一度は素通りしたバタビア。
その町の港へと船をつければ港員さんが来たので事情説明をすることに。
ついでに何かあったのか確認しようとする前に、
「ジャイルズさんに、アガサさん……? 良かった、無事だったんですね!」
「は、はい?」
港員さんが二人の無事を喜びだした。
これはひょっとして海賊についてバタビアもすでに知っていた? いや、それならあの男がバタビアで話を聞いてこいなんて言わないはずだ。
「無事じゃないですよ! 大変なんですから!」
「そ、そうですよね。町長からあの島についての謝罪と代わりの話がありますので、そちらまでご足労願えますか」
アガサさんは怒り気味。港員さんは戸惑いながらも町長の元へと案内を申し出た。
僕もついていくべきか考えたけど、ぞろぞろ向かう必要もないだろう。僕はシャーロットさんの目を一応お医者さんに診てもらうために動こう。
「ジャイルズさん、アガサさん。僕たちは別行動してますので」
「え? ああ、シャーロットさんの目ですね。わかりました」
「別にいい……」
件の彼女は不機嫌気味だ。本人いわく、今は痛みも異常もないらしい。一応海水で洗い流したから汚れも落ちたけど、念のため診てもらった方がいいと思う。
彼女の意見は今回無視して港員さんに医者の場所を聞かなくちゃ。
「この町のお医者さんってどちらにいますか?」
「それならこの通りを……」
「だからいらないって言ったのに……」
「まあまあ」
医者の診断では異常なし。本当にただのイカスミソースだったらしい。
「早くあの島に戻りましょ……あの男を成敗しないと」
「ジャイルズさんたちがどういう話を聞いたか確認してからですよ」
「悠長なことを……その間に逃げられるかも知れないじゃない!」
「準備は大事ですよ。なんだか変ですし……」
今思うとあの男、海賊にしては変だった。他人の土地を占領している点はともかく、略奪とかは一切しなかった。シャーロットさんの剣も結局返してくれたし、ジャイルズさんたちも土地以外は奪われたものはない。
執拗にバタビアに戻れ戻れと言っていたし、剣を返してくれる前は、バタビアで待っていれば返してやるとも言っていた。
何か目的があって、それも土地の占領ではなくあそこでないといけないこと。
「あの男の目的がわかれば平和に解決するかもしれないし……」
「引っ捕らえばすぐに済むわ」
「それができなかったじゃないですか。負けて不機嫌なのはわかりますけど切り替えていきましょうよ」
「おぉん!?」
なんだその鳴き声、じゃなかったキレ声。
「あれは足場が揺れて戸惑っただけよ! まだ負けてなんかない!」
「そーですねー」
「ちゃんとわかってんの!?」
「とりあえずジャイルズさんたちの元へ行きましょうか。もしかしたら海兵に後は任せるだけかもですし、それなら楽なんですけどね」
「お前っ! この、逃げるな! って意外に速!?」
言い訳なんて知りませんー。
今回の件を反省して戦闘狂っぷりを落としてくれればいい。まあ今は追いつかれないように逃げよう。
追いつかれて首を激しく揺さぶられる事態に陥ったけども、無事にジャイルズさんたちがいる建物へとたどり着く。たどり着いた場所はバタビアの役所だ。
まだジャイルズさんたちの話が終わってないことが残念に思う。役所ってあまり来たくない。施設の申請とかで揉めた思い出があるから。
「あ」
ジャイルズさんたちが出てきた。丁度話が終わったのかな。
「ミゼルさん……シャーロットさんも……」
わかりやすいほど二人とも肩を落としている。どうやらあまり嬉しくない話だったご様子。
「えと、どんな話だったんです? あまり良くない話っぽいですけど」
「それが……」
ぽつりぽつりとジャイルズ夫妻は話し出した。
「小島から退去?」
「はい……代わりに別の土地をバタビア内に用意してくれるそうなんですが……」
「じゃあいいじゃない。あんな小島よりは町中の方が便利だし」
「それではダメなんです!!」
突然大きな声を出すからびっくりだ。
「すみません。でもあの島じゃないとダメなんです……。あの島の湿気が私たちの作物に適切で……」
「新しい農園作りのためでしたっけ」
「はい……他の農家と同じようなものでは、特別贔屓している相手もいない私たちの作物は市場の隅に置いてもらえるかどうか……。引越しで貯金も尽きた現状では、今までと同じではダメなんです」
