とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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25.遺跡を一度後にして

 

 

 

 

 何体もの遺跡の石像が襲い来る。

 

 遺跡の広さはそれなりにある。だが通路は当然、他より狭い。おかげで石像に囲まれるという事態は避けられているが、逃げる以外に選択肢はもとよりない。

 

「あの蟲の匂いでも移ったっていうの!?」

「わかんねぇ! 悪臭が充満しているからかもしれん!」

 

 シャーロットさんたちが石像が狙ってきている理由を予想しながら走っている。僕は走りながら切れた頬を抑えた。手のひらに血がつく。やっぱり出血している。

 

 サエーナ鳥やハンマーヘッドの時と同じく、また出血による反応だ。しかも今度は石像相手に。じゃああの石像は魔物? そうは全然見えないけど。

 とにかく狙ってきている理由はおそらく出血。なら止血さえすれば。

 

 って走りながらできるわけがない。立ち止まれば地面と一体化させられてしまう。

 

「とにかく遺跡の外へ行くぞ! あのデカさじゃ入口は通れねぇはずだ!」

 

 僕の頬の血小板、頑張って止血して。できる限り早く。本気で早く。

 

 そんなことを念じながら2人に遅れないように走りついていく。

 

「な、なんか速攻で効く止血剤とかありませんか!?」

「こんな時に何言ってんの! ちょっとぐらい我慢して!」

 

 我儘で言ってるんじゃないやい。

 あ、やばい。嫌な予感が。

 

「上から来る! 横に跳べ!」

 

 前を走るボンガロさんの咄嗟の指示に従う。

 すると跳び上がっていたのか、さっきまで走っていた進路上に石像が落下してきた。

 

「止まるな! 囲まれるぞ!」

「は、はい!」

 

 落下してきた石像の脇をすり抜けつつまた走りだす。

 何故かシャーロットさんとすれ違った。なんで逆走を、と思ったのもつかの間、彼女は剣を振るい石像の足を斬りつけた。石像と剣の衝突に火花が散り、

 

「……刃が欠けたわ。さいあく」

「そりゃそうですよ!?」

 

 手が痺れたのか、涙目のシャーロットさんが引き返してきた。

 なんで斬れると思ったのか問いただしたい。

 

「次は俺が行く!」

「脳筋その2!?」

 

 なんで攻撃に転じちゃうんだ。何を考えてそういうことをしちゃうんだ。

 

 ボンガロさんが手甲を構えると、その拳に炎が纏いだす。

 占星術師には見えなかったけども、手甲に何か仕組みでもあるのだろうか。

 

「剣がダメなら……拳だぁー!!」

 

 無粋なことだろうけど、純粋な拳じゃなくない?

 

「どうよ! 足にヒビが入ったらもう走れないんじゃねぇか!?」

 

 普通にすごい。

 でも今のでわかった。この石像もハンマーヘッドと同じで物理的な攻撃には強い奴だ。まあ見た目からしてそうだけど。

 

「ってボンガロさん! 早く移動を! そいつだけじゃないんですから!」

「おうよ! ……あ?」

 

 足にヒビが入ったことなんて気にしていないのか、石像は平然と動きだす。そこまではいい。

 ほのかに石像が光ったと思えば、それまでの欠けていた部分。蟲を殴って欠けた拳も、足のヒビも、最初から破損などなかったかのように修復されていく。

 

「自己修復機能とか、滅茶苦茶だ……! シャーロットさん、攻撃禁止ですからね! 逃げる一択で!」

 

 多少ダメージを与えた程度じゃあの石像は止まらない。ボンガロさんの炎の拳で駄目なら僕とシャーロットさんの薬品アタックもたいした効果は見込めない。あの石像を破壊するにはもっと大きな炎……やっぱり占星術師が必要かもしれない。カストルさんが恋しい。

 

「ああもう! 血さえ止まれば!」

「何わけのわかんないこと言ってんのよ!」

「止血さえできればあいつらは止まるんです! たぶん!」

 

 そもそも頬なんて太い血管があるわけじゃないんだ。少し安静にして抑えればすぐに止まる。

 

「安静にする余裕ない!!」

「こいつ大丈夫か!?」

「わかんない! もうすぐ出口なんだししっかりしなさい!」

 

 あ、外の明かりが一層よく見える。ということはあれが出口、もとい遺跡の入口。

 さすがにここまでは追ってこれないはずだ。そもそもあの巨体は通らない。通れない。迫る石像の群れから逃げるように外へと駆け込んだ。

 

「しんど……」

「…………」

「お前ら、大丈夫か?」

 

