とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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13.霧に包まれた海の向こうへ

 

 

 ペイルホースを抜けて翌日。

 僕とシャーロットさんは冒険者ギルドに、ではなく、アーマンの宿の僕の部屋にいた。

 

「今何時かわかる?」

 

 シャーロットさんの問いかけに対し、僕は真面目に答えた。

 

「昼過ぎですねー。13時ぐらいですかね?」

「惜しい。14時ね」

 

 1時間ズレを惜しいと言ってくれるなんて優しいなあ。

 

 優しいついでに僕の足を踏むのやめてほしいなあ。

 

「10時に集合って、決めてたよね。他ならぬあんたが、明日10時に集合って言ってたよね」

「ですね」

「今何時かわかる?」

「…………14時です」

「正解。それじゃ、次に言うべきことは何かわかる?」

「本当にごめんなさいっ!!」

 

 そうだよ。昨日ネイピア商会を出て、羽ばたく蝶亭でご飯を食べたあと、別れ際に明日の集合時間と場所を決めてたよ。

 で、僕はゆっくり寝たいなと思って10時にしようって言ったんだよ。集合場所は冒険者ギルドでって。

 

「いっつまで経ったも来ないし、逃げられたんじゃないかって思って探してみれば……間抜けな寝顔を見せられるなんてね……!」

「ひど……くないですっ! 深く反省しておりますっ!」

 

 やだこの人、踏む力つよーい。

 

「い、言い訳いいでしょうか……」

「一応聞いてやるわ」

「ありがとうございます!」

 

 足をやっと退けてくれた。でもまだ油断はできない。言い訳によってはまた踏まれるかも……でも言い訳ではなく正当な理由だしきっと大丈夫!

 

「昨日あれからですね、僕の方でも調べてみたんです」

「調べたって何を」

「ギルド作りについてです」

「ふむ。続けて?」

 

 聞く価値あり、と思ってくれたようだ。

 

「僕もシャーロットさんも、初心者です。初心者のみの場合、元老院から試練を出されて、それをクリアできないと冒険者として認められないそうです」

「つまり試練を受けないといけないのよね」

「はい。それでですね、やっぱり試練で足踏みなんかしてたらもったいないじゃないですか、時間が」

「その通りね」

「なので!」

 

 試練なんてシャーロットさんが嫌がりそうだからサクッと終わらせたがると思ったんだ。この反応的に、もう寝過ごしたことは許してもらえそうな予感。

 

「仲間を集めましょ痛! おでこいたい!」

「なんで余計遠回りしてんのよ」

 

 籠手つけながら器用にデコピンなんて……めちゃくちゃ痛い……

 

「だってこのままじゃ僕とシャーロットさんの2人だけですよ!?」

「問題ないじゃない」

「大有りですよ! せめてあとひとりはほしいです!」

 

 主にシャーロットさんの手綱を握るために!

 僕はこの時代じゃ常識知らずなのだ。だから常識人を用意して、その人にシャーロット行動を判断してもらう。

 そのために! 最低でもあとひとり!

 

「ひとりぐらいなら……なんて言うわけないでしょ」

「どうしてですか!」

 

 シャーロットさんの狙い的に多すぎたら却下されると考えてひとりに絞ったのに。

 

「だいたいね、そのひとりが見つからないわよ。冒険者志望なんてもう全然残ってない。仮にいても安全を求めて新人のみのギルドには入らないから」

「そんなことないです!」

「そんなことしかないの。それとも何? あてでもあるわけ?」

「まあ……あてというか、可能性というか……」

 

 そりゃもう冒険者志望なんて全然いないと思ってるよ。以前聞いた港長の口ぶりからしても、ほとんどかき集めた後だって。

 だけどまだ集めてない場所があるはずなんだ。一応先生にこの案を相談したら素敵な考えだと思いますって言ってくれたし。

 

