とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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24.巨人遺跡の歴史学者

 

 

 

 

 アーモロード目指し、スカンダリア大灯台の光を目印に進路を調整しながらの船の上。

 海の様子を見ながら舵を取っていた。

 

「結局、アユタヤでも収穫なしね」

「うぐ……」

「もう候補先ないんじゃない? 樹海に行ってもいいでしょ?」

 

 舵取りの集中力を乱してくる隣の暴君め。痛いところをついてくる。

 現状アーモロードからの海路で繋がっている大きな都市はバタビアとアユタヤのみ。そのどちらも仲間になってくれる人はいなかった。

 

「またあの鮫みたいな剣も銃も効果のない魔物が出たらどうするんですか」

「なんとかなるわよ」

「テキトーすぎる……」

 

 攻撃の効かない魔物からは戦わずに逃げる、しか今のところ取る手段がない。それもこの暴走脳筋のせいで難しいけど。

 

「とりあえず……灯台下暗しとも言いますし、アーモロードで仲間になってくれそうな人を改めて探しましょう。それでだめならまたバタビアに」

「なんでまたバタビア?」

「あそこではちゃんと探してませんでしたしね」

 

 ジャイルズさんとアガサさんを送って、ドレークさんと遭遇して、と。あそこで関わった人たちはわずか3人だけだ。探せば冒険者志望がいるかもしれない。

 

「無駄足としか思えないけどね。というかそれならアーモロードに戻らずバタビアに行った方がいいんじゃない?」

「あー、確かにそうですね」

 

 アーモロードよりバタビアの方が近いし、別に急ぎで戻る必要もない。

 

「よし、それじゃ今からバタビアに行きますか」

「ん。なんでもいいけどね」

 

 進路を変えて大きな風車がシンボルのバタビアへと行先調整。正直あまり期待はしていないけど、探すのを頑張るぞう。

 

 

 

 

 

 

 バタビアについて、まず情報が集まりそうな場所、すなわち酒場へと赴いた。

 そこで色々と聞きこみ勧誘をしまくったのだが。

 

「お疲れ様」

「……あい」

 

 机に突っ伏す結果に終わった。

 全然志望者いない。いや、0というわけじゃない。中には海都の迷宮を目指すって人もいたけど、入るならちゃんとしたギルドに入りたいと勧誘を断られた。うん、わかる。その気持ちはすごいわかる。だから無理に追いすがることもできない。

 

「それにしても、あまり繁盛してないんですかね」

 

 注文したマンゴージュースを飲みながら改めて店内を見渡す。いくつもの空席が目立っているからだ。まあまだ日が出ている時間の酒場と考えれば妥当かもしれないけど、羽ばたく蝶亭を思うとどうも繁盛してなく見える。あっちが特別人気ということもあるだろうけど。

 

「こんな時間だからね。ピーク時はちゃんと客がいるさ」

「あ、ごめんなさい」

 

 普通に店の人に聞かれてた。

 

「いいさいいさ。最近は儲かっているから気にしないよ」

「それは良かったです」

「最近はって何かあったわけ?」

「ここから海を越えて南にな、遺跡が見つかったらしいんだ。どうも大異変前の遺跡みたいで海都から調査団がバタビアに寄ってくれて、いつもより大繁盛ってわけだ」

 

 ほほー。大異変前の遺跡っていうのは少し気になるかも。

 

「どんな遺跡なんです?」

「詳しくは知らないよ。気になるなら行ってみたらどうだ? 民間の学者も調査に出ているらしいから問題ないと思うぜ」

 

 そこまで言って店の人は、飲み物のお代わりはいるか聞いてきた。情報を聞いたんだし頼まないとダメだろうからトマトジュースを頼む。ジュースしか頼んでないけど気にしない。

 

「え、何? 遺跡行く気?」

「大異変前のって気になりません?」

「なるわけないでしょ」

「でも深都の手掛かりが……」

「アーモロードからどんだけ離れてんのよ」

 

 まあ深都の手掛かりはないだろう。だけど大異変前、すなわち古い文明だ。僕が探しているものはそういった物に関わってくる可能性が高いんだし、ここは絶対行きたいところ。

 

「……期限は2週間、忘れてないでしょうね。延長はしないから」

「はい!」

 

 どうせ仲間集めは絶望的なのだ。

 許可は出たことだし、目指すは南の遺跡だ。

 

 

 

 

 

 

 

