とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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39.なんでもない時間

 

 

 もうすっかり空が暗くなった中、カバの牙を取るために蚤と鎚で地道作業。1人がランプを掲げて照らし、別の1人がカバの口を持ち上げ、残りが牙抜きだ。時間が思いの外かかるため、役割はローテーション。そんな時間がかかる作業中、だんまりというわけではない。

 

「オレたちが海都に来てギルドを作ったのはだいたい2ヶ月ぐらい前だな。2階で結構迷ってさー。あの階は狭い道ばっかだし、奥まで見ないとわからねぇしで散々だったぜ」

「じゃあ結構新鋭ギルドってことかぁ」

 

 解体作業と平行して、ムロツミとちょっとした情報交換だ。色々と知りたいことが多いし。特にお札もとい起動符。

 

「そういうあんたらはどうなんだよ」

「僕たちは……」

 

 ギルド結成して初日……け、結構有り得ない速度では。まあ兵士を追跡したからってのが大きいけど。なんにしろ初日ですと答えるのは嫌な感じにとられるかな。

 

「ギルドができてまだ1日目よ」

「え、ほんとですか!? あ、すみません。疑ったわけじゃなくて、ビックリしちゃって……」

 

 正直に答えちゃうシャーロットさん。ちなみに彼女は今、カバの口を持ち上げる役目だ。カバの口役が疲れたら交替なのだが、僕とアガタの2人合わせた時間よりすでに長く持っている。

 現在アガタがランプ係。カナエと僕が左右の牙係だ。 

 

「まあ、僕らは兵士を追跡して進んだのでズルしてるんだけどね……」

「へぇ、やっぱりそうするよな! 利用できるものはなんだってする! 正しいと思うぜ!」

「普通に探索してたらまだ2階だった気がする……」

「あんたたち、地図はどっちが描いてんの?」

「アタシです。アガタはそういうの苦手で」

「後で見せ合わない? 他のルートがどうなってるか確認したいし、たぶん私たちが使ったルートは抜け道だからそっちにもメリットがあるはずよ」

「はい、お願いします」

 

 なんかシャーロットさん、普段より当たりが柔らかい? 同性相手だから?

 でもキリカゼさんとかにはそんなことなかった気がするけど……いや、そもそもあまり話してるところを見てなかったか。

 

「ところで、まだ一緒に行動するってことでいいのかな。兵士は諦めたけど」

「あー、元々は兵士に追いつくまでって話だったな」

 

 一緒に行動するなら戦闘スタイルとか確認しておきたい。起動符について聞くためにじゃなくて本心からの考え。もちろん起動符にも興味津々だけど、戦闘スタイル確認だから。ただの確認だから。

 

「まあ一緒に行動するなら、またカバの魔物みたいな厄介なのと遭遇する前に戦い方とか確認したいんだけど」

「オレは一気に近づいてズバッと斬る!」

「あ、うん、見ててわかる」

 

 アガタは本当にシンプルでわかりやすい。近づいて短刀で斬る。ニンジャ感は速さだけだ。ニンジュツを使う様子もない。

 

「僕は銃で遠くからバンバン。剣も覚えたいんだけど、諸事情により今は我慢中です」

 

 僕のもシンプルでわかりやすいと思う。

 とまあ、シンプル組のスタイルは別にいいとして、この次が本命だ。カナエの起動符だ。

 

「アタシは……」

「カナエは索敵が得意で戦うのは苦手なんだよ。一応いざって時のために起動符はあるけどよ、それも回数が限定されるからなー」

「占星術って火とかぶつける攻撃魔法みたいなことするだけだと思ってた……」

 

 索敵もできるのか。そういや2人を見つけた時、アガタは気配に気づいたけど場所まではわかってなかったのに対して、カナエは隠れていた場所を正確に言い当ててたっけ。カバがまだ死んでないことも気づいていたし。あれらも占星術の賜物かな。

 思い返せば、スカンダリア大灯台でも占星術師のカストルさんがサエーナ鳥の移動経路を言い当ててた。結構万能な術なのかもしれない。

 