海賊がいようとあの小島にこだわっていた理由はわかったけども、バタビア町長から退去を言われているんじゃなぁ……
ん? というか、
「どうしてジャイルズさんたちが退去なんですか? 海賊の方じゃなくて」
「それが……海賊ではなく霧のせいなんです」
「霧?」
霧って海に発生しているあの霧? 確かにあの霧があるところには魔物がいるって聞いたけど、島にはなかったはず。まあ小さい島だからほぼ霧に囲まれているようなものだけど。
「以前バタビアが調べた時、あの島には霧がなかったそうです」
「まあそうよね。霧のある土地なんて普通は個人に売らないわ」
「少しでも島の外へ出たら霧の領域ですけどね。おかげで安かったのですが……あの島でも霧が発生することがわかったんです」
「……自然発生ってことですか?」
普通の霧みたいに自然現象として……あんな何もない島じゃ普通の霧もできなさそうだけど。
普通のなら深夜や明け方に特にできやすいし、その時間に再調査して、とか。
「調べると真夜中に霧が発生していたらしく……」
「普通の霧だぁ……」
「はい?」
普通の霧だよきっと。ちゃんと僕の知ってる現象もあって安心だよ。
「えと、霧が危険だから町長は島からの退去をするように言ってきたんですか」
「はい、島の中まで霧の影響下では……どうにかならないんでしょうか」
よし、きっとこれは霧への認識の違いだ。海の霧と陸地の霧をごちゃ混ぜにした感じの。
「なるわけないじゃない」「大丈夫だと思いますよ」
ジャイルズさんの問いかけに答えたらシャーロットさんと意見が別れた。適当なこと言うなって感じの睨みは無視して話は進めるぞう。
「島に出る霧は普通の……魔物が暴れる霧じゃないですよ」
「そうなんですか!?」
「はい。だから霧については問題ないかと。それに霧が危険ならあの海賊も無事じゃないでしょう。まあ、あの海賊が一番問題なのは変わらないですけど」
だからこそ、てっきり海賊について町長から話があると思ったのに。
「あの男はドレークという名のアユタヤの漁師らしいです」
何も聞いてないと思ったらそうではなかったらしい。アガサさんが話してくれた。
え、海賊じゃなくて漁師?
「なんでアユタヤの漁師がここまで来てるのよ」
「町長もわからないらしく……元海賊だからあの島に何か隠しているんじゃないかと話してました」
あ、やっぱり元がつくけど海賊だったんだ。アガサさんとシャーロットさんはそのまま話を続ける。
「隠し事ねぇ……財宝とか?」
「さぁ……?」
「とにかく海賊だろうと漁師だろうと、そのドレークって人をどうにかしないとですね……。一番手っ取り早い方法はバタビアの海兵に対応してもらうことですけど……」
結局結論は振り出しに戻ってる気がしないでもない。
しかしこれは頭を悩ます案件だ。バタビアの海兵に出てもらうには……霧が出るから退去するように言われてる島だしなぁ。バタビアにとっては危険な場所認識ってわけだし、納得できるように説明できるかどうか……。この時代の人は霧=危険と見てるみたいだし。
「……あの人は霧が出るから私たちを追い払った、とかは……ないですかね」
考え込んでいるとジャイルズさんがぼそりと呟いた。言葉に出しながら考えが強まったのか、彼はそのまま言葉を紡ぐ。
「考えると最初から、あの人は私たちに危害は加えてなかったんです……。追い払うだけに留めて……」
「シャーロットさん目潰しされつつぼろ負けしましたけど」
「黙りなさい」
「いたひ」
「それでもそこまでで、追撃ちも一切せずに……」
「シャーロットさん、そ、そんなにつねらなくても……」
まあ、略奪行為はなかったし……土地以外。確かに攻撃もこちらの無力化優先だった。シャーロットさんへの目潰しも、イカスミソースでだ。剣で切り裂くこともできたはずなのに。
……シャーロットさんって手加減されつつ負けたということでは。
「ひゃああのひほは、ひゃいるふさんふぁひの……」
「シャーロットさん、その辺で……なんて言ってるかわかりませんし……」
「この慣れてきてる感がムカつくわ……」
平和的抵抗です。
「じゃああの人は、ジャイルズさんたちのために島から追い出したってことですか」
「それは、わかりませんけど……」
