とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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20.フレッシュなるトライルーキーズ

 

 

 

 

 

 商業港アユタヤに辿りついた。

 商業港、というだけあって船がいくつも停泊している。港町、とでもいうべきか、建築物のひとつひとつが町全体を飾っており、一際目を引く蒼い二つのとんがり屋根の館。

 名前だけは今まで何度も聞いたことがあるけど、こうして足を踏み入れるのは初めてだ。

 それにしてもどの建物も、背が高い……土台を頑丈にしてどの家々も入口が高めの場所だ。階段がどこもついている。

 さて景色ばかり見てられない。目的は観光ではない、勧誘だ。

 

「頑張りましょう!」

「……」

「……」

 

 相変わらず微妙な空気ぃ。

 ヴィクトリアさんから話を聞いたおかげで色々わかったけども。この空気はすぐに解消されそうにない。

 

 シャーロットさんは自業自得だけど王位継承権を完全剥奪されて、自業自得なのに家族を見返すことを目標としている。その対象となる家族はヴィクトリアさんも含むんだろう。だから友好的態度を取れない。

 

 ヴィクトリアさんはそんなシャーロットさんにどう対応すればいいか決めあぐねているのかもしれない。あの時の話し方はおバカな子の昔を懐かしむような感じだったし、嫌っているわけではないと思う。

 

 とまあ、分析してみたはいいけど家族の問題は当事者でなんとかしてもらうしかない。

 

「というかヴィクトリアさんたちはアユタヤに何しに来たんですか?」

「え? あなたたちの様子を見るためって言わなかったっけ?」

「オー……」

 

 え、じゃあついてくるの? 気まずい空間作り続けるの?

 

「それであなたは仲間探しなのよね? どうするの?」

「えっと、まずは聞きこみですね。冒険者志望の人はどこにいるかとか」

「案外普通なのね」

「それ以外何をしろと」

 

 お喋りしながら港の中を進む。

 すると港の人がやってきた。管理簿を付けるためだろうから出てきた街、来た目的を話す。そのついでに冒険者志望について聞くのも忘れない。

 

「アーモロードから来てくれるとは。海路がつながったって聞いてはいたが、こうして渡ってきてくれるとより実感を得られるな」

「まあ距離的には結構ありますしねぇ」

「だが見通しが全くつかなかったころに比べれば全然ましというもんだ。っと、それで冒険者志望のやつだったな」

「はい」

 

 他にアーモロードから来た船はまだまだ少なそうだし、狙いの3人組もまだいるはずだ。

 

「いるにはいるが……なぁ?」

「え、なんですか」

 

 なんだその微妙な感じの言い方は。なぁ?じゃないよ。

 

「他の街も一緒だろうが、霧に閉ざされた街じゃ住む者全員が家族みたいなもんでな。冒険を生業としている者の前でこんなこと言うのは失礼だと思っているが……他のことをさせたいっていうのが本音なんだ」

「そこは本人の希望もあるんじゃ……」

「もちろん本人がやりたいって言うなら応援してやるべきなのはわかるが……」

 

 本人がやりたがっているならやらせるべきだって、ドレークさんもきっと言うよ。

 

「子供を冒険稼業に出させるのはな……」

「子供? え、子供?」

「ああ、まだ成長期も来てない子供だ」

 

 え。そんな若いの。

 いやまだだ。慌てたらダメだ。他にも志望者はいるはず。ドレークさんの言う3人組はその子供じゃないはず。

 

「ち、ちなみに、その子供って3人組だったり、しませんよね……?」

「知ってるのか? 3人でずっと遊んでる子たちでな。最近はトライルーキーズと名乗って遊び回ってる元気な子たちだよ」

 

 あてが完全に外れた。

 

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 アユタヤの大通りの隅で頭を抱えた。

 悩める原因は当然仲間探しの件だ。

 

「まだ動き始めたばかりじゃない? 大丈夫よきっと」

「姫様の言う通りです。まだ落ち込むのは早いかと」

「……樹海に入る冒険者なんて、普通やりたがる人いませんよ……」

「お前、海都ではそんなこと言わないようにな。敵が増えちまうぞ」

 

 ヴィクトリアさんたちの励ましで前向きになれそうにない。もういっそ駄目元で志望している子供たちを勧誘してみようか。いや駄目だ。行き先は魔物がいる樹海なんだ。そんなところに子供を連れていくのは危なすぎる。それにアユタヤの人たちもその子供たちを冒険に出させたくないようだし。

