とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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3.インバーの港での出会い

 

 

 

 

 

 体感的に言えば数日ぶりの陸地へ降り立った時、安堵よりも先に来たのは……

 

「……ゆらゆらする」

 

 平衡感覚の狂いだ。

 ガブラーさんはふらつく僕を笑いながら先導するザビィさんへとついていった。クロスジャンケ海賊団のみんなはふらつくことなく平気そうだ。

 

「ふふ、君は普段あまり船に乗らないのかね?」

 

 僕もザビィさんたちについていこうと、危ない足取りで進みだしたら突然声を掛けられた。声の主は眼鏡をかけた老齢の男性だ。優し気な目つきに小さな丸眼鏡。立派な髭に、こめかみには大きなサンマ傷。そして海賊ハット……

 

 あ、この人海賊だ。もしくは荒事に慣れた海の人だ。

 

「今回が、初めてでして……ちょっと恥ずかしい足取りですよね」

「私も海に出たばかりのころは似たような足取りになったものだよ。船長や他の船員には揶揄われては取っ組み合いになったものだ」

「それはなんとも……」

「ああ、すまなかったね。つい昔を思いだしてしまった。年寄りの昔話なんてつまらないだろう」

 

 男性は穏やかに微笑みながら横を通り過ぎていった。

 もっと話に気の利いたリアクションをすればよかっただろうか。でもゆらゆらしててそんな余裕はあまりない。

 

 男性もザビィさんたちも、港にある小屋へと入っていった。ひょっとして今の人が港長なのだろうか。海兵に港長とこれまでの航海について話をしてくれって言われて案内されてたことだし。

 それにしても、

 

「港には霧がないのに……」

 

 沖の方には霧がある。海にだけ発生している霧については誰も気にしていない。でも、確実に自然発生したものではないだろう。

 灯台の電気を纏う怪鳥のような僕の常識外の存在がいたのだし、この霧にも何かヘンテコな原因があるのだろうか。

 海にだけ発生している霧に、少し不気味さを感じた。

 

 

 

 

「遠路はるばる、ようこそアーモロードへ。私はこのインバーの港の港長をさせてもらっている者だ」

 

 ザビィさんたちと同じ小屋に入るとやはりというべきか、先程の男性が港長だった。

 

「世界中にその名を轟かせるクロスジャンケ海賊団、首魁のザビィ様だ!」

 

 やっぱり隠す気ゼロなんですね。

 

「海賊旗を掲げてはいなかったようだが……」

「あの船はアユタヤからの借物さ。よその船に海賊の名を刻むわけにはいかないからね」

「ということは君たちはアユタヤからここまで来たのか。凄まじい開拓心だな」

「そんなご立派なもんじゃない。あたしらはアユタヤの人たちから受けた恩を返しているだけさ。アーモロードまでの海路を拓くのはそのためだ」

 

 それよりも、とザビィさんは港長を睨みながら切りだした。

 

「あの灯台にいた鳥はなんだい。ただでさえ海路がボロボロだってのにあんなのがいちゃあ、どの都市もアーモロードに道を繋げられないじゃないか」

 

 灯台にいた鳥……鳥と言っていい生態かはともかくあの怪鳥についてだ。

 

「スカンダリア大灯台の灯りかと思って近づいたら、鳥の翼だなんて馬鹿げた話だよ。そんな状態を放置している海都の海兵さまは素晴らしい仕事ぶりだね」

「返す言葉がない。海都でもあの鳥の魔物、サエーナ鳥には頭を悩ましている。情けない話だが、対処しようにも近づくことができなくてね……君たちも知っての通り、サエーナ鳥は縄張り意識が強いのか、灯台に近づく船を襲う。あの電撃の羽で襲われれば人も船も耐えることは難しいのだよ」

「だったら直接巣に乗りこめばいいじゃないか。四六時中縄張りを見張ってはいないだろうに」

「いや、四六時中見張っていると言っても過言ではない。一週間に渡り様々な時間帯で大灯台へ向けて海兵隊は船を出した。だが、灯台に近づく前には気づかれ、そして船を破壊された」

 

 眠らない鳥? それとも眠りながらでもずっと感覚を研ぎ澄ましているのか。

 

