とんでもなく寝過ごした   作:横電池

1 / 67
1.500年後に起床予定だった

 

 

 

 

 

 

 世界樹計画の実行が決まった。

 

 

 もう、どうしようもないらしい。これ以上は時間が残されていない。だから問題があろうと実行に移すのだろう。

 

 世界樹計画にはいくつか問題点がある。

 

 ひとつは世界樹の成長、及び浸食速度の異常さ。

 周囲の生物は植物へと姿を変えさせられ、建物は成長する樹木に押しつぶされ……命も歴史も呑み込まれる。

 力の発露の際、遠くへ逃げることは不可能だ。一つの世界樹が力を発露させると、他の世界樹もシンクロして力を発現。それによりすべての大地が埋められてしまう。この研究所も例外じゃないだろう。世界樹予定地から離れた位置に建てられてはいるけども。

 

 もうひとつは世界樹の核。フォレストセルの適応能力。

 世界を覆う汚染物質を吸収、浄化し成長する世界樹は、やがて効率的な浄化を可能とするために中核部分を進化させるそうだ。汚染物質が残っているうちは問題ないが、世界の浄化が終わった後、汚染を求めて周囲に災害を振りまくこととなる。

 世界中の世界樹発露からおおよそ千年後。フォレストセルが動きだすと予想されている。

 

 仮に人が世界樹の発露から生き延びれたとしても、千年後には滅びてしまう。

 

 フォレストセルの問題解決のためにと衛星軌道上からのレーザー攻撃が発案された。だが開発は間にあっていない。二つが限界だとか。

 残り五つの世界樹に眠るセルへの対抗手段はないままだ。

 

 

「フォレストセルへの対抗手段の発案及びそれの実現化のために、時間が必要だ」

 

 

 室長がおさらいするように言った。

 

 

「その時間を得るために、我々は目先の問題……世界樹の発露から逃れなければならない。そして文明が崩壊した後の世界で生き延び、研究を行わなくてはならない。フォレストセルが大人しい時間、つまりは毒素が未だに残り、文明のない世界で」

 

 

 そこまで言って室長は注射器を人数分、机に並べた。筒の中には白く光る液体が満ちている。

 

 

「率直に言おう。これは実験データもろくに取れていない、怪しい薬と評されてもおかしくないものだ。火星のテラフォーミング計画の副産物。恒常性を異常なまでに促進させる効果は確認されているが……長期的にどのような影響を与えるかはわからない。だが、血液に溶け込んだこの薬によって、毒から体を守ることはできるだろう。研究ばかりの我々の体も逞しくなるかもな」

 

 

 彼は場を和ませるためにか、力こぶをつくる仕草をしながら渇いた笑いを漏らした。

 数人似たような笑いを作るだけに終わった。

 

 

「そして全員でコールドスリープカプセルに入る。幸いカプセルも人数分確保できているからな。そしてセルの影響もなく、毒の影響も薄れているであろう時代まで……500年後まで我々は眠りにつこう。500年後、再び研究に没頭しよう。セルという憂いを残さないように、今の時代から逃げる罪を償うために。……私はこの薬品を己に打つ。君たちは自身で選んでくれ」

 

 

 室長は迷いなく腕に針を刺し、中の薬品を注入していく。全て終わった後、コールドスリープカプセルが保管されている部屋へと去って行った。

 

 残された僕らは動けずにいた。

 この日が来ることはわかっていたけど、いざ来れば戸惑いがやはり生まれてしまうのだ。

 

「ミゼル」

 

 肩を叩かれ名前を呼ばれた。

 聞きなれた声は、同じ研究員でなおかつ友人でもある声だ。

 

「イミス?」

「ほら」

 

 受け取るようにと前に出された手には、件の注射器。

 打てということだろうか。でももう少し考えてもいいのでは、と言おうとした。だけど彼女はそんな言葉を待たずに己に針を刺した。迷いがなさすぎる。

 

「も、もう少し考えてからでもよかったんじゃ……」

「私たちはセルの対策を立てるという使命がある。だけど他の人から見れば、ご高説並べて命惜しさに逃げた臆病者集団よ。悩んでる僅かな時間さえも臆病者というレッテルを強めるだけ」

「でもどんな影響を及ぼすかわからない薬をあっさり打つなんて」

「セルの対策のために、500年後に私たちは多くの実験をするわ。非人道的なものだってね。咎める人がいるとは思えないし……余裕もないだろうから。その際には自分の身さえも実験の糧にするつもりで挑む。その前払いの覚悟と思えば簡単じゃない?」

 

 昔から彼女は思いきりが強い。

 そして僕は、そんな彼女に昔から助けられてきた。

 

 だから僕は注射器を手に取って、自分の腕に刺した。体内に薬品が入っていくが、痛いというよりどこか心地よい暖かさがある。痛みに安心感を覚えるような性癖なんてなかったはずだけど。

 

「それじゃあ次はカプセルに入りましょ」

「ぐいぐい行くなあ……」

「カプセルにも不安を感じてるわけ?」

「そりゃあ……まあ」

 

