とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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26.姫系剣士とはいったい何なのか

 

 

 

 

 インバーの港は相変わらずの閑古鳥……と思いきや、なんだか作業している人が多い。

 大型船に荷をどんどんと積んでいく港の作業員たち。漁にいくようには見えない。

 

「おっと、悪い」

「あ、こちらこそすみません」

 

 両手いっぱいに荷物を抱える人とぶつかってしまった。

 どの人も忙しそうだしあまり話しかけることができない。どうせ船の管理簿のために港長へ報告に行くのだ。港長から聞けばいいかと考え管理小屋へと向かう。

 

「じゃ、私はもう行くわ」

「へ? どこにです?」

 

 急に立ち止まりそんな宣言。まあ彼女がいなくても問題はないけども、後々合流のことを考えるとどこへ行くかは知っておきたい。

 

「ネイピア商会。剣が傷んじゃったし、研ぎに出している間代わりの剣を探さないとだもの。あとアユタヤの魔物の素材も売り払ってくるわ」

「なるほど。あ、ついでに銃弾を買っておいてもらえません? 結構使っちゃって……」

「まあ余裕があればね」

「ありがとうございます。あと今後の予定何も決めてないんですけど」

「どこか行くにしても今日はもう疲れたわ。明日にしましょ」

 

 じゃあ明日……どこに何時集合にしようか。

 

「明日、私がアーマンの宿に迎えに行くわ。あんたに時間決めさせても無駄だし」

「……ですねー」

 

 情けない話だけどそれが一番確実だろう。

 

 シャーロットさんとはそこで別れ、管理小屋の港長に帰還報告を行う。しかし管理小屋も普段より遥かに盛況だ。また何か港への依頼人? いや、依頼というには出入りが激しい。

 人が入っては羊皮紙に何か書きこんで、また出ていって、羊皮紙を覗きこんではまた出ていって。特に腰を据えてお話しているということはなさそう。

 

「おや、ミゼル君。戻ってきていたのかい」

「あ、港長」

 

 彼の雰囲気はいつも通り穏やかなものに戻っていた。最後に見た時は険しい顔つきだったから安心だ。

 

「ただいま戻りました。それにしても今日は人が多くないですか?」

「そうだろう、そうだろう。この海都も他の都市と交易を再開するようになったからね。おかげで港も活気を取り戻すことができた。まだ100年前ほどの賑わいはないだろうが、それでもこれほど嬉しいことはない」

「他の都市っていうと、アユタヤとバタビア?」

「うむ。君も知っての通り…………まだ海には問題があるがね。だがいつまでも引きこもっていられない」

 

 その問題とは幽霊船のことだろう。

 結局元老院に報告してどうなったか気になるところだけど、今は人が多いから答えてもらえないだろう。

 

「そういえばバタビアの南の遺跡に行ってきました」

「ほう、もう遺跡について知っているとは耳が早いな。何か興味深いものでも発見できたかね」

「……全然ですね。よくわかんない石像ばかりでしたし。残っていた学者さん?から次の調査団も派遣されるって聞いたんですけど本当ですか?」

「確か……うん、明後日に次の調査団の船が出ることになっているな」

 

 管理簿を確認しながら教えてくれたおかげで、ボンガロさんが待ちぼうけにならないで済むことがわかった。2日後まであの人大丈夫……だろうなあ。へばるイメージが全然出てこない。

 

「ありがとうございます。そこであった学者さんが調査団を待っていたので気になって……」

「そうか。それにしても、君もずいぶんと顔が広くなったものだ。アユタヤまで行ったことを聞いたよ。しかもそこで危険な魔物を退治してくれたそうだね」

 

 早い。どこからその情報聞いたんだ。ひょっとして遺跡に行ってる間にヴィクトリアさんたちがもう戻ってきたのか。

 

「まあ偶然ですけどね……」

「偶然だとしても君の歩んだ結果だ。君のつけた足跡が海に更なる安全をもたらした。だから誇ってもいいものだよ」

 

 なんだかこの時代で目覚めてから、褒められることが多い気がする。やったことがやったことだし、そういった機会に恵まれているだけかもしれないけど照れる。

 