 

「うあー……」

 

 せめて他にアユタヤの志望者がいれば良かったのに。これでバタビアだけでなくアユタヤも駄目。他の都市という考えもあるけど、その場合はまず海路の確保からだ。どれだけ時間がかかるかわからないし、そんな猶予をシャーロットさんがくれるはずがない。

 

「あら、シャーロット。どこに行くつもり?」

 

 僕とロイヤルガーズから少し離れた位置に立っていたシャーロットさん。姉であるヴィクトリアさんに尋ねられ、嫌そうな表情を一切隠してない。

 

「別に。ここにいたって退屈だもの。この街には樹海なんてないし好きにしていいでしょ」

「ミゼルと同じギルドなら一緒に探そうってならないの?」

「私は仲間探しに反対だから」

 

 取り繕うことなく答えるんだもの。険悪な空気になってしまう。

 

「ま、まあ! ここで悩んでても仕方ないですし、せっかくアユタヤまで来たんですから観光でもして気分転換しましょうか!」

 

 励まされてた僕が逆に気づかう状況とはこれいかに。

 この都市は商業が盛んと言われているそうだし、バタビアの時みたいにお土産が臭い蟲の一部とか避けるためにも。まああれはお土産とかじゃないけど。そして今も船の小樽の中に入っているけど。

 

「そうだな。船に揺られっぱなしで俺も疲れたし、パァーっと遊びたいところです。姫様、ここはひとつ……」

「何がここはひとつ、よ。アルバートはいつも遊んでるじゃない」

「遊んでばかりのアルバートはどうかと思いますが、姫様も今回は気晴らしをしてはどうでしょう。ミゼルさんの提案ですし」

 

 冤罪だと騒ぐアルバートさんはともかく、気分転換という意見に堅物イメージなベンジャミンさんまで賛成してくれるとは。

 

「それに市井の方々の暮らしを知る機会にもなることでしょう」

「……そうね」

 

 言いくるめられつつあるヴィクトリアさん。ベンジャミンさんは硬派な騎士って感じだったからなんだか意外な展開だ。

 見すぎていたのか、隣にアルバートさんがやってきて小声で話してきた。

 

「この前、港で変な話を聞いてな。それから姫様は全然休めてないんだ。まだごねそうだったらお前からもなんとか言ってやってくれないか?」

「はあ、わかりました。でももう丸め込まれてる感が……」

「あいつは口が回るからなー」

 

 アルバートさんも軽口が回りそうですね、とは言わずに心の中でとどめておく。

 

「それじゃシャーロットさんも一緒に観光でも……って、もういなーい……」

 

 待つの苦手か。ちょっと目を離している間にどこかへ行っちゃうとか子供か。

 

「あの子ったら好き勝手して……!」

「僕が探してきますんで、ヴィクトリアさんたちはゆっくりしててください。実際ここは樹海もないですし、暴走することもないでしょうから」

「でも」

「たぶんその……言いづらいですけど、ヴィクトリアさんがいたらなおさら好き勝手しそうですし」

 

 ヴィクトリアさんたちと合流前はまだ文句を言いながらも一緒に行動してくれてたけど、今は少しでも隙があれば別行動を狙っているみたいだし、逆に扱いづらい。

 

「姫様、ここはミゼルの言葉に甘えましょう。それに妹姫様だって、友達に家族と一緒に居るところを見られるのは恥ずかしがってなおさら逃げますよ」

「そんな次元の話か」

「年頃だとそんな感じだろ」

 

 そんな思春期な話で捉えちゃっていいのか。

 あ、でもその気持ちはすごいわかる。僕も自分の家族がイミスと話し始めた時恥ずかしさがあったし。

 

「わかったわ。本当は普段どんな様子か見たかったけど、ミゼル。シャーロットのこと、お願いね」

 

 お願いされるようなことでもないと思うけども。

 

 正直どういう意味でお願いされたのかよくわからないまま、シャーロットさんを探して見知らぬ街の探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜんっぜん、見つからない……」

 

 シャーロットさんを探してどれほど経ったかわからないけど、体感1時間はゆうに越えている。

 そもそもアユタヤが広すぎるのだ。あと建物が独特すぎるのだ。どの建物も敷地のかさ上げがかなりされていて本当に背が高い。おかげで町中に入ると隣の路地の様子なんて全然見えない。死角が多すぎる。それに坂道も多いこと多いこと。

 もうやだ疲れた。迷子センターとかないのかな。迷子の呼び出しとかやってもらえないだろうか。ああ、でもスピーカーとかなさそうだしなあ。

 

 軽く現実逃避しつつ、あの人が行きそうな場所を考える。

 探し始めた時は見知らぬ町なんだし適当にぶらついているだろうと考えたけど、このままその方針で探してても疲れるだけに終わりそうだ。

 

 あの人が好きそうな場所を考えるんだ。あの年頃の女の子が好きそうな場所じゃない。あの人の好きそうな場所。

 

 ………………闘技場とかないかな。

 

 お土産とかより戦いを求めているイメージが頭から離れない。闘技場ないしは争いと縁のありそうな場所。

 

 ……海、とか?