 南にある遺跡の場所について、少し聞きこみをしてから海を出た。

 入り組んだ島々に囲まれているそうで、航海は危険なものだと聞いたけど。

 

「前、渦! 南に!」

「はい!」

「また渦! 東に進路戻して!」

「はぁい!」

 

 目まぐるしい。

 入り組んでいるおかげで渦潮もあちこちにある。僕だけで進路の確認と変更は難しいのでシャーロットさんに周囲を見てもらっているけど、もうしんどいのなんの。

 

「あ!」

「あってなんですか!? 何があったんですか!?」

「……今から進路ずらせない?」

「何があったんですか!? なんかすごい勢いで流されているのはわかりますけど!!」

 

 強めの海流に乗ってしまったなこれ。

 

「だ、大丈夫これ!? なんとかできないの!?」

「慌てなくて大丈夫、です! ……たぶん」

「ほ、本当に!?」

「たぶん! はい!」

 

 海流の先が渦潮じゃなければだけど。こればかりは祈るしかない。今から無理に海流の外へ出ようとすると最悪転覆もありえるし、今は流れに任せるしかない。

 

「大丈夫ですけど! でも後で怒りますから!! 全力でつねりますから!!」

「悪かったわよ!! でも海のことなんて知らないんだから仕方ないじゃない!!」

 

 醜く言い争いながらも船は進み続ける。

 入り組んだ島々に乗り上げることなく激流のままに。

 

 やっぱりダメかもしれないと思いかけたその時、過ぎ去っていく景色が遅くなった。

 

「……流れがない?」

「お、おお……船旅って最悪……」

 

 海流の終わりまで無事だったようだ。これは結果オーライ、海流のおかげで航海時間も短縮できた。

 何故ならすぐそばに、人の手が入ったであろう島がそびえていたから。

 

「ていうかモアイ……」

「もあい?」

「いえ、なんでもないです」

 

 イースター島だろうか。でもイースター島だって沈んだはずだ。改めてモアイを作ったのかもしれない。

 

「ここが例の遺跡っぽいですね」

「ほんとに……? 船が一隻しかないけど。あれを船と呼んでいいかはわからないけど」

「……筏、ですね」

 

 あれは調査団というより漂流者の船だ。

 でも遺跡っぽいし……もしかして他にも島の入口があるのでは。まあとりあえず上陸しよう。

 

 船を島につけ錨を降ろす。隣の筏は申し訳程度の帆がついている。よくこんなものでここまで来たものだ。

 

「あ、シャーロットさん」

「何?」

 

 忘れないうちに彼女にそばに来てもらう。そして

 

「てぇい!」

「いたぁ!?」

 

 宣言通り全力で頬っぺたを抓りあげてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さいあく……」

「モアイの首元に地下への入口……本格的に遺跡ですね」

 

 さすがに自分に負い目があるときは仕返ししてこないようだ。ほっぺをさするシャーロットさんは無視して遺跡の入口を発見。

 今のところこの島に霧は掛かっていない。このまま遺跡に入っても後ろから魔物が来る可能性は低いだろう。地下は樹海のことを思うと霧など関係なく魔物がいるかもだけど。

 

「シャーロットさん、行きますよ」

「あんたが何かへまやったらつねりあげてやる……」

「恐ろしい宣言しないでください……」

 

 中は暗いかなと思ったが、あちこちに同じような入口があるのか光が差し込んでいる。暗くはあるけど真っ暗というわけではない。ランタンとか松明でもあればもっとよく見えたんだけど。

 そのまま進んでいくと、薄暗い遺跡の中、パチパチと火の立つ音が聞こえてきた。

 

「……誰かいる」

「調査の人、とか……」

 

 焚火をする魔物なんていないよね。今まで見た魔物はどれも動物が巨大化したようなものだし、人型はいないはずだ。

 たぶん調査団だろうけど最悪海賊の類かもしれない。海賊が全てザビィさんやドレークさんのような人とは限らないだろうし、警戒に越したことはない。いつでも銃を抜けるようにしながら声を出す。

 

「誰かいませんかー!」

「俺がいるぞ!」

 

 なんだその返答。

 焚火の方からそんなふざけた返答がきた。何者かわからないけど、悪意があるような感じはしない。

 

 安心して焚火へと近づいていくとその人の姿が見えてきた。羊皮紙に何か書きこんでいる大男だ。

 

