「なんとか生き延びれたな」
「手が……指が痛い……」
「カカカッ! その程度で済んでよかったじゃねぇか」
毒蜥蜴の姿はもう見当たらない。
どうにか牛にしがみついて、この樹海の入口付近まで戻ることができたのだ。だけど指がプルプルする。
「シャーロットさんも指は……大丈夫に決まってますよね。オランピアさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「私との扱いの差は何?」
戦闘力の差かな……
「にしても、トーマさん、それからボーグマンさん。本当にありがとうございました」
「しばらくこのネタで奢ってもらえそうだな」
「オデ、魚、食べたい」
「じゃあ今日は魚料理をミゼルに奢ってもらうか!」
それぐらい奢るとも。完全に命の恩人だし。まあ財布が大丈夫な限りだけど。
「ま、その前に早いとこお前らネイピア商会に行ってきな。ペイルホースの奴らが薬を買い占めちまう」
「へ?」
「ギルドメンバーを救出しに行くとか言ってな。その前準備として薬やら包帯やらを滅茶苦茶買いこんでるんだよ」
「救出とは」
「どれだけ慌てても完全準備してから行くってのはあいつららしいけどな」
どこまでもマイペース集団なんだなあ……
乾いた笑い声しか出そうにない。そんな僕に気づいたのかフォローするようにトーマさんが付け加えた。
「まあ買い物しながらだったけどな。他のギルドにも助けを求めていたんだぜ? 自分たちのギルドメンバーに危機がってよ」
買い物しながらってあたりがなんとも言えない。
「こう言っちゃなんだけど、あんたたちよくその言葉を信じれたわね。あいつらの普段を知ってるなら大げさに言ってるだけって思えそうなのに」
確かに。
あのペイルホースなら些細な怪我でも大怪我扱いしそうだ。
……オオヤマネコにつけられた傷、見られなくてよかった。
「あー……まあ、俺も最初はそう思ってたんだけどな……。なんでかはナーイショ♪」
ナイショ、の言い方がうざい。
「あたしも気になります。ペイルホースの助けを信じる人間はあまりいないと考えていたのですが、どうしてトーマさんは信じれたのでしょうか」
「ナイショだよん♪」
「イラッとするからやめなさい……」
「まあそんなことより早く海都に戻ろうぜ」
どうあっても教える気はなさそうだ。
まあ教えてもらえないなら仕方ない。それよりも海都に戻ろう。
ぞろぞろと階段へと向かって進みだしたが、一人だけ立ち止まったままでいた。
トーマさんが立ち止まった人物に声をかけなおす。
「オランピア?」
「あたしはまだこの樹海を探索してみます。毒蜥蜴が暴れていた理由が気になりますから」
さっきまであんなに絶体絶命だったのに何そのメンタル。
やっぱりオランピアさんのローブの下は屈強な体が隠れているのかもしれない。
「おっけー。じゃ、俺らは海都に戻るわ」
「はい。いずれまた」
言葉通り、オランピアさんは樹海に残った。
本人が残ると言ったけど、大丈夫だろうかと心配になる。
「オランピアさんひとり残して良かったんですか?」
階段を上がりながらトーマさんに聞いた。
「ずいぶんオランピアのこと心配してんだな。あれか、惚れちゃったか?」
「そういうのじゃなくて……」
「カカカッ! 冗談冗談。ま、本人が残るって言ってんだ。それにあいつはずっとひとりで探索してるからな。……俺だったら絶対無理、こえーもん」
階段を上がりきり、行きにも見た石像が見えてくる。
なんとか無事にアーモロードに戻ることができた。初日からハチャメチャだ。
「それじゃ、お前らは早くネイピア商会に行けよ。今度酒場来るときは財布を分厚くしてな。カカカッ!」
「オデ、たくさん食べる」
「おうおう、食え食え! 何せ人の奢りだからな!」
財布にダメージを与える宣言。
その時はシャーロットさんにも来てもらおう。僕だけが払うのもアレだし。
トーマさんたちと別れ、僕とシャーロットさんだけとなった。
ひとまずネイピア商会に行かないと。でもどこだろ。シャーロットさんなら知ってるかな。
「ネイピア商───」
「ミゼル、あんたギルドを作りなさい」
「唐突ぅ……」
本当に唐突ぅ……
なんの脈絡もない。いきなりどうしたのこの人。
「今日一日でわかったでしょ。あのギルドのままじゃ深都なんて見つけられるはずがないって」
「それはそうですけど……」
「オランピアにも聞いてもみたけど断られたわ。深都探しを本気でやってる奴はなかなか見つからないし……」
ギルドを作れといきなり言われてもなかなか……。というか、
「シャーロットさんが作ればいいんじゃ」
「私は事情があってダメなの」
「事情?」
「そ。くっだらない事情。だけど破ると面倒だからね。……見張るみたいにあいつまで海都に来るんだもの」
これは深く聞いたらすごく愚痴が飛んできそう。そっとしておこう。
「でも作ってもギルドに入ってくれる知り合いとか全くいないんですが」
「私が入ればそれで充分よ」
「あ、ギルドの移籍は大丈夫なんですね」
「ギルドを作らないこと、独りで樹海に入らないこと。言いつけはこの二つね。本当、馬鹿らしい」
僕が作って、シャーロットさんが加入して、それで2人。
2人だけじゃなあ。他に知っている人といえば……オランピアさんには断られて、トーマさんはすでに別ギルド。ボーグマンさんも同じ。
うん、やっぱり誰もいない。
「でもなんで僕なんですか? ペイルホースが例外なだけで、他のギルド全部が深都探しを諦めているとは思えないんですけど」
「トーマが言ってたじゃない。どこが本当に探しているかわからないって。それにあんたは色々好都合なの」
「好都合?」
なんだなんだ。シャーロットさんが求めている人物像はたぶん、深都探しに本気の人。色々好都合、と言ったからには他にも理由があるんだろうけど……銃を扱うからとか?
