ヴィクトリアさんに伝えた出航予定の時間まであと少し。
インバーの港で僕とシャーロットさんは待機中である。
「今回も同行者がいるなんてね。あんた良い様に利用されてんじゃない?」
「それをシャーロットさんが言うかなあ」
家族を見返すために、って理由で僕を利用しようとしているじゃないですかあなた。
「私のはあんたにとっても利点があるからいいじゃない」
悪びれなしだよこの人。
「それにしてもアユタヤねぇ。商業の盛んな街だって聞いたことあるけど、少しだけ楽しみね。すこーしだけ」
「僕は楽しみな反面少し不安ですけどね……」
「仲間が見つからないことに?」
「そっちは大丈夫です、はい」
それよりもアユタヤだ。
アユタヤはクロスジャンケ海賊団がいるかもしれない。つまりザビィさんがいるかもしれないのだ。
ザビィさんの船を降りて冒険者になったというのに、1週間もせずに再会って気まずいよ。あんな別れ方したのにすぐ再会ってどうかと思うよ。
でもでも、仲間集めはしないとだし……うまい具合にすれ違いますように!
「それにしても遅いわね。本当に時間合ってるの?」
「もうそろそろ来てもおかしくないんですけどね」
ロイヤルガーズの面々が未だに来ない。
時間とかしっかり守りそうなのに……って言ってもまだ遅刻ってわけじゃないけども。とかなんとか思ってたらヴィクトリアさんたちが見えてきた。
「あ、来ましたよ」
「やっと───」
「シャーロットさん?」
苦虫を噛み潰した顔、とでも言うべきか。すごく嫌そうな顔だった。
そんな彼女にヴィクトリアさんが声かける。
「久しぶりね。ギルドを抜けたみたいじゃない」
「……どうも」
並ぶ二人はやっぱり顔つきが似ている。ていうか知り合いだったとは。いや、知り合いというよりこれは、
「親族……? な、わけないか」
「いや、合ってるぞ」
「え」
「久しぶりだな、ミゼル」
相変わらず軽装な騎士姿のアルバートさんだ。
ていうか今さっきアルバートさんの言った通りなら……
「シャーロットさんも、王族……?」
「あー……血筋で言えばそうだな」
「アルバート、喋り過ぎだ。ミゼルさん、お元気そうでなによりです」
「いいじゃないか。ミゼルも知っておいた方がいい話なんだからな」
「ほあ」
アルバートさんとは対照的に重装備姿のベンジャミンさん。相変わらずお堅い感じ。
ていうかやっぱり王族なんだ……え、どうしよう。知らなかったとはいえ、結構、ふざけた接し方をしちゃったというか……不敬罪とか普通に適用されそう。
「ええっと……色々聞きたいことがあるんですが」
「ま、姫様から聞いてくれ。俺たちは姫様の従者だからな。勝手にべらべら話すわけにはいかないからよ」
「アルバートは勢いで全て話してしまいそうだけどな」
姫様ってこの場合は、ヴィクトリアさんの方だよね。アルバートさんたちの姫様はヴィクトリアさんだし。あれ? そう考えると同じ王族なのにシャーロットさんには従者がいないのがなんか変だ。それに……ヴィクトリアさんとシャーロットさんはどこかぎくしゃくしているというか……
あ。
そうだ。新情報が衝撃事実過ぎて忘れかけてたけど、シャーロットさんの目的は家族を見返すこと。そんな目的を持つ人の親族なら仲が悪くてもおかしくない。
今回の旅路、賑やかになるどころか逆に冷めきってしまいそう……
「え、えっと、出発しましょうか! ヴィクトリアさんたちも船に乗りましょう! こっちです!」
「……」
「……」
よし、もう無理に盛り上げる努力はやめよう。むなしい。
アユタヤまでの船旅。距離だけで言えばだいたいバタビアの倍だ。だからバタビアの時より長い旅路となる。うまく海流に乗れたら短くもできるけど、博打すぎるので安全航路。その間の船の雰囲気は想定してたよりかはマシだ。
と言っても単にシャーロットさんが船室内に篭ってしまったからだったり。シャーロットさんがいないとヴィクトリアさんは普段通り……というか大灯台の時と同じような雰囲気。つまり話しやすい気安さがある。
空気が重くない点はいいけども、これは単に臭い物に蓋をしただけのその場しのぎ感が半端ない。
「あの、ヴィクトリアさん」
「なに?」
なんて聞けばいいんだろうか。聞きたいことが聞いてもいいものなのか判断つかない。いや、僕が判断する必要なんてないか。答えれないものはきっと答えないだろう。もう丸投げ質問だ。
シャーロットさんと仲が悪いみたいですけどなんでですか? 彼女の目的を知っていますか?
