とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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16.波浪の襲撃者

 

 

 

 本日二度目の小島上陸。最初と違い僕とジャイルズさんだけだ。戦力的には不安なメンバー。でも今回は戦うつもりはないのでいい。

 

「島には霧がないですね……」

「まだ昼間ですからね。発生するとしたら夜から明け方ですよ」

 

 海の意味不明な霧とは違うだろうし。

 やっぱり問題は霧よりもドレークさんだ。何をするつもりかしっかりと聞き出さないと。

 

 最初のときと同じように、銃声が響いた。

 

「ひぃ!」

「ゆっくり寝かせてほしいんだがな。バタビアに行ったんじゃないのか」

 

 やっぱりだ。

 

 この人は危害を加える気はない。まだこちらは気づいてなかったのに、不意打ちなんてせずに姿をまず見せてくる。銃は絶対に当たらないように空に向けているし、必ず忠告から始める。

 

「ドレークさん、ですよね」

「バタビアで聞いたか」

「はい、それとこの島で霧が出ることも」

「わかっていてまた来たのか……」

 

 ジャイルズさんたちを追い返したのは霧のため……? まあここは予想範疇内だ。

 

「ドレークさんはなんでこの島にいるんですか?」

「やることがあるからな」

「やること?」

「お前たちには関係のないことだ」

 

 むう。すんなり教えてくれないか。

 

「もういいか。俺は寝たいんだ。俺がいようといまいとこの島は人が暮らすには難しい。バタビア内の別の土地を探しに行け」

「いえ、この島に出る霧は危険のないものです」

「寝言でも言ってるのか? 俺が寝言を言いたいぐらいなんだが」

 

 ふふん。寝言に聞こえるなんて愚かな。

 ふふん。科学な時代の知識の前ではみんな無知なのだ。

 

「だから僕たちはドレークさんが島から移動してくれたらと思っているんです。もちろん無理矢理とかじゃないですよ!?」

 

 だからレイピアに手をかけないでください。

 

「ドレークさんの目的が達成されたらいいのではと思ってですね。だからドレークさんのやることの手伝いをさせてほしいなと」

「邪魔だから帰れ」

「一切考慮もしてくれない……」

 

 断るにしてもせめて理由とか教えてほしい。あ、邪魔だからか。ひどい。

 というか何をするつもりかも教えてほしい。

 

「だいたい前提が間違っている。この島の霧は安全なものじゃない」

「いえ、自然発生するもので魔物とは───」

「この島の霧は今見える海の霧より遥かに危険なものだ」

 

 聞く耳持たぬとはこのことか。

 

「そ、そんなに危険ならどうしてあなたはここにいるんですか!」

 

 ジャイルズさんも問答に入ってきたけど教えてくれるとは思えない。

 

「霧を消すためだ」

「消す? そ、そんなことができるんですか!」

 

 え……僕のときは答えてくれなかったのに……いいけどさ。

 

「できるかどうかはわからない。だがあれを放置していては、この海で安心して眠れる夜は来ない」

「……?」

「海と無縁な生活だとわからない話だ」

「一応僕元海賊……」

「さっさとバタビアに戻れ。小屋の中の荷物なら手をつけてない。安心しろ」

 

 この人、僕のこと嫌ってるな? スルーしまくりだ。

 

「……わかりました。ミゼルさん、戻りましょう」

「僕はまだ納得いかないんですが……」

 

 でも粘ったところでこの人を仲間に、は無理そうだしなぁ。

 

「ドレークさん、家の中の物も使っていいですから」

 

 去る前にジャイルズさんがそんなことを言い出した。

 

「ん?」

「何をするつもりかわかりませんが、私たちは助けられたようですし、せめてものお礼です」

「……ありがたく使わせてもらおう。と言っても、使い道のありそうなものはなかったが……」

「まあ農具ばかりですから……で、でも害虫駆除用のネットとかは自信作でして!」

「畑仕事とは違うんだが……」

 

 もう僕、蚊帳の外。

 

 先に僕だけ船に乗ろう。なんかジャイルズさんがドレークさんに力説してるし。すねてなんかない。

 

 海の霧と違うという言葉も聞いてもらえなかったしちょっとぐらいすねてもいい気がするけど、すねてなんかない。

 

「え……」

 

 船に独り足を進めていたら、海の異変が目に入った。

 

 海は霧に満ちている。それは普段通りだ。

 

 だけど一ヶ所、異常な霧の濃度。

 あれはもはや霧とは言えない濃さだ。大きな煙が海に浮かんでいる。

 

「なん……」

「まだ太陽が出ている時間だというのに……。お前たち、小屋に入ってろ!」

「ど、ドレークさんあれはなんですか!」

 

 煙が動いている。当然だ。

 煙が近づいてきている。絶対ろくでもないことだ。最低だ。

 

「この島にも出てくる霧だ! 早く小屋に入れ!」

 

 霧!? あれが!?

