とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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23.枕投げは迷惑ですのでおやめください

 

 

 

 

 ハンマーヘッドとの戦いが終わった。

 10m越えの魔物相手との戦い。放置しておけばアユタヤの港を機能停止にまで追いこんでいたであろう魔物相手に結果を見れば死傷者はなし。負った怪我も前腕の削り傷だけ。かなりの戦果と言ってもいいのでは。

 

「ほら、さっさと腕を出す」

 

 現在シャーロットさんから簡易手当を受けている。

 ハンマーヘッドの死体を海兵に見せると言ってトライルーキーズは街に一足先に戻った。僕とシャーロットさんは死体の元でお留守番。街に戻ってもよかったけど、ヴィクトリアさんたちとすれ違うのもなと思ったからだ。

 

「見た目は派手だけど浅い怪我ね」

「地味に痛いです」

「でしょうね」

 

 消毒液とガーゼ、包帯を用意しているシャーロットさんが意外だ。この医薬品のほとんどがシャーロットさんの荷物にあったのだ。オオヤマネコの時の治療はペイルホースの共用鞄から取りだしていたけど、まさかちゃんと持参しているとは。

 

「先生、すごい染みます」

「そういうもんよ」

「先生、先に言っておきますね。包帯は優しくお願いします」

「当然でしょ」

 

 予想外だ。てっきりこの人のことだから、包帯を巻くとギッチギチに痛いほど締めてくると思ったのに。

 

「ほら、これで一通りは済んだわ」

「意外な一面……ありがとうございます。手当てとかよくするんですか?」

「自分の怪我の手当てはね」

 

 なんでも独りでやっちゃう症候群の副産物でしたか。

 

 余った包帯を鞄にしまい、彼女は鋏とナイフを持ちだして鮫の死骸へと近づく。

 

「何やってるんです?」

「戦利品の回収」

「ああ、そういえば魔物の素材とかも売れるんでしたっけ」

「この魔物なら鱗ぐらいかしら。あとは馬鹿みたいな頭」

「流れるような罵り」

 

 頭を持って帰るのはかなりしんどそう。馬鹿みたいに大きいし。あ、釣られて同じような罵倒しちゃった。

 

「うへぇ……近くで見るとかなり鱗がびっしりしてますね」

「あの硬さの原因ね」

「剣も銃弾もまともに通らなかったですしねぇ。シャーロットさんの薬品がなかったらどうなっていたか……。手当もですが、本当にありがとうございます」

 

 剣の鋭さや銃弾の火力が足りないなんて話じゃなかった。純粋に物理的な攻撃に強い体を持つ魔物はハンマーヘッドだけじゃないだろう。そう考えるとやっぱり仲間集めは大事だ。今回は薬品で乗り切ったけど、かなりギリギリだったんだし。

 

「……」

「うーん、歯は抜けそうにないですね。むしろ怪我しそう」

「……今回は助かったわ。ありがと」

 

 一瞬頭に?マークが出てしまった。若干時間差のある回答だったのと、そんな言葉が出るとは思わなかったから。

 そして言われた意味を理解して咄嗟に出た言葉は

 

「どちらさまですか」

「でも今回だけにしなさい。戦わずに見てるだけで充分よ」

 

 それは仲間っぽくないんですが。

 そしてなぜ僕はげんこつされたんでしょうか。

 

「あなたたち、何やってるのよ」

「うげ」

「ヴィクトリアさん。魔物の素材回収ですよ」

「げんこつが?」

「それは別件で」

 

 げんこつは謎のコミュニケーションです。脳筋の一方的な肉体言語です。

 

「それにしても、ロイヤルガーズの手はいらなかったみたいね」

「……とぼけないで。あの子供連中にあの籠手を使ったことぐらいわかるわ」

「エイスって子の銃にだけよ」

 

 随分と大きいわねー、とハンマーヘッドの死骸に感想を漏らす。サエーナ鳥もこれに迫るものがあったし、冒険者にとっては珍しくない大きさだったりするのだろうか。そんなはずはないと思いたい。

 

