とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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22.悪しき盾鱗の鎚頭鮫

 

 

 

 

 

 ハンマーヘッドシャーク。

 Tの字状の独特な頭部の鮫だ。一度見れば印象深い姿で、特別思い入れを持っていなくても記憶に残りやすい姿の鮫。

 

 鮫映画にもしその鮫が選ばれるとしたら、目の前の魔物の姿になるのではないだろうか。

 

 黒くぬめった表皮、黄色い腹部。頭部の両端にあるギョロリとした眼。口は大きく裂け牙が生え並ぶ。

 全長は目測で10mはありそうだ。

 

「正直キモイ!」

 

 やたら離れた目とか特に。

 

 このハンマーヘッドシャークな魔物。もう呼び名が長い。ハンマーヘッドは陸にあがっては海に戻り、そして海から飛びだしてはまた戻りを繰り返している。

 だから見失わない限りは大丈夫だ。予想外な手をうってこない限りだけど。

 とにかく陸なら地の利はこちらにある。これが霧の中だったら……こんなクジラに迫る巨体との戦闘なんて考えたくもない。

 

 しかし銃弾が全く効いてる感じがしない。鮫の体に当たっては貫くことなくパラパラと落ちている。古代魚の魔物とは比べ物にならない硬さだ。

 シャーロットさんの剣もあまり深くは斬れないみたいだし、攻め手に欠けている状態。向こうの攻撃もそうそう当たらないけど、こちらの攻撃も効かないとなると正直まずい。

 

 魔物は尾を振り上げる。また地に叩き付けてその反動で海に戻るのかと思えば、体をひねりその尾で直接シャーロットさんを狙ってきた。

 一足跳びで避けた彼女を追い縋るように、巨大な尾が魔物の頭部を中心に砂浜を抉りながら重機のように廻り迫る。

 

「ちぃ!」

 

 彼女は迫る尾に盾をぶつけ、盾を起点に跳び避けた。

 難を逃れたかと思えばまたも尾が元の位置に戻るバネのように反転して襲う。今度は盾を構えて両足を地から離し、勢いに反発しないように受け殺しながら跳び引いた。

 

 距離が離れるとさすがに追撃はできないのか、また海へと戻っていく。

 

「シャーロットさん! 大丈夫ですか!」

「問題ない。あるとすれば、あいつの体が硬いせいで剣が傷みそうだわ」

「銃弾も全然通りません」

「問題なし。とりあえずあんたは絶対近づくんじゃないわよ」

 

 それはもちろん。

 

「シャーロットさんも無理しないように」

「この程度なんてことない」

 

 剣が通ってないけども気持ちは未だ闘志満点だ。僕も負けてられない。銃弾が通らないといってもまだ狙ってない箇所がある。

 生物の表皮が最も薄い眼球、あとは口腔といったところか。あ、でも魚なら腹部もありかな。

 

「来た!」

 

 今度は僕狙いか。巨体ではあるけど正面からの一直線なんだ。来るタイミングも大きな音を立ててくるから測りやすい。

 

「尾びれ!」

「ほぁ!?」

 

 鮫のくせに横に避けられることを読んでいた? 飛びかかりながらも体をよじり尾で薙ぎ払いながら迫ってくる怪物の姿。

 

 横に避けるは無理だ。下に潜り込む? いや、これは後ろに思いっきり下がるべきだ。

 

 直線で飛ばずに変な姿勢で無理やり形を変えてきたんだ。わずかとはいえ考える時間があるほどには。だから下がればたぶん届かない。それに、

 

「狙いやすい!」

 

 空を薙ぎ払った尾が通り過ぎ、回転するように顔が正面へと来た。狙いは両目と口腔だ。

 

 目に当たったかはよくわからなかったけど口腔には入った。銃弾による痛みからの反射行動か、上半身を大きく上に仰け反る。

 

「効いて──────るぅ!?」

 

 突然横から強烈な勢いのタックルによって押し倒された。

 