 

 

 ───ォォォオオオオン

 

 

 なんだ今の音。煙……いや、霧の塊の中から聞こえてきた。

 

「あの霧からなんか聞こえるんですが!」

「気にするな! 早く入れ!」

「ドレークさんは!?」

「あれが俺の狙いだ!」

 

 ドレークさんはレイピアを構える。霧を消すと言ってたけどそんな細剣でどうにかできるものとは思えない。

 

 というかあれは本当に霧なのか?

 霧じゃないと考えた方が自然だ。霧ではない何か。僕の知らない何か……

 

 そんなの魔物とかに決まってる。

 

「ジャイルズさんは小屋に!」

「ミゼルさん!?」

 

 魔物ならまだ倒せる可能性がある。それにあの霧からはサエーナ鳥のような危険を感じない。

 

 あの霧相手に一緒に戦って、恩を売りつつ好感度を稼ごう大作戦だ。

 

「さ、さっきから小屋扱いですけど新居なんです! 家なんです!」

「ドレークさん! 僕も手伝いま……!」

 

 ドレークさんに目を向けると何頭もの魚の魔物が宙を泳いでいた。スカンダリア大灯台のかみつき魚と同じだ。

 

 気づけば島の上にも霧が覆っている。あの霧の塊のせいか。

 

「あの船のおこぼれ狙いか! 意地汚いやつらが!」

 

 フグ、海老の魔物の群れ。それと……あと一頭、赤い古代魚のような容貌の魔物。古代魚の魔物は一際大きい。おそらくはあれが群れのボス。

 だけどドレークさんの言葉からして、あのボスすら取り巻きみたいなものだろう。おこぼれ狙いの。

 

 あの船……船? 人工物?

 

 考えている暇はない。とにかく今は目の前の魔物の群れだ。ていうか、多すぎだ。

 

「銃弾が足りる気しないんですけど! うわおぅ!?」

 

 こっちに急に来るな……って、

 

「足を止めるな! 呑み込まれるぞ!」

 

 古代魚が大きく体を揺らし、それによって生じた見えない波に流されるように幾多の海老が迫る。

 

 海老の雪崩とでも言えばいいのか。海老の大きさと鋏のせいで痛いで済みそうにない。

 

「おおおおぅ!?」

「足を動かし続けろ! 立ち止まれば食い尽くされると思え!」

「は、はいぃぃ!」

「走りながら戦え! 魔物の波を読みきれ! 元海賊ならな!」

 

 ドレークさんの指導を噛み締める暇もない。

 

 お手本のように走りながら迫る魔物を切り裂いているけど参考になる気がしない! そもそも僕の武器は銃だし! 剣とは間合いが違うんで!

 

 とにかく走りながら魔物を撃つ。近づいてくるやつ優先だ。

 

「弾に限りがあるだろう! 群れのリーダーを狙え!」

「そんなこと言われても! 他の魔物が迫る壁みたいになってて全然狙えないんですけど!」

「流れを読め! あれは壁ではない! 波だ!」

 

 波って言うけど! かなり不規則なんだけど!

 

 ドレークさんだって近づいてくるやつ優先で斬ってるだけなくせ……に……?

 

 と思ったら全然違った。

 近づくやつも斬るけど、彼が優先して斬っているのは何か噴こうと膨らんだフグだ。

 膨らむフグ、海老、近くにいる魔物。この順番で斬っている。優先順位を定めている。

 

 襲い来る魔物もより優先順位が高い相手がいたら回避、時には踏みつけてフグを斬る。

 避ける動きも咄嗟の対応というより、あらかじめ敵の動きがわかっているかのような動きだ。

 

 どうやってそんな動きができるのか。ドレークさんの目はどこを見ているのか。

 

 ……本当にどこを見ているんだあの人。近くの魔物を全然見てない。見てるのは古代魚の魔物と……霧の塊。

 

 霧はもう間もなく島に完全に隣接しそうだ。あの霧が島に入るとどうなるか……

 

