キョン「戦車道?」   作:Seika283

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キョン「試合、やるんだろ?」

 忌々しいことにこの学園は、午前だけとはいえ土曜授業があるという。

 この日は選択科目の授業だけということで、俺は他の履修生が既に始めている書道の教室で転校生みたいな扱いに晒された。自分でも選択したのが書道なのか戦車道なのか分からなくなっていたところだが、饒舌しがたいほど不本意だ。相変わらず眠気はあるが、椅子に拘束されて呪文じみた話を延々と聞かされるより眠らなくて済んでいた。

 充てられた片隅の窓際席で半紙に墨を塗りたくる作業を進めていたが、落ち着いた午前の静寂を打ち破る存在が襲来した。

 世紀初頭のテロをも彷彿させるくらいの轟音だった。教室中がどよめく中窓の外では航空会社が持つには小ぶりなジェット機が肉薄していて、思わず仰け反ったときには後部の口が開いてなにかを投下し、窓の上からフェードアウトしていった。直後に床は揺れた。

 日曜になって、俺はその正体を知った。

 なんなんだこれは。

「カヴェナンター巡航戦車だよ」

 とナカジマさんの回答。言うまでもなく俺は例によって作業服を纏い、黄土色をした新たな戦車を前にしていた。つまるところ、自動車部のサビ残である。

 へえ、そうなんですか。そんなことはいい。

「こいつもこの間の捜索で見つかったクチですか」

「違うよ。履修生に三年の鶴屋って子がいるんだけど、その子が持ってこさせたものなんだ。子供のとき自分で乗ってたらしいよ」

 冗談じゃなかったのかよ。しかもこんなもんが個人のオモチャだったという話が信じられないくらいに状態も良いのが素人目で分かるが、初めに見た戦車があのⅣ号だし新品に見えるぜ。考えてみれば、あの人は変な語尾をつけたりジョークをかましたりはしても、嘘を吐いてるのは聞いたことがなかった気がする。

 で、これをどうするんです?

「うん。この子は君の練習相手になってもらうんだ。君はこの子の点検をしてみて、悪いところがないか調べてね。色々考える前にまずやってみよう、ってことでスズキー!」

 結局俺もやるんじゃないか、戦車弄り。

 スズキさんも三年だったか。何気に女子として背が高く、肌の色はホシノさんより濃い。

「じゃあとりあえず、打音やってみましょうか」

 ハンマーを渡され、言われたところをくまなく叩く俺。走り装置から主砲から装甲までありとあらゆるところを叩いて変な音がしないか聞く、という一般知識レベルしかない俺にはどこを叩いたところで、変な音とやらが分からない。

「あ。今の音。もう一度聞いてみて。……どう? 他と違くない?」

 どうやらこんな新品でも砲塔の装甲になにかあるらしい。指差す部分とすぐ隣の装甲板を叩き比べてみると、確かに音が注意しないと分からない程度に揺れているように聞こえなくもないが、これがなんだっていうんです?

「鋼板がちゃんと固定されてないってこと。これは締め直すだけだね」

 なるほどね、と俺はスペアと工具を渡されおっかなびっくり手を動かす。こなクソ、こんなもの一本締めるだけでも意外に力いるなこれ。

 とカヴェナンターは他の部分でも、説明されながらだが自分で修復できる程度の劣化しかなかった。ふうと溜息を付き改めて車体を眺めるが、

「終わりだね。じゃあ、こっちのも手伝ってくれる?」

 と笑顔を浮かべるスズキさんの後ろには、比べるのもおこがましいほど朽ち果て、部員一人ずつが付いている戦車三両と放置同然の一両の姿があった。これ、明日は代休だよな?

