とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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18.アユタヤに行く前に

 

 

 

 

 あの幽霊船との一件の後、町に戻って一泊した。

 

 そして今、バタビアからアーモロードへと進路を整えた船の上。

 現在この船には僕とシャーロットさんの二人だけだ。二人だけなので騒動の顛末と僕の外れた目論見について話していた。

 

「それであの海賊に振られたってわけね」

「元海賊ですよ……あの人の強さなら申し分がなかったんですけどね……」

「私は絶対反対だったから丁度いいわ」

「コミュ障!」

「あぁん!?」

 

 もうだんだんとこの人に対して遠慮はなくなってきた。向こうも本気でキレてるわけじゃないのでこれも一種のコミュニケーションだろう。

 

「まあいいですよ! 元々バタビアは冒険者をすでに募集し尽していたらしいですし! 別の都市で探せばいいんです!」

「まあ無駄な努力頑張りなさい」

「ちゃんと仲間ができたら仲良くするんですよ?」

「何目線よ、それ……」

 

 保護者目線ですね。

 

「で、次はどこ行くわけ?」

「アユタヤですねー。向かう前にアユタヤの海路について港長に確認を取りますから、一度アーモロードに戻りますけどね」

「アユタヤねえ……」

 

 アユタヤに行く理由はバタビアがダメだったから、という単純なものではない。

 

 あれからドレークさんに冒険者志望の知り合いがいないか確認したら、

 

『深都の発見に全力な冒険者志望……? めんどくさい条件だな。だが、アユタヤに当てはまる奴らがいたな。気になるなら行ってみるといい』

 

 とのこと。

 なんでもその冒険者志望は3人組。ただ航海技術がなく、そして金銭面も厳しいらしく渡航が難しいのだとか。だから勧誘を兼ねて迎えに行く。つまり今回はかなり強めのあてがあるのだ。

 なおこのことはシャーロットさんには秘密。驚かせるためだ。

 

 潮風に当たるシャーロットさんに声をかける。

 

「楽しみですねー」

「はいはい」

 

 どうせ誰も捕まえれないと思ってそうなリアクションだ。だけどそのすまし顔が驚きに染まる、その時が今から楽しみよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーモロード、インバーの港。

 ほんの2日ぶりだけどずいぶんと久しぶりに感じる。

 

「それじゃあ僕は港長と話があるんで、シャーロットさんはしばらく街をぶらついてていいですよ」

「あんた私のことだいぶ子供扱いしてない?」

「まっさかー。でも実際、シャーロットさんには退屈な話しかしないと思いますし、大事な情報があったらちゃんと伝えますから」

「まあいいわ。丁度買い物もしたかったし」

 

 シャーロットさんを見送って僕は港の管理小屋へと向かう。

 

 港長との話、アユタヤまでの海路の確認もあるが、もうひとつ大事な話がある。

 幽霊船についてだ。

 

「港長ー」

「おや、ミゼル君。バタビアまでの旅路はどうだったかね? あそこは交易都市として有名だから珍品も多くてね。お土産なんかがあると嬉しいのだが……」

「観光の余裕はありませんでした。それよりも聞きたいことと……あと見てほしい物が」

「ふむ?」

 

 海図や出航記録簿を机の上からどかしてもらい、戦利品……といえるか怪しい代物を包みから取りだして港長に見せた。

 

「これは……虫の一部かね?」

「はい。幽霊船の船員だそうです」

 

 机の上に置かれた代物。それはあの蟲どもの体の一部だ。

 臭気が凄まじいので幾重にも布で包んでここまで運んできたもの。時間が経ったのに未だ臭い。

 

「……まさか、あの船と遭遇したというのか。それに船員? これが……?」

「はい。あの船を追ってた人と協力して、なんとかその場は切り抜けましたが……」

「そうか。君が無事で良かった……色々と聞きたいことがある。何が起きたか説明してくれるかね」

「はい」

 

 できるだけ事細かに、バタビアで起きた出来事について僕は話した。

 

 

 

 