「そ、それじゃ僕はこれで。仲間集めがうまくいってないので」

 

 なんだか居心地悪く感じたので言い訳をしながらインバーの港から離れることにした。

 

 

 

 

 

「イラッシャイマシー! 誰カト思えばギルドに入っテいない2人組の片割れデスナ!」

 

 羽ばたく蝶亭に入れば、いつものように騒がしい出迎えの言葉が待っていた。

 そういえばギルドを設立する前に仲間探しで船出したから未所属状態のままなんだっけ。まあいいか。

 

「ワカッテルデショウガ、アナタ方にお任せデキル依頼はナイナー」

「まぁルールですしね。今日は依頼探しとかじゃなくて、同じように未所属な冒険者の人っていないかなと思って来たんです」

「酒場は出会いと別れノ場ジャアリマセン! ナンタル勘違い!」

 

 なだめながら注文を頼む。注文が入ったら真面目に酒場のママさんモードになってくれるので、落ち着かせるにはさっさと注文が一番だ。

 その間に店内を見渡す。目的の人物は事情通なトーマさん。

 

「……あれ? 今日はいないのかな」

 

 珍しいこともあるものだ。いつもなら水でひたすら粘ってるのに。

 

 まあ毎日入り浸っているわけじゃないか。あの人だって樹海に行ったりもするだろうし、今頃ボーグマンさんと樹海の中派手なロデオでもかましているのだろう。

 

 じゃあ地道に勧誘しかないのかな。いや、明日でもいいかな。

 

「もうし」

 

 勧誘を先延ばしにするかどうかで悩んでいたら女性に声をかけられた。

 

「はいは……キリカゼさん!?」

 

 ニンジャことキリカゼさんがそばに立っていた。

 声を掛けてきたということは何か僕に用があるのか。でもニンジャに狙われるような心当たりはない。

 

「……以前よりも顔色が優れないように見受けられるが」

「全然平気ですはい!」

「ならばよいが……相席してもよいであろうか?」

「どうぞどうぞ! 何もないですが!」

「では、失礼して」

 

 いったいどうしたんだろう。ただご飯食べに来ただけならわざわざ相席する理由がないし、やっぱり何か僕はニンジャに狙われる何かをやらかしてしまったとか。いや、それならこう、ニンジャなんだし影から影へ、木から木へと飛び移っては手裏剣で「テンチュウ!」ってなるはず。

 

「……以前もそうであったが、ミゼル殿はシノビに過度な期待を寄せてるようで御座るが……」

「め、滅相もございませぬ」

「それがしとしては普段通りに構えてほしいものなのだが……」

 

 普段通りの平静を意識しているつもりなのに、ニンジャ的には不合格のようでありけり。

 

「実はミゼル殿に頼みたいことがあるのだ」

「頼み、でござるか……」

「……」

 

 何故か不満気に睨まれた。何が悪かったのであるか。

 

「……普段の口調でお願いしたい」

「は、はい……それで、頼みとやらは……」

「船を出してほしいのだ」

 

 なんだ、船か。ニンジャからの頼みというから一体どんなすごい頼みが来るかと思えば船。

 いや、まあ、僕に頼むことなんてそれぐらいしかないとはわかっているけども。でもちょっと予想外なのが来ないかと期待してしまった。

 しかし船。今日の港の様子を見ている限り、わざわざ僕に頼まなくても簡単に出せそうではある。もしかして他の都市と海路がつながったことを知らないのかな。

 

「何故そのようなことを、と思われよう」

「まあ……」

「此度のそれがしの目的地はここより遥か南西の地なのだ。しかし、南西には都市もなく、あるのは船の墓場のみと聞く」

 

 南西……バタビアは東、アユタヤ北東にある。現状僕にとって完全に未知の場所だ。

 

「船の墓場? ですか?」

「ミゼル殿は知らないで御座るか? それがしも人づてに聞いた話ではあるが、霧の中無念に沈んだ船が流れ着く墓所なのだとか」

「それはまたなんとも……」

 

 うさんくせぇ。

 