 コールドスリープカプセル。これもろくな実験データは取れていない。ましてやこの研究所にあるカプセルは粗悪品だ。セルをレーザーで消滅させるグングニル計画のために作られたカプセルの試作品。そのためいくつも問題が残っている。

 まず長期睡眠の弊害。可能性としては記憶障害を引き起こすらしい。それが重度のものか、一時的なものかはわかっていない。

 また一つは、長期運用の可否。再び目覚めることが可能なのか、そして予定の時代に目覚めることが可能なのか不明だ。最悪冷たい棺桶と化す。

 

 先の薬品といい、カプセルといい、ギャンブルに相次ぐギャンブルだ。もっとも生き延びたその後も、そういった賭けが続くのだろうけど。

 

「内蔵電源が本当に何十年、何百年と持つのか……いや、入る以外選択肢はないか」

「そうそう」

 

 カプセルが保管されている部屋へと僕たちはみんなより一足先に入る。すでに室長はカプセル内に入って眠りについていた。

 

「どれも500年後に設定されてるわ。どれにする?」

「どれも一緒じゃん……イミスは?」

「私はこれにするわ」

 

 ぽんぽんと叩いたカプセルには"D"と書かれている。室長のは"K"だ

 

 確か室長は、よく研究に追い込まれたら白目をむきながら「王様になりたい……」と呟いていた。"King"からKのカプセルを選んだろうか。そんなことを思うと少し笑ってしまった。イミスも同じような理由な気がしてくる。

 

「Dを選んだ理由は?」

「Dragon!」

「あ、そうですか」

 

 やっぱりだ。

 彼女は空想上の生き物に強く惹かれていた。遺伝子学を専攻していた理由もそんな生き物を造りだしたいからだと熱く語っていた。

 

「500年後の、さらに言えば文明が無くなった後の世界よ! もしかしたら環境適応のために新たな進化を遂げた動物、ドラゴンとかグリフォンのような空想上の動物に似た生き物が生まれているかもしれない! ああ、楽しみで───」

「僕はなんでもいいかなー……これにしよっと」

「聞いてよ!」

「聞いてる聞いてる」

 

 選んだカプセルには"J"と書かれている。特に選んだ理由はない。ただ近かっただけだ。

 

「全然聞いてる感じがしない。もう……」

「大丈夫だって」

「まあいいわ。もうちょっと話していたいけど、続きは目覚めた後ね」

「……ん」

 

 目覚めれるだろうか、なんて不安はないのだろうか。

 いや、不安を表に出していないだけか。

 

「私が先に目覚めたら起こしてあげるわ。ミゼルは目覚まし時計がなかったらいつも寝坊してるしね」

「頼りにしてるよ。でも僕が先に目覚めたら、僕がイミスを起こしてあげるから」

「寝坊助にできるとは思えないわね」

「ひどい」

 

 互いに笑い合いながら、カプセルへと入る。

 次に笑い合うのは未来だ。

 

 

「それじゃあ、おやすみなさいミゼル。また500年後」

 

「うん、イミスもおやすみ。500年後に」

 

 

 閉じていくカプセルを見ながら最後のやりとりを交わして、僕らは長い眠りについた。

 目を覚ましたら、互いのカプセルをまず開けようと心に決めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのに、何故だろう。

 

 僕は目を覚ましてからしていることは。

 

 

「ミゼル! さっさと錨をあげな! 海の藻屑になりたくないだろう!」

「は、はいザビィさん!」

「ザビィ様だ! あんたは泣く子もさらに泣いてしまう海賊団クロスジャンケの一員だよ! あたしのことはザビィ様と呼びな!」

「は、はいザビィさま!」

 

 小さな海賊船で今現在、こき使われているのだ。

 

 正直海賊船と言っていいかもわからない規模だけど。だいたい僕を除いて乗組員は僅か3名。

 船長のザビィさn……さまと、イビールさんとガブラーさん。

 

 何故僕がそんな海賊船に乗っているのかというと、正直よくわかっていない。聞いたところ僕は釣り上げられたのだとか。ますますよくわからない。

 詳しく聞けば、ガブラーさんが釣りをしていたら海を漂う僕が釣れたとか。なんで僕が海を漂っていたのかと聞いても「あたしが知るわけないだろ」ともっともな返答をザビィさんからもらった。

 

 

 錨をあげて船は動きだす。

 停めていた場所は海のど真ん中。そこに留めていた理由は巨大な魚が通過していたからだ。その魚が起こす波に転覆しないようにと船を固定していたため。

 

 海を眺めながら、どうして僕が釣り上げられたのか考える。

 

 理由としてはあの研究所が500年の年月によって海に沈んだとか。

 でもそれなら僕も海の底だ。カプセルだけが浮かんで海面に、とも考えたが、ガブラーさんが言うには周辺には何もなかったらしい。ただ僕だけが浮かんでいたとか。それもうつ伏せに。死んでないのが奇跡だ。

 

 ……イミスは無事だろうか。はっきり言って、絶望的な想像しか浮かばない。それを振り払うように別のことを考える。どれだけ考えたって確信を得られないんだから、今について考えよう。