 その直後、さっきまで僕がいた場所に鮫の歯がガチンと音を立て、巨体に呑み込まれる。痛みによる反射じゃなかったのかあれ。

 

「近づくなって言ったじゃない!」

「不可抗力では!?」

「すぐに離れたらいいだけでしょ!」

「反論できない!」

 

 言い争っている最中でも当然互いに視線は鮫だ。陸地なのになかなか器用に体を動かして戦ってくる。だけどだいたいわかった。

 陸地にいるときはお腹を起点に体を動かすため、横に薙ぐか、振りかぶって叩きつけるしかできない。横に薙いでくる攻撃は避けにくそうだけど、下手に抵抗せず勢いをある程度殺せば威力は控え目になる。縦軸の振りかぶりはまだ避けやすい。そのかわり、当たれば死ぬと考えるべき攻撃だ。

 わずか2パターンしかない。大きさや存在感に威圧されなければ対処可能なはずだ。

 海からの突撃も同じ。一直線に飛びだすのみ。多少姿勢を変えたりして面による攻撃があるかもしれないけど、空中で方向転換はない。

 

 だからやっぱり問題は……

 

「今度研ぎに出さなきゃならないじゃないの……!」

 

 あの異常な硬さだ。

 

 口腔への攻撃もあまり効果は見られない。両眼には攻撃が外れたのか、それとも耐えられたのか機能したままだ。あと試していないのは腹部だけど、口腔が耐えた時点で腹部も希望が薄い。

 

「岩みたいに硬いってわけじゃないんですよね」

「違うわね。弾力のある硬さ、よ!」

 

 シャーロットさんが盾の鞘に剣を入れ、すぐさま抜き放つ。振るわれた刃には火が纏われていた。鮫は首を一瞬持ちあげて噛みつく動作に入った。歯で迎え撃つつもりだ。

 

 迫る鮫歯を横跳びで避け、側面に炎撃がなぞられる。

 その瞬間、鮫の動きが激しく動いた。

 

 今まで力を隠していたとかそんなのじゃない。今の動作は完全に離れようとした反射行動。

 今度は間違いない。攻撃が効いた。

 

 だけど表皮を少し火であぶった程度のもの。行動不能にまで持っていくには今の攻撃を何度繰り返してもらえばいいか……

 

「全身を火で燃やせたりは!」

「そんな量の薬もってない!」

 

 サエーナ鳥戦で一緒に戦ったカストルさんのような炎は作れないか。

 そもそも薬品に限りがあるのは当然か。じゃあ薬品が尽きれば完全に打つ手がなくなる。

 

「考えている最中、なのに……!」

 

 おかまいなしに鮫が横に大きく跳ねて移動する。移動というよりは、人間と比べてはるかに大きな巨体から来る体当たり。巻き込まれれば最悪ぺちゃんこだ。

 下手にその場で耐えようとしてはダメだ。避けられないなら吹き飛ばされないと───

 

「───つぅ!」

 

 飛ばされた拍子に背中を強打し激痛が走る。呼吸がひきつる。けどまだ動ける。

 一応体当たり自体は両腕で自分の体を庇ったから致命傷にもなっていない。けど前腕にジクジクとした痛みが残っている。

 

 ……やすりでもかけられたかのような傷痕が腕にできていた。そこから出血を起こしている。

 

 前腕はせめてものガードとして体の前に持ってきた。当たったのは奴の胴体。

 

 鮫の胴体には何がある。

 

「鱗だ」

 

 あの鮫は人の肉を斬ることができる鋭い鱗が生えている。あの黒い表皮はすべて鱗か。鮫の肌はざらざらしていると聞いたことがあるけど、凶器になるほどのものだとは。そもそも鱗というのは攻撃に転ずるものじゃない。体表を守るための盾だ。

 

「硬さの正体、鱗をどうにかしないと……!?」

 

 目の前に迫る鮫歯。倒れこむように横へ跳んで避ける。次いで押しつぶすような巨体でののしかかりが迫る。

 