「フフ、信じがたい話であろう。それがしも同じ胸中で御座る」

「キリカゼさんもそう思うんですか……なんでそんな場所に行こうと?」

「船の墓場は誰も近づけぬように出た方便ではないかと我が主君は考えられたのだ。たとえば、海賊の財宝の隠し場所を、誰も近づかぬようにさも危ない場所として喧伝したのでは、と。以前話したと思うが、それがしは主の求める秘宝を探している身。それがしが船の墓場へと赴きたい理由としてはこれで充分ではなかろうか」

 

 理由はわかったけど……ニンジャの頼みといえども厳しい話だ。

 まずその墓場が本当にあるかすっごく怪しい。仮にあったとしても、それが海賊の財宝の隠し場所っていう可能性もすっごく低い。というか根拠なしだし。

 実際に見に行けば済む話だけど、見に行くのもまた大変だ。東側と違って西側は全く不明な霧の海域。港長に頼めば100年前の海図は出してもらえそうだけど、それだけを頼りに行くには心もとない。

 

「それがしの主が求める宝以外はミゼル殿の好きにしてもらって構わぬ。どうかお頼み申し上げる」

「そ、そもそも宝自体があるか怪しいんですが……」

「無論、宝がないならば別で報酬を用意する次第。いかがであろうか」

 

 別で用意する報酬……ニンジャの秘伝の書とか。

 そういうのだったらちょっと心揺れてしまう。僕も忍術使ってみたい。

 

「その話、私も混ぜてほしいんだけど」

 

 突然入ってきてこの脳筋は、と言いかけて止まる。今の声知らない人だ。口調とか態度でシャーロットさんかと思った。

 

「えと、どちらさま?」

「丁度良いデートスポット探してたのよ。デートもできてお金も稼げるなんて最高じゃない。ていうか聞いて~。最近同業の彼氏ができたんだけど、やっぱカワイイ鎧でアピールしたいじゃん? で、イイ感じの鎧買ったんだけどお金がなくなっちゃったワケ」

 

 なんの話だ。本当になんの話なんだ。結局誰なのか答えてないよこの人。まったくこっちの質問聴いてないよこの人。

 

「ていうか鎧で着飾るって可愛さアピールになるんです……?」

「なんで可愛さについて話してるわけ? 今は船の墓場に行く話してるんじゃない?」

 

 なんで僕が怒られるわけ? お、落ち着こう。このやろうって気持ちは出さずに落ち着こう。

 

「突然話に入ってくるのはいかがなものか。名前ぐらい名乗られてはどうで御座るか?」

「あれ? 言ってなかった?」

「言ってません。一切言ってません。全く言ってませんでした」

 

 一切合切言ってませんでした。

 突如入ってきた謎の女性は悪びれもせずにようやく名前を名乗る。

 

「私はデザート。姫系剣士のデザートよ」

 

 …………なんて?

 

 ……いや、どうせ聞いたってまともに答えが返ってくるとは思えない。この人からは苦手な雰囲気がプンプンするし。

 

「で、行くのよね? 私と彼氏も連れてってくれない?」

「え、嫌です」

「なんでよ。減るもんじゃないんだしいいじゃないの」

「え、嫌ですから」

 

 誰が好き好んでこんな面倒臭そうな人の頼みごとを引き受けるものか。キリカゼさんの頼みごとなら少しは考えなくもないけど。考えた上で断ろうとしてたけど。

 

「あのねぇ。何をムキになってるか知らないけど、もうちょっと考えたら? 私だってタダでお願いしようだなんて考えてないんだし」

 

 なんで僕が間違っている雰囲気を出そうとしてんだ、このやろう。

 そもそも元々断ろうとしていた話に勝手に来たのはそっちだろう、このやろう。もうこのやろう。

 

「そうね。連れてってくれたら……財宝がなかったらコレをあげるわ」

 

 デザートはごとりとテーブルに籠手を置いた。

 サイズ的に彼女の使っていた籠手だろう。これで喜ぶと思っているのかこのやろう。

 

「これは……」

 

 キリカゼさんは何故か驚きを浮かべている。そんな反応するような代物だろうか。あ、自分のおさがりに価値を見出しているこの女に驚きを、という意味ならすごい理解できる。

 