「幽霊船の正体はクラーケン……船員たる蟲は共存関係か。しかし、人の感情に反応する怪物とはな……」

「信じがたい話ですが、実際に人間の意識の有無に大きく左右されてました。どうして恐怖を与えることが目的なのかは予想がつかないですけど……」

「……」

「港長?」

「あ、ああ。すまないね。幽霊船の報告、感謝しよう。それとこの件は口外禁止で頼むよ」

「はあ……理由を聞いても?」

 

 口外禁止をする必要性がわからない。

 あの幽霊船は確実に危険な存在だ。なら前もって情報を共有していたほうがいいと思うのに。

 

「……今はまだ話せない。私も半信半疑な話なんだ」

「そりゃ恐怖を求めて動く怪物なんて信じにくいかもしれませんが───」

「君の報告は信じているとも……だが、聞かされた話とあまりにも酷似している……」

 

 聞かされた話?

 

 今の報告と、似た話を聞かされていた? 誰に……いや、誰からかなんて重要じゃない。それよりもなんでその情報を開示しないのかだ。

 

「港長、聞かされた話ってなんですか。何を知っているんですか」

「……この件は元老院が何年も前から抱えている案件だ。私からは話せない。元老院への報告は私が行う。とにかく先の件、口外は禁止だ。君の仲間にもそう伝えておいてくれ」

「港長!」

 

 港長は振り返ることもせず管理小屋を出ていった。

 一瞬見えた彼の顔は、普段の穏やかな雰囲気など一切なく、険しい顔つきだった。

 

 結局たいして情報を得られなかった。幽霊船について、クラーケンについて何かしら得られないか期待していたのに。そうでなくても情報共有のためにと思ったのに。

 いや、前向きに考えよう。元老院が何か知っているかもしれないとだけはわかった。その目的はさっぱりだけども……そもそも元老院は深都の発見を切望しているとしか知らないや。深都を望み、そしてクラーケンについて何か知っている。

 

 ……クラーケンの情報を秘匿にする理由が全然わからない。

 

「ていうか臭……」

 

 机に蟲の欠片を置きっぱなしだ。もしも何か分析に使えるならと持ってきたのに港長は置いていっちゃうし。これはさすがにネイピア商会で買い取ってくれないだろうなぁ。臭いし。かといって捨てると、後から必要だったのにと言われたら困る。入手手段があまりにも少ないし。

 

 よし、布でぐるぐる巻きにして小樽に詰めよう。臭いものには蓋だ。

 

「ていうか港長にアユタヤの海路について聞けなかったな……」

 

 くそう。話す順番を間違えたか。

 まぁ机に置いてあった海図が最新のだろうし、それを見ればアユタヤの位置もわかる。方角さえわかればあとは海で調整、調整、調整だ。あの霧の海じゃ常に進路調整だし。

 

 というわけで海図を拝見……うん、文字がわからん。アーモロードはどれだ。バタビアは……わからん。

 

「アユタヤってこれかな……」

「それはスカンダリア大灯台ね。アユタヤはこっちよ」

「あ、なるほど……」

 

 海図を凝視していると女の人の声。誰だと顔をあげれば、

 

「……ヴィクトリアさん」

「久しぶりね。と言っても数日しか経ってないか。相変わらず白いわね」

 

 サエーナ鳥討伐作戦で一緒に行動したロイヤルガーズの戦うお姫様、ヴィクトリアさんがそこにいた。

 

「なんだか今朝も会った気分です」

「それは完全に錯覚よ」

 

 まぁそうだけど。

 なんでそんな気分になったのかと一瞬考え、すぐに合点がいった。ヴィクトリアさんの顔立ちがシャーロットさんと似ているのだ。

 

 世の中にはそっくりさんが3人いるとか、そんな迷信も500年後でも通用しそうだ。

 

 それよりもどうしてヴィクトリアさんが港の管理小屋なんかに来てるのだろう。

 

「港長に何か用があったんですか?」

 

 だけど港長は元老院に報告に行っちゃったのでいません。

 