「……期間を定めましょ。期間内に見つからなかったら諦めて2人で行く」

「いいんですか!?」

「あてがあるって言うんならまあいいわ。それにある程度は指示に従うって約束だし……。で、どれぐらい時間が必要なの?」

 

 運次第だしなんともいえない。

 と、とりあえず、

 

「1ヶ月!」

「長すぎ。2週間ね」

「短い!」

「はあ!? 2週間でも長すぎるぐらいだわ!!」

 

 ひぃ。

 

「……こほん、とにかく2週間。それでどうするわけ? ビラでも配るとかだったらデコピンじゃすまさないわよ」

「こ、こわーい……えっとですね」

 

 手をグーパーさせて準備運動なんてしないでください。何する気ですか。

 

「海都じゃなくて、他の都市の冒険者志望を探そうかと……なんで拳を振りかぶってるんですか!?」

「あまりにも馬鹿げた話だから」

「ひどい!」

「他の都市ももう冒険者志望は残ってないわよ。それとも何? 海の向こうの都市にでも探しに行くつもり?」

「はい、そうですけど」

「…………本気?」

「え、本気ですけど」

 

 そんな正気を疑うような内容だろうか。海都にいないなら他から探すって。

 

「どこまで世間知らずなわけ……? 海路が途絶えて100年。海は完全に未知の境界。運よく海の向こうの都市についたとしても戻ることができるかも難しいって話よ。そもそも船を出してもらえるかも怪しいわね」

「たぶん大丈夫です。たしか……アユタヤ? までの航路はできたはずですし、戻るのもスカンダリア大灯台が機能するようになったので大丈夫かなと。あと船に関しては……港長さんに頼ってみようかなと」

「……」

 

 シャーロットさんがぽかんとしてる。なんだか新鮮だ。

 

「……ずいぶん詳しいのね」

「少し前まで海賊だったんですよ。それで色々と経験しまして」

「は?」

 

 僕が海賊だったというのはそんなに意外なのだろうか……うん、意外か。僕自身もそう思う。

 

「…………まあ、それならいいわ。でも2週間よ。2週間で見つからなかったらおとなしくギルド設立、元老院の試煉を受けて…………結局見つかっても試煉を受けるのは変わらないんじゃないの?」

「……そうですけどほら! 人数が増えて容易に突破できると考えれば痛い痛い痛い痛い!」

 

 こめかみをぐりぐりするのはやめて……めちゃくちゃ痛い……

 

「はぁ……で、根回しで寝坊したってわけ?」

「へ?」

「寝坊した言い訳の話よ。どこまで話しはつけたの?」

「……」

「……どの都市の航路が安全か聞き取り調査をしたとか」

「……してないです。海の向こうに探しに行こう、まで考えて寝ました……」

 

 

 げんこつ、痛かった。

 

 

 

 

 

 2週間の期間を設けてもらえたことだし、早速仲間探しである。

 その前準備として海事情に詳しいであろう港長さんを探しにインバーの港までやってきた。

 

「相変わらず海は霧で包まれてるなぁ……」

「いつものことでしょ」

「そうなんでしょうけど……」

 

 霧のせいで海に近いほど暗い。街中では晴天の明るさだったのに、港は影っている。

 

「はぁ……海に行くとは思わなかったわ……」

 

 シャーロットさんはアーモロードから地続きの場所出身なのかな。

 それよりも船だ船。理想としては他の都市へ定期便が出ている状態。それだったら安全性も高いだろうし何より渡航中はゆっくりできる。お金はかかるだろうけど。

 

 管理小屋が近づいてきた。中には人影がいくつか見える。そのうちのひとつは港長のはず。

 

 ん。やっぱり港長だ。でも他は……港の作業員にしては恰好が変だ。海の職人というよりは……

 

 土いじりの人? うん、これがしっくりくる。いや、もっと言うなら農家の人だ。農家の人が男女のペアでいる。

 