 海を筏で越える人はまだ余裕がありそうだ。筋肉馬鹿かよちくしょう。応える余裕など僕にはない。

 

「しゃ、シャーロットさん、止血剤ないです……?」

「まだ言ってんの? ていうかあんた顔ひどいわね」

「ひどい」

「ほんとだな。血でも塗りたくったのか?」

 

 抑えながら走っていたし、そうもなるか。

 抑えていた手のひらも真っ赤になっちゃってるしベタベタだ。

 

「そんな大げさな傷じゃなさそうだし、放っておいても大丈夫よ」

「血が出ていることが不味いんですよ。またさっきみたいになりかねませんし」

「? わけわかんないわね。止血剤はたしか……ほら」

 

 渡された瓶の中にはクリーム状の物が詰まっていた。

 塗り薬タイプ。すごい助かる。受け取ってすぐにクリームを頬に塗りたくった。

 

「あ、間違えた。それフェイスクリーム」

「普通間違える!?」

 

 潤いを保てそうだよおかげで。

 投げ捨てそうになるところを我慢。今度こそ止血剤を受け取った。これもクリームタイプだ。間違える……かな……? ていうか医薬品と化粧品一緒くたにしてるとは。

 

「……うひゃ!?」

 

 突然地響きが襲った。

 発生源はすぐそば、遺跡の中からだ。

 ああ、そうだ。何を呑気にしてたんだ僕は。サエーナ鳥だって自分の巣を破壊するように執拗な攻撃を見せていたじゃないか。遺跡の出口が狭いからそれ以上追ってこない、なんて楽観視をどうしてしていたのだ。

 

「おいおい……遺跡が壊れるぞ……」

 

 一際大きな音を立て、巨大な腕が天を指すように地から伸びる。そこを取っ掛かりににしてどんどんと姿を日の元に晒していく。当然1体だけではない。次から次へと出てくる出てくる。

 

「ちょ、ちょっと! さっさと船に乗って逃げるわよ!」

「さすがに同感だ!」

 

 たぶん無理だ。

 海に出ることができたとしても、こいつらは追ってくる。さすがに泳いだりはできないだろうけど、そばで海に飛び込まれれば高波となって転覆コースだろう。

 

 というわけで僕のやることは止血である。何よりも止血である。

 

 だってどの石像も赤い目を僕に向けてるし、シャーロットさんとボンガロさんは狙われていない。もうここまで来たら体質とかそんなのじゃなく絶対なんらかの理由があるはずだ。生き残れたらしっかり検証なり考察なりしよう。

 

 とにかく今は、この止血剤がすぐに効きますように。

 

 クリームが傷を覆いかぶさった時点で外への出血は止まるけど……どうだ?

 

「あ。ダメっぽい」

 

 石像たちが止まらずこっちへ来てる。

 やべー、なんて思いながら石像の巨体を見あげるしかできない。そんな僕にいつぞやのような横からタックルが襲う。

 

「ぐえっ」

「わけわかんないことばっかしてんじゃないっての! あとで全力で抓りあげるから!!」

 

 今日の仕返しか。でも助けられたし甘んじて受け入れよう。

 それよりあの石像どもだ。またすぐ襲ってく……る……?

 

 石像は追撃せずに何度も拳を振り下ろす。さっきまで僕が立っていた場所だ。何度も何度も、執拗に。もうそこにはいないというのに。

 

「今度は何……? あんた何か持ってたわけ?」

「いえ……」

 

 何を殴っているんだ。あれは……血の痕……?

 

「……!」

 

 自分の右手を見る。先の止血クリームで白く染まっていた。このクリームの下には血が皮膚にこびりついているはず。だけど慌てていたからごっそりクリームまみれだ。

 自分では見えないけどたぶん頬も同じような状態だろう。

 

「こ、こいつらは血に反応してる……? わけがわかんない……」

 

 サエーナ鳥とは違うのか、ちくしょう。あの鳥は出血という現象だったのに。

 まあまだ断言はできない。急にこっちを見るかもしれないし、もう船に乗って今のうちに離れよう。

 

「もう、出ましょう……」

「さっきからそう言ってるじゃない」

「はは、ですね……」

 

 未だ暴れる石像を警戒しながら船に乗りこみ、筏を出し掛けて止めているボンガロさんに声を掛ける。

 

「ボンガロさんも乗りますか?」

「……いや、やめておく。俺はやっぱりここに残る」

「物好きね。そいつらがまた狙ってくるかもしれないってのに」

「それじゃあ、一応怪我だけはしないように気をつけてください。あの石像は僕の血に反応して狙ってきましたし。僕の血だから反応したのか、それとも血ならなんでもいいのかわかりませんが、念のため」

