とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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32.今此処で、石槌の染みとなれ

 

 

 

 

 海に浮かぶドレークさんたちを引き上げたら第一声が悪口だった件。

 

 信号弾を見た後の爆発から、方角そのままにして進み続けたらドレークさんたちが溺れかけていて驚いた。

 信号弾を撃つ何かがあったはずと思い、周囲の警戒をキリカゼさんに頼んでいたら彼らがいたのだ。

 

 今は彼らに、爆発理由、信号弾の発射は誰か、などの確認をしている。

 

「それでクラーケンは?」

「わからん……あの爆発で新たな外装も完全に無くなった。本体ごと死んでいる可能性もあるが……それにしても随分と船員が増えてないか?」

「まあ……」

 

 何故かクロスジャンケが追加されてますから。

 

 しかし随分と人口密度があがったものだ。僕、シャーロットさん、キリカゼさんと3人だったはずなのに。あ、デザートとナックル入れたら5人か。そこからさらに7人追加で合計12人。

 

「まさかドレークとはね」

「ザビィ、また会うとはな。幽霊船への仇討ちか?」

「当然さ。あたしらの船の仇は、あたしらが討つ」

「あれ? お知り合い?」

「アユタヤでな」

 

 ああ、2人はアユタヤにいたから知り合いでもおかしくないか。

 アユタヤの人たちに助けられた、とか言ってた気がするし、その時の関わりかな。しかも幽霊船がらみ。

 

「霧は濃いままで御座る。まだ魔物は生きていると考えるべきかと」

「ですね。姿は見えませんが今は遺跡へ向かいましょう」

 

 今は外装を見繕っている最中か、それとも爆発によるダメージを癒している最中か。

 なんにしろ予定通りに動くしかない。

 

「全員の状態を確認しましょう。私たちはクラーケンに襲われなかったから、泳いで体力を消耗したけどまだ戦えるわ」

「僕たちの船は狙われ続けてましたから、結構装備も消耗してますね……僕はずっと舵握ってましたけど」

 

 ナックルは丸腰。キリカゼさんは忍具がない。

 デザートの剣もシャーロットさんの剣も相当酷使されたから、切れ味はひどくなっていそうだ。

 

「ミゼル、舵をドレークに任せな」

「はい?」

「ん?」

 

 ザビィさんが突然の操舵権を渡すように言ってきた。ドレークさんも寝耳に水だったのか、反応が乏しい。

 

「この中で操舵ができるのはあたしかあんた。それとドレークだけだろう?」

「え、ガブラーさんとイビールさんは……?」

「あいつらは無理さ。とにかく操舵ができるのは3人さ。舵を握る奴は戦えない。ならドレークに握らせな」

 

 ドレークさんはかなり強いんですが。

 

「わかった。俺が舵を握ろう」

「え、でもドレークさんの戦力は欠かせない気が……」

「俺は銃が苦手なんだ。今は剣より銃の方が必要なはずだ」

「そういうことさ」

 

 剣より銃を。

 この海の上で、クラーケン相手に近づく剣より、攻撃範囲の広い銃が求められる。そういうことか。

 

「わかりました。ドレークさん、この先、強い海流があるはずです。それに乗ってください」

「ああ、わかった」

「話し合いはそこまでよ。来る」

 

 デザートが海を睨みながら言った。

 見ている方角に浮かぶは船ではない。

 

 幽霊船の本体、クラーケンの全貌が霧の中浮き上がっていた。

 

「大きい……」

 

 誰の口から漏れた言葉かわからない。自分の口から自然と漏れたのではと思ってしまうほど、あまりにも巨大で、敵わないと思えるほどに圧倒的だ。

 

 クラーケンは霧の中、ゆらゆらと漂ったと思えば突然緑の煙を噴射させる。

 いや、煙ではない。緑色の、霧だ。

 

 新たな霧が周囲を包み、クラーケンの巨体を隠した。

 

 この霧の中、どこからかあの怪物が襲ってくる。船の上は沈黙に包まれたのは自然な流れだった。だけどその沈黙を打ち破る者がいた。

 