「エーテルの変換が上手くいかなくて……起動符がないと戦う術はあまり持ってないんです……」

「基本的にカナエが魔物を見つけて、気づかれないようにオレが近づいて斬るってやり方で今までやってきたからな。カバと戦うなんて思ってもなかったぜ」

「その節はご迷惑をおかけして……安全になるかなと思っての目つぶしだったんです……」

 

 ムロツミのやり方は気づかれる前に不意打ちで倒す、か。魔物との戦いは決闘でもなんでもないんだし、普通にありだ。

 もしもカバが周囲の見晴らしがいい場所に陣取ってなかったら、2人にとって問題はなかったのだろう。

 

「で、でも最近は魔物の素材を媒体にしたら占星術が使えるようになったんです」

「ははぁ」

 

 これまでと違って少し自信ありげな口ぶりで話してくれているけど、正直全然ピンと来ない。もともと占星術についてがふわっとしか把握してないのだ。

 

「一度使っちゃうと起動符みたいに素材が無くなってしまいましたが……」

「結局多用できないのね」

「うぅ……」

 

 どんどん語調が弱くなっていく。自信出して話した内容の欠点を自分で言って落ち込んでいくとは。

 しかし多用できないって点はシャーロットさんもだ。薬品剣とかがそれにあたる。まあ銃弾もなんだけどね。でも今の言い分だと、起動符は自作できるわけではない、と。

 

「私のは、基本的に斬るだけね」

「薬品、薬品」

「ああ、それもあるわ」

 

 説明を省こうとしない。衝撃に反応する薬品を魔物に付着させるとかちゃんと説明してほしい。でも今の感じじゃなぁ……ムロツミの2人への説明はもう僕がしちゃおう。

 僕の説明に、2人はオイルみたいなものかと納得してくれた。オイルがどんなのか聞けば似たような効力のある薬品らしい。ただし衝撃に対して反応はしないし、揮発性は高くなくそれなりに持つらしい。

 

 バキっと音が鳴る。

 ようやくカバの牙を折ることができた。カナエの方ももうすぐ折れそうだ。

 

「もうすっかり夜ですし、ここでテントでも張ります?」

 

 カバはこの樹海でも上位者だったのか、この周辺に魔物はいない。ずっと動きっぱなしだったのだしとそんな提案をしてみる。ただ反対されるかなという予想はしてたり。

 日が沈んだのだから、兵士たちも野営に入っている可能性が高い。つまり今頑張れば、追いつけるかもしれないのだ。

 

「いいんじゃない?」

「マジすか」

「な、何よ」

「あ、いえなんでもないです。じゃあテントを張ってきますね。手持ち無沙汰になりましたし」

 

 カバの牙を全て取るというのも考えたけど疲れる。1本で充分だろう。ムロツミと分け合うことを考えたら2本だけど、2本目は現在カナエが手掛けてくれているし。

 とりあえず今はテントに集中だ。この辺は水辺が近いせいか湿気も多いし地面も柔らかい。ペグ抜けの危険性もあるし、どこかにいい重石があれば……あ、あったよ! 重石が! あとはテントの下にシートをひいてっと。よし。快適な寝床は樹海攻略にも大事。

 

「野営を制する者が樹海を制すのだ」

 

 完成したテントを前に、思いついた格言を言ってみた。誰かから聞いたわけじゃないけど、そんな格言があってもいい気がしてきた。

 

「……うわぁ」

「シャーロット、どうかしたか?」

「すみません、もうちょっとで折れますから」

「そっちじゃなくてあっち見てただけ」

 

 どうせならムロツミのテントも僕が設営しようかな。まだ折れてないみたいだし。

 

 

 

 

 

 ムロツミのテント設営も完了したころ、2本目のカバの牙が折れたので全員休憩となった。毒はないだろうといいうことで、食べ物はカバの肉、野草、オレンジのような果実、ココナッツ、パイナップル、あと味付けされていないパン。基本的にカバ肉は顔周りの肉だ。腿などは筋肉がひどいので断念。味付けは唯一調味料を持って居たカナエに任せることに。

 

「あんたら、何も持ってきてないんだな……」

「正直テントしか頭になくて、樹海の中でご飯を食べる発想がなく……」

「パンはあるじゃない……」

 

