この時代になると、アスピリンはもう『古典的』と言っても良いほど大昔に開発された鎮痛剤にカテゴライズされている。
1899年にあるドイツ人がこの物質を製品化して以来、多くの人々を痛みから解放してきた。
この薬品がどれだけ素晴らしいかを書き記すには、どうしたら良いだろう?
科学的知識なぞ大して持ち合わせていない私としては、具体例を挙げる事でその説明としたい。
つまり…自身が今日から担当する人形達と初対面したこの日、私はアスピリンを口にしたのである。
カリーナとかいう少女の誤解を解くのには30分近くを要したし、DP28は自身のことを『ダーリャ・ペトレンコ28歳』とか言い出したのでますます訳がわからなくなった。
あのね、28ちゃん。
貴女先程私めの事を息子だとか何とか仰ってましたよね?
41のおっさんの母親が28ってどういう事?
どんなタイムパラドックスを引き起こしてくれてんだよ。
護衛艦がミッドウェー沖でタイムスリップしても、アメリカのスパイが1960年代にジョニー●々木の祖父を抹殺しても、たぶんそんなタイムパラドックスは起きない。
新しい副官ダーリャ・ペトレンコ(28歳)の事をどう呼ぶかは脇に置いておいて…正直この時点でアスピリンが欲しいが…今日は私のせいで鉄血人形達に頭をぶち抜かれた可哀想な青年が指揮する予定だった人形達と初対面をしなければならない。
だが、人形達が控えている宿舎へと足を運んだ時、私はついにアスピリンを摂取するに至った。
宿舎の中は、それ程の惨状だったのだ。
「指揮官様!私は歩けます!!」
まず、手始めに、短めの金髪の美少女が、私を見るなり立ち上がって、興奮気味にそう言った。
うん、だから何?
そりゃあ歩けるでしょうね、二本の脚が付いてるんだから。
そんなことより右手をどうにかしましょうか?
ロシア人相手にローマ式敬礼はやめようぜ?
「指揮官臨場、部隊気をつけ」
「気をつけえええええ!!!!」
ついで、ロー●ンメイデンっぽくて仕方のない女の子が私の入室を大袈裟にアナウンスし、先ほどのストレン●ラブもどきがキチガ●のように声を張り上げる。
私は軽く目眩を覚えながらも、この部屋に来る前に副官の、自称ダーリャ・ペトレンコ28歳から受け取ったリストに目を通す。
どうやら、こいつらが私の指揮する人形部隊の内の一つで間違いないようだ。
まず、先程キュー●リック監督が泣いて喜ぶほどのストレンジ●ブっぷりを発揮していた金髪がMP40。
大袈裟なアナウンスをしてくれやがったローゼン●イデンはPPK。
全く持って…何というか…初っ端から強烈な右ストレートを食らったような気がする。
MP40の号令と共に、他の3名も集結する。
STG44、MG42、そしてKar98k。
この5名こそ、私の掌握下に入る2つの小隊の内の1つ…第2小隊『アイアンライヒ☆シュレッダー』のメンバーである。
なんというか、ネオナチ系ロックバンドと地下アイドルグループを足して2で割ったような印象を受けるネーミングだ。
「傾注!指揮官から訓示をいただくわ。」
PPKが何の脈略もなくそんな事を言い出したもんだから、私は当然パニクる。
何なの、訓示って?
そんな話微塵も聞いてな
「ですが、その前に!指揮官代行たるあたくしから訓示を行うわ。」
「指揮官代行訓示ィ!部隊傾注!」
「「「代行殿!代行殿!代行殿!指揮官代行殿!!」」」
「………皆さん、あたくしは戦争が好きよ。」
おい
「皆さん、あたくしは戦争が好きよ」
2度言ったな?
「あたくしは戦争が大好き。殲滅戦が好き、電撃戦が好き、打撃戦が、防衛戦が、包囲戦が…(中略)…草原で、街道で、塹壕で、平原で…(中略)…この世で行われる、ありとあらゆる戦闘行動が大好き。」
あのー、PPKさん?