「まずひとつは弱いことね」
「ひどい」
「それから知り合いがいないこと。ペイルホースに入ったくらいの世間知らずなんだし海都に来て日が浅いでしょ」
「そうだけどひどい……ていうか全然好都合の意味がわからないんですが……」
今の条件だと深都探しに本気で、それでいて弱くてどこともパイプを持っていない人物だ。
メリット全然ないよそんな人。僕だけど。
「私が深都を探している理由は家族を見返すことなの。私の力で偉業を達成する。だけど私がギルドを作ることは禁止されてる。他のギルドに入って深都を見つけたとしても、私だけの力とは認められないでしょ。だから弱いやつがいいの」
この人がペイルホースに入ってた理由、なんとなくわかった。ペイルホースに戦闘員はいない。あの堅実さというか臆病とも言えそうなギルドで深都を発見したら偉業すぎる。まあ諦めたみたいだけど。
それにしても、自尊心というか、自己顕示欲強い……
「弱い人を求めた理由はわかりましたけど、知り合いがいないことは……」
「こっちはおまけね。それほど欲しい要素じゃないわ。ただ、立場すらも弱いほうが私の力がより示しやすくなるし」
性格わるい。
「性格わるい」
「む。……あんただって悪い話じゃないはずよ。深都を見つけたいけど弱いし知識もあまりない。そんな奴が入れるギルドなんて早々ないわ。だったら作るのが一番よ。戦闘も私に任せればいいんだし」
確かに悪い話ではない。
僕の入れそうなギルドなんて全くないだろう。戦い慣れているわけじゃない。知識に優れているわけじゃない。なのに魔物を引き寄せる可能性が高い。
ダメだ。僕の良い点が全然ない。あ、射撃には自信があります。あと航海術とか……射撃しかアピールポイントがない……
まあ悪い話ではないけどなあ……この人暴走しそうだしなあ……
「……条件付けてもいいですか」
「内容によるわ」
「無謀な戦いはしない、です」
「ペイルホースと同じ方針でいくわけ?」
「勝てる相手ならいいです。けど勝てない相手に挑むのは断固拒否です」
「戦ってみないとわからないじゃない」
「戦って、勝てないなって思ったら逃げることを選んでくれたらいいです」
僕は魔物の強さとかさっぱりだから、結局は判断の大部分を任せる形になるけども。
「……まあいいわ。ペイルホースよりは断然マシだし」
「あ、あと僕の判断にも従ってもらいます」
「……後から言うのはどうなわけ?」
すごい不満そうだ。
「たぶんシャーロットさんがギルドを創ることを禁止にされた理由って、指示を受ける側になってみろとかそんな話なんじゃないです?」
立場とかこだわってたし、こんな性格だし。高い身分のご家族とかだろうか。
自分の判断を最良と考えて他の意見を突っぱねそうな人だ。他の意見を聞かないといけない位置にいることを強制させたんじゃないか。
「……そんなんじゃないわ」
「そうですか。でも今のも条件に入れます」
「…………」
すごい長考。
といっても1分も掛からず答えた。
「……わかった。馬鹿みたいな判断ばかりだったら別の候補を探せばいいんだし、それでいいわ」
これで少しは暴走を抑えれるかな……あくまで口約束だけど。
「それじゃ早速設立しにいきましょう」
「その前にネイピア商会に行かないとですよ……」
無事だったことの報告と……1日だけだったけどギルド脱退を言いに。
なんとも気が重い。ギルド脱退代行サービスとかないですか。
シャーロットさんに案内されて、ネイピア商会へと辿りついた。
なんというか……すごいごちゃごちゃしたお店だ。
店に一歩入ればもう、右も左も武具、防具、変な置物、服、変な置物、大きな仮面、トーテムポール、武具、狸の置物、武具、変な置物、防具。
この店は大丈夫なのだろうか。商品棚に乗り切らなかった品物がいくつもはみ出ているし、床にまで陳列されている。さすがに足の踏み場がないなんてことはないけども……一応床には線が引いてあるし、このラインを越えないように商品を並べているのかな。
そんなごった煮なお店の中に見える人だかり。
「だから言っておるではないか。これ以上は売るわけにはいかぬわ」
「まだ万全ではないのだ! ちゃんと金も払う! メンバーの危機なんだ!」
