お楽しみいただければ幸いです。
第二次世界大戦期、ドイツ軍歩兵は攻撃前進にせよ防御戦闘にせよ、その主軸を機関銃に置いてきた。
ドイツ軍の歩兵による近接戦闘に於いては、機関銃と機銃手は非常に重要な位置にあり、小銃を装備する分隊員は機関銃を補助する目的を与えられていた。
歩兵の花型といえば機関銃だったのだ。
機関銃を歩兵戦闘の主柱たる装備としたからには、その性能には当然優れたモノが求められた。
そしてドイツ軍を満足させ、第二次世界大戦勃発時に正式採用されていた機関銃こそ、MG34機関銃だった。
本格的なモノとしては世界初といえる"汎用機関銃"の概念を生み出し、ラフェッテと呼ばれた三脚を用いれば重機関銃、二脚であれば軽機関銃として使用可能。
毎分900発という高火力を発揮でき、小銃と同じ7.92mm弾を使用できるという多大な利点こそあったものの、しかし…多くの物がそうである通り…完璧とはいえなかった。
MG34は余りに精密すぎた。
単発/連発を切り替えれたり、小銃に引けを取らない命中精度だったり、正直機関銃には必ずしも必要ではなかったのだ。
精密さは砂塵や泥への弱さを招いてしまうと同時に、生産性をも抑え込んでしまう。
銃1廷あたりの価格も高くつき、尚のこと配備は進まない。
1940年、ムッソリーニというイタリア人が、古代ローマ帝国の再来を夢見て英領エジプトへ侵攻した。
だが、この試みは失敗に終わり、逆にイタリア人は北アフリカの領土を幾ばくか失った。
ドイツ人はイタリア人を助けるためにアフリカに軍隊を送ったが、ここでMG34は"致命的"なまでの砂塵に晒された。
その翌年にはドイツ人達自身が勇んで"スターリンの腐った家屋のドア"を蹴り破ったが、今度はガンオイルすら凍らせる極寒の冬に、MG34は晒されることになったのだ。
確かに優秀な兵器ではあったものの、MG34に戦場の汚らしさに耐えられるだけの剛性があるかどうかについては疑問符が付けられた。
精密であればあるほどお手入れは大変、値段は高いし汚れに弱い。
当然、MG34の後継機関銃にはこれらの欠点を克服する事が求められた。
そしてこの問題を克服した後継機関銃はまさに傑作兵器と呼ぶに相応しい出来栄えとなったのだ。
戦後も使用弾薬を変えて長らく使われているし、その知名度は群を抜くものがある。
それでは、この傑作機関銃のお名前をご紹介しよう。
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ラッパ状のマズルブースターは本来薬室内の圧力を高めるために装着された装置だった。
こうする事で多少装薬の少ない…つまりはいい加減に作った銃弾でも問題なく発射できるようになる。
この措置はMG42に抜群の信頼性を与えるだけではなく、思わぬ副次的効果ももたらした。
連射速度が異様なまでに速まったのだ。
「ファシスト共やっと来たわね!…坊や、大丈夫?生きてる?」
私はダーリャママの"下"でどう答えるべきか迷っている。
そりゃあダーリャママのお気遣いはありがたい。
私が敵の銃弾から身を守れるよう、わざわざ私の上に覆い被さって守ってくれているのだろう。
だけどさぁ、ダーリャママ。
いい加減に状況把握したい。
無線機で増援呼んでからこの方ずっとこの姿勢じゃん?
私の顔面も地面にキスしたままになってんのよ。
ダーリャママの香りもといフェロモンと土の臭いで鼻腔の中おかしくなってんのよ。
もういいから。
もう大丈夫だから。
どいて?
いい加減にどいて?