「ミゼル!」

「た、たすかりました!」

 

 シャーロットさんの火剣が鮫の体を退けさせる。

 

「引っ込んでて! 邪魔!」

 

 完全に引っ込む気はないけど距離は取りたい。

 立ち上がり距離を取るため背を向けて走るも、背後から驚愕と怒りの声が聞こえた。

 

「なっ!?」

「何が、ぁああ!?」

 

 振り返ると鮫歯が並んでいた。こいつ、迷うことなくこちらを狙ってきた。

 急な振り向きと目の前に迫る危機により、足がもつれて顔から地面に突撃だ。それが功をなして食い千切られずにはすんだ。

 

「糞魚! 無視してん、な!」

 

 あの人本当に王族なの? 口悪い。

 ゴロンと転がりながら鮫を見れば、またまた僕に追撃を見せてくる。急に執念深い追撃連発じゃないか。なんだこいつは。

 まだ体を起こせていない。避けれない。咄嗟にできたことといえば、迫る鮫の体に対して手にある銃で撃つのみだ。

 

 銃弾をものともしない体にたいした効果が見込めないと思っていたが、今までとは異なる現象が起きる。

 

 着弾した場所から火が現れたのだ。

 

「お、おおお!」

 

 オオヤマネコ相手に起きた現象と同じだ。あの時シャーロットさんが言ってた、銃弾に薬品が反応だ。

 思いだすと同時に連続で銃を撃つ。当たる度に着火し鮫が痛みのあまり身を引いた。

 

 体勢を立て直しつつ、少しだけ可能性が見えてきた。

 シャーロットさんの剣と薬品と僕の銃弾。これで攻撃面の手数が増える。

 

「シャーロットさん! 薬はあとどれだけありますか!」

「火があと1回、他のはそれぞれ3回!」

 

 予想外に少なかった。今のところ火以外は銃弾に反応するか試してない。ぶっつけ本番となってしまう。でもやるしかない。

 

「火をお願いします! 銃弾で反応させ───ぇ!!」

 

 ちょっと本気でしつこい、この鮫。海から離れつつあるのになおも僕を狙ってくる。正気とは思えない。魚の考えなんてわからないけども。

 

「燃えてしまえ!」

 

 お返しにと先ほど着火させた場所に弾を撃つ。しかし、今度は火が付かない。

 

「なんで!?」

「当たり前でしょ! もうとっくに気化して散ったわ! 今から付着させるから待ってなさい!」

 

 そんなに揮発性の高いものなら前もって教えてほしいと思うのは我儘か。

 

 鮫は頭を横に大きく振りかぶり、ハンマーヘッドという言葉通りの動きで襲ってきた。もうこの魔物は海に戻る選択肢を取る気がないようだ。陸地で鮫に狙われるなんてB級映画、ありきたりすぎる。そのうち言葉でも話す鮫が出るんじゃないか。

 

「というか、なんでそんなに狙われてんのよ……!」

「僕に言われても!」

「火、最後の! 顔にプレゼントしてやるわ!」

 

 ヒュンと風切音を立てながら火剣がハンマーヘッドの顔を斬る。顔のあたりなら鱗は胴体より少ないと思ったけども、斬撃としてのダメージはやはり大してなさそうだ。

 

 だけど火としてのダメージはあるのだろう。それも顔だ。怯んで一瞬動きが止まる。

 

 ここで終わらせない。揮発する前に銃弾を撃ちこんでやる。一発たりとも外してやるものか。

 

 一発目。頭部を包む火が生まれ、嫌がるように顔を斜めに下げた。

 二発目。近くで顔が下がったおかげで目に当たる。目を中心に再び火が生まれた。

 三発目。火と目の痛みに苦しみもがかれるも、頭部の隆起の根元に銃弾が襲う。今度は火が生まれなかった。

 

「気化するの早すぎじゃないですか!?」

「私に言うな!」

 

 痛みでのたうちまわっている間に距離を取る。もうかなり海から離れている。えら呼吸なら窒息死してしまえ。

 

