とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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27.銃を託され霧の中

 

 

 

 冒険者の朝は早い。

 朝7時。ドアをノックする音に小さく悲鳴をあげながら飛び起きた。

 

「ミ、ミゼルさんー? 起きてますかー?」

「は、はい! 起きてます起きてま……あれ? 先生?」

 

 てっきりシャーロットさんが叩き起こしに来ると思っていたのに。

 

「あ、起きてるんですね! おはようございます!」

「おはようございます。でももう一度眠りますね。なんだか安心して眠気が……」

「え、起きましょうよ!」

 

 まだあの人来てないなら寝れるし、寝れば寝るほど昼間はよく動ける気がするから……

 

 先生の慌てる声を無視して目をつぶり、再び布団をかぶろうとしたが……動かせない。

 

 先生め、布団を引っ張る力技で来るだとう。

 

「ミ、ミゼルさーん……」

「ねーたーいーのー」

 

 布団を強くひっぱり体に寄せようとした。しかし布団は動かない。相手も相当強く引っ張っている。ていうか先生って意外に力あるんだ……。僕が力を出せないだけかもしれない。朝だし。

 

「日ごろの寝坊の原因は疲れとかじゃなくて、ただの怠惰ってことね……」

「ねーるーのー」

「ミ、ミゼルさん……」

 

 おや、変な声が聞こえてきたぞ。先生の声だけじゃなくて、この、声……は…………

 

「シャっふぉぐぅ!?」

 

 脳天への衝撃が凄まじい。

 今度から寝るときは頭に防具でもつけたほうがいいかもしれない。朝から襲撃があるんだもの。

 

「お、おはよう、ござい……ますぅ……」

「やっと目を覚ましたわけね。おはよ」

「あ、あはは……」

 

 

 

 

 

「あの起こし方はないと思うんですよ。先生ちょっと引いてたじゃないですか」

「あのままだったら二度寝を決めてたじゃない。でもまた船旅なんて……船ばっかりね」

 

 アーモロードの街並みを歩きながら朝の出来事の抗議をするも、まともに取り合ってくれない。僕としてはもっと優しい起こし方を所望しているのに。

 アーマンの宿の朝食(もちろん宿泊代とは別料金)を済ませて現在はインバーの港へと向かっていた。ちなみにキリカゼさんから依頼が来たことは朝食の席で話しておいた。

 

 あのデザートよりは絶対早く着いておこうと思ったけど、まだ8時ぐらいだ。早すぎる。

 

「あれ? そういえば剣……結構違うのにしたんですね」

「いい感じのがなかったのよ。少し値段が張ったけど、重心が一番しっくりきたのがこれしかなかったしね」

 

 以前は細長い剣だったけど、今はサーベルに似た反りをもつ形状の剣となっていた。あまり太くもなく、長くもなく、取り扱いとしては使いやすそう。

 

「それなら狭い場所でも振り回せそうですね」

「盾の鞘には収まらないから薬品を使うのには手間がかかるけどね」

「あー」

 

 まあしかしだ。今回の報酬が手に入れば薬品がなくても大丈夫になるはず。

 暴走脳筋をさらに暴走させそうだけど、突破力があがるのはいいことなはずだ。詰まっちゃうよりかは遥かに。

 

 

 

 インバーの港にはやっぱりというべきか、キリカゼさんもデザートもまだいない。早すぎたんだやっぱり。

 しかし港の活動時間としては遅いほうらしい。もう作業員や漁師がいっぱいだ。

 

「港長ー、おはようございます」

「ああ、おはよう。フッフッフ……」

「な、なんですか」

 

 何故笑う。

 

「なに、君たちが樹海よりも港にばかり来るものだからな。海の魅力が樹海を越えたのだと思うと面白くてね」

「今は色々あるんです……」

「そういうことにしようか。それで今日はどうしたのかな?」

「100年前の海図ってあります?」

「あるとも。ひょっとして他の都市との海路を探すつもりかね?」

 

 そう問いかける港長は楽しそうに聞いてくる。もう目がわっくわくモードだ。

 だけど期待を裏切ることとなる。都市じゃなくて墓場探しなのだから。

 

「いえ、違います。南西にあるっていう船の墓場に行くことになって」

「……君たちも? …………」

「港長?」

 

 先ほどまでの楽し気な姿は鳴りを潜め、鬼気迫る表情に変わり黙り込む港長。突然の変化に戸惑ってしまう。

 