「おうよ」

 

 別れ際に力こぶを見せて応えるボンガロさん。なんとも明るい姿に少し面白く感じた。変わった学者もいるもんだ。

 

「もう早く船を出してよ。次狙われたら船ごと沈められちゃうわよ」

「そうですね」

 

 錨をあげて船を出す。まだ石像どもは地面を殴り続けていた。

 

 ある程度遺跡の島から離れたころ、シャーロットさんがそばまで来た。

 

「あ、丁度よかった。まだ先ですけど、また入り組んだ場所を行きますから進行先の海を見てほしいんです」

「わかった。それより」

「?」

 

 頬に手を添えられる。切った頬とは反対側だ。そして、

 

「ひたぁ!?」

 

 かなりの力で抓りあげられた。

 

「よし、これで手打ちしてやるわ」

「痛い……じんじんする……痛い……」

 

 スッキリした顔で、それじゃ進行先を見てくると言って船首へと彼女は向かって行った。

 そういえば抓ると宣言してたことすっかり忘れてたよ。油断してたせいで滅茶苦茶痛い。

 

 まあ傷の方じゃないのは優しさだろうか。

 それにしても、出血だ。サエーナ鳥、ハンマーヘッドと謎の共通点を見せてきた。今回の石像はちょっと不明だけど、でも狙いだす切欠は僕の出血だ。

 

 なんなんだこの現象は。

 

 人の血の味を求めて、というには奇妙だ。

 サエーナ鳥は自身の巣を破壊しても構わないといわんばかりの攻撃を、最期には自分の命よりも出血している僕を狙っていた。

 ハンマーヘッドも同じように、海から距離が離れて行こうと血を流す僕を執拗に狙っていた。血を出す前までは海に定期的に戻っていたのにだ。また、サエーナ鳥と同じく最期まで僕を狙っていた。

 そして今回の石像。石像というとしっくりこないな。ゴーレムとでも呼ぼう。ゴーレムは最初こそ蟲の欠片を殴り続けていたが、頬から出血してから狙いを僕に変えた。

 

 ゴーレムはまだ不明点が多いからともかく、サエーナ鳥とハンマーヘッドの動きは明らかにおかしい。血に飢えていたとしても、危険を省みずに攻撃し続けるほどの状況ではなかったはずだ。なのに自ら死地へ飛び込んできた。こんなもの、体質だとかで片づけられるものではない。

 

 血に反応、いや、出血に反応。

 

「……」

 

 意味がわからない。血なら薬が混ざっているからとかで、薬による影響とも考えられたけど出血だ。この際サエーナ鳥の出血への反応は無視しよう。

 となるとゴーレムの反応について考えよう。

 そもそもあいつらが動きだしたのは蟲の悪臭が始まりだ。そこから僕の血へと反応した。……蟲の体液と僕の血は一緒の成分、とか……そ、そんなはずないと思いたい。

 

「シャーロットさーん」

「んー?」

 

 あんな激臭な蟲と同じはずないと思っているけど? 念のため? ちょっと念のため? 確認したいし?

 

「僕って臭くないですよね?」

「知らないわよ」

「臭くないですよね! あの蟲より!」

「そ、そうね」

 

 よしよし。絶対僕の血と蟲は違う成分だ。うん。あの蟲どもが眷属だったりしたら吐き気がするよ。

 

 蟲の成分は置いといて、そもそもあの場で血が出たのは僕だけだ。ボンガロさんとシャーロットさんは血を出していない。だから人間の血なら何でもいいという可能性だってある。

 

 あ、だめだ。考えがぐるぐる回って結局何もわからないという着地点になってしまった。

 

「……よし、アーモロードで仲間探し頑張ろう」

 

 もういいや。目の前のことに集中しよう。仲間探しだ仲間探し。できることなら占星術師がうれしい。ハンマーヘッド、ゴーレムと厄介なのばかりだし。

 探すならまずトーマさんに当たってみようかな。何か奢るよう言われるだろうけど、情報通だし。

 

 

 そんなことを考えながら、アーモロードへの帰路とついた。

 

 

 

 

 

 




 

ゴーレム
大航海クエスト、巨人の遺跡のボス。
物理耐性を持ち、属性カウンターを持つトラウマモンスター。
リジェネによる持続回復も持つため初見時は心が折れました。
必死の思い出削ったら食いしばりで回復されてさらに心が折れました。

というわけでこのお話ではいったんゴーレム戦終了です。
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