「今ではもう、せめて被害が拡がらないように近海を見張り、サエーナ鳥の存在を知らない船が灯台に近づく前に知らせることしかできていない。……それでも見落としがいくつもあるのだろうね」

「あたしらは見落とされなかったから助かったってわけか」

 

 説明してくれているけども、何気に『魔物』って単語が出たんだけど誰も気にしていない。まあそりゃ、普通の鳥とはあからさまに違うけども、500年後の世界はファンタジーな単語を普通に適応しているとは。ひょっとして海で襲ってきた魚も魔物か。

 

「スカンダリア大灯台の現状を各都市に報せなくてはいけないのだが……バタビアにしか情報を共有できていない。そんな中、君たちがやって来た」

「アユタヤまでの航路を教えてほしいってかい。あたしらだって手探りで来たんだ。あんたらの欲しがる安全な航路とは言えない道のりだよ」

「それでも何のしるべもないよりかは、遥かに心強い」

 

 要するに、猫の手でももとい海賊の手でも借りたい状況なのか。僕としては折角陸地に着いたんだし、もう海に出たくない。海賊って辞めれないだろうか。

 

「アユタヤの人たちは、死にかけてたあたしらを助けてくれた。その恩返しとしてアユタヤを他の都市と繋げるためにここまで来たんだ。だから───」

 

 ザビィさんが大人しく頼みを聞くなんて意外だなあ。なんとなく、海賊に指図するなって言いそうなイメージなのに。アユタヤとやらに恩義があるからか。

 まあ、来た道を戻るだけだからそんなに危険は……あるだろうなぁ。でも海兵に捕まったりサエーナ鳥とかいうのと戦うよりはいいか。

 

「大灯台の魔物を退治してやろうじゃないか!」

「はい!?」

「間抜けな声出してんじゃないよ!」

「すみません! っじゃなくて! なんで魔物退治になるんですか!?」

 

 アユタヤまでの道を教えるだけでいいのでは!?

 

「クロスジャンケは義賊でもあるんだ。受けた恩はきっちり返すもんさ」

「それがアユタヤへの案内で───」

「各都市を繋げることが恩返しなんだ。そのためにはあの鳥野郎は邪魔なだけだよ。だったら退治するのは当然だろう!」

 

 そうかもしれないけど! サエーナ鳥の大きさはフグとかとは比べ物にならなかったことを考えて! 海兵隊が討伐できてないことも考えて!

 

「ありがたい申し出だが、何か勝算あってのことかね?」

 

 港長さんいい質問! 勝算なしなら是非とも止めてください!

 

「向こうからある程度近づいてくるんだ。撃ち落とせばいいだけさ」

「それはできてなかったじゃないですか!?」

「め、面目ねぇ……」

 

 イビールさんとガブラーさんを責めてるわけじゃないんで項垂れないで。

 僕も全然貢献できてないし。とにかくそんな行き当たりばったりな特攻は危険すぎる。

 

「さすがに無鉄砲なのは見過ごせない」

 

 港長さん流石です。

 優しい目つきは伊達じゃなかった。

 

「魔物との戦いは専門家に任せてはいかがかな?」

「専門家ぁ?」

「ああ。大異変によってアーモロードのそばにできた迷宮。そこには魔物が多く巣食っている。そんな魔窟に挑む者たちが街に多くいるのだよ」

 

 そんな人たちがいるならサエーナ鳥を早く退治してもらえばいいだけでは。

 

「だが彼らは船上での戦いは不慣れだ。彼らを大灯台まで送りこむことができれば、勝算はかなり高まる」

「あたしらにそいつらの護送をしろってことかい?」

「いや、彼らを送りこむ間、サエーナ鳥の目を引き付けてほしい。魔物といえど体は一つだ。複数の船が灯台に近づけば脅威度の高い船を優先するだろう」

 

 引き付けてほしいって、それってつまり、

 

「囮ってことかい」

「そう言い換えても間違いではないな。もちろん断ってくれてもいい。それと、君たちにその役目を全て押し付ける気はない。アーモロードからも船を出すし、成否に関わらず謝礼も用意しよう」

 

 成否に関わらずって、失敗したら海の藻屑なのでは。そんな状態で謝礼て。

 

