ロード元老院、絵画並ぶ廊下を歩きながら考える。
あの肖像画、ピンク色の髪の女の子についてだ。
あの夢は僕の深層心理が見せた、理想の女の子像だと思っていた。だけどあの肖像画を見るに、実在したということ。
それとも偶然の一致……? 妄想と現実がシンクロする確率はどれほどのものか。
普通に考えてあの子は実在した。そして、会ったことがあるということ。
だけどどこで……
目覚めてから見た人の中に、あんな子はいなかった。
では500年前、コールドスリープカプセルに入る前に会った?
いや、それもないだろう。夢で見たあの子の服装は、あの時代のものではない。今の時代に近いものだった。なんというか、ヒラヒラした踊り子の服みたいな。
会ったのは過去でも現在でもない?
意味がわからない……いや、待て。
コールドスリープの弊害に、記憶の混濁の可能性があげられていた。
僕の目覚めてからの記憶は、クロスジャンケの船の上。カプセルから出て、船に行くまでの記憶はない。
この空白の中で、あの子と会っている?
そう考えると、あの夢の出来事は実際にあった光景だったかもしれない。
夢の内容を思い出す。
たぶん、女の子に肩を貸してもらってた夢は時系列的に後かな。だから最初は…………腕がボコボコ膨らんでた。
いきなり意味がわからない現象だ。やっぱりただの夢な気がしてきた。
まあ記憶の混濁であって喪失ではない。そのうち思い出すだろう。
もしくは別の機会に聞けばいいのだ。あの女の子は誰なのかと。そして本人に出会いについて聞けば解決。ここで頭を悩ませる必要はない。
廊下を抜ける頃にはそんな結論に至った。
そしてロード元老院から出てすぐのこと。
「試練、なくなりましたね」
「それだけはラッキーね。これ以上足踏みなんてしてられないわ」
そう言いつつシャーロットさんは街の外へは向かわず、逆方向へと進んでいく。
「……そっちは樹海の入口じゃないですよ?」
「知ってるわよ」
「も、もしかして他の仲間を探しに……!」
「なわけないから」
違うのか。考え直してくれたと期待したのに。でもそれならなんで逆方向へ? この人のことだからすぐさま樹海探索開始よとか言うのかと。
「このままの装備じゃ樹海に行っても日帰りなんだし、必要なものを買いに行かないと」
「必要なもの?」
「ペイルホースの奴らの装備を思いだしなさいよ」
ペイルホースの装備……何か特別なのってあったっけ。
1日しかいなかったからなあ。あの時は……石ころを拾っては投げてを繰り返していた思い出。
「い、石ころ……?」
「……わざと? テントよ」
え、つまりキャンプ用品が必要なの?
「確かにテントを持ってましたけど、あれってペイルホースだからじゃないんですか? あの人たちの謎ルールとか」
「あいつらは確かに馬鹿だけど、他のギルドだってテントを持って挑んでるわ。日帰りで行ける距離なら要らないけど、そんな浅い層に深都なんてありえないわよ」
「あー」
途中休憩できるような施設なんてないか。未開の地へ挑むようなものだし、となるとキャンプ用品は必須なのか。
「じゃあテントですね。なんだか今初めてシャーロットさんがまともな人に見えました」
「……あとあんたの鞄ね」
攻撃が来ると思って事前ガードを置いていたのに無視された。
「鞄ならありますけど」
「それとは別のよ」
「まぁよくわからないので任せます。それじゃ今から買い物ってことですね」
海都アーモロードで買い物、となると知ってる店は多くない。
行先は当然ネイピア商会だ。
相変わらず品ぞろえが雑多なお店、ネイピア商会。品物の圧迫感がすごくて来るだけで疲れてしまいそうだ。
「お主らか。ここに来たということはゼニを落としに来てくれたわけじゃな」
独特な口調の店主さんがニヤニヤしながらの出迎え。