ダーリャママがようやく身を退けたので、私は概ね2時間越しに土の臭いから解放される。
顔についた土を払いながらC96拳銃の状態を確認していると、私とダーリャママのいる砲弾孔の中にシュタールヘルムを被ったMP40が飛び込んできた。
「指揮官様!第二小隊到着しました!」
「ご苦労様、PPKの奴は今どこに?」
「指揮官代行殿ならMG42と一緒です。彼女、弾薬消費量が半端なくて…Karも弾薬運搬を手伝ってます!」
MG42の発射速度は毎分1200発にも登る。
確か使用弾薬の7.92×57弾が、1発あたり二十数グラムで、250発リンクを持ち運ぶとすると…リンク抜きでも5kgもの重量になる。
先述した発射速度では、250発など簡単になくなる事だろう。
仮に射手が装填と射撃を1人でこなせたとしても弾薬手は必須だし、派手な発砲炎のせいで目標を見失いがちな機関銃には観測手をつけるのが理想的だ。
よってMP40の報告にはなんの疑問も抱かなかったし、単節かつ要領を捉えた報告には感心さえする。
戦闘時になるとマトモなもんだんだな。
そんな事を考えていると、もう一体人形が駆け込んできた。
「STG44到着致しましたわ!」
「ご苦労!救援に来てくれて感謝する!…機関銃組の方はどんな様子だ!?」
「MG42が射界の敵を掃射しましたが、一部の敵は塹壕の中に逃げ込みましたわ!増援を呼ばれると厄介です!」
「塹壕!?…いったいどこに」
「この砲弾孔から30メートル向こう側に、塹壕と思われる物があります!恐らく敵が逃げ込んだ箇所に続いているかと!」
「………」
仕方がない。
こうなっては、増援を呼ばれる前に掃射してしまうしかないだろう。
私は盛大にため息を吐いて、MP40から彼女の武器を奪い取ると、代わりにC96を彼女に渡す。
「指揮官様!?」
「…これより敵の塹壕を掃射する。私が先頭、MPとSTG、それにPPSHとPPSは私に続け。ナガンとモシン・ナガン、それからダーリャママはここで援護を。」
「なっ…無茶よ坊や!危険すぎるわ!母親として」
「なら援護を頼むよ、ダーリャママ。…それじゃあ、行くぞ!」
私は砲弾孔の淵まで這っていき、先ほどSTGが示した敵塹壕位置が確認できるところまで進む。
少しだけ身を乗り出して前方を確認すると、そこには確かに塹壕と思わしき陣地の一部が見えた。
腰に装備してきたRGD手榴弾を2つばかし手に取って、同時にピンを抜く。
そしてその後、迷う事なく塹壕の方へと投げ込んだ。
ドドムッ!
2発の手榴弾が炸裂すると同時に、私はサブマシンガンを腰だめに撃ちまくりながら塹壕へと飛び込んでいく。
人形達も私の後に続いて塹壕に飛び込んできた。
塹壕には手榴弾で粉砕された鉄血人形2体のほかに、まだ動いている鉄血人形が一体いて、私はそいつに向かってありったけの9mm弾を叩き込む。
鉄血人形はもんどりうって倒れこんだ。
「ヒェー、危ない危ない。MP!STG!PPSH、PPS!異常はないか!?」
「全員到着しました、指揮官様!異常もありません!ですが、こんな無茶な…」
「慣れたもんだ、こんなもん。全員準備はいいか?…行くぞ!」
MP40のマグポーチに無許可に手を突っ込んで新しい弾倉を手に取りそれを込めると、次に自身の腰にあるRGD手榴弾に再び手を伸ばす。
「指揮官様!」
と、そこでMP40がM24柄付手榴弾を手渡してくれる。
こりゃありがたい。
塹壕で使うなら断然M24の方が良い。
手榴弾は大別して2つのタイプに分けられる。
攻撃型手榴弾と、破片手榴弾だ。
前者は爆風と爆圧によって、後者は飛び散る破片によって敵歩兵を殺傷するように設計されている。
つまるところ、M24のような手榴弾は狭所で威力を発揮するし、RGDは開けた場所で威力を発揮するのだ。
私はM24の底部にあるキャップを開け、MP40と顔を合わせてから着火紐を一気に引く。
次いで2人揃って次の区画に手榴弾を投げ込むと、しゃがんでブジョノフカ帽を片手で押さえた。
2発の攻撃型手榴弾はほぼ同時に炸裂、私はまたもMP40を撃ちまくりながら突入する。
有難いことに今度はその区画にいた鉄血人形が全てくたばっていて、私は弾薬を無駄にしただけで済んだ。