とりあえず聞きたいことは大きく分類してこの2つ。
「シャーロットさんと仲、悪いんですね」
「そうでしょうね」
「……」
「……」
聞き方間違えた。
「え、えと、似てるなァと思ってたんですけど、血縁関係だったんですね」
「聞いてないのね。あの子と私は姉妹。私が姉で、あの子が妹」
「へぇ」
会話って、難しい。
これじゃシャーロットさんにコミュ障とか言えない。言ったけど。あれも不敬罪になりかねないのでは……
「でも知らなかったんだし……教えてもらってなかったし……」
「? それにしても……あの子、やっぱりあなたに何も言ってないのね」
「はい?」
身分についてですか。全く言ってなかったです。まあちらほら身分が高いんだろうなあって思わせる雰囲気はあったけど。
ヴィクトリアさんといいシャーロットさんといい、王族と2人も知り合えるとか驚きの時代だ。
「……そういえばヴィクトリアさんって確か、掟で旅してるんでしたっけ」
「ええ、そうよ。王位継承権を得るためにね」
仲が悪い理由が少し見えたぞう。派閥争いだきっと。
姉妹といえど王位を継承できるのは独り。だから仲が悪く、みたいな。そう考えると2人はライバル関係みたいなものか。仲良しになるには難しそう。
「あの子に継承権を得る資格はないわ」
「い、いきなり強者宣言」
私が継承権を手に入れるからね、みたいなこと言いだされるとは。
「そういうことじゃなくてね。純粋に、あの子は継承権がないの。お父様───国王様があの子から資格を取り上げたから」
「資格がない……? それで見返す……」
家族を見返すと言ってたのはそこか。
「あの子がそう言ってたの?」
「はい」
あ、普通に言っちゃったけど良かったんだろうか。もう取り消しようがないけど。
「……あの子、なんで継承権を剥奪されたのかわかってないままなのね」
「えーっと……」
そんな意味深なこと言いながら物思いにふけらないでください。説明をください。
「ミゼル、あの子とギルドを作るって聞いたわ」
「まぁ、そうですね。まだ名前とか決めてないですけど」
「あの子は入れない方がいいわ」
いきなりそんなこと言われても困る。
シャーロットさんは確かに問題児だけど、彼女がいなかったら僕はソロギルドだ。僕1人で樹海に挑めば蜥蜴に食べられるオチしかない。
「姫様、事情の説明なしにそんなこと言われても困るだけだと思いますが」
アルバートさんが助け舟なのかなんなのか判断つかないフォローを入れてくれた。
どちらかというとヴィクトリアさんへの助け舟だよね今の。まあアルバートさんの立場から考えたら当然か。
「それもそうね」
話す順番を考えてから、ヴィクトリアさんは口を開く。
「私の国は、王家が民に強さを示して導く。そんな方針なの」
方針て。まるで家庭の教育方針みたいな言葉のチョイスはどうかと思う。もっとこう、国是とか表現があるじゃないか。
「あの子は昔から戦う強さがすごかった。剣を取れば同じ歳の子には負けなしで、大人にも勝つことがあったぐらい……戦いの技術はすごかった」
「私もアルバートも打ち負かされてばかりでした」
今のシャーロットさんをそのまま幼くした感じかな。なんか性格悪そうな幼女をイメージしてしまったけど。
「王家は力が必要。だから誰もがあの子は偉大な王になれると期待していたわ」
オチがもう見えた。
「あの子の戦う技術は本当にすごかった。だけどそれだけだった」
「……」
「ある日、国をあげての剣術大会があったの。国の騎士団も参加できる大会でね。その時優勝したのは当時の騎士団長だったわ」
「……」
「シャーロットは、優勝した団長に自分と戦うように言いだしたの。表彰式の時だったわ」
「やっぱり……」
暴走して大迷惑をかけたとかそんなんだと思った。
「国民が見ている前で、急遽異例の試合が始まった。団長は木剣で、シャーロットは素手で」
「え」
「試合は一方的だった。団長の攻撃は一度も当たらず、シャーロットは片手しか使わず」
「そんな強かったんだ……ていうか性格悪」
