とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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2.スカンダリア大灯台の光

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた時、500年後のそこにはどんな景色が広がっているのか、と想像したことがある。

 

 自然と生命溢れる美しく力強い景色かもしれない。

 

 穢れきって命蝕む残酷な世界かもしれない。

 

 前者なら幸せだ。後者であっても、僕らの体内に注入された薬品によってなんとか生き延びれるだろう。どちらであっても世界樹の力の発露よりは生き延びれるからと、僕たちはカプセルに入った。

 生き延びれたら、今までの文明を捨てて生き延びれたら、きっと始めは苦労するだろう。不慣れな生活の中、生きていくための基盤を作っていく。それらが整ったら今度は目的のために動けるか、怪しかったけど賭けるしかなかった。

 

 目覚めた時、どんな世界であってもいいように、色々考えていた。

 

 

 だけどまさか

 

 

「ザビィさーん! なんか! でかい渦が!!」

「ザビィ様だ! 進路を変えるよ!」

「姐御! 南も駄目だ!」

「見えているさ! ガブラー、魔物が顔だしたらすぐに撃ちな!」

「アイサー!」

 

 

 海賊と一緒に船に乗ることは一切想像できていなかった。ましてやこんな戦闘があるなんて。

 

 

 海は荒れ狂い、巨大な魚が牙を生やして襲ってくる異常環境。世界樹の発露が失敗したのではと思わずにいられない。だけど失敗していたら人間は残っていないはずだ。だから成功して、コレなんだろう。それとも昔から海はこんな感じだったのだろうか……いや、それはないはず。

 

「な、なんだこれ! フグ!?」

「ミゼル! あんたも撃ちな!」

「は、はいぃ!」

 

 フグが、フグにしては異様に大きな何かが海から飛びだし口から何かを吐いていく。僕の知っているフグはもっと小さい。ここにいるのは車のタイヤぐらいはありそうだ。

 

 海賊船に乗るならばとザビィさn……さまから渡された銃。少し重たい銃を構えてみたけどすでにフグ(っぽい何か)は海に潜っていった。

 

「い、いった……」

「ぼさっとすんなミゼル! すぐに出てくる!」

「は、はい! イビールさん!」

 

 海賊ってこんな化け物と戦う存在だったっけ。B級映画にでも出てきそうな巨大生物がそのうち出そうだ。おまけに霧のせいで視界がずっと悪いし。

 

「姐御! 進路整った!」

「照明弾! 後方に撃ちな!」

「アイサ!」

 

 その掛け声から数秒後、まばゆい光が少し離れたところで散らばった。するとその光にいくつもの魚影が迫っていくのが見えた。

 

「今のうちに進むよ!」

 

 フグだけじゃなく馬鹿デカい鮫のような生き物までもが暴れている景色が後方に広がっている。

 

 なんというか、思っていた世界と全然違う……

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか撒けたか……」

「休んでる暇はないよ! ガブラーとイビールは交代しな!」

「アイアイサー!」

「ミゼル、次こそちゃんと撃ちな! 外したっていいって言っただろう! 次も同じ体たらくだったら囮に使うからな!」

「は、はい! 今度は撃ちます!」

 

 囮に使うっていうのは叱咤のための噓だと思いたい。確認する勇気はないし、確かめようとも思わないので次は撃たなくちゃ。撃ち方は教えてもらったから問題ない。たださっきは想像以上に魚が大きかったからびっくりしただけで……

 

「……海ってもっと平和な場所なんじゃ」

「平和な海なんて聞いたことないね」

 

 独り言が聞かれてた。ちょっと恥ずかしい。

 

「着の身着のまま浮かんでたあんたが特殊だったんだ」

「……僕、どうして無事だったんですかね」

「そりゃこっちが知りたいことさ。それよりミゼル、舵取りを横で見て学びな」

「は、はい!」

 

 銃に剣に舵に、覚えることが多すぎて考え事があまりできない。する余裕がない。

 

 余裕があればイミスのことや室長、他の研究員について考えてしまい、苦しくなってしまうかもしれない。だから今は、今だけはこれでいい。

 

 相変わらずの霧のせいで先が良く見えない海。

 おかげで船で遠出する人間は少ないとか。その分海のお宝を手に入れるのが楽だとザビィさんは笑って言ってたけど、逆に言えば誰も海に出たくないほど危険なのでは。

 とはいえ、さすがに無鉄砲に海に出ているわけじゃなく、今回はアーモロードという街を目指して航海しているらしい。それも今日には着く予定だとか。

 

「そろそろ灯台の灯りが見えてもおかしくないんだけどね」

「霧とか渦のせいで進路がずれてたりとか……いえ、なんでもないです!」

「まだ何も言っちゃいないさ。まあ……スカンダリア大灯台の灯りなら霧があろうと、万が一に進路がずれていようと見えるって話なんだが……」

 