「ひょっとして、調査団の人ですか?」

「調査団ってわけじゃねぇな。フリーの歴史学者、ボンガロだ。お前たちも学者か?」

「いえ違います。僕はミゼルで、この人はシャーロットさん」

 

 僕は学者に見えるだろうか。見えてたらちょっと嬉しい。

 ていうかこの人、歴史学者なのか。すごいなんというか……筋肉質だ。やだこの空間、筋肉と脳筋に囲まれた古い時代の科学者って図になってる。

 

「海都の冒険者よ」

「海都から来たのか。俺も同じだ」

「まさかあの筏で?」

「おうよ。なかなかしんどかったぞ」

 

 しんどいとかってレベルじゃないよ。無理だよ普通。帆をロープで受ける風向き調整したとしても、アーモロードからここまでってどんだけ腕力すごいのさ。でもできそうな気がするムキムキ……なんだかボンガロさんの隣には立ちたくない。筋肉差がより一層感じれそうだし。

 

「それにしても、歴史学者に全然見えないんだけど」

「そうか?」

「学者というより武闘家ね」

「元々は拳士だったからな」

 

 まあ昔なんであれ、今は学者ならこの遺跡について何か掴んでたりするかもしれない。

 

「この遺跡について何かわかったことってあります?」

「お? 俺の調査結果が気になるのか? そういうやつは久しぶりじゃねぇか」

 

 まあボンガロさんの見た目は学者の印象皆無だし、誰も調査について聞かなさそうだ。

 

「いいか、ここは大異変前にあった遺跡らしい」

「あ、それはバタビアで聞きました」

「あとは、そうだな……」

「あ、ないなら無理に言わなくても……」

「待て待て。あるにはあるんだが、うまく言葉にするのが苦手なんだ」

 

 言葉で語るより拳で語りそうですもんね。

 と冗談は置いといて、実際あまり進捗はよろしくなさそうに見えるけど。

 

「周りの石像は見たか?」

「あの地上のやつですか?」

「暗くて見えねぇか。ほら、周りを照らしてみな」

 

 言葉ではなく自分で見てみろと。一番それが簡単で確実だからいいけど学者っぽさ本当にないな。

 言われた通り周囲を照らしてみると、

 

「なんですか、これ……」

 

 いくつものモアイっぽいのが並んでいる中、明らかに形状の違う石像が紛れている。巨大な腕を持つ巨人の像。これに近づいては行けないと感じてしまう威圧感。

 

「わからねぇ。他の学者連中は古代の兵器って見解だ。古代ではその石像が動いて戦っていたんじゃないかってな。今じゃ叩いてもうんともすんともしねぇ」

「いや……触ったら動く予感がすごいんですけど……」

「? この石像のことよね」

 

 シャーロットさんは危険を感じていないのか無防備に触った。だけど石像は動かない。それを見て安心できるはずなのに、未だに僕は危険を感じてしまう。それもひしひしと、かなり強くだ。

 

「なんともないわよ?」

「……僕は近づかないでおきます。嫌な予感がずっとしますんで」

「そう。で、この石像以外は発見ないの?」

「他の連中が帰ってから発見したものがある。見るか?」

「ま、せっかくだしね」

 

 ボンガロさんも松明を持ち歩きだす。場所を変えれば石像の数も減るなり変化するなりするかと思ったが、等間隔で配置されている。そしてどの石像も危険に思えてしまう。

 

「ところでお前ら、人魚を知ってるか?」

「いきなり何? 与太話なんて付き合ってられないんだけど」

「そう思うよな」

「……人魚でも見つけたんですか?」

 

 発見したものを見せるタイミングで言いだした話だ。人魚についての発見か何かだろう。イマイチ人魚についての発見がどういう価値のあるものかわからないけど。魔物とどう違うの?

 

「お、ついたぞ。ここだ」

「何もないじゃない」

「いや、あれ……」

 

 一見するとただの遺跡の通路だ。だが松明で照らされた範囲内の地面に一部、奇妙な亀裂とへこみがあった。その中心には、骨。

 ひょっとしてあれは人魚、だったものか。

 

 人魚の骨と思しきものが通路に押し花のようにつぶされていた。

 

「目ざとい奴だな。学者に向いてるかもな」

「潰れた骨? これが何だっていうのよ」

「よく見てみな。この骨、人間のものじゃねぇ。上半身は人間に似てるが、下半身は全くの別物だ」

「……全然わかんないわ」

 