「ようやく姿を見せたわね」

 

 ヴィクトリアさんの声が船に乗るもの全員に届く。怯えなどない、諦めなどない声で。

 

「大異変から100年、この海を霧で覆っていた元凶! 今日でその悪行を終わらせるわ!」

「…………ヴィクトリア」

 

 その声は自棄なものではない。彼女自身を奮い立たせるものでもない。

 周囲への鼓舞だ。

 

「悪夢なんかじゃない! 天災なんかじゃない! ましてや神や悪魔でもない! 私たちの武器が届き、触れることができる存在よ! それなら倒せない道理なんてない!」

 

 ヴィクトリアさんの言葉はデザートの指揮とは違うもの。

 デザートのものは的確な命令だ。命令に任せれば大丈夫だという安心がある。ヴィクトリアさんのものは命令ではなく演説だ。その演説を聞いた者の心に行動を委ねる。彼女がすることは、自分たちがやろうとする道の進路を示すことだけ。その道へ行くかどうかは委ねるのだ。だが、自分が選んだ行動だからこそ、より強く委ねられた者たちは動けるのかもしれない。

 

「全員、武器を抜いて戦いなさい! この海に自由をもたらすわよ!」

 

 剣が抜かれる。槍が掲げられる。弩が構えられる。

 

 今日は1度も使っていない銃を2丁、抜いた。

 ひとつは前から使っている銃。ザビィさんのおさがりな銃だ。

 もうひとつはアーモロードを出発前に、インバーの港の港長から渡された銃。

 

 渡される際に言われていた言葉を思いだす。

 

 

『ただ願わくば、我々を閉じ込めていた者に報いを与えてほしい。私の老いて衰えた身ではできないことを若者に託したい』

 

 

 港長の願いも託されていた銃。

 

 この海が霧でどのように苦しめられていたのか、1ヶ月もいなかった僕にはまだすべてをわかっていない。だけどこの霧がなければ、どれだけ違っていたかを想像すれば闘志が沸き起こる。

 

 今こそ報いを与えよう。この海を自由にしよう。

 

「まあ、遺跡に誘い込むのが最優先ですけどね! 僕とイビールさん、ガブラーさんでクラーケンを牽制します! 蟲がまた来たら守ってくださいね!」

「……情けない発言ね。守ってくださいって。いいわ、近づく蟲は全部斬り落としてあげる!」

 

 脳筋がいると自然と闘志が共鳴しそうだ。全弾クラーケンにぶち込んでやる。

 

「私としては精神論より具体的な方針が欲しいんだけど~」

 

 デザート、このやろう。

 水を差すような発言だ。とはいえ確かに具体的方針は欲しい。遺跡に連れていくのは決定として、銃と弩でどこまで牽制できるか。せめてクラーケンの急所がわかれば……そんなものを調べる時間はないけども。

 

「心臓を狙え。おそらく心臓まで攻撃は届かないだろうがな。奴にほんのわずかでも危険を感じさせればいい」

「何? 幽霊船の本体はビビりってこと?」

「所詮は烏賊だ。危機が迫れば高速で逃げを選ぶ。墨を……この場合は霧か? とにかく目くらましを吐きながらな」

 

 心臓に攻撃が届けば条件反射で引いてくれる。問題は、逃げられたらダメだけど……引いてはまた戻ってくる可能性に賭けるべきか。一度船を探しに行ってまた戻ってきた奴だ。執念深さはありそう。

 

「しかし……クラーケンはあの爆発を耐えるほどですよ。銃と弩を脅威と感じてくれるでしょうか」

「たぶん、僕の銃は奴の肉に阻まれる気がします」

 

 ベンジャミンさんの言葉に僕は便乗した。

 イカの心臓はたしか、胴体……穂先状の、頭のようで頭じゃない部位の中心あたり。奴の大きさからイカとはいえ肉も分厚いだろう。

 

「どうにかしろ」

「丸投げ……!?」

「銃が駄目でもバリスタの矢なら届くだろ」

 