「ミゼル。アユタヤに行く予定なの?」

「僕の質問ガン無視とは……」

「な、なんだか少し会わない間に変わったわね」

「あ、すみません。ヴィクトリアさんが知り合いに似ているもんで……」

 

 この人はヴィクトリアさん、ヴィクトリアさん。ヴィクトリアさんはどこかの国のお姫様。つまりは王族。よし。

 

「えと、アユタヤに行く予定ですね。そこに冒険者志望の人がいるらしいので勧誘しに」

「海賊を辞めたのは本当だったのね。ベンジャミンが喜ぶわ」

「あはは。今では仲間集めに奔走する冒険者です」

 

 正直安定性が一切ないから素直に喜べるとは思えないです。

 

「ねえ、私たちもアユタヤに連れていってもらえない?」

「へ? ヴィクトリアさんたちを?」

「ええ」

 

 なんでまた。

 アユタヤまでの渡航費を節約したいのだろうか。王族なのに。でも小国らしいから案外経済面で苦しいのかも……そういえば大灯台でもお金がって騒いでた気がする……

 

「何その目」

「いえ……世の中って世知辛いですよね……」

「何を考えてるのか知らないけど、それでどうなの? さっきの答えは」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

 ヴィクトリアさんたちってことは、アルバートさんとベンジャミンさんを含めたロイヤルガーズの3人だ。港長から許可をもらった船なら5人程度余裕だ。10人ぐらいまでならいける。大きさ的に。

 

「でもどうしてヴィクトリアさんもアユタヤに?」

「私はアユタヤと言うより、あの子……あなたの仲間のことが気になってね」

 

 シャーロットさん?

 

 なんでヴィクトリアさんが気にかけてるんだろうか。やっぱり顔立ちが似ているから? あ、それよりもシャーロットさんの問題行動が他のギルドに有名とか。明らかにあの人、ペイルホースのころ浮いてたし。好戦的だし。そんな凶暴な人と真っ白もやしが一緒で不安ということか。余計なお世話だい。

 

「大丈夫ですよ。確かに彼女はまぁ、かなり脳筋でアレですけど頼りにな……るかな……?」

 

 あの人の戦績って知ってる限りじゃあまり良くないや。

 オオヤマネコには勝ってた。毒蜥蜴1頭には勝てたけど、複数には勝てないし。ドレークさんとの一騎打ちでも負けてたし。勝率は5割。この先どう転がるかだ。

 

「ま、まあ僕よりは強いですから頼りになります! はい!」

「……ならいいんだけど。でも私たちもアユタヤに行くわ。だからよろしくね」

「あ、はい」

「いつ出航するの?」

「えっと……」

 

 港長と話してからと思ったけど、いつ戻ってくるかわからない。アユタヤの方角はわかったことだし海図を書き写して、と。シャーロットさんの買い物がいつ終わるかもわからないし、昼食も考えてっと。

 

「14時に出る予定で考えてます」

「わかったわ。それじゃ、その時間になったらここにまた来るわね。置いていかないでよ」

「あ、はい」

 

 今回の旅路は賑やかになりそうだ。

 ひとまずアーマンの宿の先生に挨拶してからご飯食べに行こっと。

 

 

 

 

 先生と挨拶はそこそこに、ご飯を食べに行くお店はいつもと同じ羽ばたく蝶亭。他のお店に入ろうというチャレンジ精神はない。だって字が読めないし。

 

「イラッシャイマシー! ヨク来たナ! またトーマにオゴリに来たノカ!」

「お、マジか! ありがてぇなぁ!」

「違います」

 

 またトーマさんお水で粘ってる。

 今日はボーグマンさんはいないようだ。店内を見渡してもそれらしい人物はいないし。

 

 え、あれは……

 

「ん? どうした?」

 

 トーマさんが何か言っているが、僕はある人物に視線が釘付けとなった。

 

 あの服装は、さらには手に持つあれは……巻物。

 

「おーい? どしたー?」

「トーマ、ミゼルはどうしたんデスカ」

「……わかんね。おーい?」

「トーマさん、あのあのあのあのあの」

「お、おお?」

「あの人! あの人!」

「どしたどした?」

 

 興奮が半端ない。

 だってあれは、あれは間違いなく──────

 

「ニンジャ!」

「そ、それがしのことで御座るか?」

 

 しまった! ニンジャに注目していたことがバレてしまった! 突然煙と共に消えてしまいかねない!