前はペイルホースのシュラフさんたちが暴走してたからあまり気にしてなかったけど、この人の恰好から見て和風文化とか詳しそうだ。品物にニンジャの巻物とかも扱ってたりしないかな。狸の置物があるならニンジャもあってしかるべきだ。
「樹海に行くための準備です」
「うむうむ。良き心掛けじゃな。我が店の品物はどれも逸品ばかり。必ずやお主らの冒険の手助けになるはずじゃ。長く冒険すればするほどゼニも得よう。さすれば我とお主らはながーい付き合いになれるやもしれんしのう?」
「それより私の剣は?」
シャーロットさんの剣……確か研ぎに出したと言ってたけどここだったのか。
品物の売買だけでなく研ぎも……手広くやってる感じかぁ。まあ店内の雰囲気がかなり雑多だし納得もできそう。
店主さんは少し言いづらそうに、恐る恐るシャーロットさんの問いに答えた。
「あー、それなんじゃが……お得意の鍛冶屋にの、職人気質の隠居がおってな。お主の剣の研ぎは終わったが、痛み方が不満だったそうでの……」
「……どういうことよ」
「剣をまともに扱えぬ者には返さぬと言って……その、なんじゃ……まだ返してもらってなかったり、するわけでの」
「はあ!?」
「我とて納得できんが、その隠居は本当に頑固での……しばらく他の剣で我慢してくれんか? 我の方でも今後も説得はしてみるつもりじゃが、お主の剣の扱い方にあやつ自身が納得すればすんなり済むはずじゃ」
研ぎはお得意の鍛冶屋に頼んでたってことか。さすがにここの武器防具すべてネイピア商会生産です、ってわけじゃないのは当然か。
しかしシャーロットさんの剣。店主さんもため息交じりに話しているあたり、この話は想定外だったのだろう。
「あれは私の剣なのよ!? 私の剣を私がどう扱っても問題ないじゃない!」
「宝剣と言ってもいい代物を、とあやつも怒っておっての……。損得考えずに動く輩は難しくてかなわん」
「私だって怒ってるっての!」
「ま、まあ落ち着きましょうよ。今店主さんに文句を言っても仕方ないですし、それにほら。考え方によっては今のままのシャーロットさんだと宝剣を壊しかねなかったんですから、逆に安心!」
「うっさい!」
まぁ預けた剣が返してもらえないとか怒るもんだろうけど、今はどうしようもないし……
とにかくここに来た目的、必要物を買うこと優先にしよう。なだめるのは時間経過に任せて。
「すまんのう。今回の件はこちら側の不手際じゃ。なんらかの詫びは約束しよう」
「そ、それより買い物ですよ買い物! えっとテントに鞄でしたっけ!」
「……」
「うん? なんじゃお主ら、まだ樹海には行ってなかったのかや?」
「何故か海に行ってました」
「……」
だんまり不機嫌モードになってしまった人はそっとしておこう。下手に触れてまた爆発されるのも嫌だし。
「初めてなら、テントに鞄、他にも色々あるが、あえてあげるなら地図も必要じゃな」
「地図ですか? あるんです?」
「正確には、樹海の地形を書き記すメモ帳かの。もしくは白紙の地図か。というかお主、元老院から受けた試練はどうしたのじゃ」
「特例でパスに」
それにしても地図かぁ。前もって探索をしている人たちの地図とかがあれば簡単だと思うんだけど、そういうのはないのか。
地図を自分たちで書かせることもストッパー的な一つの要素だったりするのかな。下手に地図を描いたことない人が初めての土地まで探索を進めた時、ちゃんと地形を描けなかったらダメだから的な。
「だいたいの新米はこれら一式を用意すると素寒貧になる出費じゃが……先の詫びもあるし、ネイピア商会の悪評を流されても困るからの……今回はゼニを頂戴せぬ」
店主さんはそう言いつつ、戸棚から色々と物を取りだしていく。表紙に何も書かれていない本、ペン、インク入れ、水筒。鞄や折り畳みのテント、ナイフに鋏、包帯。様々なものを机の上へと並べていった。
これらが新米冒険者セット的な?