 

 まず第一に、僕がいた時代とは違うこの時代。おそらく500年後の時代。

 文明は一度滅んだと考えてもいいだろう。人間が生き延びていたというのは行幸だ。さらには言語まで問題ない。造船技術は……専門ではないから詳しくないが、木組みであるがところどころ製鉄技術も使われているし、原始時代とは違うとわかる。

 

 ザビィさんたちの身なりは、まあ時代や場所が違えばファッションは異なるだろうから重要ではない。それより海賊らしい武装だ。映画とかでしか見たことないような、古めかしいデザインの銃にサーベル。これだけなら、時代は繰り返しているのだなあとか思ったかもしれない。イビールさんとガブラーさんの武装を見るまでは。

 

 彼らの武装はバリスタだ。言ってしまえば巨大なボウガンだ。防衛施設や攻城兵器などに備え付けて扱う武器。個人が携行できるようなものもあるかもしれないが、彼らのバリスタはとても携行用とは思えない大きさ。

 補助アームと呼ばれるベルトと金具を用いた装備を補助に使って扱うそうだが……少し持たせてもらったが無理だ。撃つことはもちろん、歩くこともままならないほどに重い。お前はひょろひょろの白もやしだからな、と笑われたけど、ちょっとこればかりは納得いかない。イビールさんとガブラーさんがおかしいのだ。もしくはこの時代の人間が変なのだ。

 

 そんな異常な海賊に囲まれながら、何故か僕も一員となってしまった。海賊船に乗っているやつは、海賊か捕虜の二択だと言われたら逃げようがない。

 そして海賊の一員なら武器を持てと渡された。バリスタは先も言ったように、扱うのは無理だったので銃と剣だ。正直どちらも使う日はないと思いたい。

 

 安全な場所についたら海賊からまずは逃げよう。そうしよう。

 

 少なくとも陸地についてから……だけど全然陸地が見えない。

 

「霧が濃い……」

「そりゃそうだろ」

「ガブラーさん」

 

 ぼそりと呟いた独り言に反応したのは僕を釣り上げた釣り名人ガブラーさんだ。

 

「霧のない海なんて聞いたことねぇ」

「え? そうなんです? ずっと霧が出てるってことですか?」

「ああ。霧がない日なんて俺は見たことねぇな。百年前は違ったらしいけどな。霧がなけりゃ航海も楽なのに……」

 

「弱気になってんじゃないよ。ちゃんと見張ってんのかい? 気づいたら渦潮に突っ込んでましたなんて失敗、海の秘宝を手にする大海賊クロスジャンケにはいらないんだからね」

「イエッサー!」

「ミゼル、あんたは銃か剣をちゃんと扱えるようになんなよ。使い物にならなかったらひっぱたくからな」

「は、はい!」

 

 霧でよく見えない海に、やたらでかい魚が泳ぐたびに起きる高波、突然発生する渦潮。

 まだ目覚めて1日だけど、海の危険がよくわかった。だけど銃や剣を扱えるようになる必要性は今なおわからない。やっぱり海賊行為とかするためだろうか。

 

「100年前の海図なんてどこまで参考になるかわかんないからね。気ぃ抜くんじゃないよ」

「アイサー!」

 

 ザビィさんとガブラーさんのやり取り。

 100年前の海図? さっきもガブラーさんが、100年前は海に霧がなかったと言っていたけど100年前に何かあったのか。

 

「あの、100年前って何か……?」

「ん? ……あー、あんたはまだ思いだしてないんだね。そのうち思いだすさ」

 

 答えてもらえなかった。

 

 この船に釣り上げられた時、僕は寝惚けていたのか自分の名前もまともに言えなかったらしい。これもコールドスリープカプセルの弊害か。とにかく、それでザビィさんたちは僕が記憶喪失だと勘違いしている。だから質問しても、彼らにとって常識なことはそのうち思いだすと言って教えてもらえない。

 

 100年前……500年前なら世界樹の発露のせいと考えれるけども、まさかもうフォレストセルが? でも500年も予想より早く動きだすなんて少し信じづらい。

 

「……わからないことだらけだ」

 

 霧に包まれながら、波に揺られる船で一人ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

クロスジャンケ海賊団
大航海クエスト共闘NPCであり、「ザビィ」「イビール」「ガブラー」の三人組で構成されている。
出演クエスト数はザビィが3つ、イビールとガブラーは2つ。
イビール&ガブラーはゲーム中台詞が一切ない。一方でザビィはクエスト説明文に毎回口上(~~する海賊クロスジャンケの女首魁ザビィ様だ!)を語る個性を出す。


大航海クエストもがっつり絡ませたいため、また、それだと登場キャラがやたら多いのでここにゲーム内での活躍紹介。
今後も大航海クエスト共闘NPCは後書きにて紹介文を書いていきたいと思います。
また作品内で間を空けて再登場した際は、作品内での活動紹介をします。

そういえば新2要素はないですが、新1要素は少し取り入れてます。グングニルとか
あとこのお話、レベルやHP、TPの概念はなしでいきます。生物なら急所貫いたら死ぬんだよ!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。