 圧倒的な重量で全身を押しつぶされたせいだろう。骨の配置はかなり綺麗なものだけど、粉々に砕け風化した部分もあるから少しわかりづらいかもしれない。だけどボンガロさんの言う通り、上半身は人間と似たもの。下半身は人間ではない、しいて言えば魚類の骨に近い形をしているが、それもまた違う。

 

「異形の骨ってだけでもたいした発見なのにな、骨の周囲の窪みが石像の拳と一致してるんだ。石像が古代兵器であったこと、戦っていた相手が人魚だったこと。あとは骨の年代がわかればいいんだが、俺はそういうのは専門外でな。次の調査団待ちってわけだ」

「意外にちゃんと学者してんのね」

 

 本当に意外と学者してる。

 それにしても人魚か。人魚相手に兵器を持ちだすっていうのはよくわからない。そこまで危険視する相手なのか。

 

「人魚ってどういう存在なんです? 半身が魚の人……ってだけじゃないんですか?」

 

 僕の人魚の認識と、この時代の人魚の認識は大きく違うかもしれない。その擦り合わせのために聞けば

 

「わかんねぇな。そっちの剣士が言ったみてぇに与太話だからよ。目撃情報だって酔っ払いの見た幻覚みたいなもんしかねぇ」

「あとは怪談ってところかしら。人気のない夜に海へ近づけば人魚に頭から食べられるとか、そんな馬鹿みたいな話」

「海から唄が聞こえたらすぐに耳を塞がないと廃人になるとも聞いたな。どの話も証拠となるものがないんだが」

 

 目撃情報のない存在。ツチノコみたいなものかな。

 

「この骨、本当に人魚のものなわけ? その辺の動物が一緒に潰されたとかじゃないの?」

「俺も最初はそう思ってこの辺りの動物や魔物を調べたんだがな。動物にその下半身と一致するやつはいねぇ」

「魔物はどうです?」

「この島には魔物がいねぇな。海から上がってきたかもしれんから断言できないけどよ。だが島に来る途中に見た魔物はもっと小さかったり短かったりしてたけどな」

 

 筏での旅は頭おかしいよ。筋肉パワーでも限界があると思うよ。学者っぽいと思った途端に筋肉だ。

 

 しかし、この遺跡での発見は危険そうな石像と人魚の骨ぐらいか。僕の求めているイミスたちの手掛かりはなさそうかな。

 

「色々とありがとうございました」

「なんだ、もういいのか」

「はい。遺跡についてこれ以上調べても、僕が欲しい情報はなさそうですし」

 

 大人しくアーモロードへ戻るとしよう。

 アーモロードで最後の仲間探しをして……最悪2人で樹海へ……

 

「ため息なんてついてどうしたのよ」

 

 ため息の原因め。

 

「僕たちはアーモロードに戻りますけど、ボンガロさんはまだここに残るんですよね」

「ああ、野生の獣がいないわけじゃないしな。せっかくの発見を荒らされないためにもここに残る」

「戻るのは……やっぱり筏で?」

「おうよ!」

 

 何も言うまい。さすがに途中途中の島で休憩するだろうし……いや、それでも絶対ありえないレベルだけど。

 

「あまり無理せずにですよ……」

「心配するな。行きが大丈夫だったんだから戻りもたいして変わんねぇよ」

「そこは運次第ですから。筏で幽霊船と遭遇したらおしまいですよ……」

「幽霊船? まあそうか。人魚の骨があるなら幽霊船が航海しててもおかしくねぇな!」

 

 あ、幽霊船の存在を信じていない。でもこれが普通か。何故か幽霊船の情報は口外禁止らしいし。

 あの存在は気をつけたところで遭遇すれば生きて帰るのは難しい。だから教えてもたいして意味はないかもだ。それに僕も口止めされてはいるけど……

 

「……ちょっとボンガロさんに見てほしい物があるんです」

「お、なんだ?」

 

 この遺跡なら港長も元老院の目もないし、別に教えちゃってもいいだろう。

 

「幽霊船の船員、の一部です」

「なんだそりゃ」

「幽霊船は本当に存在しているんですよ。その証拠にと」

 

 

 

 

 蟲の一部が幽霊船の船員だという証拠はないけど、でも少しは注意喚起できるだろう。

 最初に会った焚火のところで待っててもらい、蟲の一部が入った小樽を取りに僕は船へと向かった。目的の物を抱えて再び遺跡の中へと入る。

 

「これです」

「小さい樽だな」

「あ、先に言っておきますね。すごい臭いです」

 