なんか恥ずかしい……
言葉だけならすごい熱意だけど、メンバー全員の鞄がパンパンに膨れ上がっているし両手にまで品物を持っている状態だ。もう万全を通りこして動きづらそうな状態でまだ買いたいごねている姿はどうかと思う。
「このままでは薬の在庫が切れてしまうではないか……んん? おお。ほれ、他の客が来たのじゃからどかぬか。これ以上は営業妨害じゃぞ」
店主さんらしき人が僕らに気づいた。
数珠のようなものがついた板を持ち、赤い着物姿の女性はペイルホースを押しのけて近づいてくる。
「お主ら、見ない顔じゃな? ネイピア商会に来るとはわかっておるようじゃのう。ここは武具、防具、道具……冒険に必要なものの売買を行っておる。冷やかしは許さぬぞ?」
独特な口調だ。年寄りめいた口調だけど、見た目は若そうだし……何歳ぐらいなんだろ。聞くに聞けない。
というか僕だけじゃなくシャーロットさんもここ来るの初めてなんだ。
「お前たち、無事だったか!」
「ん? なんじゃ、ひょっとしてペイルホースのメンバーじゃったか? なんとも難儀なギルドに入ったようじゃの」
「いや、待て。本物のミゼルとシャーロットか……?」
偽物っているんですか。
「馬鹿なこと言ってんじゃないの。とにかく私たちは無事、オランピアも無事よ」
「そうか。助けに行くための準備は必要なくなったな。いや、準備に不必要なことなどないか」
「ええと、シュラフさん。ちょっといいですか」
「どうした?」
ギルド脱退について話さなくてはいけないけど、何度も思うけどやっぱり気が重い。すっと言うんだ。すっと、変に気を張らずに。
「実は、ギルドを抜けようと思います。決して不満があったとかじゃなくてなんというか自分に合わない気がしてですね、それでまだ1日で急で本当にごめんなさい!」
「そうか。わかった」
よし、言えた!
あとはシュラフさんがどう言うかだ。もうちょっといてくれと引き留めにくるか、断固拒否か、それとも他のこじれ方をするか。
でもやっぱり最低でも、たった1日でその判断は早急だとか言われるだろうなあ。だからと言ってそうですねとはなれないけども。それよりもシュラフさんの反応待ちだ。
「あと私も抜けるわ」
「2人ともか。わかった」
シャーロットさんあっさり了承してもらってるや。
あれ? 今2人ともって言った? 僕の脱退も了承してくれた?
「僕も、いいですか?」
「ん? ああ、もちろん構わない」
「え」
「ん?」
え、すごいあっさり。え、いいの?
「こう、留意説得とか……」
「ギルドの方針と合わないのに不満を我慢して一緒に行動するのは全体の危険に繋がるからな。むしろ正直に話してくれて助かる」
「な、なるほど」
どこまでも安全第一だ……今回ばかりはすっごくありがたい。
「だがもしも、また我々と共に冒険に出たくなったら言うといい。いつでも歓迎だ」
「あ、はい」
そんな日が来るだろうか。正直今日1日でお腹いっぱいです。
「では、これで失礼します」
告げるべきことも告げたし、今日はもう色々ありすぎて疲れた。アーマンの宿に帰ってぐっすり寝よう。ただでさえ普段より早起きしたんだ。もう熟睡間違いなしだ。
「待たぬか」
「?」
店主さんが呼び止める。
どうしたんだろう。
「我は言ったぞ? 冷やかしは許さぬとな」
「……あ、でもペイルホースがたくさん買い物してましたし」
「お主はもうペイルホースの所属ではない。ならここでゼニを落としていかぬか」
帰ってすぐに寝たいのに……あ、そういえば銃弾が尽きてたんだ。
「じゃあ銃弾を……」
「まいどあり~」
あとトーマさんとボーグマンさんにも奢ること考えると……辛い……
大事なことだからいいけどね。いいけどね。
そんな風に自分に言い聞かせることにした。
ペイルホースはまたいずれ登場です。それまで彼らは雌伏の時。
あ、そういえば立ち絵のない原作キャラについては見た目最低限しか書きません。そのキャラのクラスを象徴する装備とかだけです。大航海クエストの共闘NPCとかですね。
逆に容姿について比較的詳しめに触れたキャラは原作立ち絵ありキャラです。たまに触れることを忘れるときがありますが。