 途中途中、食べれる野草や果実を拾うのが普通らしい。現地で手に入れた食料と、街から持ち込んだ食料などでキャンプをするのも楽しみの一つだとか。僕らはそんなこと考えてなかったので、食べ物はパンしか持ってきてない。カバ肉とパン以外はムロツミの持ちこんだものだ。

 香ばしい匂いが鍋から漂う。カレーの香りだ。カレールーがあればどんな失敗料理もある程度フォローできる。というかカレールーがこの時代にも引き継がれているのにびっくり。

 

「なー、まだかカナエー!」

「もう少し待ってよ」

「ていうか魔物って食べても大丈夫なんですかね」

「魔物によるけどこのカバは大丈夫じゃない?」

「あの、お2人はその器で本当にいいんですか……?」

 

 魔物肉について相談していたらカナエがおずおずと聞いてきた。

 その器とは、僕とシャーロットさんの手に持つ食器だ。正確には食器とは言えないもの。ドリアンの魔物の皮だ。魔物本体は臭かったけど、頭部の皮は無臭だったので利用することに。

 

「食器を用意してなかったし」

「これ以外食器になりそうなのもないし」

「は、はぁ」

 

 調理が始まる前に丁度散歩?をしていたドリアンを発見し、仕留めて肉は鍋に、皮は器にと利用した結果だ。カナエがカレールーを使った理由はドリアンとの戦闘時についた臭いを消すためでもあるかもしれない。

 

「シャーロットさんこういうの嫌がりそうだと思ったんですけど、意外に受け入れるんですね」

「ま、ないものねだりなんてしてられないしね。ヴィクトリアだったらうるさいだろうけど」

「きっとヴィクトリアさんも同じこと言う気がします」

 

 知らないけどお約束的に。

 

「まあ食べ終わった後は念のため腹痛止めの薬飲んどけよ。ドリアンの魔物の皮ってどっかに毒素があるって聞いたことあるしよ」

「マジすか」

「マジマジ。そんなに強いもんじゃないはずだけどな」

 

 ……今度からちゃんと食器を用意しよう。水筒はあるからコップはともかくお皿も大事だ。

 

 ちなみにカレー風味のカバの頬肉煮込みはカレー味。当然の味だけどほっとした。かなり煮込んだためかお肉は非常に柔らかかった。

 そのあと腹痛止めの薬を2人分、ムロツミから借りるというグダグダっぷり。行き当たりばったりすぎだけど、正直なところ少し楽しく思えた。なんだか普通のキャンプっぽい。食材はともかく。

 

 

 

 食べ終わったあとは就寝だ。当然全員が寝るわけにはいかない。見張りは2人体制でいくことに。互いのギルドから1人ずつという形式になった。

 話からして、索敵能力はカナエがトップ、僕が最下位。アガタとシャーロットさんはよくわからない。なので最初の見張りは僕とカナエだ。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

 

 深緑色の液体が入ったコップを受け取った。たぶん飲み物だ。ほかほかと湯気が出ている。

 

「アタシの里ので採れた葉で淹れたお茶です」

「ははあ。結構なオテマエ」

「ふふ、なんですかそれ」

 

 あれ? 違った? こんなルールがあるんじゃなかったっけ。

 

「付近に魔物はいないみたいです」

「あ、わかるんだっけ」

「はい。属性系は苦手ですけど、観測関係の占星術は得意なんです。細かい場所まで把握できるんですよ。この階全体も少し集中すればどこに魔物がいるかわかります」

「ほほー」

 

 簡単そうに言ってくれたけど、割ととんでもない気がする。もう占星術師の情報を聞けば聞くほど味方に欲しい要素しか出てこない。なんなの? 引っ張りだこな技能を持ちすぎじゃない?