「とまあ、だいたいこれぐらいかの。今回だけのサービスじゃ」
「……元はあんたたちの不手際じゃない」
「不測の事態にも誠意をもって対応する、ネイピア商会ならではと考えてはくれんかや?」
正直これらを揃えるだけの出費は避けられて嬉しかったりする。鞄やテントだけだと思ったらなんだ、この数。
鞄もいままで使っていたような肩掛け鞄じゃなく、なんかもうでかい。リュックサックタイプのと、背負うタイプのサンドバッグみたいな荷物入れ。
逆に邪魔になるのでは……
その疑問を感じ取ったのか、それともよくある疑念なのか、店主さんは説明をくれた。
「この鞄は暴れ野牛の首皮を加工して作られておっての、そう簡単には破れたりせぬ。魔物の襲撃があったら近くに投げても問題ないわけじゃ」
「ああ、すぐに身軽になれるように……」
「うむ。それに魔物の爪や牙を入れても大丈夫な逸品。本来なら少しばかり値を張るのじゃぞ……」
露骨に恩義を感じさせてきたな。まぁでも悪くないものだってわかるからありがたいけど。
この一式でシャーロットさんは機嫌を治したのか、それとも他の剣でいいかと考えたのか、なんにしろ不満な雰囲気はだいぶなくなっている。
「せっかくじゃ、他の品も見ていかぬか? もちろんこれ以上タダにはできぬがな」
「じゃあ盾とか見たいです」
「よいよい。して、予算はどれほどのものかや?」
一応所持金は3000エン以上ある。クラーケン討伐の報酬としてもらった分……港長の財布から出たものだ。
クラーケンの素材を持ち帰れれば売ってさらに所持金を増やせていたかもだけど、ゴーレムがいたからなぁ。
まあ全額使うわけにはいかないし、とりあえず……盾の値段っていくらぐらいだろ。
「800エンでいけますかね? とりあえず、軽くて扱いやすい盾で……」
「ていうかあんた、盾とか使えるの?」
「あった方が安心するじゃないですか。それに魔物と遭遇した時、一番消耗しそうですしね。予備とかあってもいいんじゃないかなって」
800か……と呟きながら店主さんは店の奥へと入っていった。結構高めに言ったつもりだったけど微妙だったかな。
あ、盾よりも鎧とかの方がよかったかな。でも着慣れてないと探索しんどいしなぁ。疲れて動けなくなったところを魔物に襲われたら大変だ。うん、やっぱり盾だけでいいや。
「扱いやすい盾で予算800ならこれがいいかの」
持ってきたのは円形の盾。直径40センチほどの大きさだ。
試しに手に取ってみれば思ったより軽い。
「結構軽いんですね、これ」
「ラウンドシールド。衝撃には強い盾での。ハサミエビの殻から作られたものじゃ」
エビ……。本当に大丈夫なんだろうか。魔物の素材なんだろうけど、エビと聞いた途端に強度が心配になる。でも軽いし、扱いやすそうだ。
「270エンになるがいかがするかや?」
「あ、じゃあこれ2つください。ひとつは予備で」
「マジで予備も買うのね……」
この重さなら複数あっても問題ないと思う。
「ペイルホースのようじゃの」
……あまり喜べない。
やっぱり1つで充分かな。いや、このぐらいなら……あのギルドほどではないはず。
とにかく必要品と盾と予備盾を手に入れたことだし、もう買うものはないかな。
会計も済ませて今度こそ、樹海へと向かうこととなった。
深都発見のために挑む迷宮。名前は、垂水ノ樹海。
初めての時と同じ入口から遺跡内部へと入る。
あの時と違いたったの2人だ。
リュックサックタイプの鞄はシャーロットさんが、サンドバッグみたいな鞄は僕が持つことに。テントはリュックサックの上部に括りつける形なので、これまた彼女が持っている状態。
「……ひたすら下へ下へと降りていくんですよね」
「そうね」
樹海の形式は言ってしまえば大きな縦穴だ。大きな縦穴の周囲にいくつも遺跡が積み重なっている。だから穴から落ちれば下の層へと一気に行くことも可能だと思う。もちろん落下すれば無事では済まないと思うけど。
落下しないように降りれば……長くて頑丈なロープで慎重に降りればどんどん下へと行けるのではないか。いや、そんな単純な方法でいけるなら誰もが同じことしているか。何かできない理由があるのかな。
「あ……」
縦穴を覗き見れば、遠くには何匹も赤い魚や青い魚が宙を泳いでいる。あの赤い魚はたぶん、かみつき魚だ。
ロープにしがみ付きながら降りても、あの魚たちの餌になりかねないか。下手に応戦すればロープから手が離れて下まで一直線……
「何してんの。さっさと行くわよ」
「あ、はい……っととっと!?」
「……ほんとに何してんのよ」
「ちょっと揺れませんでした……?」
絶対今地面が揺れたって。地震だって。大丈夫なのだろうか、この遺跡。降りてる最中に一気に崩れるとか絶対嫌だよ。
「耐震設計とか……期待できませんよね……!」
「変なこと言ってないで早く行くわよ。遅れを取り戻さないとなんだから」
ああ、もう先行っちゃうし……ここは地震とかよくある土地なの?
また揺れてふらついても大丈夫なように縦穴から離れよう。
ネイピアさんって守銭奴イメージ強いですが、1の宿屋と比べたら全然守銭奴じゃないですよね。
樹海の、というか垂水ノ樹海。
ゲーム中ではマップ中央あたりに大きな噴水がありますが、ここでは縦穴でっかいよ形式。イメージとしてはメイドインアビスの。
階段を使わずに降りようとすれば魚がー! みたいな感じで、なんだかハンターハンターの三次試験みたいなイメージ。覚えてる人いるかな。
Q.ていうかパイレーツって盾装備できたっけ。
A.できません。無駄遣いです。
ちなみに私はハッピーエンドが好きです
でもこのお話、どう頑張っても不幸になるのが2名いるんですよね。
書き終わるまでに別の可能性を見つけれなかったら2名はバッドエンドでいきます。