 

 ならなかった。そんなもんはなかった。月曜の朝にみほの携帯に会長からメールが入っていると聞いて布団をかぶり直したが、「今日は朝から戦車乗るからお兄さんも呼んどいてね~」という内容だと言われて苛立ち気味に俺は布団を剥がされたのだった。労働基準監督署は学園活動の告発も受け付けてないだろうか。

「もーっ。遅刻したらキョン君のせいだからね?」

「俺が全部悪いってのか」

「だってキョン君が起きたの私が起こしてから五分あとだったもん!」

「お前の準備ができたのだって俺の着替えた五分あとだったろ」

「それもキョン君がトイレ占領したせいだよう」

「洗面所使うと思ったからトイレ使ったんだよ」

 通学路、俺はかけっこで妹と不毛の争いを繰り広げていた。

 二人揃って目覚ましの悲鳴を完全に無視したのは事実だが、一応みほが数十秒前でも俺より早く目覚めたのも事実だから俺が不利なのは否定できない。

「はぁ、はぁ――、あれ?」

「うわっ、なんだよもう」

 先導するみほが信号のないところで足を止めるので、俺もブレーキを利かせ追突を免れた。俺たちの行く道を、三日徹夜した上に酒のチャンポンもかっ食らって朦朧としたくらいの足取りの女子の姿。

 千鳥足の予測不能な踏み地に目を取られている間、みほはそいつに声をかけていた。

「大丈夫ですか!」

「……辛い」

「え?」

「生きているのが、辛い……。これが夢の中なら、いいのに……」

 電話で聞いた俺の姉(仮)が二日酔いを起こしたらこんな感じだろうか、ってくらいに死んだ声をしていた。未成年飲酒で前科を持つような姉とは別に思っちゃいないが今そんなことはいい。

「あっあの! しっかりしてください」

「だが、行く。行かねば……寝坊……寝坊……」

 寝坊って、俺たちと同じか。切れそうだった息が回復できるので俺は暫し観察していたが、今にも崩れ落ちそうなそいつの肩をみほが持ったのでさすがに横槍を入れた。

 おい。助けるのかそいつ。ホントに遅刻するぞ。

「ええ? でも、あ! キョン君この人負ぶってあげて行こ?」

 みほは若干わたわたしてから俺の静止に応じるどころか助長することを言い出した。そんなにフラフラじゃそいつの遅刻はもう確定してる。逆に俺たちはここから駆け込み登校すりゃギリギリ間に合うだろうが、そいつを助けたら三人仲良く遅刻だぞ。俺は文系であって体育系じゃないし、まさか負ぶって走れなどとは言わないよな?

 とは言ったものの、我が妹の懇願は折れず結局負ぶっていくことにした。

「冷泉さん! これで連続二百四十五日の遅刻よ」

 人もまばらになっている校門前で遅刻確定の俺たちを待っていたのはおかっぱの女子生徒。目も吊り上げてとっつきにくそうな奴だ。

 呼応するように俺の背中に乗っている奴がぶつぶつ言い始めたから、冷泉ってのはこいつのことだろう。

「朝は何故来るのだろう」

「朝は必ず来るものなの。成績がいいからってこんなに遅刻ばかりして、留年しても知らないよ」

 食えない優等生以外の人間なら誰しも考えたことがあるだろう哲学を言っている。俺もどっちかと言われりゃ朝は弱い部類と自覚しているので非常によく分かる。成績がいいという部分が謎だが。

 そしておかっぱの方は全く絵に書いたような優等生、というか腕に「風紀」と書いた腕章が見えるな。これほどイメージと言動が一致している奴も逆にいないぞ。

「えっと、西住さん? それとお兄さんも。もし途中で冷泉さんを見かけても、今度からは先に登校するように」

「あ、はい」とみほ。

 言えよ名前。俺のこと知ってるなら。俺は異世界人属性を持っているだけの凡キャラで、空気系じゃないはずだぞ。

「……そど子」

「なにか言った」

「別に」

 このやり取りの末に検問を通過できた俺たちは、どうせ遅刻だからとそのまま校舎へ向かう。まずこいつは俺のクラスではないが、俺はどこまでこのダウナーのタクシーやればいいんだよ。

「悪かった」

 それはどっちに言ってんだ?