 

 海なら霧が出ているし、さすがに船は出していないだろうけど、町の近くに陸まで霧が出ている場所があるかもだ。そんなところがあれば喜んで行きそうだ。

 

 考えがまとまったことだし、まずは聞きこみだ。通りかかった人に早速尋ねた。

 

「すみません、近くに闘技場か陸まで霧が出ている場所ってありませんか?」

 

 

 

 

 

 質問内容が内容なので、変な人を見る目で見られてしまった。そんな悲しい過程を経て、闘技場はこの町にないこと。陸に霧が出ている場所は知らないが海岸にならあるんじゃないかと言われた。海岸なら南側にあるのだとか。当然危険だから誰も近づかないとのこと。

 だから、もしそんな場所に人がいるとしたら、シャーロットさんだけだと思った。思っていた。

 

「いい加減怠いんだけど! もう充分わかったでしょ!?」

「もっかい! もっかい!!」

 

 海岸沿いに歩いていたらそんな声が聞こえてきたのだ。

 シャーロットさんのやけくそ気味の怒鳴り声と、何かをせがむ少年の声。

 

 何が起きているのかわからないけども、子供がいるなんて思ってもいなかった。それも海が近い場所に。駆け足で声の聞こえる方へと進む。

 

「それ何度目よ!」

「エイス、もうやめとこう? 疲れたよ。ヴィセンからも何か言ってよ」

「無理だよマウマウ。エイスがぼくたちの言葉を聞いた試しがない」

 

 他にも子供がいるのか違う男の子と女の子の声。

 新たに聞こえてきた声は慌てている様子はないし、魔物が出ているとかではなさそうだ。その事に少しだけ安心。

 

 でも一体何が起きているんだ。

 

「いくぞ! マウマウ、ヴィセン!」

「ほんっと! しつこい!」

 

 ようやく声だけでなく姿まで見える位置に来た。

 見えた光景は、開けた砂浜の海岸で3人の子供相手に戦うシャーロットさんだった。

 

 ……何やってんのあの人。え、本当に何してんの?

 

 子供相手に何を、と思うも戦っている子供は普通じゃなかった。男の子の1人は占星術師なのか火を放っており、女の子は僕が持ち運び無理だと判断したバリスタで狙いを定めていた。

 

 火もバリスタの狙いもシャーロットさん。彼女は迫る火を走って躱し、剣の鞘を構える。

 バリスタから撃ちだされたのは矢ではなくネットだった。ネットは広がりながら火を躱した彼女に襲いかかるもしゃがんでそれを避ける。しゃがんだままの姿勢で鞘を構える姿は別の世界線の生き物にも見えてしまう。

 

 そんな彼女にリーダー格の男の子が銃を構えるも、鞘を地面に叩き付けて砂を舞い上げさせる脳筋の煙幕が狙いをつけづらくさせた。戸惑う子供3人組に筋肉が距離を詰め、ひとりづつ鞘で頭を叩く。

 

「痛!」「ぴゃ!」「おぉぉぉぉ……」

 

 エイスと呼ばれていた子供にだけは特別力を込めて叩いたのか、痛がり方が他の子より凄まじい。

 

「何度やったって同じよ」

「あの……シャーロットさん、事情説明お願いしていいですか?」

「うげ」

 

 なんだその反応。

 

「ヴィクトリアさんはいませんよ」

「……そう」

「それよりこの状況の説明をください本気で」

 

 突然現れた僕に子供たちは何も言わない、というか言う余裕がなさそうだ。まだ頭さすってるし。鞘で叩かれたらそりゃ痛いよね。

 

「現実を見せてただけよ」

「説明になってないんですけど」

「……冒険者志望よ、こいつら」

「この子たちが……」

 

 たしか……トライルーキーズ?

 3人組だし間違いなさそうだ。

 

「なんとも……」

 

 想像してたより強くね?