 バレてしまってはしょうがない! 勢いでサインを求めなくては!

 

「サインください! あ! それより忍術見せてください!」

「待て待てミゼル落ち着けって。キリカゼがすげぇ困ってるから」

「トーマさん知り合いなんですか!?」

 

 ニンジャとまで知り合いだったなんて、トーマさんは想像以上にすごい人物じゃないか。

 

「この御仁は……たしか港にいた……」

「お? こいつのこと知ってるのか?」

「農民夫婦の困難な渡航依頼を、気持ちよく受ける心優しき御仁として記憶に新しい。それになにやらシノビに好意的な様子」

 

 読んでいた巻物、きっと秘伝の忍術書を丸めて話してくれるニンジャさん。

 

 農民夫婦……? あ、ジャイルズさんたちのことか。

 あの時どこかにいたのだろうか。さすがニンジャ……気配がないなんて……

 

「キリカゼさん! ニンジャ!」

「ミゼル、興奮しすぎてあのねーちゃんみたいな口調になってんぞ」

「す、すみません! 生でニンジャを見るのは初めてでして……」

 

 なにやらニンジャ、友好的。

 なら引かれないように、落ち着いて紳士的に、そして交友を深めないと!

 

「してミゼル殿。それがしに何用で御座るか?」

「あ、えと。サイン……」

 

 しまった。色紙がない。

 

 わたわたと鞄を漁るがメモ帳すら出てこない。何をやっているんだ僕は。今度からちゃんと常備しなくては。

 

「申し訳ないが、それがしはシノビ。主の許しなしに己の印を記すわけにはいかないで御座る」

「あ……そうですよね……。ニンジャですもん」

 

 ニンジャは忠義に厚いもんね。そして忍法を扱う戦士。

 あ、ていうかなんでここにニンジャが?

 

「キリカゼさん、でいいんですよね? どうしてこんな場所に?」

「コンナ場所とはドウイウ意味ダコノ新米ボウケンシャー! アタシを怒らせタイカ!」

「す、すみません! なんか僕の知識だと、ニンジャってこう、暗闇から暗闇へって感じで!」

 

 純粋な好奇心が酒場のママさんへの流れ弾になってしまった。

 

「フフ。シノビとて腹を空かせるもの。だがしかしミゼル殿の質問は、何故海都にという意味で御座ろうが」

「あ、はいそうですそうです」

「それがしは主が求める宝を探しているので御座る。海都の未だ底の見えぬ迷宮。そこに主の求める宝があるやもしれぬと思った次第」

 

 ……すごいニンジャしてる。かっこいい……女性だけど。この場合はあれだよね。クノイチっていうんだよね。女性のニンジャは。

 

「言ってしまえば、それがしもミゼル殿と同じ冒険者で御座るな。ミゼル殿とは良き関係を築きたい」

「光栄です!」

「そう畏まらなくとも大丈夫で御座るが……」

 

 

 

 この日の昼食は緊張のあまり味がよくわからなかった。

 

 だけど興奮しぱなっしだった。だってニンジャがいるんだもの。

 

 

 

 

 

 

 




 


キリカゼ
大航海クエストの共闘NPC。クラスはシノビの女性。
分身からの多元抜刀で戦ってくれる。また彼女のAIは優れているため呪いカウンターなどには引っかからない。全体攻撃が来るときは分身しない、と無駄が少ない動き。カッコいい。

今回登場した理由はただの顔見せ。


ヴィクトリア
大航海クエスト共闘NPC。ロイヤルガーズのメンバーの一人。
スカンダリア大灯台での話で出たので、ゲーム中の活躍はそちらを参照に。
大灯台の一件後もアーモロードにいた様子。



書き溜めは目標まで書けてないけど、だいぶ溜まったしと投稿開始(意志がよわい)
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