「ふぅ、くそ。とりあえず一息吐こう。」
「指揮官様、まだ敵が来るかもしれません」
「そりゃそうだが私は人間だからね、それも歳を取った人間だ。少しくらい休んだってバチは当たらんさ。」
またもMP40のマグポーチに勝手に手を突っ込んだとき、目の前にある鉄血人形の残骸が目に入った。
首をおおよそ30度くらいに傾けて、その首筋からよく分からないオイルをピューッと勢いよく流している。
人間の死体を見るよりかはマシだが、あまり良い気分にはならなかった。
その時、ドシンッドシンッという重苦しい音と馬鹿でかい砲撃音が鼓膜を震わせる。
『坊や!敵の多脚戦車よ!今すぐそこから後退をキャッ!?』
奪取したばかりの塹壕から、恐る恐る頭だけ覗かせる。
ス●ーウォーズのAT-S●みたいな二脚戦車が我々の300m前方にいて、恐らくは75mmほどの軽火砲をダーリャママとMG42のいる方にぶっ放していた。
「ダーリャ!?ダーリャママ!?無事か!?」
『ゲホッ、ゲホゲホッ!…私は大丈夫よ!そんな事より、早く後退しなさい!注意はこちらで引きつけるから!』
「無理だ、ダーリャママ!もうこんなに接近されてちゃ背中を蜂の巣にされるのがオチだろう!」
『ならどうするの、坊や!?』
「………随伴の鉄血人形は…2体か。よし、ダーリャママ、援護してくれ。」
『え、ちょっと、坊や!?』
無線でダーリャママの無事を確認すると、私はMP40を持ち主に返し、そのままC96を受け取って一度ホルスターに収める。
そのあと急いでブジョノフカ帽を脱いで、その中に腰に残っていた手榴弾を全部ぶち込んだ。
それでもまだ不安だったから、目の前に倒れている鉄血人形が腰に巻きつけていた手榴弾っぽいなにかと、MP40が持っていた残りのM24、それから焼夷手榴弾をぶち込んでいく。
最後にブジョノフカ帽をキツく縛ってM24を頭から突っ込んだ。
巨大な収束手榴弾が出来上がると、私はその爆発物の外側を覆うブジョノフカに、目の前の残骸の首筋から飛び出ている何かしらのオイルを塗す。
ブジョノフカはベタベタになり、十分な粘度を確保した。
「し、指揮官様!?まさかそれで…」
「そのまさかだ。大丈夫、中国の戦車だってコレで止まったんだ…効果はあるさ。それじゃ、私の背中に当てるなよ?」
私は塹壕から飛び出して、目の前300mにいる二脚戦車に向かって走り続ける。
あと100mというところで2体の鉄血人形がこちらにやっと気付いたが、私は躊躇う事なく拳銃で2発ずつうち込んだ。
二脚戦車とはいえ戦車は戦車で、随伴歩兵のいない戦車ならこちらにも勝ち目がある。
脚がその場から動かない事を祈りつつも、私は二脚戦車の脚の片方に近づいて、塊から飛び出ているM24手榴弾の着火紐を引っ張った。
そしてそのまま収束手榴弾を脚にぶん投げる。
幸いなことにあのオイルの粘度は十分だったようで、手榴弾の塊は脚の側面にベタリとくっついた。
私は未だダーリャママの方を向いている戦車の砲塔に残りの拳銃弾を撃ち込む。
「どこ見てやがる、この間抜け!」
戦車は思った通りこちらの挑発に乗って、75mm軽砲の照準を私に向けるために砲塔の旋回を始める。
一方の私はというと、拳銃を投げ捨てて元の塹壕まで全力で駆けていた。
もうキツい。
たかが300mだけどもうキツい。
私がどうにか塹壕に飛び込むのと、収束手榴弾が炸裂するのは、ほぼ同時だった。
可能な限りの爆発物を詰め込んだ収束手榴弾は見事に二脚戦車の片方の脚を叩き折り、軽砲をこちらに向けていたため、戦車全体がこちらに向けて倒れ込む。
軽砲は装填済みだったのか、恐らくは安全装置まで解除されていたようだった。
二脚戦車はこちらに倒れ込んだ結果、その衝撃により軽砲を誤作動させてしまう。
その結果砲塔は内部から弾け飛び、戦車は文字通り完全破壊された。
「BRAVOOOO!!」
塹壕に飛び込んだ私に、部下の人形達から歓声が浴びせられる。
私としては歓声よりもシャワーを浴びたい気分だった。
息を整えながら再び塹壕から顔を出して前方を確認する。
そしてそのあと、本部に向けて通信を行なった。
「こちらペトレンコ。どうやら敵を撃退したようです。」