 

 占星術師の子にバリスタの子、銃の子。銃の子はまだ実力がわかってないけど、占星術師の子は火を出せちゃってるし、バリスタの子は僕より筋力が上なのが確定して……いや、きっとそんなはずない。良く見れば子供用サイズなのかやや小さめだ。……それでも重そうだけど。

 

「で、何故戦って?」

「身の程をわからせるため」

「暴走しすぎでは?」

 

 今ので説明できていると思っているあたりもさすがだ。たぶんあれかな。冒険者になるには力を示せ、みたいな感じで戦ったのかな。

 

「そんなことしなくても、アユタヤの人たちがこの子たちの旅立ちを禁止してるんですし……」

「こいつらはそれで我慢できなかったみたいよ。交易品に紛れて密航しようとしたこともあるらしいわ」

「冒険心溢れすぎている……」

 

 でもここにいるということは失敗したんだろうな。

 この分じゃアーモロードに戻るときしっかり船の荷物確認しないと。いつの間にか紛れ込んでいる可能性が出てくる。

 

「今度は自分たちの力を示そうとして魔物に挑むつもりだったらしいわ」

「あ、ここにいたのはそのため?」

「ええ。強さを示したら認めてもらえると考えたんじゃない? まあそんなことして命を落とすより、私がテストしてあげた方がいいでしょ?」

 

 ああ、ようやく話が見えてきた。

 さっきの戦闘はテストだったわけか。確かに魔物と戦うよりは安全かもしれない。痛そうだったけど命を落とすよりは断然マシだろうし。

 ただ問題があるとすれば、そのテストがやたらと厳しそうなことだけど。あのテストは絶対に僕不合格になれます。

 

「つぅぅ……あ! ひょっとしてその女の仲間か!」

 

 リーダー格の男の子がようやく痛みから立ち直ったようだ。

 指をさしながら早速元気いっぱいだ。

 

「そうだよー」

「じゃああんたもその女と同じぐらいに強いってことか……?」

 

 こいつぁ答えづらい質問だ。

 違うよと言えば、僕程度で冒険者になれるならと、諦めずに密航や魔物チャレンジとかしそうだ。だからって同じぐらいの強さだと答えたら、もし僕の力を見せろと言われたら困る。

 

 ほんの少し逡巡して答える。

 

「そうだよー。武器は違うけどね」

 

 もしも僕にテストをさせろと言われても、立ち位置が違うからと言って逃げるつもりだ。大人は常に逃げ道を残しているものなのだ。

 

「剣じゃないってことは……その銃か!」

「そうそう」

「ちょっと使って見せてくれ」

 

 なんか変な食いつき方をしてきた。これはテストか? テストなのか?

 

「弾が勿体ないし……」

「じゃあ俺のを使ってくれ」

「えぇ……」

 

 なんだこの子は。

 弾だけかと思えば渡されたのは銃ごと。あ、コルク栓を撃ちだす玩具の銃だこれ。

 

「間違えた! それじゃない! こっち!」

「あ、うん」

 

 コルク栓の銃は人に向けて使う時ようだったか。それともただの玩具か。

 次に渡された銃は玩具ではなかった。

 

「使ってと言われたけど、何を撃てば……」

「的用意するから!」

 

 何をさせたいかわからないけど思いのほか簡単そうだ。

 

 たしか、エイス? エイス君が用意した的、石ころを撃つとほかの子から感嘆の声があがった。

 

 なんて年相応なリアクションなんだ。さっきまでバリスタや火を扱ってた子たちの反応とは思えない。

 

「えっと……?」

「そいつ、銃の狙いへたくそなのよ」

 

 シャーロットさんが説明してくれたけど、もうちょっとオブラートに包んであげてほしい。

 

「なあ、あんた!」

「ほ、ほい」

 

 へたくそと言われたエイス君は一切めげずに声をあげる。

 

「俺に銃を教えてほしい!」

「ほい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


トライルーキーズ
大航海クエスト共闘NPC。
エイス(パイレーツ)、マウマウ(バリスタ)、ヴィセン(ゾディアック)の3人組。
原作ではバタビアの交易品に紛れて密航してきた子たち。
戦闘スタイルは属性チェイス型。
バリスタの属性バラージ、ゾディアックの属性攻撃にパイレーツの銃が追撃するスタイル。
一応ルーキーズと名乗ってるし子供のようなのでこのお話では3人とも未熟なボウケンシャー。

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