「こんな魔物がアユタヤの近くに来てたなんてね。未然に被害を止めてくれたこと、王家の者として感謝するわ」

「え、アユタヤってヴィクトリアさんの国の領地内なんです?」

「そういうわけじゃないわ。アユタヤの技術は各都市の発展に大きな進歩をもたらすの。アユタヤへの被害はこの海に関わる国すべての被害と言っても過言じゃないわ」

 

 そういうものなんだろうか。この人はなんだかんだで自国と繋げてねぎらいを掛けてくるイメージがある。それが悪いわけじゃないけども。

 

「これほどの大物を倒せたんだし、街に戻ったら祝勝会でもやる?」

「……」

 

 祝勝会かぁ。そんな持ちかけをしてくれるってことは出費者は僕じゃないよね。ヴィクトリアさんかアユタヤの市長あたりだよね。そう考えるとパァーっと遊びたくはあるけども。

 

「せっかくの申し出ですけど、今回は遠慮しておきます。疲れましたしね」

「そう。主役がそう言うのなら仕方ないわね」

 

 くたくたなのだ。疲れたのだ。

 あと祝勝会に絶対参加しなさそうな人いるし。その人だけ仲間外れみたいな感じにするのも変だし断った。

 

「今日はアユタヤで泊まって、明日の昼過ぎ……13時にアーモロードへ戻ろうと思います。ヴィクトリアさんたちも一緒に戻るならその予定でお願いします」

「私たちはもう少しアユタヤに滞在するつもりよ。ちょっと気になる人を見つけたの」

「気になる人?」

「ええ。だから私たちは別の船でアーモロードに戻るから、待たなくても大丈夫よ」

 

 気になることについては教えてくれなかった。

 ヴィクトリアさんはそのままアユタヤの方角へと歩いていった。必然的に、またも僕とシャーロットさんのみが残る。

 

「……エイス君たち、海兵隊をちゃんと呼んでくれてるんですかね」

「さあ」

 

 海兵隊が死骸回収に来るまで待つつもりだけど、明日回収するとかになったら無駄な時間になってしまう。早いとこ宿でぐっすり寝たい。もうすぐ日が暮れちゃうし。

 

「今から宿のチェックインって間に合いますよね」

「そもそも宿があるかが問題ね」

「まーじーでー」

 

 でもそうか。100年海が霧で閉ざされていたことを考えると、外部から人なんて来ないのか。そしたら宿なんて需要が全然ない。陸続きに交流のある街があれば可能性はあるけど……港の反対の街門は見つけてないからわからない。

 

「宿がなかったらどうしましょうかね」

「あんたの船で雑魚寝ってとこね。その時はあの臭い樽を外に出しときなさいよ。ていうか捨てなさいよ」

「……宿がなかったら毛布だけでも買っときますか」

 

 臭い樽、幽霊船の蟲の一部が入った物だ。それの処遇についてはスルー。

 一応、しっかり封ができているのでそんなに匂いは漏れてないはずだけど、やっぱり先入観とかで臭いイメージがついてしまうのかもしれない。

 

 それから30分ほどして海兵隊がやってきて、アユタヤの宿についてしっかりと聞いた。雑魚寝は避けられそうな答えをいただいたので安心してアユタヤに戻った。

 

 

 

 

 

 

 アユタヤは一応陸続きの先にも小さな町があるそうで、だから宿もあるにはある。だけど来訪者は滅多にいなく、部屋数はかなり少ない。その数わずか2部屋。

 そして今回宿に泊まるのは僕、シャーロットさん。そして同時期に訪れているロイヤルガーズの3人。

 

 だから必然的に、

 

「あの2人大丈夫ですかね……?」

「気になるなら様子見てこいよ。俺は絶対嫌だ」

「2人して私を見るな。昔は仲が良かったから大丈夫なはずだ」

 

 僕、アルバートさん、ベンジャミンさんで1部屋。

 シャーロットさん、ヴィクトリアさんでもう1部屋という部屋割となった。

 