「両方だ。いつか借りは返す」

 意外に義理堅いらしい。

 そんなこんなで送り届けたあと、俺は今日何をするかも知らないまま倉庫で作業服に着替えたのだが、グラウンドへ出た俺の目にちょっと意外な光景が飛び込んできた。女子連中が暇そうに倉庫前で駄弁っていることではない。

「ひゃああああっ!」

「デカすぎでしょこれいったい今までなに食べてきたらこんなんなんのよ、Dは絶対あるわよね絶対これ……」

「あははははははっ!」

 ストレートヘアーハルヒが後ろから朝比奈さんの禁断の果実を揉みまくり、隣で笑い転げる鶴屋さんの姿があった。なにしてんだお前朝っぱらから。

「あんたこないだの! ってか何見てんの? ヘンタイ?」

「見ないでくださいー! 助けてええええ!」

 お前が言うな、お前が。見てるってかお前がその場で朝比奈さんごと回ったんだろうが。朝比奈さんも注文はどっちかにしてください、その両立は無理です。

 声を掛けた俺に鶴屋さんも気付くと笑いどころの分からない笑いも止んだかと思うと、

「やあ作業着くんおはよっ! ひょっとしてキミも戦車に乗るのかいっ? チャレンジャーだねえ。あ! そういや名前言ってなかったね。あたしのことは鶴屋さんとでも呼んでればいいにょろ!」

 こっちも朝からハルヒとタメを張れるほどの弾丸トークだし。

「俺は、」

「そいつはキョンね! あたしの下僕その一!」

「キョン君だね! 了解っ!」

 言わせろよ名前。この人はハルヒじゃなくて俺に聞いてきてたのに。あといつお前の下僕になった。こいつにペケをつけていたら日が暮れちまうので無視して鶴屋さんに向き直る。

「俺は自動車部の人間で、理由もなく会長から招集を食らっただけです。それよりなんですかこの状況?」

「んー土曜に全員で戦車の洗車したんだけどさっ、」

 ここ笑うとこ?

「あたしたちがあたしの持ってきたオモチャに乗ることになっちゃってね? で、一緒に洗ってたらこうなったにょろ!」

 全く分からん。というかあたしたち、って……。

「あたしとみくるとハルにゃんに、そっちにいる有希っ子!」

 よく見ると、俺たちを遠巻きで眺めている長門の姿もあった。最近話す機会もなかったな、と俺はそっちへ歩いていった。液体酸素みたいな目が、俺を見上げていた。

「よう」

「…………」

「元気か?」

「元気」

「お前も試合、やるんだろ?」

「そう」

 これはなにかの偶然か?

「分からない」

 戦車、乗ったことあんのか?

「ない」

「そうか、まあ怪我しないようにな」

 勝手にべらべら喋っているが一番驚いているのは俺だ。俺は今異質な立場でここにいるのだという現実を唯一突き付けてくれる存在である長門を前にして、よくここまで余裕でいられるもんだ。バックに累積経験値があるったってこれはノーテンキすぎないか。

「……自動車部?」

「ん? あぁそうだけど。暇だったら遊びに来いよ」

「行く」

 俺は十中八九これから忙しくなるんだろうからな、長門と話ができる貴重な機会だ。贅沢言うなら宇宙人パワー抜きでも人間離れした知能を持つ長門には入部してほしいくらいだが、長門は長門の好きにやればいいさ。

 てかここにいる人たち誰も止めそうにないぞ、ならばとハルヒ側のよしみで俺が二人の間に入り、朝比奈さんの公開セクハラ刑を中断させたところで、次の刺客が現れた。

 それは、前に見たジェット機より明らかにゴツい奴だった。やはり口を開けて、今度はグラウンドでなく隣の駐車場になにかを落としていったのだが、それが派手に敷地内を滑ったかと思うと下手すりゃ数千万は下らないかもしれないフェラーリを蹴っ飛ばした。

「学園長の車が!」

 副会長の声がしたと振り返る間もなく、動くそれは何故かわざわざ後退して腹を見せるスポーツカーを踏み潰している。それから前進し俺たちに姿を見せたのはここにあるのとは明らかに違う真新しい戦車で、

「こんにちは!」

 中から顔を出したのは、どこからどう見ても若い女性だった。どうすんださっきのアレ。

 

 よく分からんがその人は自衛官で、ざっくり言うと戦車道の教官らしい。その人の前に女子が整列して挨拶と今日の概要の説明。説明とも言えない大雑把すぎる説明だが、今日は終日、教官指導の練習試合とのこと。それを俺含めた自動車部は集団の端っこで聞いていた。

「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね」

 と教官が各チーム――土曜に全部決めたようだ――に地図を配布する中、ナカジマさんは、

「じゃ、私たちも行こうか」

 なに? どこへ?