「あたしらが倒したらその分報酬はあるんだろうな?」

「もちろんだとも。私としては、無理はしないでほしいがね」

「よし、決まりだ。イビール、ガブラー、アレの準備しな」

 

 ザビィさんやる気満点すぎる。

 イビールさんたちは付き合いが長いためか、今の一言で当然のように動き始めた。新参の僕にはアレとは何かサッパリだ。ていうか名前呼ばれてないしね。

 

「それで、専門家さま方はすぐに動けるのかい」

「呼び掛ければすぐにでも可能だろう。以前から大灯台に行きたがっていたギルドがいる。冒険者としても優秀な占星術師と気功師の兄弟だ」

「ならミゼル」

 

 突然僕の名前が出てきた。

 

「あんたはその兄弟を灯台まで送ってやんな」

「え、海兵隊に任せれば……」

「あんたも灯台組に加われば、海上で倒しても灯台で倒しても、クロスジャンケの手があったからってなるんだよ」

「せこ!?」

「黙んな!」

「はいっ!」

 

 ちょっと前まで自分たちはせこいことやらない的なこと言ってた気がするのに……

 というかそれで報酬上乗せってありなのか。僕たちのやり取りを見てた港長さんは面白そうに笑っているだけだし、ありなのかな。

 

「今の話、文句はないだろう?」

「ああ、いいとも。したたかな大海賊だな。彼の乗る船はこちらで用意しよう。しかし……航海技術は大丈夫なのかね?」

 

 自信ないです。

 

「あたしが横でレクチャーしてやったんだ。問題なんざないよ」

 

 ザビィさん、話し相手を見ながら発言してください。僕を睨みながら言わないでください。圧が強いです。

 

「わかった。決行の時間はおって連絡するが……」

「あたしらはすぐにでもいけるからね」

「それは頼もしい。あとは協力者となるスターブラザーズの都合次第だな」

「それじゃ、あたしは船に戻るよ。あいつらだけじゃヘマしてないか心配でね。ミゼル、あんたはここに残っときな」

「はい!」

 

 そう言って小屋から出ていったけども、僕は残って何すればいいのか。まあ、僕がザビィさんについていっても邪魔にしかならなさそうだ。海賊の一員と言われてるけど、ザビィさんにとって僕はたまたま拾った流れで一緒にいるだけだし。今の間に港長に航海技術を学ぶとか?

 

「フッフッフ、ずいぶんと彼女は心配しているようだね」

「え? ああ、でもイビールさんもガブラーさんもしっかりしてると思うんですけどね」

「いや、君のことだよ」

「へ? それは全くないかと」

 

 心配されてた? どこにそんな要素が。

 

「提案した私が言うのもなんだが、彼女たちの船が最も危険に晒される。サエーナ鳥を海上で討つにしても、引き付けて防御に徹するにしてもね」

「でも灯台へ行くのも危険なんじゃ……?」

「灯台でサエーナ鳥と戦うのは、だな。彼女は君に送れとしか言っていない。サエーナ鳥と戦うとすれば、灯台の頂上だ。船で送るだけなら安全性はかなり高いさ。一番安全なのはこの港で待機だが……同じ海賊船の一員としてそんな扱いもできないのだろう。彼女は君のことをちゃんと仲間として見ているようだ」

 

 そういうものなんだろうか。邪魔物扱いじゃないのは素直にうれしい。仲間扱いとなったら、海賊とか抜きにしても、テレるほどうれしい。

 

「ふふ、これで君も彼女の仲間としてスターブラザーズを無事に送り届けなくてはならないな。護送程度できなくてはあの女首魁についていけないだろう。できるかな?」

「……」

 

 自信は正直言ってないままだけど。

 

「……泣く子も黙るクロスジャンケ海賊で教えてもらったんです。大丈夫ですよ」

 

 泣き言を言うわけにはいかない。

 

 それにここで逃げたらイミスになんて言われるかわからないから。

 

 僕の返答に港長は満足気に頷いて、他の港員に指示を飛ばした。船の手配とスターブラザーズを呼ぶようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 やがてやって来たのは、僕の護送対称であるスターブラザーズ……にしてはなんか多くない? あれ? 兄弟って言ってたよね? 五人兄弟ですか?