「戦列を並べた対物ライフルの戦術人形達が轟音と共にムラサキ頭共を吹き飛ばすのが好き…空中高く舞い上がったムラサキ頭がマシンガンの掃射で細切れになった時など心が踊る!」
もしも〜し?
「着剣した戦術人形の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好き…まだ戦闘慣れしていない戦術人形が、恐慌状態でムラサキ頭を何度も刺突している様など、感動すら覚える!」
聞こえてます?
「(中略)…皆さん、あたくしは地獄のような戦争を望んでいるわ。皆さん、あたくしにつき従う第2小隊戦友の皆さん。皆さんは何をお望みになられているのかしら?」
「「「「クリーク!!クリーク!!クリーク!!」」」」
「よろしい、ならばクリークよ。」
「スタァァァアアアップ!!!!」
もう我慢ならなかった。
いや、怒り狂ったとかそんなんじゃない。
このまま放っておけばキャラ崩壊どころじゃなくなるからだ。
PPKが不満そうな顔でこちらを見たが、知ったこっちゃない。
「…指揮官?ここからが盛り上がり」
「盛り上がりもクソもあるか!!丸パクリじゃねえかよ!!…えっとね、貴女方、お出迎えは有難いんだけど、お願いですからもうちょっと普通にお出迎えしてください?」
「指揮官様!私は歩けま」
「普通にしろっつってんだよ!!!」
「そう言われても…これがあたくし達の"普通"よ?」
「普通の概念おかしくないですか?何で皆さま揃いも揃って価値基準が
「指揮官様!私は歩け」
「抑えろっつってんだよ!!!」
「はぁぁぁ…そうですわね。申し訳ないわ、指揮官の指揮下に入るのは随分久しぶりだったから…興奮し過ぎてしまったようね。」
ダーリャ・デグチャレフ28歳から渡された資料によると、第2小隊は『色々と濃すぎて』どの指揮官も担当になるのを嫌がったらしい。
つまり、たらい回しにされていたという事だろう。
そう考えると彼女達が少し不憫に思えてきた。
なんというか、子供がはしゃいでいるのと同じ原理だったのかもしれない。
そう考えると、私も年甲斐もなく、容赦なくツッコミ過ぎたような気がしないでもないので、今度は落ち着いたトーンで話す。
「…ええと、皆さん。私の着任を歓迎してくださったのは、本当に有り難く思います。私としても、このように迎えられたのは非常にうれしい事です。至らない点が数多くあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。」
「礼儀正しい方で、あたくしも嬉しいわ。あたくしはPPK。第2小隊の小隊長及び指揮官代行よ。どうぞよろしく。」
「本当にありがとう…あなた達とは、性格や特性の把握の為に、後ほど個人面談を行いたいと思っています。時間は別示しますので、それまでどうか落ち着いて待機して下さい。」
「「「「了解!」」」」
「指揮官様!私は歩」
「落ち着けっつってんだよ!!!」
とりあえず、色々濃すぎる第2小隊との面々との顔合わせは終わり、それぞれ個人面談を行うまで待機してもらうことにした。
いやぁ、まだ2つのうちの1つが終わったばかりなのに随分とくたびれた気がする。
「お疲れ様、坊や。ファシストの犬共と会話するのは疲れたでしょう?ママの谷間で休んでもいいのよ?」
何故だろう、余計に疲れた気がする。
とにかく、次は第1小隊の面々と顔合わせをしなければならなかった。
私としては、第2小隊の色々と濃いメンツのせいで次郎系ラーメン食べた直後みたくなっているので、今度こそあっさり軽口なピーポーならぬドールズとご対面したい。
だが、やはり現実とは厳しいモノだった。
私は"2杯目の次郎系ラーメンを食べることになったのだった"。