「優しさとかじゃないんじゃないの? ただ隠した財宝を掘り出すためとかで」
「それだったらすぐに移動すると思います……」
ずいぶんドレークさんを庇う。
「バタビアの海兵に通報するより先に、あの人の真意を知ってからにしたいです。もし霧が出るからという理由で私たちを追い返すような、優しい人なら通報なんてしたくありませんし……」
「真意なんてわかりっこないでしょ」
「本人に確かめる、ぐらいですね」
「それだって本当のことを話すかは別よ」
うーん。ジャイルズさん的にはドレークさんの真意を知りたいって気持ちが強いようだ。正直僕も知りたくはあるので気持ち的には賛成だ。
だけどシャーロットさんの言い分もわかる。聞いたって本当のことを話すかは別だ。手っ取り早い方法はやはり海兵。たぶん彼女は自分が戦う方向で考えてるだろうけど。
「ジャイルズ、あの男が善意から追い出してたのなら、普通は霧について話すはず」
「アガサ……」
「だけど一度も霧については触れなかった。これが全てじゃない?」
「でも……」
アガサさんはシャーロットさんと同じ意見。完全に別れてしまった。僕は意思表明してないからまだ多数側にも回れるけども。
だけど僕はもう少し調べてみたい。
バタビアに行けとしか言わなかったドレークさん。その言葉にしたがって霧のことを知れた。だけどまだ何かあるはずだ。
霧についてだけならアガサさんの言う通り、あの場で言えば良かっただけだ。信用の問題という可能性もあるけど、それだけならドレークさんが島に居続ける理由がわからない。あの人は最初、ジャイルズさんたちがバタビアから来たと思っていた。また来るとは想定していなかったはずだ。
あの島には何かあるかもしれない。
それはイミスたちの手がかりだったり、深都の手がかりするかもしれない。まあ、そんなことはないだろうけど……でも想像がつかない状態だし考えるのは自由だ。
それに内容によっては、ドレークさんに恩を売れれば仲間にできる可能性もあると思う。もしジャイルズさんの想像通り善人だとしたらあの強さは魅力的だ。問題児の暴走を止めれる力なんて特に。
「それじゃあこうしましょう。アガサさんとシャーロットさんはバタビアで待機。僕とジャイルズさんでもう一度あの島に行くんです」
「いや意味がわかんないんだけど」
「僕もドレークさんが善人であってほしいなぁと思ってですね。で、話し合いをしに行こうかと」
シャーロットさんはいたら話し合いにならなさそうだし二手に分けたいのです。
「ですがもし極悪人だったらミゼルさんとジャイルズだけじゃ危なくないですか?」
「うーん、まああの強さは向けられたら危ないなぁと思いますけど、下手にこちらも戦力を整えたら警戒されそうですから」
それっぽい理由を並べてみたけど嘘です。本音はシャーロットさんに秘密でドレークさんの勧誘です。
「ジャイルズさんもそれでいいですか?」
「はい!」
まだシャーロットさんたちは納得しきってなさそうだけど、ジャイルズさんは乗り気だ。
「じゃあシャーロットさんたちは待っててくださいね」
「あんた、なんか企んでない?」
「……ノーですノー」
「……」
何を根拠にそんなこと言い出すんだこの人は。そんなこと言い出されたらジャイルズさんとアガサさんが不安になっちゃうでしょうに。
「最悪拗れてもあの様子なら命を取られることはなさそうですし、あまりにも戻るのが遅かったらバタビアの海兵に通報とかで」
「……一応聞くけど、当初の目的は覚えてる?」
「大丈夫です。当初の目的のためにも必要なことだと思ってますんで」
嘘は言ってない。
というか正直に言い過ぎて不味いくらいだ。
「……ならいいわ」
「それじゃジャイルズさん、行きましょう!」
「はい!」
本日二度目の小島行きだ。
昼寝中かもだけど話を聞き出しにがんばるぞう。
ドレーク
大航海クエストの共闘NPCのパイレーツな漁師。
原作ではバタビアではなくアユタヤで登場。
1クエストしか出演しないが活躍が渋い。的確な状態異常、頭縛りなどを決めてくれるカッコいいパイレーツ。
とても紳士的、と港長から評されていたけど口調はややぶっきらぼう。個人の感想です。
あ、一応シャーロットさんは強キャライメージで書いているんですよ。なんか活躍の場がすごい少ないけど。