「ていうかまだ生きてるなんて……!」

 

 正直今の3連射で終わってほしかった。あとはぶっつけ本番の火以外の薬だ。

 

 銃弾を込めながら今後の展開を考える。さすがに片目が潰れたであろう魔物だけどここで逃げることはしないだろう。あのしつこさは覚えがある。あれはサエーナ鳥と同じタイプだ。

 理想としてはもう虫の息で、次あたりで仕留めることが可能な展開。だけどあまり期待しない方がいい。最悪な展開としては薬品が尽き攻め手がなくなる時だ。

 

 考えたくはないけど、最悪な展開に備えた動きも今後は入れていかないと。

 

 薬品が尽きた時は逃走しよう。街へ逃げて魔物について知らせる。街への方角は……

 

「……この方角じゃん」

 

 攻撃を避けては距離を取ってを繰り返して海から離れて行った結果、街へと近づきつつあった。このまま街までこいつが来たら最悪も最悪ではないか。

 

「シャーロットさん次の薬品を! 氷で!」

「とっくに使い終わったわよ! あんたが弾込めながらきょろきょろしてる間に!」

「はっやくね!? ちょっとは待っててくれない!?」

 

 協力して!?

 

「うっさい! それよりあんた、狙われてんだからさっさと逃げなさいっての!」

「薬品が尽きたら逃げます! その時はシャーロットさんもですよ!」

「どうして!」

「どうしてって出るのがどうしてなの!?」

 

 言い争っている間に痛みに慣れてきたのか、ハンマーヘッドが再び跳ねて移動を開始する。もちろん移動先にいるのは僕。止血しない限りこれは続いてしまうだろう。

 

「とにかく! 次の薬品使う時は言ってください!」

「使う!」

「早い! お願いします!」

 

 盾から抜き放たれた剣はパチパチと弾けるような音を立てていた。電気の剣。あれも銃弾に反応してくれればいいんだけども。

 今度は斬りつけた直後に銃で追撃してやる。どうせあの薬品も揮発性高いんだろうし。

 

 顔、横びれ、背びれと斬りつけた直後、同じ個所へと銃弾を撃ちまくる。弾が当たる度にバチィ!と派手な音が聞こえるのが少し爽快だった。

 

 大きな音と弾ける電撃が幾度となく体で起こり、ハンマーヘッドが本当の魚類のように陸に打ち上げられた魚のような跳ね方をする。本当の魚類っちゃ魚類か。

 魚類とかは置いといて、確実に苦しんでいるけど、まだもがける力を残している。でもまだ薬品があるし

 

「これで使いきった!」

「早くない!?」

 

 ひょっとして今の3回の斬撃の度に薬使ってたの!? バカなの!?

 

「ああああ! もう揮発しちゃってるし!」

「薬がなくなったんだしさっさと逃げなさい!」

 

 僕を逃がすためにさっさと使いきったとか? でもこれ絶対優しさからじゃない。邪魔だからとかだ。

 

「だから逃げるのは僕だけじゃなくてシャーロットさんもなんですって!」

「なんで!」

「だから───!」

 

 のたうち回っている鮫を尻目に言い争いをしているが、2人とも敵から目は離していない。苦しみながらも尾撃による薙ぎ払いを距離取って回避する。

 

「僕らじゃもう決め手がないんですって! 剣も銃も効かない! 効くとしたら火か電気なんです! だから一度戻って薬品の補充か、占星術師を呼んでくるしかないんですって!」

「そんな都合よくいるわけ───」

 

「火、ですね!」

 

 シャーロットさんとの言い争いの最中、突如入ってくる第三の声。

 聞いたことのある声だった。本当についさっきまで聞いていた声だ。これは

 

「ヴィセン君!」

 

 ハンマーヘッドの胴体をヴィセン君が放った火が炙る。

 こう言っては悪いけど、正直まだ火力不足だ。

 