 とりあえず今の見張りとしての僕の役目は、カナエが寝ないよう話し相手になることのようだ。索敵能力が圧倒的すぎる。

 

「2人ってなんで樹海探索してるか聞いてもいい?」

 

 話題探しとして質問。考えたらあまりこういうことは聞いたことがない。深都探しに真剣な人は少数と知っているけど、それじゃあ深都探しじゃない理由は何か。小遣い稼ぎが思い浮かんだけど、少しばかり危険すぎる気がする。

 

「……なんででしょうね」

「僕に聞かれても……」

「す、すみませんっ。ふざけてるわけじゃなくて、本当にわからないんです」

 

 謎の使命感が急に、みたいな話だろうか。それとも人には言えない理由とか。僕の理由も人には言えない……というわけではないけど、説明が面倒臭いタイプのだからあまりとやかく言えない。

 

「アガタが言いだしたことなんです。海都の樹海へ行こうって」

「あー……なんかわかるかも」

 

 あれだけ元気が有り余ってそうな少年なんだし、深都なんてオレが見つけてやるぜ、みたいな勢いで誘ったんだろうな。そんな想像図があっさり浮かんだ。

 

「ただ、なんで樹海へ行きたがってるのかわからなくて……」

「深都探しじゃないの?」

「いえ、深都ではないんです。違うものを探しているらしいんですが、教えてくれなくて……」

 

 やっぱり人によって色々理由があるのかな。わざわざ危険を冒してまで探す何か。想像がつかないけどそういったものがあるというのは理解できる。参考程度に今度トーマさんの理由も聞いてみよう。

 

「ミゼルさんたちはなんでですか?」

「僕らは深都探しだよ。探す理由は違うけどね」

「アタシたちがあまり知らないだけなのかもしれませんが、深都を探している人って少ない気がします」

「みたいだねぇ……。僕も知ってる人は1人しかいないや。オランピアさんって言うんだけど」

 

 ペイルホースも自分たちなりに真面目に探しているとは言ってたけど、それは除外で。

 

 そういえばオランピアさんは1人で探索してたけど、どこまで進んでいるんだろうか。もし会えたら色々情報交換とかしてほしいところ。

 

「名前は聞いたことあります。1人で冒険してる方ですよね。アタシたちは縁がないのか、全然会わなくて」

「まぁほとんどの時間を樹海にいるっぽいしねぇ。少し変わった雰囲気のある優しい人だったよ」

「1人で冒険してるって聞いて、怖そうな人なのかなと思っていたのですが違うんですね」

「あまり怖いイメージはないよ。なんというか……変わった雰囲気?」

 

 オランピアさんのことを上手く言えない。

 なんか変わっている人だ。やたら距離感が近かったり、戦えないと言いつつすごい体力の持ち主だったり。うん、やっぱりよくわからない。変わった感じの人、がしっくりきそう。

 

「そういえば、起動符って高価なもの?」

「え、そうですね……値段自体は少し高く思える程度ですね。ただ、あまりお店に並ぶことは少ないです」

「なんと……」

「材料があまり手に入らないものが多く、起動符を作れる占星術師もそんなに多いわけじゃないんです」

「なんかそう聞くとすごく高そうな値になりそう」

「起動符自体があまり強いわけじゃないですからね。値段の割に……ってなっちゃうんです」

 

 起動符が弱い……?

 カバとの戦いのときは十分な火力に見えたけど。

 

「占星術師じゃなくても占星術が使えるってのが売りなんですけど、占星術の理解が少ないと込められた術式の威力を引きだしきることができないんです」

「使う人によって火力が変わるみたいな?」

「そうなんです。起動符を買うよりオイルを買った方がコスパもいいって聞くほどで……」

 

 人気のない道具ってことかぁ。そうなると商品として並べていても、数は多くないだろうなぁ。

 まあでも一度使ってみたいし、ネイピア商会へ買いに行くことは確定だ。

 

 

 残りの見張り時間も雑談ばかりで、魔物が襲ってくることはなかった。

 

 

 

 




 

雑談回。

カナエのスキルはゲームで言うなら星体観測。
ゲーム中なら周囲のFOEの位置がわかるものですが、このお話では周囲の生物の把握にしました。
作中のミゼルさんの考え通り、サエーナ鳥戦でもカストルさんが実は使ってた設定です。

そして魔改造フラグをつけました。魔物の素材があれば、その素材に対応した術が使えるカナエ的な。
例としてはホシゾラウミウシの素材なら氷属性の術的な。
こうでもしないと後々厄介そうだったので……

まあ二次創作だし少しぐらいブッ飛んでてもいいよね!!!!!
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