「あそこ」

 指差した先には、倉庫のそばに立つ火の見やぐらみたいなものがある。俺は自動車部総員で向かい、やぐらの鉄階段を上りながらナカジマさんへ今日の俺たちの趣旨の説明を煽った。

「まずは観戦だよ」

 なんのために?

「会長に提案しといたんだ。戦車がどういう風に戦ってどこが壊されるのか、知っておいたらキミも今後の修理のためになると思ってさ」

 はぁ。しかしあのチビっ子はどうもナカジマさんや他の部員にはちゃんと説明付きの連絡を心掛けているらしい。この差はなんなんだ? 俺はいつどこに来いとしか言われないのに。

「私は会長とはクラスが一緒だからね。そこはしょうがないよ」

 意外と単純な理由だった。ところで俺のことを考えてもらってるところすみませんが、その提案に授業をサボる下心は含んだりしてませんか?

「あ、バレた? でも観戦はちゃんと見るからね? はいこれ、双眼鏡。あと行動不能になった戦車の回収と整備もやるからさ」

 それから俺はとても展望台とは言えない、狭く風吹き付けるやぐらから双眼鏡に映る戦況に舌を巻いていた。そもそも戦車道は何年も前に廃止になっている、という広報の発言とは裏腹に、全ての戦車が広大な未開拓地を縦横無尽に駆けているのだ。遅れてやぐらに上がってきた蝶野さんがマイクに試合開始を吹き込んでからしばらくして始まった砲撃戦で、頭の僅かに残っていたプラモやラジコンだという意識はとうとう消し飛んだ。弾が当たった戦車は大概炎上するか煙を出すし、俺たちが文化祭で作った映画もどきがホームビデオ以下に思えちまうくらい映画やってるじゃないか。

 あいつらみんな本当に初めてなのかよ?

「私もびっくりだわ。初めての割には確かに、そうとしか思えない走りね」と蝶野さん。乗ったことないと主張する生徒にいきなり試合を命じた人間の言葉ではないと思うが。

「君、試合を見るのも初めて? 整備をするなら戦闘している戦車は特に見ておくべきよ」

「見てます」

 言われんでもそうするさ。初めてなのは間違いないが、俺が正真正銘ただの観客だったとしても単に走ってるやつとドンパチやってるやつがあったら後者を見る。なるほど、戦車は互いに正面装甲に弾をもらうことが多いのか。考えてみれば当たり前のことなのだが。あとは履帯かね。

 やがて戦局は一つの転換点を迎える。橋の上で立ち往生した妹の乗るⅣ号は一見絶体絶命だったと思えばいつの間にか周囲の戦車はチープな白旗を上げていたことから、みほ以外に経験者がいないのは本当らしい。

 さて鶴屋さんが持ってきたらしいカヴェ……なんとかという戦車はというと、他の戦車の走行の後に見るせいかマッスルカーに見える速度を出しているが、泥酔しているとしか思えない蛇行だ。多分目指しているのはⅣ号のいる橋なんだろうけど。

「ちょっとあれ川に落ちませんか」

「落ちるね。あのまま行くと」とナカジマさん。

「ヤバくないですか」

「特殊カーボンが護ってくれるから大丈夫よ」と蝶野さんも補足。読んでいた論文の中にも何度か出てきたような気がするが、内容は不思議なバリアとしか分からない。どっちかが慌てていたら俺は取り乱してやぐらの柵をも越えちまってたかもしれん。