 おっと、僕の役割が消えてしまいそう。

 いや、まあ、蟲がもし出て来たら撃ち落とす方に集中すれば……

 

 突然船上に斬撃が飛び交った。

 見ればキリカゼさんとシャーロットさんによるもの。そしてボトリボトリと音を立てて落ちる、クラーケンの触手。

 

「ゆっくり考えさせてもくれないみたいだね!」

「自分たちのできることを最大限するしかないな! ……誰かメイス余ってないか? 剣でもいいけどよ」

 

 ナックルは下がっていた方がいいかもしれない。

 さすがに素手は無理だ。

 

「蟲はもういないか?」

「いようといまいと変わりないわ! 遠距離武器を持つ者の護衛に集中しなさい!」

「了解」

「それとミゼル、少しじっとしてて」

「ほい?」

 

 ヴィクトリアさんが銃に手をかざした。ほんのりと黄色い輝きが銃に灯る。

 

 ……これは、アユタヤで見たエイス君の銃と同じ症状か。王家の籠手パワーか。

 

「じゃあ私はそっちの弩連中にかけてくるわ」

「お願いね」

 

 デザートがイビールさんとガブラーさんに同じように籠手をかざした。あっちは青い光だ。

 

「威力が格段に上がるわけじゃないけど、ないよりはマシなはずよ」

「ありがとうございます」

 

 光る武器というだけでワクワク感が止まらないというものだ。

 上がるテンションで調子よくなりそう。

 

「姫様、私の槍にもお願いできますか」

 

 ベンジャミンさんが槍を差しだしながらヴィクトリアさんに頼む。

 彼の槍ではクラーケンには届かないだろうにと疑問に思う僕とは違い、ヴィクトリアさんはこくりと頷いて手をかざす。

 

「必ず中てます」

「ええ、頼りにしてるわ」

 

 ドレークさんが大声をあげた。

 

「まずいぞ! 全員堪えろ!」

 

 船が大きく傾く。ひときわ高い波に押し上げられたからだ。

 急にそんな波が発生した理由は海に異変が起きたため。

 

 クラーケンが霧に漂うのをやめて、海に勢いよく潜りだした余波だ。

 

「ちょっと! 下から来たら手の打ちようがないわよ!?」

「ナックル! なんとかしてきなさい!」

「お、おう!? おう!!」

「ザビィ! 閃光弾はあるか! 照明弾でもいい!」

「照明弾なら1発! 海面に撃つよ!」

 

 言うやいなや、船から少し離れた位置の海面すれすれで辺りを包むまばゆい光。

 

 たしかイカは目を頼りに獲物を狙う生物だ。イカ釣り漁船なんかは海面を常に光で照らし続けてイカを引き寄せる。

 

 照明弾が撃たれた海面が盛り上がり、4本の触手が飛び出てまた沈んでいく。

 

 光に引き寄せられる性質が残っていたのか、それとも単純に誤認したか。はたまたこれも恐怖の演出のためか。なんにしろ僅かに命を長らえただけよしだ。

 

「背後で御座る!」

 

 キリカゼさんの言葉を皮切りに、またも海面が盛り上がる。

 出てきたのは触手だけではなかった。

 

「……押し潰す気か!?」

 

 クラーケンは海を飛びだし、船の真上まで飛び上がる。

 ただでさえ暗い環境をクラーケンの巨大な影がより暗くさせた。

 

 銃弾を撃ちまくるも、やはり脅威を感じていないのか物ともしていない。いや、この状態ではたとえ怯んだとしても、あとはクラーケンが落下してくるだけだからアウトかもしれない。

 

 僕の隣でベンジャミンさんが槍を構え、両足を大きく広げながら体をひねる。そのまま片足をあげて──────強い踏み込みと共に槍をクラーケンへと投げた。

 

 銃弾よりも鋭く、バリスタの矢よりも太い一本の槍。

 仮に蟲が間にいたとしても、蟲を貫通して突き進むことを思わせる投擲。

 

 王家の籠手によって電気を纏う槍は、クラーケンの烏賊頭巾の中央、心臓へと迫る。

 

「刺さっ──────っ!?」

 