 シャーロットさんはすでに鼻にハンカチを当てて準備していた。

 樽からはあの臭さが漏れていないので、正直開けたくはない。だけど見せるためには開けないとだ。

 

「それじゃ、開けます……」

「くせぇ!」

「くさっ……」

 

 樽の中に充満していた悪臭が一気に広がった。なんか前よりも臭さがパワーアップしている気がする。密閉してたからだろうか。

 

「これ、が、幽霊船の船員の、体の一部です……」

「み、見たことねぇな……」

 

 全員して鼻をつまんだ状態。傍から見たらなんとも間抜けな光景だ。

 もう見せたしさっさと布に包んで再び樽の中へと封印しよう。この悪臭はもはや毒だ。服にでも臭いが移ったら最悪だ。

 

 少し涙目になりながら蟲を包もうとしたら背後から服の襟を痛いぐらいに引っ張られた。痛いぐらい、では済まなかった。引っ張り飛ばされた。

 

「こ、ぉぉお!?」

 

 途端に地震が起きたかのような地響き。焚火の明かりが消え、遺跡の中が薄暗くなった。

 

「お前ら! 無事か!」

「なんとかね!」

 

 ボンガロさんの声が離れた場所から聞こえ、そばからはシャーロットさんの声。

 何かが起きた?

 

 またも地響きが起きる。体の芯から揺らすような振動が空間を染める。音の発生源はさっきまでいた場所だ。

 

 薄暗くはあるけど、目を凝らせば辛うじて姿が見える。

 

「……石像」

「何が戦っていた相手は人魚よ……」

 

 巨大な両腕を誇る石像が目を赤く光らせ、焚火を何度も何度も硬い剛腕で圧潰する。その度に空気が震え、轟音を起こす。

 

「火……? いや、あの蟲?」

「でしょうね……」

「すげぇな、あれ。久しぶりに血が滾る相手じゃねぇか」

 

 暴れる石像を迂回するように、ボンガロさんが僕らに合流した。

 言ってる内容が戦闘狂すぎるからやめてほしい。

 

 蟲はとっくに息絶えているにも関わらず、もはや原型すら残っていない状態なのに、石像は未だ拳を振るうのをやめない。

 その破壊力たるや、遺跡の床ごと壊しかねない威力だ。砕けては周辺に石が飛び散っている。ちょっと危ない。

 

「……あの蟲の匂いに反応したんでしょうか」

「どうだろうな。幽霊船の船員だったか? その点に反応したってこともありえるぞ」

「このまま見てたって仕方ないわ。さっきから礫が飛んできてうざったいし、離れましょ」

 

 一心不乱に蟲の欠片を殴り続ける石像を尻目に遺跡の入口へと向かう。あの潰された人魚もあのようにやられたんだろうか。殺意が高すぎる。

 

 ビシッ、と頬に痛みが走った。

 

「痛」

 

 何かが飛んできたのか、頬が切れたようだ。たらりと血が頬をなぞる感覚。

 

「あの拳の破片が飛んできたみたいだな」

「分析してないで行くわよ。眼に当たれば失明間違いなしよ」

「? 止まったな……」

 

 やり取りを聞きながら、背筋に冷たいものが走る。

 石像が蟲を殴るのを突然やめたのだ。

 

 赤く光る石像の目は今まで叩き潰していた蟲から動かされていく。

 

 目線の先は、僕たちのいる位置へと。

 

「……ちょっと。あの兵器の敵は人魚って話じゃないの」

「……幽霊船も含むかもしれねぇって言っただろ」

「人間も追加とか……聞いてないわよ」

 

 蟲を潰していた石像は拳を構え、咆哮を思わせるような駆動音と共に僕たちへと近づいてくる。 

 

 その石像の背後から、また別の石像が目を赤く光らせ、同じように近づいてくる。

 その後ろも、そのまた後ろにも、石像が何体も何体も。

 

 

 何体もの石像が轟音立てながら僕たちへと拳を振り上げ向かっていた。

 

 

 

 

 




 

ボンガロ
大航海クエスト共闘NPC。殴り型モンク。
モンクは回復型、攻撃型となれるクラス。
原作中では優れたAIを持ち、相手のカウンターには掛からない頼れるマッスル。実際マッスルか不明。
あとXで同名の方がいたそうで、しかも女性だそうで、しかも共通点があるそうで。
ですがこのお話では男性として扱います。未来の話など知らんです!
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