 突如ダン! と砲撃が響き、砲弾はまるで砲塔がどっちを向いているか分からせない攪乱だったと思わせる精度で命中したが、正面から迎え撃ったⅣ号からのカウンターが側面にクリティカルヒットしカヴェなんとかは失速、ハンドルも利かなくなったように大きく百八十度転回して停止した。

「Dチーム・M3、Eチーム・38t、Cチーム・Ⅲ号突撃砲、Bチーム・八九式、Fチーム・カヴェナンター、いずれも行動不能。よって、AチームⅣ号の勝利!」

「みんな回収行くよー」

 

 この世界から言わせると一応普通の女子が戦車を操れるのだから、俺以外の部員が重機で損壊戦車を重連トラックに乗せ倉庫へ持ち帰っていくことなど驚きでもなんでもない。

 無論俺はその部類ではないので倉庫で待ちぼうけを始めてからしばらくあと、女子連中が戻ってきた。生徒によっては煤が付いていたりするのは分かるが、ハルヒのチームだけは猛暑の中こたつで我慢大会をしていたみたいに汗だくだったのが異様だ。

「ったくなんなのあの戦車は!」

 自分が負けたことに率直に悔しがると思ったが、意外にもハルヒはここにない鉄塊に当たり散らしていたらしい。

「なにが気に入らなかったんだ」

「気に入らないなんてもんじゃないっての! エンジンかけてからちょっとするとどんどん熱がこもってくるし、みくるちゃんは力加減考えないでアクセル踏むからどんどん熱くなってくし、もうサウナよサウナ!」

 なんと、朝比奈さんはスピード狂だったのか。ドリフのカトちゃんなんかもそうだったし、童顔の人間にはそういう素質でもあるんだろうか。

 ところがハルヒのあとに続いてきた足音へ向くと、ナメクジと化した朝比奈さんを背負う鶴屋さんの姿。こっちも両方汗だくだ。

「あっはっはー……。やっぱりハルにゃんにはお気に召さなかったみたいだねー」

「サウナがどうとか言ってましたが」

「そうだよ? あれはそういう欠陥車だからねっ。あんなの欲しがるのスクラップ業者くらいなもんだよっ。子供のあたしに与えて、あたしが破門になってからもずーっと放置されてて当然ってもんさっ」

 そういうことか。鶴屋邸は草刈りだけで一日を潰せるほどの庭園を抱えていたからな。まず間違いなく溶かして業者に売れる鉄塊がずっと鶴屋邸に残っていた理由の一つだろう。鶴屋家が金に興味がないかどうかまでは知らんが。

「で、そちらのみくるさんとやらの方は?」

「みくるは暑すぎてダウンしたのと、操縦にテンパりまくって腰抜かしちゃった!」

「あのぅ、朝比奈みくるですぅ。汗臭いので、なるべく寄らないでくださいぃ……」

 未来に自動車はないのだろうか。そもそも俺はこの人の実年齢も知らないし未来人かどうかも分からないのだが。

「これからずっとアレに乗るなんてそのうち熱中症で死ぬわよ。鶴屋さーん他に持ってたりしてないのぉ……?」

 振り向くとハルヒは鉄門に背中を預けて座り込んでいた。朝比奈さんの出す熱湯のお茶を一息で飲む割には弱り切っているな。鶴屋さんが持ってきてくれたにも関わらず図々しいのは相変わらずだが。

「ごめんねえ? まともな戦車だったとしても絶対門下生の子に持ってかれてたと思うにょろ~」

「はあーもー! ズビャーって速くてドガーンって強い戦車落ちてないのかしらねぇ……」

 少なくともスピードはすごかっただろ。ズビャーは分からんが。

「持ってきてくれただけでも鶴屋さんに感謝すべきだろ。どれだけ暑いのか知らんが、氷を持ち込むとか薄着になるとかの対策はできないのか?」

「……水着が必須ね……」

「ふぇ……?」

「かもねっ」

「…………」

 最後に現れた長門も表情は変わらないが、顔面だけ雨に晒されたようにびっしょりだった。

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