「言っとくけど盗品じゃないわよ」

「正気で御座るか? 頼んでいたそれがしが言うべきではないことだが、財宝がある可能性は低いというのに」

「だって黴臭いもの、それ」

 

 なに、なんの話。

 キリカゼさんの反応的にただの籠手じゃないってことがなんとなくわかったけど、デザートの発言のせいで価値あるものかどうかさっぱりわからない。

 

「これは王家の籠手で御座る。触れた物にエーテルを一時的に宿すことができる貴重なもの」

「オイルで代用できるけどね」

 

 キリカゼさんの説明とデザートの余計な横やりで全く価値がわからない。

 でも王家の籠手っていうのは聞いたことがある。アユタヤでエイス君にヴィクトリアさんがやった細工だ。弾丸に炎を纏わせたやつだ。

 

「これ、誰にでも使えるものなんですか?」

「サイズが合えば問題ないわ。あんたの手の大きさでも問題ないわよ。ひょろいし」

「このやろう」

 

 デザート嫌い。

 

 しかし誰でも使える、か。正直言って魅力的な代物だ。これさえあればシャーロットさんの薬品が尽きたとしても、攻撃に火とか纏わせることができる。そうなればハンマーヘッドみたいな硬い魔物に有効打を与えられる。

 

「……ていうか、元々キリカゼさんが持ってきた話なんですけど。だからキリカゼさんもいますし僕もいますし、デートにはならないんじゃないですか」

「2人きりじゃなかったらデートじゃないって言いたいの? どういう価値観? え? 実はすごい夢見がちなわけ? 面白すぎない?」

「こんのやろう……!」

 

 ダメだ。落ち着け僕。このわけのわからない女に振り回されるな。

 そもそも船の墓場とかいうオカルトな場所のデートとかを提案する変な奴だ。そいつの価値観がおかしいのであって僕は正常なんだ。

 

「これではそれがしの出す報酬が随分と見劣りしてしまうな……」

「気にしなくていいんじゃない? で、受けるの? 受けないの? 早く決めてくれない? 決断力のない男ってどうかと思うわよ」

 

 ちょっと黙っている間にすごい文句出てきやがるこのやろう。

 

 落ち着いて考えたいのに、あーもう。メリットを考えようメリットを。この籠手さえあれば2人旅でも対応できる敵が増える。デメリットはこいつ、嫌い。嫌いなこいつと少しの間一緒に行動することになる。

 

 一時的な感情を取るか、先を見据えて報酬を取るか……ああもう、こう考えたら受ける一択じゃないか。

 

「わかりましたわかりました! その条件で受けます!」

「そうじゃないとね。いつ出るわけ?」

「明日で! 時間は僕の仲間との都合もあるんで細かく決めれません! 明日インバーの港で!」

「それじゃ、よろしくね~」

 

 僕の答えに満足したのかヒラヒラ手を振って酒場を出ていくデザート。

 

「……あ、キリカゼさん、明日で大丈夫でしたか? 無理なら日は改めますけど」

「大丈夫で御座る。ミゼル殿と今の御仁に感謝せねばな」

「いや、今の女には要らないと思います」

 

 キリカゼさんは随分律儀な人なのかもしれないが、きっぱりと言っておいた。あの女に感謝は無駄だと思うのでやめておいていい。僕、嘘、つかない。

 

 もう今日は早く寝よう。時間は細かく決めていなかったけど、遅くなったらどれだけ小言を言われてストレスが溜まるかわかったものじゃない。

 

 キリカゼさんにまた明日と告げて宿へと一直線に向かった。

 

 

 

 

 

 

 




 

デザート
大航海クエスト共闘NPCのプリンセス。
説明文に「自称姫系剣士」とつく女性。説明分からウォリアーかなと勘違いしたら号令かけだして驚いた思い出。
原作中では何度も付き合う男性を変えている人。彼女に非がないときもあれば、理不尽な理由で振ったりもしていたり。

ちなみに私はデザートさん大好きです。
ギャップが好きです。


キリカゼ
大航海クエスト共闘NPCのシノビ。
アユタヤ編前に顔見せした方。説明はそちらに。
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