 片腕と背中が重装備という変わった構造の服装に分厚い本を持った人と、拳法家みたいな格好の人。それときらびやかな鎧を身に纏ったお姫様みたいな人に、従者のように後ろに控える二人の騎士みたいな男性方。

 

 ……個性的な兄弟だ。

 

「待たせたね。彼らがスターブラザーズと……協力を申し出てくれたロイヤルガーズだ」

 

 あ、五人兄弟じゃないのか。

 

「その人は?」

 

 拳法家の人の疑問に僕から名乗り出る。なんでも港長に任せきりもどうかなと思ったから。

 

「僕はミゼルといいます。あなたたちを灯台まで送る役目を今回担いました。よろしくお願いします」

 

 名乗ったんだから名乗り返して。団体名しか伝えられてないから呼ぶとき困る。

 

「ん。俺はカストル。炎の占星術師だ。大灯台からの星を見て自身を高めたくてな」

「弟のポルックスです。道中お願いします」

 

 弟さん、ということはこの二人がスターブラザーズ。占星術師ってなんだろうか。普通に流してるけども。知らなきゃ恥ずかしい部類?

 

「私はヴィクトリア。この二人はアルバートとベンジャミン。私の従者よ。たまに口うるさいけど」

「姫様ほどではありません。ご紹介に預かりましたアルバートと申します」

「アルバート、口が過ぎるぞ。私はベンジャミンです。我々は航海術を持ちませんゆえ、よろしくお願い致します」

 

 お姫様みたいな格好と思っていたら本当にお姫様だったとは。従者と紹介されたアルバートさんとベンジャミンさんは装いが大きく異なる。どちらも騎士風だけど……アルバートさんは比較的軽装だ。その一方でベンジャミンさんはもう重装備も重装備。鎧だけでも僕より重そうである。

 

「にしてもあなた、ずいぶんと白いわね。体調が悪いとかなら正直に言いなさいよ?」

 

 ヴィクトリア姫がまじまじと見ながらこの発言。まあそりゃ、僕はあまり太陽の光を浴びなかったし他の人よりは色白だろうけどそこまで言うほどだろうか。

 

「もしよければ僕が診ましょうか?」

「いえ、全然大丈夫です」

 

 ポルックスさんはひょっとして医者なのかな。道着着てるけど。というかそんなに心配しなくても大丈夫。

 

「無理はしていませんし、本当に大丈夫です。元々こういう顔色ですんで」

「そう。それなら変なこと言っちゃって、ごめんなさいね」

 

 やけに気さくな姫様だ。

 なんというか、姫様ってことはあれでは。王族なのでは。何故こんな魔物退治だなんて荒事に。

 

「あの───」

「挨拶もそこそこにしないかね。親睦を深めるのなら船の上でもできる。そろそろ動き出さないとあの女海賊がおかんむりになってしまうぞ」

「想像が容易すぎる」

 

 海賊? と疑問符を浮かべてそうなスターブラザーズとロイヤルガーズの人たちは大灯台の魔物退治としか聞いてないのか。

 

「それじゃあ行きましょう。ちゃんとスカンダリア大灯台まで送り届けますから」

 

 とにかくまずは、僕の役目を全うだ。

 

 

 

 

 

 

 




 

スターブラザーズ
大航海クエスト共闘NPC「カストル」「ポルックス」の二人で構成。
兄のカストルはゾディアック(属性攻撃主体のクラス)
弟のポルックスはモンク(回復主体のクラス)
どちらも出演クエスト数は2つ。ただし一部クエストではライバルギルドとして名前が出たりしている(このとき歯直接の絡みはない)
兄のカストルしかゲーム中台詞はない。

ロイヤルガーズ
大航海クエスト共闘NPC「ヴィクトリア」「ベンジャミン」「アルバート」の三人で構成。
ヴィクトリアはプリンセス(支援系クラス)
ベンジャミンはファランクス(壁役クラス)
アルバートはウォリアー(近接火力クラス)
ヴィクトリアのみクエスト出演数が3。他の二人は2つ。台詞はヴィクトリアのみ。
ベンジャミンとアルバートは性別はゲーム中言及はないが、とりあえずこの作品では男性で。
ヴィクトリアのみ、酒場でも会話することができる。
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