 もしも今日中にアーモロードに着かなかったらと思うと不安しかない。いい加減陸地で安心したい。さすがに陸地は海みたいな魔境じゃないはずだ。

 

「……あ」

「ん?」

「今あそこで光ったような……」

 

 霧の中、金色の光がチラついた。それも結構な高度から。

 

 指で示している最中にも再び光が見えた。

 

「よし、スカンダリア大灯台で間違いない。進路をあの光に調整するから周辺をよく見ときな。アーモロードはこの辺りだ」

「ようやく……!」

「ここで魔物にやられちゃおしまいだから気ぃ抜くんじゃないよ」

「はい!」

 

 ザビィさんはイビールさんとガブラーさんにも目的地が近いことを告げ、殊更に気を引き締めるように言った。

 

 大灯台からはまた光が放たれ……あれ?

 

 光の見え方がひどく不規則だ。灯台の光は一定なんじゃ……時代の変化の影響だろうか。僕の常識はここでは通用しないのかもしれない。魚とかが現にそうだし。

 

「姐御!」

「なんだい!」

「南から船が近づいてくる! アーモロードの船かもしれねえ!」

「そいつから目ぇ離すんじゃないよ! あの幽霊船かもしれないんだ! 進路は変えず!」

「アイアイサー!」

 

 また新しいトンデモ単語が出てきた。幽霊船ってオカルトな単語だ。

 

「!」

「照明弾!?」

「あ、姐御!! 南の船が何か書いた旗を振ってる!」

 

 辺り一帯を照らす光が、灯台からとは違う光が南から上がった。

 その船から出したもので間違いないだろう。旗を振ってるってことは何か伝えたいのだろうか。幽霊船だったら恨み言とか。

 

 

「……『大灯台に 近づくな』?」

 

 

 イビールさんが望遠鏡を覗きながら呟いた。

 内容がなんだか不気味だ。近づいたらどうなるというのか。

 

「……イビール、そいつらが妙な動きをしたらすぐに言いな。わざわざ照明弾を使って伝えてきたんだ。詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか」

「アイサ!」

 

 大灯台に近づくな。

 何か落とし穴でもあるのだろうか。あの光までの道のりの中。海に渦があるようには見えない。巨大な魚影も今のところはない。

 見えるのは高所の不規則な金色の光だけ。照明弾のおかげで少し灯台の形がうっすらと見えているけど、本当にそれだけだ。

 

 イビールさんは南の船を、ガブラーさんは周辺の海域を見張っている。

 ザビィさんは辺りを見、そして灯台の光を見た後舌打ちした。

 

 なんだか機嫌が悪そう。灯台に早く行きたかったのに邪魔が入ったとか考えているんだろうか。海賊はよくわからない。

 

 やがて南からの船が肉眼で見える距離となり、クロスジャンケ海賊船の隣までやってきた。

 

「良かった。ギリギリだったな。それ以上灯台に近づいていれば危なかったぞ」

 

 南から来た船の乗組員は、自分たちは海都アーモロードの海兵だと告げた後そう言った。

 

「海のお宝を全て手にするクロスジャンケ海賊団のザビィ様だ!」

「ザ、ザビィさん海賊って言わない方が……!」

「あたしをせこい海賊と一緒にすんじゃない。名前ぐらい堂々正面から名乗ってやんのがあたしらの流儀さ!」

 

 海兵に海賊って名乗るのはどうかと思う。

 

「海賊でもなんでもいい。一度アーモロードまで来てくれないか。お前たちが出た港はどこなのか、どういった航路を使ったのか教えてほしい。あの大灯台のせいで、外から船が無事に辿りつくことが少ないんだ」

「アーモロードでもあれはわかってんだね。あんなもん放置しといて何やってんだい海兵さまは」

 

 大灯台のせい? あんなもん?

 何を話しているんだ。灯台が危険なもののように言ってるけど。

 

 もう一度大灯台の光を見る。金色の光はキラキラと輝いている。やっぱり不規則な光り方のままだ。

 

「この距離からでも見えるほどのあれはなんだい。ロクでもない奴ってのはわかるけどね」

「海都でもアレには手を焼いているんだ。説明はあとでゆっくりしてやる。だから今は我々についてきてくれ。いつ奴がここまで来るかわからない」

 

 海兵の船は進路を変えて南へと進んでいく。それに倣うように、ザビィさんも進路を変えた。

 

「姐御? 海兵のやつらについていっていいんで?」

「元々あたしらの目的地はアーモロードだ。案内してくれるなら願ったりだよ。それに、灯台に行くわけにはいかないからね」

「そりゃどういう……」

「……あ」

「ミゼル? どうした?」

 