「……どうしてそこに行くのかね」

「えと、依頼でですね。なんでもそこに宝があるんじゃないかってことで依頼されて、あとデートスポットとかなんとか」

「でーとぉ?」

 

 シャーロットさんが素っ頓狂な声をあげた。そういえばデザートの依頼については話してなかったなと思いだす。

 

「デザートっていうのが依頼をかぶせて来たんですよ……まあ報酬が良かったので受けたんですけど」

「霧の海にデートってイカレてんじゃないの?」

「完全に同意です」

 

 しかも王家の宝っぽいものを報酬に出すぐらいだし……盗品じゃないと言ってたけど、それってつまり、あの女も王族? この時代の王族やべー。

 

「……それだけかね?」

「? それだけですけど」

「……」

 

 港長はどうしたというのだ。

 彼はじっくりと僕を凝視する。目をそらすのは許さないといわんばかりにじっと見つめてくる。

 

「……あの?」

 

 この時間は何なんだ。

 やがて港長はため息をつきながら視線を外した。

 

「……君は、スカンダリア大灯台を解放し、アユタヤの危機を未然に防いだ。どちらも人類への大きな貢献だ。スカンダリア大灯台がサエーナ鳥の巣のままであったなら、海都の近隣は危険な海域のままだった。アユタヤの港が機能停止となれば、各都市に見えた希望の光が幻のように感じるところだった」

「え、と?」

「君の軌跡は信頼に値する。なのに、私は今、君を信じることが難しく感じる」

 

 どういうことかさっぱりわからない。100年前の海図を見せてもらうには信頼がいるのか。そして信頼に値すると言いながら信じれないってなんだ。

 

「あんた何したのよ」

「し、知りませんよ」

 

 小声で責めるように言われても、僕が知りたいくらいだ。

 

「……港長、その、よくわからないんですが」

「すまないね……そうだ、ひとつだけ尋ねてもいいかい」

「はい?」

「正直に答えてほしい。君の思ったことを、そのままに」

 

 そんな前置きをして、ゆっくりと港長は尋ねた。

 

「釣りは好きかね?」

 

 真剣な雰囲気からなんだその質問。

 その目は一切ふざけていない。からかっているようには見えない。

 

 とにかく思ったことをそのままに答えて、だっけ。

 

「苦手ですね……釣れない間の待つ時間とかが特に……結局前は全く釣れませんでしたし。港長に釣り竿を渡されたときはすでに引っかかってましたから別です」

 

 あ、嘘でも好きだと言った方がよかったかな。港長は絶対釣り好きだし。でも正直に答えてくれって言われてたし……

 

「フッフ……そうかそうか。随分と前になるが、別の冒険者に釣りを誘ったことがあるのだよ。その時の彼も同じようなことを言っていた。誰もが釣りを好きになるわけじゃないのだね」

「は、はあ」

「もう一つ、それじゃあ君が好きなものは何かな?」

 

 好きなもの……ていうか何この質問。あれか、心理テストか。乙女か。

 好きなモノ……着色料をふんだんに使った真っ赤なウィンナーとかかな。あと、研究室に買いだめしていたカップ麺も好きだった。いや、あれはみんなと徹夜で食べてたからかな。味自体は微妙だったし。徹夜テンションが味覚を狂わせたのだ。

 色々思い浮かんだけど、その辺の答えはこの時代にないものだし……この時代にあるものなら……

 

「ホットコーヒー……いや、カフェオレの方が好きかもしれない……うーん」

「たくさんあって決めれないようだね。眩しいことだ」

「ていうかなんですかこの質問」

 

 疑問をぶつけても港長は楽しそうに笑っている。さっきまでの真面目な雰囲気はどこへ行ったのか。

 

「なに、老人の好奇心だよ」

「わけがわからない……」

「質問に答えてくれて助かるよ。お礼にこれを渡そう」

 

 そう言って渡したものは海図だった。ようやく100年前の海図だ。あの質問はいったい何だったんだ。何かの試金石としてだろうけど、今ので何がわかるのかさっぱりだ。

 

「それともう一つ、この銃を持っていってくれ」

「へ」

「私が現役だった頃の骨董品だが、手入れは怠っていない。君の今使っている銃よりは精度も火力もあるはずだよ」

 

 そいつぁありがてぇ……じゃなくて、いったい何故銃も渡すのか。なんだか今日の港長はとても変だ。

 

