、危険を冒して護衛対象の安否を確認し、はぐれた戦術人形を回収してここに戻ってきた。ルートの失敗はあったとして、そこは副官で補佐できる。……ああ、そうだ。貴官の副官だが…」

 

 

 

 ここまで話した時、DP28が私の行く手を遮った。

 真っ白な肌をした長身以下略お姉さんは、まるで息子の帰郷を心待ちにしていた老婆のような表情を浮かべている。

 そして、そんな私の感想は…彼女自身の言葉によって裏づけられた。

 

 

 

()()()()()()()()()()()わ、坊や!お姉さんの事、頼ってくれてもいいのよ?」

 

 

 馬鹿でかいお胸が眼前に迫り、私に抵抗の暇も与えずに彼女の香りもといフェロモンを強要する。

 

 

「なんだってしてあげるわ…可愛い可愛い息子の為ならね♪」

 

 

 何が起きてるのか、私にもさっぱり分からない。

 たしかにDP28には人生で2度も助けられたが、1度目はこんな…色々と大きなお姉さんではなかったはずだ。

 …そもそもね。

 好意の寄せ方がアブノーマル過ぎると思うの。

 なんなの息子って。

 こんな四十超えたおっさんが言うのもなんだけどさ、まずは彼ピッピとかそんな方向から来ないかい普通は?

 戦術人形なのに、ロボットなのに、母親って何?

 母親の概念理解できてる?

 つーかこういうの別の世界線でも[検閲により削除]

 

 

 きっと、本来なら副官は、今指揮所のドアから出てきた可憐な少女だったのだろう。

 モノクル女も彼女を紹介しようとしたに違いない。

 だがDP28の母親宣言のおかげで、私はまず少女の誤解を解くところから始めねばならなかった。

 

 

 

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