 今までの火や電気と比べるとダメージが薄いと判断できた理由は、魔物の反応だ。炙られたことに対しての反応は僅かだけ。すぐさま跳ねて距離を詰めようとしてきた。

 

 が、上空から先端に小瓶をつけた何本もの小さな矢が幕のように落ちてき、ハンマーヘッドの大きな体へ降り注いだ。

 矢は刺さることがなかった。代わりに先端の小瓶が割れ、同時に小規模な爆発が起きる。規模は本当に小さく、爆竹より少し大きい程度だけど、それが矢の数だけ何度も。

 

「マウマウちゃんまで」

「なんで戻ってきてんのよ……!」

 

 今回ばかりはシャーロットさんに同意だ。なんで戻ってきているんだ。援護はありがたくもあるけど、状況は良くなったわけじゃない。矢の爆発による援護によって一瞬怯ませることができたけど、倒しきれていないのだ。

 

「ていうかこの調子ならエイス君まで来てるんじゃ……」

「当然!」

「馬鹿!!」

「ひどいな!」

 

 遅れて登場してきたエイス君に思わず罵ってしまったけど仕方ないじゃないか。ヴィセン君やマウマウちゃんが来ることも問題だけど、エイス君はもっと問題だ。だいたい攻撃当てれないし。

 

「3人とも早く街へ!」

「そんなこと言うなよ! トライルーキーズが急いで助太刀にきたのに!」

 

 それならせめてアユタヤの衛兵か海兵、もしくはロイヤルガーズを呼んできてほしい。

 

「今は絶好調も絶好調なんだ! それにあんたは怪我してるし、俺たちだって考えなしじゃない。倒したらみんなに俺たちが冒険に出ても大丈夫って言ってほしい」

「無理! 帰れ!」

「マウマウ! ヴィセン!」

 

 あの人間の子め。無視しやがる。

 確かに僕は怪我をしているけども、それを理由に子供組に任せるほど無責任じゃない。血がじくじく出ているせいで、じわじわとした痛みからちょっとくらくらしてきているけども!

 

 エイス君の呼びかけにヴィセン君が火を放った。その火はハンマーヘッドの背びれに当たり炙る。

 

「そこだな!」

 

 直後にエイス君が銃を撃つ。練習の時、あまりの低命中率を誇った彼の銃撃は火に追撃するように背びれへと当たった。

 

 偶然? それにしてはタイミングがよすぎる。本当に本番に強いタイプだった?

 

「……あの銃、あいつが何かしたわね」

「あいつ?」

 

 シャーロットさんの言葉が何か考える間もなく、続いてマウマウちゃんが弩を上空に向かって構え矢を放った。

 空高く打ちあげられた矢は束ねてあったものなのか、途中でばらけて広がり、弾幕となってハンマーヘッドに襲いかかる。

 

「今度はそこと! そこぉ!」

 

 またもエイス君の銃弾が、矢の当たった場所へと追撃をした。本当に命中率が高くなっている。銃に何か細工されているとでもいうのか。

 

「赤くほんのり光ってる……?」

「……エーテルよ。王家の籠手で付与されたんでしょうね。銃弾も火が纏ってるはずよ」

 

 王家の籠手……この場でそんなものを持ってそうな人なんてシャーロットさんぐらい? いや、この人は勘当された身だ。それなら残りは

 

「ヴィクトリアさん」

 

 でも姿がない。だけど他に候補はいないし……

 

「あの、お姫様みたいな人は海から回るって言ってました」

 

 マウマウちゃんが疑問に答えてくれた。

 

「また逃げられたら困るからって、逃げ道を塞ぐって」

「ちなみにその人本物のお姫様だよ」

「え!?」

 

 そうなるよね。普通お姫様がその辺にいるとは思わないよね。

 

 しかし海から回る、か。サエーナ鳥の時のように逃げられたくないからってことだろうけど今回はちょっと不味い。海から遠ざかっている現状なんだもの。

 これ以上の助っ人はなし……いや、海の方角へ逃げれば魔物もついてくるだろうし、そこでロイヤルガーズと合流するのもありか。

 