「団長に勝った後、あの子が公衆の面前で言った言葉、今も覚えてる」
『この程度ならさっさと騎士を辞めた方がいいよ』
「なんでそんなこと言っちゃうんです……? しかも国民が見てるんですよね!?」
「性格が悪い脳筋なんでしょ」
「身もふたもない!」
予想してたオチに近かったけどここまでひどいオチは想定してないよ。
「騎士団長は人柄も良くて、誰からも慕われていたわ。そんな人に対して侮辱行為。その後一仕事終えましたーみたいな顔でお父様の元へ戻っていくのよ。いくら強くても、馬鹿で無神経な王に導かれたいと思う国民なんていないわよ」
「それは、そうですけど……」
「お父様も怒るわ。私も怒ったわ。でも怒られた本人はキョトンとするだけ。なんで怒られたのか一切理解してないの。たとえ反省したとしても、もうあの子に対して民は悪感情しか持ってない。だからあの子は王位継承権を完全剥奪されたの」
完全に自業自得だ。見返すとか言ってたけどあの人が全面的に悪いじゃないか。
「でもあの子も王家の人間。いつまでもそんな脳筋のままじゃいけないからね。見聞を広めさせるためにお父様は旅に出させたわけ。だけど完全に自由にさせてたらどうなるかわかったものじゃないわ。だからいくつか条件をつけたの」
「……ひとりで樹海に入らない……ギルドを作らない」
「そうそれ」
ひとりで樹海に入ったら脳筋暴走で勝手に死にかねない。
ギルドを作ればあの人がリーダーとなる。周囲を巻き込んで脳筋暴走で死にかねない。もしくは見切りをつけられて結局ひとりになりかねない。だから上の立場を与えない。
「そもそも王家の力は個人の武じゃなくて周囲を奮い立たせ、束ねた力でもあるのにあの子は……完全に民に嫌われ個としてしか力を振るえなくなって……」
もう何も言えないよ。
家族を見返すより自分を省みてほしいよ。
「そんなわけでね、あの子をギルドに入れない方がいいわ。こう言っちゃなんだけど、ミゼルって押しに弱そうだし……」
「そういう理由もあるんですか……」
「そ、その、優しそうでいいと思うわよ!」
「精一杯のフォローありがとうございます……」
僕っていう一人称が頼りなく見えたりするんだろうか。俺とかにした方がいいかな。ダメだ、違和感半端ない。
「事情はわかりましたけど、でもやっぱりシャーロットさんはギルドに入れたいです」
「あの子が暴れないように見張るわよ?」
「いや、癇癪を恐れてるわけじゃなくてですね……。そもそもギルドを作る切欠はシャーロットさんなんです。彼女の目的はまあ……ちょっと頭悪い感じがありますけど、そこは人それぞれですし」
それに、さすがにヴィクトリアさんの話のころよりはシャーロットさんも成長しているはず。成長どころか変化もあるはずだ。
「あとあれですね。一番重要なことなんですけど」
「何かしら」
「シャーロットさんと一緒にいると楽しいんですよ」
反応が結構楽しいし。代償に痛みがくるけど。
あ、でも不敬罪になる可能性があるのか……
「そう。余計なお世話だったみたいね」
「はい」
まあ今は不敬罪について考えなくてもよさそうだ。聞いてた感じ、勘当に近い物があったし。
だからシャーロットさんとは今まで通りの距離感でいよう。
「それにしても、あの子船室で何やってるのかしら」
「ヴィクトリアさんと顔を合わせにくいんでしょうね……船室には本があったはずですし、それで暇でも潰してるんじゃないですかね」
「先ほど様子を見てきましたが、剣の素振りをしておりました」
「……」
「……あなたの妹さん、筋肉馬鹿すぎません?」
「……脳筋だもの」
原作にはヴィクトリアの妹なんて出ません。なんてこったい。
19話にしてようやくオリキャラその2の掘り下げが少しされる低速。
というわけでシャーロットさんはソードマン/プリンセスです。
ゲームで言えばプリンセスのスキルは全く取れてない状態。
話が進んだら彼女の視点でどういう思惑だったか触れられたらいいなーと思ってます。
次話からアユタヤ編突入です。