「君が船の墓場へ行くのは妨害などではなく、偶然の導きなのだろうな」

「あの、港長、全然話の流れが見えません。もうちょっとわかりやすく」

「フッフ、すまないね。だが難しく考えなくていい。君は依頼をこなしにいけばいい。私は君の行先に何が待ち構えるかを勝手に想像し、期待し、信じているだけだ」

 

 銃を愛おしそうに撫でる港長は何を想っているのか、わからない。

 

「ただ願わくば、我々を閉じ込めていた者に報いを与えてほしい。私の老いて衰えた身ではできないことを若者に託したい。この銃は、その勝手な願いのお詫びでもあるのだよ」

 

 わからないままだけど、何か大切なことを託されたということはわかる。

 何を期待しているかわからないけど、この贈り物を受け取らないといけないということが自然と理解できた。

 

 鈍色に輝く銃が一瞬重たく思えた。だけど取り回しは今まで通り使えそうだ。

 

「さて、君たちへの依頼人が来るまで釣りでもするかね?」

「いえ、遠慮しときます」

「君はどうかね?」

「私もやめておくわ」

 

 今までの雰囲気を取り払うように彼は釣りに誘ってきたけど、さっきも言ったように釣りは好きじゃないです。

 にべもなく断られても気にした様子はない。

 

「そうか。ただ待つのも退屈だろう。依頼人の名前を教えてくれればこちらから使いを出そうか?」

「そこまでしてもらっていいんですか?」

「何、構わないよ」

「依頼人はキリカゼさんっていうニンジャで、あと……デザートっていう変なやつです」

 

 デザートは置いていこうかなとも考えたけど、それだと報酬がもらえないから我慢だ我慢。

 

 待っている間、乗る船に食料と水を詰め込むのを手伝うことにした。シャーロットさんは甲板で剣を振り回していた。

 

 

 

 

 

 

 結局出発は正午となった。お腹が空いてる状態で動きたくないとどこぞの輩が我儘を言ったそうで。

 

「此度の船旅、よろしく頼む」

「あまり大きくない船ですがどうぞどうぞ」

 

 キリカゼさんはさすがニンジャ。ニンジャが満足いく船か少し不安だけど頑張って掃除もした。きっと大丈夫。

 

「船に乗るなんてこわーい。ナックルぅ、守ってくれるぅ?」

「もちろん、デザートは俺が守るよ」

 

 こいつらには帰ってほしいなあ。

 猫かぶりのブリッコ満載のデザートとやたらデレデレなナックルという戦士。周囲の目も憚らずにバカップルの如くいちゃついている。ていうか2人だけの世界になってる。言外に船が沈んだ時の話をするんじゃない。

 

「あんたが毛嫌いしてた理由、わかったわ……」

 

 隣でシャーロットさんがぼそっと言った。

 特に嫌いとは口に出してなかったはずだけど、態度としてはバレていたようだ。理解を得られて嬉しいです。

 

 しかし、本当にこんなのが凄腕冒険者だというのか。

 

 待っている間に港長が言ってた。

 キリカゼさんはもちろん、デザートも凄腕なのだと。腕は確かだが性格が少々……と口を濁していたけど。

 

 シャーロットさんとは別方面の腕は確かだけど性格アレなタイプ。

 

 とにかく挨拶をそこそこに、錨をあげて帆を広げ、いざ南西へと進みだした。

 

 初めて行く航路。海の様子から目を離すわけにはいかない。というわけでキリカゼさんやデザート、ナックルにも見張りを頼んだけど……

 

「え~。見張りって私できないわよ。だってナックルから目が離せないし~」

 

 嘘つけこのやろう。

 元々期待してなかったけどもっとまともな理由言えよこのやろう。

 

 と、デザートは断った。

 キリカゼさんは気持ちよく受けてくれた。そして意外にもナックルもだ。たぶんナックルはデザートにカッコいいところを見せようとしている疑惑。まあ理由どうあれ海を見てくれるのならありがたい。デザートはこのやろう。

 

 

 

 

 

 さすがに戦闘となれば冒険者ばかりの今回の船旅。全員の動きがすごいことすごいこと。

 

 魔物が霧の中泳ぎ、船に乗る人を直接襲ってくる中1人1人が軽々と対処していく。キリカゼさんは短刀で迫る魔物を切り刻み、ナックルはメイスで砕き飛ばす。デザートも剣で魔物を両断ときた。

 

 僕は舵を握りっぱなしである。みんなあっさり対処していくからすることないし。

 