「まさか部屋がこんなにないなんて……」

「まだアユタヤは海都と交流を再開し始めたばかりですからね。もうしばらくすれば色々と変わるでしょうが。で、アルバート。お前は何を食べているんだ」

「おやつ」

 

 この部屋は、顔見知りとの相部屋だから気まずい空気はない。むしろアルバートさんのおかげで軽い空気だ。でも絶対向こうの部屋は重そう。

 

「アユタヤの飯はあまり合わなくてな……俺には量もあれだけじゃ足りないしよ」

「だからと言って寝る前に食うな」

「姫様の前じゃ食うと怒るだろ。2人して」

「当たり前だ」

 

 ヴィクトリアさんの従者であるこの人たちは向こうの部屋の心配をあまりしてなさそうだ。それとも考えたくないだけという可能性もある。

 

「……」

「ミゼルさん、断言はできませんが大丈夫ですよ」

「そこは断言してほしいところなんですが……」

「はは、すみません。私どもも測りかねているのです」

「?」

 

 何をだろうか。

 きょとんとする僕に言ったのはクッキーを飲みこみ終えたアルバートさんだった。

 

「妹姫様のことだよ。前はもっと酷かったんだが、今日の様子を見てるとだいぶ柔らかくなってるしな」

「あれで柔らかいんですか……」

「以前ならまず船を一緒に乗らなかったな」

「そこからですか……」

 

 まずアユタヤ行きが失敗してるじゃないか。でも今は、少しは感情任せの行動を止めるようになったってことだろう。切欠としては、ドレークさんにボロ負けしたからとか。

 

「それに子供たちを守ったそうですね」

「まあ、そうですね。たぶん戦うのに邪魔だからとか被害を出したら自分の尊厳にかかわるとか、そういう理由が大きいと思いますが……」

「今はそれでいいでしょう。人は急に変わることなんてできません。少しずつ、王家の血を引く者として相応しい振る舞いができるようになればいいのですが」

 

 絶対無理でしょ。

 

「絶対無理でしょ」

「ミゼルさん……」

「あ、すみませんつい!」

 

 思わず本音が。じとーっとベンジャミンさんに睨まれてしまったけど、シャーロットさんが悪い。あの人からは立派な人イメージがもうないんだもの。

 

「お前なー。面白いけどお前なー」

「だって……仕方ないかと。あ、今のって不敬罪になったりします!?」

「ならないならない」

「ま、まあ、そういった率直な物言いがシャーロット様に良い影響を与えているかもしれませんからいいでしょう」

 

 良かった不敬罪で鞭打ちの刑とかはないようだ。

 ほっと胸をなでおろしていると顔に柔らかい衝撃が走った。

 

「ふが……」

「とはいえ何もお咎めなしじゃ王家の従者の名折れだしな。というわけで罰として枕の的だ」

「アルバート、おまふご───」

「あ、すまんベンジャミン。でも射線に入るお前が悪い。それより一方的じゃ面白くないからな。特例として投げ返してもいいぞ!」

「何歳でふが……」

 

 喋ってる最中にこのやろう。

 やってやろうじゃないかこのやろう。近接武器を扱う騎士より銃を扱う海賊の方が枕投げが得意ってことを見せてやる。

 

「後悔させてやる!」

「やる気満々だな! そうこなくっちゃな!」

「他の客人に迷惑ですよミゼルさん! アルバートもやめふぉ!?」

「他の客なんていねーよ! そぉら!」

「アルバートォ!!」

 

 わずか2度の枕攻撃によってベンジャミンさんまで参戦しだした。枕投げなんてやるのは初めてだ。旅行の定番の遊びのようなイメージだけど迷惑だからとやらなかった。でも今は思いっきり楽しんでやる。中途半端にやって後で怒られるのも嫌だし、全力でやって後で怒られよう。でも今後はやらないでおこう。枕が思ったより痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、騒ぎ疲れて寝たと」

「……はい」

 

 棚にあった枕があちこちに散らばった宿の一室。片付けもせず僕はうつむいて事情を彼女に説明した。

 足を踏まれて痛い。

 