 とりあえずこれは来客対応中って感じかな。対応が終わるまで中に入らず待っていよう。

 

 管理小屋は小屋と名がついているけど、簡易テントのようなものだ。中の会話が聞こえまくり。

 

「しかし短期間でその条件の人間はなかなか見つからないと思うが……」

「他に頼るあてがないんです……今回の引っ越し費用にほとんど使ってしまって……」

「しかしだね……今の条件のままでは仮に酒場に依頼を出せたとしても、誰も受けずに期限が来てしまうよ」

「そこをなんとか……!」

「私に言われてもだね……む?」

 

 港長と目があった。でも僕らには気にせずお話の続きをどうぞと身振りで訴える。

 

「……」

 

 どうぞどうぞ。

 

「よく来てくれたね、ミゼル君。そんなところにいないで入ってきたまえ。さあ!」

 

 なん……だと……?

 

「あ、あの、まだ私たちの話は終わってないのですが」

「安心したまえ! このミゼルはあなた方の求める人物なのだよ!」

「そうなのですね!」

 

 え、なんの話。え、何。

 仲間探しに来たら僕が探されてたの? どゆこと?

 

「うむ。彼は冒険者でありつつ、航海技術を持っている。先のスカンダリア大灯台でも彼の手助けがあったからこそ解決できたのだよ」

「おお!」

「まあ彼を説得できるかはあなた方次第だがね。と、いうわけだ」

 

 どういうわけ?

 

「あの、事情が飲み込めないんですけど」

 

 ていうかシャーロットさんも中に入ってきてよ。何素知らぬ顔で外で待機してるんですか。

 

「ミゼルさんお願いします!」

「わひゃ!?」

 

 農家の男性が頭を深く下げて頼み込んでくる。勢いが凄まじい。それに続くように女性も頭を下げた。いったいなんなんだ。

 

「どうか、どうかバタビアまで来てくれませんか!」

「バタビア……?」

 

 バタビア。

 地名だろう。そして航海技術を持つ人物を求めていたことから……海の向こう!

 

 喜んで! と言う前に慌てず確認だ。この話をほいほい受けて、船がないから船を買ってね、みたいなことになるかもだし。

 …………考えすぎか。ペイルホースに毒されたかな。

 

「航海技術はありますが……船を持ってないので残念ながら」

「船ならこの港のを使うといい」

 

 港長さんがまるで逃げ道を塞ぐように言ってきた。普通にうれしい。

 

「ていうか港長、この状況の説明が欲しいんですけど」

「冒険者宛ての依頼だよ。本来なら羽ばたく蝶亭にいく話だが、彼らの出したがっている依頼は船を出す必要がある。そんな場合は港にまず話が来るのだが……今回の依頼は条件が厳しくてね」

「具体的には……?」

「バタビアまでの渡航と現地での問題解決をお願いしたいのです!」

 

 またも農家の男性が大声で主張しつつ頭を深く深く下げた。

 

 今の話を聞いた限りじゃ普通な気がするけども。

 

「期間が厳しいのだよ。彼らの所持金が尽きるまでに、という内容でね」

「あ、アバウト……いったいどうしてそんな依頼を出したんです?」

 

 こちらとしては嬉しいですけど。

 

 そんな内面をおくびに出さず男性に聞いた。

 

「話せば長くなるのですが……。申し遅れました。私はジャイルズ、そしてこちらが妻の」

「アガサです。突然お願いされて困惑すると思いますが話だけでも聞いてください」

 

 

 

 この夫婦から聞いた話。

 

 長い貧乏生活を送る中、アーモロードの特産品種をバタビアの気候で栽培すると独特な種に変わることを発見。味、品質も問題なく、思いきってバタビアに農場を作り貧乏生活脱出を試みたくなった。

 今までコツコツと貯めてきたお金を切り崩し、バタビアで安い土地を購入。いざ引っ越しすると問題が発生した。

 

「海賊ですか……」

「はい……私どもの購入した土地に海賊らしき男が我が物顔で居座っているんです」

 

 ……これ本当に冒険者案件?