 ……考えたくはないけど、この中で一番戦闘力が低いのは僕なのでは。

 

「島が見えたで御座る」

 

 落ち込みかけた時、キリカゼさんから嬉しい知らせ。

 だけど嬉しさもすぐに沈んだ。

 

「ちょっと、雨が降ってきたじゃないの」

「まずいなあの雲。少ししたら大降りだぞ。デザート、船の中に入ろう。風邪をひかないために」

 

 デザートとナックルが示す通り、雨と離れた空の方角に暗雲だ。

 海が荒れる前に陸に上がりたいところ。まだ波は酷くなっていないし間に合えばいいんだけど。

 

 そんな願いもむなしく真上の空も暗雲で包まれた。もともと悪い視界がさらにひどくなる。

 

「ちょっとこれ、大丈夫なの?」

「あまりよくないです……」

 

 状況がもっと悪化する前に、錨を降ろすか? いや、錨を降ろしたところであの暗雲がいつ土砂降りの雨となるかわからない。その拍子に波も荒れ狂えばこの船じゃ耐えられない。

 

「とにかく島まで行きましょう」

「……申し訳ない。陸地かと思えば崖壁であった」

「…………も、もう少し行けば上がれる陸地があるはずです!」

 

 雨がどんどん酷くなる中、もはや祈りながらの舵取りだ。

 

「前方も崖壁……むむ、ミゼル殿!」

「はい!」

「西に巨人で御座る!」

 

 キリカゼさんが変になってしまった。

 

「キリカゼさんは疲れたみたいです。シャーロットさん、彼女に休むよう言ってあげてください……」

「あんたね、気持ちはわかるけど……」

「ほ、本当のことで御座る! 西に巨人の頭が!」

 

 キリカゼさん。あなた、疲れているのよ……

 

 だいたい巨人なんているわけが…………

 

「嘘ぉ……」

 

 いた。

 巨人らしき何かが頭だけ海から出している。ちょっとあのサイズは頭悪い。

 

「むむ……申し訳ない。早とちりで御座った」

「いや、あれは巨人ですね……」

「よく見るで御座る。あれは妙な置物がある島そのもの」

 

 その現実逃避はどうなの? もうちょっとまともな逃避先を見つけてほしい。

 

「あ、ほんとだわ」

「シャーロットさんまで……」

「見えづらいけどよく見てみなさい。あの脇に船も泊まって……船?」

「え、船?」

 

 本当だ。良く見れば船が1隻泊まっている。随分と立派な大きい船だ。

 その船のそばには残骸がいくつも浮かんでいた。船の墓場、と言われるだけあって悲惨なものだ。だからこそ1隻だけの船がより目立つ。

 

「とにかくあの島に行きましょ。これ以上こんな荒れた海は嫌よ」

「アレ本当に島なんですか……」

「いいから行きなさいっての!」

「うひぃ……」

 

 結論を言えば、本当に島だった。

 

 不気味な頭部を模したオブジェが飾ってある島だった。

 

 そんなわけのわからない船の墓場にこれで2隻、残骸ではない船が泊まる。

 

 空は暗雲が広がったまま、海は荒れ狂う。太陽の光を完全に隠し、僅かな視界を雨が注ぎ落とし、高波が距離感を惑わせる。

 その視界の悪さが気づかせなかった。

 

 

 霧の塊が近づいていることに。

 

 

 

 

 

 




 

ナックル
大航海クエスト共闘NPCの鎚型ウォリアー。
デザートと共に本来は巨人遺跡で戦うキャラ。デザートいわくイケメンとのこと。
攻撃力は悪くないけど脳筋AI。チャージからのフリーズンブローで大ダメージを狙うタイプ。カウンター? 知るか! と挑んで吹き飛ぶタイプ。



今回でミゼルさんとシャーロットさんの装備が一部変わりました。
シャーロットさんの元々の装備はちゃんと考えてません。ヴィクトリアさんの例を見てきっと「シャーロットの宝剣」とかそんな感じでしょう。
今回新しくなった剣はカットラス。宝剣より火力が落ちた感じ。

ミゼルさんの銃はザビィさんのおさがりということで安物です。元々あの人は突剣型パイレーツですから銃にこだわってなかった的な。
今回渡された港長の銃で火力アップです。なんて名前の銃なの? ……(無言の目逸らし)

とりあえずトルトゥーガ島編開始です。霧の船編の最終戦です。

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