 

 

 灯台の光が大きく動いた。

 

 

 

 

 波の揺れによって見間違えたわけではなく、光の明滅で勘違いしたわけでもなく、灯台に見えていた金色の光がふわりと高度をあげた。

 

「───っお前たち急げ! 奴が動いた!!」

「クソッ! イビール、ガブラー! 弩を構えな! 近づかせるんじゃないよ!!」

 

 金色の光が大きくなっていく。

 

 いや、大きくなっているんじゃない。近づいているのだ。灯台の光が──────灯台の上に居座っていた光の正体が、近づいている。

 

「なに、あれ……」

 

 その正体は巨大な鳥だった。

 金色の翼を持ち、赤い体毛に覆われた胴体、広げられた翼からは電気が迸っているのが見える。その翼の輝きが、灯台の灯りに見えたのか。

 

「ミゼル! あんたも撃ちな!」

「は、はい!」

 

 明らかにあの鳥は敵意を持ってこちらに向かっている。旋回する様子が一切ない。あんな怪鳥とこの小さな海賊船がまともにやりあえばどうなるか、想像に難くない。

 イビールさんとガブラーさんの弩から放たれる矢を躱しながらも怪鳥は接近してくる。銃も撃ってはいるが、あの巨体には豆鉄砲のようにしか感じないのか、ビクともしていない。

 

 怪鳥の翼の電気がより一層激しくなる。

 途端、怪鳥は空中で急停止した。迫る巨体は止まり、慣性に従うように翼から電気を帯びた羽が、重量を伴うように船へと襲う。

 

「なんだそれ……!」

 

 羽なら羽らしくひらひら落ちてくれ。

 明らかに異質な電気の羽が目の前に広がり、もう駄目だと思った時。

 

 船と羽の間に大きな水柱が立った。

 

 水柱は間髪入れずに何度も立ち上る。南方から響く爆音と共に。爆音の正体は砲撃だ。南方に数隻の船が並び、大砲を幾度となく撃っているためだ。

 

 怪鳥はしばらく飛び回り、やがて諦めたのか灯台へと帰っていった。

 

「た、助かった……?」

「アーモロードの船ってとこか。あたしらに当たったらどうしてくれるつもりだったんだろうな」

「で、でもあの砲撃がなかったらどうなってたか……」

「ビクビク震えてるんじゃないよ。胸張りな! 砲撃がなかったってあたしらは海のロマンを求めるクロスジャンケ海賊団だよ!」

 

 ロマンと怪鳥との戦いは関係があるんだろうか。ないと思う。

 

「あんたの銃もあの鳥に当たっていたんだから悪かない。だから背中丸めず堂々しな!」

「は、はひ!」

 

 とにかく助かったことだし、今は安堵していいはずだ。

 まだアーモロードの海兵がどういう出方をするかわからないけども、少なくとも撃墜されたりはしないようだし。もしも捕縛となったら僕は牢獄コースだろうか。打ち首とかはないと思いたい。あったら灯台行きを止められなかっただろうし。

 

 南方のいくつもの船と、さらに奥に広がる街並みを見ながら先のことを考えてみたけど、わからないことばかりなのと考えても仕方のないことばかりだ。

 

「……でっかいのばっかりだ」

「ふぅん、見事なもんだね」

 

 見えてきた光景に、もう色々とつっこむのが面倒になってきた。というか慣れてきた気がする。

 でかいフグ。巨大な鳥。ときて、次は……

 

「あれがアーモロードの世界樹かい。ま、海のお宝とは関係なさそうだからどうでもいいけどね」

 

 超巨大な樹だとは。

 

 え? 世界樹?

 

「今、世界樹って……」

「それがどうしたんだい」

 

 なんで世界樹がここに……僕は海でどれだけ流されていたんだ。世界樹の影響力は広いけど、距離を取ってカプセルに入ったはずだ。近くには世界樹がないところで……

 

「……本当にどうなってるんだろう」

 

 眠りにつく前に浮かべていた予想図と大きく違う世界に、漠然とした不安しか感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

ゲーム中は海に濃霧発生は一ヵ所のみです(たしか……)
ですが、この作品では海全体に濃霧が発生していることにします。
理由としては魔物だけでは100年も海図が停滞していた理由として弱い気がしたのがひとつです。
あとあるボスの活動範囲がアユタヤにまで確実に届いていることから、霧の発生範囲は広くてもいいかと考えたので。

ゲームをプレイしたことがある方はすでに予想されているかもしれませんが、このお話の大航海クエストはゲーム通りのメンバーとは限りません。
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