 すぐさま飛びつかなくて良かった。これ絶対海兵案件だよ。

 

「えと、そういうのは海兵隊にもっていくものじゃ……」

「そうなんですが……その……」

 

 ジャイルズさんはなんだか言いづらそうに口ごもる。代わりにとばかりにアガサさんが引き継いだ。

 

「バタビアの海兵に訴えるべきなのですが、肝心のバタビアに行くまでのお金がないんです……」

「へ」

「引っ越し先はバタビアの近くにある小さな小島で、そこまでアーモロードから船を出してもらったのですが、例の賊に追い返されアーモロードへとんぼ返り。この時点でほとんど所持金がなく……」

 

 ひょっとして港長が言ってた厳しい条件って……

 

「ほ、報酬は、追ってお支払いします! なにとぞ!」

 

 時間的縛りだけじゃなく、報酬面でも不安定だからか……

 

 これは普通受けない話だよ。でもこちらにも事情がある。海の向こうへと行きたいのだ。だから、

 

「……良いですよ」

「本当ですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます! こんな話を受けてくれるなんて、本当にありがとうございます!」

 

 善意100%ってわけじゃないからそこまで感謝しなくてもいいのに。まあこちらの事情は言ってないから仕方ないけど。

 

「話を振った私が言うのもなんだが、良かったのかね」

 

 本当に港長が言うのもどうかと思います。

 

「ええ、でも突然面倒ごとを押し付けてきた港長にはあれです。迷惑料としてしばらく船を借りますよ」

「もちろん構わないとも。なんなら今回だけじゃなくいつでも言ってくれれば貸しだそう」

「え? いいんです?」

 

 いいの? バタビアだけじゃなくアユタヤも候補地に考えてるから嬉しいけど。

 

「まだまだ港には使ってない船があるからね。誰かに乗ってもらった方が船も嬉しいだろう。それに海に興味を持ってくれれば私も嬉しい話だ」

「ははあ」

 

 ついでに海路の復活だっけ。それもやってほしいみたいなこと考えてそう。

 

 まあなんでもいいや。船を使っていいのなら後は人探し。希望としては魔物と戦えて常識があってシャーロットさんを止めれる人!

 バタビアで見つかればいいんだけど……とにかく探すぞー。

 

「では行きましょうミゼルさん! あの海賊退治に!」

 

 あ、仲間探しの前にそれをやらないとか。

 

「シャーロットさーん! 行きますよー!」

 

 外で素知らぬ顔してたシャーロットさんに大声で呼び掛ける。ダルそうな顔全快だ。

 

「シャーロットさーん! バタビアですよー!」

「聞こえてるわよ! ……まああいつらの求めそうな条件だしいいか」

「どうしました! シャーロットさーん!」

「うっさい! ちゃんとついていくっての!」

 

 よし、言質とれた。

 

 

 

 それじゃあいざバタビアへ、だ。

 

 

 







ジャイルズ&アガサ
大航海クエストの共闘NPC。
ファーマーのジャイルズとウォリアーのアガサ。夫婦。
戦力としてはあまり期待できないコンビ。
原作ではアーモロードからバタビアに新商品の輸出のためでしたがこのお話では引っ越しです。
また、原作内での台詞はジャイルズのみ。


というわけで、大航海クエストのパートに入ります。バタビアだけでなく複数。地味に長め予定。
樹海行けよ……ってなりますがこのタイミングで一度大航海クエストをいれないとお話的に偏りが不味いので……キリのいいとこが遠い……

大航海クエストのパートは書き溜めします! ちょっとずつ投稿より一気に投稿した方がスッキリですしね!

あまり関係ないですが、私は世界樹3で一番好きなのは大航海クエストです。共闘NPCにそれぞれ個性があって楽しいです。
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