 確実に刺さった。そして確実に心臓へと届く。そう確信した瞬間、再び濃い緑の霧がクラーケンが噴出する。それと同時に高速で動く巨大な影。

 

「避けられた!? 空中で!?」

「霧の中で泳げる相手です。方向転換など苦でもないでしょう」

 

 驚愕する僕と違ってベンジャミンさんは冷静だ。攻撃を放った本人なのに。

 

「姫様、申し訳ありません」

「いいえ、充分な活躍よ」

「ああ、お前は奴のボディプレスを妨げて船を守った。その繋ぎが今、実るぞ」

 

 ドレークさんが誰かを褒めるなんてと思ったけど、考えたらこの人僕以外には褒める気がする。ジャイルズさんにもすごく友好的だったし。

 そんなことより今の言葉が示す意味は。

 

「おい、ミゼル。海流に乗ったぞ! このまま流れに任せればいいか!」

「……っはい!!」

 

 船の動きが早くなる。海流に制御が奪われたが、化け物に制御を奪われるより遥かにいい。

 そしてこの海流が変化していなければ、行先はゴーレムがいた遺跡。

 

 ここまで長かった。

 

 だけどようやく終わる。

 

「……ねえ」

「はい?」

 

 シャーロットさんが小声で話し掛けてきた。

 

「クラーケンが中に入ってこない場合、古代兵器を呼ぶってどうするつもりなわけ?」

「ああ、古代兵器を外に誘いだすつもりです。血を出せばまた追ってくるでしょうから」

「やっぱり……」

 

 方法は予想されていたようだ。彼女は驚きもせず、むしろ何か悩んでいるようだった。

 

「私が血を出す」

「いえ、僕じゃないとダメです」

「…………私も、出す」

 

 え、何この人。実は被虐趣味?

 戦いに身を置いているのも自分を痛めつけてくれる人を探しているとか? やだ特殊性癖。

 

「他の奴に説明するときは、私とあんたの血で引き寄せたって言いなさい」

「は、はあ……」

「必ずよ」

 

 そう言って彼女は鞄から止血剤を取りだして準備を始めた。

 

 なんだったんだろうか。

 

「後ろから追ってきてる!」

「見えてきた! あれか!?」

 

 っと、そんなことより大詰めだ。あとは遺跡任せだけど。

 前方には遺跡の島が、背後にはクラーケンとの姿が同時に現れる。

 

「はい! あの変な島です! 石像の首元に入口があります!」

「錨を降ろすなんて悠長なことはできん! 島に乗り上げるぞ!!」

 

 島には相変わらずの筏がある。ボンガロさんはまだいるようだ。

 

「中に民間の筋肉がいます! 巻き込まないように注意です!」

「巻き込まないようにったって! 見つけたら俺たちと一緒に行動してもらうしかなくないか!?」

「はい!」

 

 石像の首元は大きな穴が空いている。

 以前ゴーレムが空けたものだ。おかげで急いで入ることが容易だ。

 

「クラーケンは!?」

「まだ外だ!」

「みなさんは遺跡の奥に! ボンガロさんを見つけたら一緒に奥に! 古代兵器を外に連れていきます!」

 

 きっと血を出せばゴーレムに最優先で狙われるのは僕だ。クラーケンがそばにいればどうなるかわからないけど、奴が外にいて、僕が遺跡の中にいる間は僕を狙ってくるだろう。

 だから僕だけでいいはずなのに……

 

「シャーロットさん、何やってるんです?」

「言ったじゃない」

「いや、言ってましたけど」

 

 すでにナイフで腕をうっすらと切っている姿にびっくりだよ。本当に被虐趣味でもあるんじゃないか。

 

「……動かないわね」

 

 その言葉の通り、ゴーレムは動かない。

 やっぱり血ならなんでもいいってわけじゃなさそうだ。

 

「僕がやりますから、そのナイフちょっと貸してください」

「……いい? あんたの血で動いたとしても、私の血でも動いたって他の奴には言いなさい」

「ええ……?」

「そう約束するまで、あんたに血を流させない」

 