「目の前の水飛沫を見るな! 波全体を見ろ!」

「……難しい!」

「手伝うって言うならやれ!」

「はいっ!」

 

 返事はしたけど、全体を見ろと言っても……うん、やっぱりドレークさんの真似をしよう。見るのはあの離れている古代魚だ。それに焦点を合わせろ。

 

 あ。

 

「……!」

 

 視野が、広がった。

 

 右から海老の魔物が鋏をつき出しながら迫る。正面から上に跳ねながら魔物が迫る。

 

 離れた古代魚を見据えながら、全体が見える。背景のようにだけど。

 

「これなら!」

「……」

 

 これなら……どうすればいいんだろ? 対応しやすくなったけど、肝心の古代魚へ攻撃を届かせるのが難しいのは変わらない。

 

 これやっぱり他の魔物の壁を崩さないといけないんじゃ……!

 

 古代魚が体をくねらせる。力を溜めるように。

 

「来るぞ!」

 

 周囲の魔物が古代魚に寄っていった。

 

 まるで高波が来る前の引き潮のように。

 

 さっきの魔物の雪崩……いや、津波をするつもりか。だけど今の僕はよく見える。冷静に対処を……

 

「───無理くない?」

 

 赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤赤、赤赤赤赤赤。

 

 赤い魔物の、海老の魔物の津波が押し寄せてくる。改めて観察すればよくわかる。対処無理くない?

 できることと言えば、距離を取って逃げるのみだこんなの。

 

「ぼさっとするな!」

「してないんですけど!」

 

 赤い津波が他の魔物も巻き込み、大きく成長しながら押し寄せる。下の方の魔物はもはや原型ないぐらいに潰されてるけど……主にフグの魔物が。

 

「次は見逃すな!」

「ど、どういうことですか!?」

「言葉のままだ!」

「わっかんない!!」

 

 次はってなに!?

 今はダメってこと!? 見逃すなってことは今チャンスがあったってこと!?

 

 ガチャガチャと音を立てながら何頭もの魔物が地を鳴らす。かなりの数が下敷きになって潰れてるあたり、勝手に自滅してくれるのでは。僕の体力が持てばだけど。

 

 頭がぐるぐるする中で古代魚がまた身をくねらせる。

 

 またあの津波を起こす気か。この動作のどこかにチャンスがあるんだろうけど……普通に教えてほしい!

 

 再び引き潮のように魔物たちが古代魚へと寄っていっ──────あ、ここか。

 

 魔物たちが追う手を弱めて連携する寸前のここだ。この溜める動作の時こそ、壁が薄まる時でもあり、こちらが逃げずに反撃するチャンスでもある。

 

 壁はもうない。

 津波が起きる前に、少しでも距離を詰めろ。この銃の有効射程まで近づけろ。

 近づくほど致死ラインだ。もう津波から逃げれる距離ではない。さらに踏み込め。

 

「───今っ!」

「そうだ!」

 

 銃弾が古代魚の額に撃ち込まれる。血飛沫をあげて身悶えるその姿に、ドレークさんが一気に近づいた。

 

 他の魔物を蹴散らしながらも、一直線に突進する。周囲の魔物が妨害するように進路を塞ぐが鋭く速い剣術を前にあっけなく散っていく。

 

「霧を晴らす邪魔をしてくれるな。信念のない魚どもが」

 

 古代魚が迫るドレークさんに尾ヒレを叩きつけようとするも、対する彼は足を止めようとしない。それどころかより速くなったかのように見える。

 腕のレイピアはもう目で追えない。凄まじい速度の突進と出鱈目な速さの剣術。

 

 ドレークさんと古代魚がすれ違う。

 

 彼が足を止めたとき、古代魚の至るところから血が吹き地面に巨体を沈めた。

 

 その一連の光景を見た僕はひとこと。

 

 

「……漁師ってなんだっけ」

 

 

 としか言えなかった。

 

 

 

 

 




 


波浪の襲撃者。
大航海クエスト、バタビアのクエストボス。
連戦形式で最初に雑魚敵と二回戦闘。三回目にボスが登場という流れ。
シーロブスターとの連携、海神の怒りが強烈。

このお話の波浪の襲撃者戦はメタい言い方をすれば、ミゼルさんの戦闘訓練回です。
あとおこぼれを狙って出てきたとか言われてますが、実際は不明。たまたま近くにいただけの可能性のほうが高いです。はい。

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