「ねえ、前も似たようなことを聞いたと思うけど」

「はい」

「今何時かわかる?」

「……15時です」

「正解ね。何時に出発予定だったっけ?」

「13時でした!」

「ねえ、何か言うことはある?」

「本当にごめんなさいっ!!」

 

 痛みと共に起きたら目の前にはシャーロットさんというドッキリ。アルバートさんとベンジャミンさんの荷物はもうなかった。あの二人は僕を裏切ったのだ。

 

「廊下を挟んでの間取りだったから良かったものの、普通に安眠妨害もしてんのよ」

「あの時はどうかしておりました……!」

 

 今回は言い訳することすらできない。あとお腹がすごく空いたんでこれぐらいで勘弁してほしい。

 

「ま、まあご飯でもしましょう。ね? ね?」

「もう食べたわよ」

「ですよね……!」

「あんたは船の上で食べなさい」

「乾パンは飽きます……」

「赤いスープの麺。ここの郷戸料理らしいわよ。船の上でも食べれるって」

 

 ほら、と渡されたのは小さな包み。買ってきてくれたとは。

 

「ありがとうございます」

「さっさとアーモロードに戻りましょ。もうここに用はないんだし」

 

 あ、ここに残るヴィクトリアさんたちからさっさと離れたいから買ってきてくれたのね。理由どうあれ元々の出発予定時間からだいぶ遅れてるし、ありがたいからいいんだけど。

 

 宿をチェックアウトし朝日もとい昼の日光を浴びる。眩しすぎる。でも海に出れば霧で遮られるし今のうちに堪能だ。

 

「あ、いた!」

「ん?」

 

 港へと向かっているとエイス君たち御一行と遭遇。というか口ぶりからして僕らを探していたようだ。

 

「なになに、見送りに来てくれたの?」

「そうじゃない。あんたたちからもみんなに言ってほしいんだ。俺たちがもう冒険に出ても大丈夫ってことをさ。あんな大きな魔物を倒したぐらいなんだし」

「無理に決まってるじゃない。あんたたち、私がいなかったら最初の攻撃で全員死んでたってのに」

「あれは……油断したからで……」

「シャーロットさんの言う通り、まだ止めておいた方がいいと思うよ」

 

 あの鮫が規格外だとは思うけど、やっぱり大人側として子供には危ない目にあってほしくない。あの泣き虫な繧ー繝シ繝医Ν繝シ繝阪r謔イ蜉??貂ヲ荳ュ縺ク縺ィ隱倥>縺薙s縺ァ縺?k霄ォ縺ァ縺ゅk縺ョ縺ォ縺ェ。

 

「痛ぅ……」

「? どうしたの?」

 

 一瞬視界が赤と白に染まり、すごい頭痛がした。

 今何を考えたんだろう。何か大事なことに関わることだった気もするけど、どうでもいいことだった気もする。

 

「と、とにかく今はやめておこう? そもそも霧の海を越えるのも危険なんだし」

「エイスー、この人たちの言う通りやめとこうよ」

「実際あの鮫相手にぼくたちがやったことなんて最後の一押しだけだしな。エイス、今回は諦めた方がいいって」

 

 不満なエイス君は難しい顔で唸っている。でもダメなものはダメだ。出航の際はこの子たちが勝手に乗りこまないよう警戒しないと。

 これ以上ここにいてもエイス君のごねるチャンスを与えるだけだしおさらばだ。

 

「それじゃあね」

「は、はい。お世話になりました」

「ありがとうございました」

「……ふんっ」

「エイスー」

 

 あの様子じゃ全然諦めてなさそうだ。この分ならアユタヤ以外のどこかで再会する気がする。

 

 

 

 やや今後を心配させる子供たちと別れ、僕たちはアーモロードへの帰路についた。

 

 

 

 

 

 




 


文字化けテスターって便利ですね。

アユタヤ編、終了です。


作中で書けなかったこと
エイス君の射撃はゲームでの追撃タイプということから、味方の攻撃を目印にすれば精度があがる、みたいな独自設定をつけてみました。
なのでハンマーヘッド戦では命中率上昇しています。

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