「シャーロットさんの怪力で子供たちを引きずって街へ……シャーロットさん?」

 

 どうせ出血中の僕を狙ってくるだろうし、街へ行く組を決めようとするとこの人、盾の裏にまだ薬品残してやがった。

 盾に差し、そして抜いた剣に電気が纏う。

 

「まだ残ってたんじゃないですか!」

「ああでも言わないとあんたが残り続けそうだったしね。なのに残っているままだし、しかもなんか増えてるし……」

「増えたのは僕のせいじゃないです……」

 

 電気纏う剣を持ちながら彼女は盾から黄色い液体が僅かに残った瓶を外す。残った中身を剣へとぶっかけた。

 

「さっきまでより少しは気化するのが遅いわ。これで正真正銘最後。一気に畳みかける」

「……はい!」

 

 事前にそういう情報を言ってくれるのはありがたい。ヴィクトリアさんたちと合流したくないから協力するとかそんな感じかもしれないけど、協力するという選択肢を選んでくれたのはいいことだ。

 

 あの薬品は銃弾に反応したけど、おそらく銃弾というよりは衝撃や摩擦に反応したんだろう。

 それならば

 

「もうこの際だ! みんな、シャーロットさんの剣撃が入った場所を集中砲火で!」

 

 トライルーキーズの手数も増やせば今まで以上の火力に跳ね上がる。これで今度こそ決める。

 

「いい加減飽きたわ! 魚臭さが移る前にさっさとくたばれ!」

 

 ハンマーヘッドは電気の剣を手に迫るシャーロットさんより僕を見ている。視線を釘づけにしちゃうほどモテモテで困っちゃう。

 

 尾びれを地に叩き付け、前へと跳躍するハンマーヘッド。それに合わせてシャーロットさんも並走するように跳びながら顔を切り刻む。

 

 危険を顧みずわざわざ顔を狙ってくれるなんて、狙いやすくてありがたい。追撃を期待している信頼に応えないといけない。

 

 火球が、火を纏う銃弾が、太い矢が、連続した銃弾が──────4方向からハンマーヘッドの頭部へと浴びせられた。

 

 一度で止まらない。二度、三度と攻撃が当たる度に電撃が弾ける。魔物を苦しめる。

 

 もうシャークヘッドの顔は黒く焼け焦げズタボロだ。それでもまだ距離を詰めようと尾を持ちあげた。

 

「こいつ、まだ……! ヴィセン、マウマウ! もう一度だ!」

「いや、大丈夫」

 

 持ちあがった尾は地を叩く。しかしそれは、ただ力尽きて重さに従い落ちたものだった。

 

 

「もう命の灯が消える」

 

 

 ハンマーヘッドはピクピクと痙攣するが、もはや巨体を動かす力はない。顔を持ちあげることすらできないでいた。できることといえば、眼球を動かす程度。

 

 

 その眼は最期まで僕を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 




 


ハンマーヘッド
大航海クエスト、アユタヤのボスモンスター。
使用スキルは4種類。
悪しき盾鱗、食い千切り、力溜め、シャークラッシュ。
悪しき盾鱗で防御を固め、力を溜めて物理で攻撃してくるタイプ。
食い千切りは単体、シャークラッシュは足依存の列攻撃。

本来はドレークorロイヤルガーズorレベーカ&アルカディオ
という3組から討伐クエストを選ぶのですが、このお話ではNPCの配置が大きく変わっています。
そして人数やお話展開の都合上、レベーカ&アルカディオは出せませんでした。今後も出ません……

この先も同じように出せないNPCがいます。先に謝ります。ごめんなさーい☆ミ


今回のお話の薬品による属性追撃について

だいぶ前の後書きにも書いた通り、シャーロットさんのクラスは4型ソードマンです。なのでリンクスキルです。
なので実際のゲームではこんなことできません。ごめんなさーい☆ミ
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