 こんな時に何言ってんのこの人ぉ……

 これもあれか。名誉へのあくなき欲望か。自分の血があったから古代兵器が動いた的な。本当に馬鹿! その名誉欲は全く理解できない。理解できないけど今はどうでもいい。早くゴーレムを動かしてクラーケンにぶつけないといけないんだ。

 

「わかりましたわかりました! だから早く!」

「ん」

 

 ナイフを受け取り腕を切ろうとした時、遺跡の入口が崩落した。クラーケンが中に入ってきたのだ。

 

「こっち!」

「ほぁ!?」

 

 強引に引っ張られてナイフを落としてしまった。

 拾わなきゃ、と思うもすぐさまもう無理だと諦める。落ちたナイフが踏みつぶされたためだ。

 しかし、

 

「動、いた……!」

「……」

 

 ゴーレムが動いた。クラーケンに反応した。ということは、クラーケンを狙うということ。

 

 あとはゴーレムの力がクラーケンに通用するかだ。

 

 クラーケンがのそり、のそりと動く。遺跡の中の霧が少ないからか、浮くことができていない。這うように動く巨体をゴーレムの巨腕が鎚のごとく殴りつけた。ゴーレムよりも大きな巨体はそれにより、体をよろめかせる。

 

 確実に効いている。

 

 クラーケンはようやくゴーレムが危険なものと認識したのか、体の色を文字通り変化させ敵意を表した。

 触手がゴーレムの手足を巻き取り持ちあげ、地面へと叩きつける。砕け散るゴーレムの破片が震え、磁石に引き寄せられるように元の位置へと戻り蘇る。

 

「何この怪獣決戦」

 

 僕とシャーロットさんは通路のわきから覗き見るしかできない。ただ離れているだけじゃなく、すみっこだ。じゃないと後続のゴーレムたちに踏みつぶされてしまいかねないから。

 以前の逃亡時と同じく、遺跡中のゴーレムが起動しているのだ。

 

 ゴーレムの再生力はクラーケンに負けていない。

 だけどクラーケンの再生力も厄介だ。ゴーレムの攻撃が効いてはいるが、致命傷には至っていない。

 

 拮抗していてはダメだ。クラーケンを倒せなかったらダメなのだ。

 今は霧がまったくないからクラーケンは泳げない。泳げるようになれば逃げられるか、もしくはゴーレムが押し負ける。そうなる前にとどめを刺さなくてはならない。

 

「あれ……ベンジャミンさんの」

 

 クラーケンとゴーレムの戦いの場の近く、1本の槍が落ちていた。勘違いでなければベンジャミンさんがクラーケンに向かって投げた槍だ。

 

「刺さりっぱなしだったみたいね。石像の攻撃で外れたんでしょうけど」

「……」

 

 ずっと刺さっていたのか。

 よくよくクラーケンを見れば、槍の傷痕が残っている。それも徐々になくなりつつあるが。

 

 長く残っていたから慣れてしまい、再生が遅い? それとも再生力自体に限界がある?

 

 これはどっちだ。後者なら最高だ。前者ならよろしくない。

 そして僕は後ろ向きなのか、前者な予感を強く感じている。

 

 このまま放置していれば、あの傷は完治するだろう。傷が治れば体調も万全となったクラーケンは霧を大量に吐き出すだろう。

 そうなる前に、終わらせなくてはならない。

 

 銃を握る。そして全く使っていなかった剣も。

 

 ゴーレムも、クラーケンも互いしか見えていない。巨体同士の戦いだ。隙間はたくさんある。

 

「……あんた、何する気」

「クラーケンの傷痕に銃をねじ込みます。そこから心臓狙いで撃ちます」

「馬鹿なの?」

 

 ひどい。

 だけど今しかないのだ。クラーケンが万全になる前に、傷が完全に無くなる前に。

 

「シャーロットさんはここで!」

「ちょっと待───!」

 

 シャーロットさんは体力的にかなりきついはずだ。移動中ずっと戦っていたんだし。その点僕は舵を握ってしかいない。ドレークさんと交代したけど、結局戦いでは全く活躍していない。

 

 ゴーレムとクラーケンの争いの場へと走り、近づいていく。

 

 ドレークさんの教えを思いだせ。水飛沫を見ずに波全体を見ろ、だ。クラーケンと、ゴーレムと、後続のゴーレム。クラーケンの触手の動き、ゴーレムの拳の動き。それらを見て次の安全地帯を見つけろ。そして確実に近づいていけ。

 

 触手が真っ直ぐ伸びる。貫かれるゴーレムは倒れるとしたら、前か後ろ。だから横へ移動だ。

 

 倒れたゴーレムが再生し、起き上がる前に乗った。次は振り落とされないように気を付ける。

 

 陸のイカというのは、ああもへにゃっているのか。クラーケンの中心へと思いっきり飛び移るしかない。

 

「絶対気持ち悪いだろうなぁ……」

 

 ヌメっとしそう。

 覚悟を決めて左手に剣を構える。右手には銃を。

 

 剣を突き刺し、切り開いてすぐに銃をつっこむ。そして引き金を引くだけだ。

 

 焦らず、だけどゆっくりせず、即座に動け。

 クラーケンの攻撃にも、ゴーレムの攻撃にも巻き込まれないタイミングで飛び乗れ。

 

「とぉー」

 

 ブニっとする感触が体に伝わる。生臭いのとひんやりしているのと、やっぱりぬめぬめもしている。端的に言って生理的嫌悪感が強い。

 突如現れた人間に対し、クラーケンは何かしてくることはなかった。完全に僕を無視してやがる。そりゃゴーレムよりは脅威がないだろうけど。

 

「そういう油断は良くないって、学ぶこともないか」

 

 霧の中では、海の中では学習しようがないだろう。今まで生態系のトップとでもいうような振る舞いだったクラーケンだ。

 

 塞がりかけている表皮を斬り、傷口へと銃を突っ込む。

 それでもまだ僕を無視している。触手はどれもこちらを狙っていない。

 

「……馬鹿な奴」

 

 こんな馬鹿に、この海に住む人たちは苦しめられていたのか。

 そんな風にクラーケンへの侮蔑を込めながら引き金を引いた。

 

 心臓に銃弾を撃ち込まれたクラーケンは、すぐに動きを止めることはなく苦しみのたうつように、すべての触手が地面を叩き揺らす。周囲のゴーレムを巻き込み、何度も何度も。

 

 クラーケンの目は最期の際になって、ようやく僕の姿を映す。恨みや敵意のない視線。イカにそんな感情がないのか、クラーケンが特別なのか、わからない。

 

「早くそこから離れなさい!」

「……!」

 

 シャーロットさんの声にハッとする。

 暴れる触手の力が弱まりつつあるためか、ゴーレムが距離を詰めてクラーケンを攻撃しようとしていた。このままでは巻き込まれて潰される。

 

 ああ、もう。こいつの体すごい滑る。跳ぶのも難しい。

 

「怪我する前に離れるわよ!」

「はい!」

 

 破片が飛んできてまた血がーとかは不味いしね。ゴーレムによる2回戦とか絶対嫌だ。

 

 もうクラーケンには触手の1本も、動かす余力は残されていない。心臓が潰されたのだから当然か。

 あとはゴーレムたちがひたすら叩き潰してくれるだろう。周囲に飛び散る奴の青い血が地面に染みていく。通路の人魚の骨のように、体液が地面に吸われ完全に無くなるまでひたすらに。

 

 

 圧殺されていくクラーケンを背に、みんなと合流することにした。

 

 

 

 

 

 

 




 

ファランクスのスキル、ロングストライドの描写はもう槍投げにしました。
大きな歩幅という名前からして突進な気もしますが、もうすっごい槍投げです。

クラーケン戦長すぎる感がしましたがこれでもいくつかカットしたんです……戦闘って難しい。

中でも書きたかったけど書けなかった展開。
ザビィさんの姐御肌的な。
突攻撃のチェイス型っぽく仕留めそこなった敵を倒してくれる頼れる姐御分を描きたかった……
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