スカンダリア大灯台にクロスジャンケの船は先行し、アーモロードの海兵隊の船が四隻、追従するように進む。
僕が乗る船はそれらから離れて回り込み進行だ。
船上で今回の作戦について二組のギルドに話したところ、反発は一切なかった。むしろ誰が倒しても構わないとのこと。戦闘狂みたいな性格は誰もいなかった。
「それにしても、海賊か。全然そうは見えないんだけどな」
「兄さん、失礼です」
「大丈夫ですよ。僕自身海賊って気は一切してませんから」
作戦についての話はそこそこに、今は雑談をしながらの進行だ。
話題はクロスジャンケについて、そしてそこの所属となっている僕について。スターブラザーズの二人はなんというか、我が道を行く系の兄カストルさんと世話焼き支え役の弟ポルックスさんというイメージで固められてきた。
「海賊歴はだいたい一日ぐらいですしね」
「それは海賊と言えるのか?」
「あ、でも大丈夫ですよ。ちゃんと航海も問題ないですし」
「それについては心配していません。しかし、海賊に拾われたというのは幸か不幸か……」
ロイヤルガーズの方々はお姫様とその従者ということもあって、海賊という存在にやや複雑そうだ。とはいえ、目の仇にしているわけでなく、扱いに困っているみたいに思える。
従者の二人、アルバートさんとベンジャミンさん。アルバートさんは恰好も言動もどこか軽いラフなタイプ。ベンジャミンさんはその反対で、堅苦しいというか、すごい丁寧と言うか。
「……やっぱり、海賊ってあまり歓迎されないですよね」
「気を悪くさせてしまってすみません。ただ王家に仕えている身として、無法の者というと身構えてしまうのです」
「ベンジャミンは頭が固すぎるのよ。今は海賊にも良い悪いがあるんだから。王家に属する者として、民に害意を向ける賊を成敗できればいいの」
ヴィクトリア姫は王族と聞いておっかなびっくりだったけど、かなり気安くて喋りやすい人だ。
それにしても聞いてもいいんだろうか。なんで王族がこんな作戦に出るのかとか。
「あんたらは王家の人なんだろ? どうして討伐隊に志願したんだ?」
気になっていたことをカストルさんが聞いてくれた。
王家相手でも構えない彼は大物だ。それともこういう距離感が普通なのか。
「掟なの。民を苦しめる魔物を懲らしめる力を示さないと王位継承権は与えられないの。でも、掟抜きにしてもスカンダリア大灯台の魔物は放ってはおけないわ。海都の問題だとしても海都を助け、それが巡り巡って故郷の民たちを助けることになるんだから」
「ん? 王家っても海都の王家じゃないんだな」
「ええ、違うわね。海都と比べれば…………すこーしだけ小さな国よ。すこーしだけ。でも素晴らしい王国なのよ!」
口ぶり的に近辺には幾つも国があるのだろうか。外の国の問題にも手を出すなんて考えづらい話だけども。
「スカンダリア大灯台の問題を知れたのは偶然だけどな。普段は深都の探索と妹姫様のお目付けだ」
「アルバート、余計なことは言わなくていい」
「深都はともかく妹姫? 妹がいるのか。一緒に行動してないのか?」
カストルさんぐいぐいいく。
「私の話はもういいじゃない。あなたたちこそどうして討伐隊に参加したのよ」
ヴィクトリア姫は言及を避けて今度は逆にカストルさんへ質問を返した。
「俺は占星術師だからな。占星術は星から力を借りる術だ。正確に、効率的に借りるためにも星の観測は欠かせなくてな。でもそれなら大灯台みたいな高い場所から星を見たいだろ? だから志願してたんだ」
「……えと、天体観測がしたくて魔物退治に?」
ちょっとよくわからない内容だったけども、まとめるとそういうことだよね。
マイペースにしても異常なのでは、この人。
「占星術師としては大事なことなんだ。だから俺は俺のために討伐隊に参加した。個人的な理由だな」
「兄さんは占星術を高めるためならなんだってする人なんです。海都の迷宮探索も、深都のためやお金のためじゃなくて星占術のためですから」
ヴィクトリアさんが国のため、他人のため。
カストルさんが占星術のため、自分のため。
なんとも両極端な二組だ。
どちらの話を聞いた立場だけども、僕には関係があまりないことだからなんでもいいやと思ってしまう。僕は僕の役割を果たすのみだ。
そうこうしている間にサエーナ鳥を引き付けるための狼煙があげられた。
いよいよ本番開始だ。ここからは雑談もしてられない。
いくつもの狼煙をあげつつ、船は大灯台へと近づいていく。
近づくにつれて霧の中に見える大灯台の光……サエーナ鳥の翼がより輝いていった。あれはもしかしたら威嚇だったのかもしれない。もしそうだとしたら、威嚇が灯台の光に見えて近づくことになるなんて皮肉な話だ。
どんどんと近づいてくる船にしびれを切らしたのか、サエーナ鳥が飛び立った。それは当然狼煙の元、船に向けて。
「今のうちに僕らも進みます」
雑談をしていたころの和やかな雰囲気はすっかり鳴りを潜め、みんな静かに、そして真剣にサエーナ鳥の様子を見ていた。
霧の中、目印らしきものはぼんやりと見える灯台の影。
遠く離れた場所では縦横無尽に飛び回っている光が見える程度。
灯台を目指すけども、灯台の光だけに気を取られては駄目だ。渦、海流の異常、それらを見落とすわけにはいかないから。
ヒリヒリするほど集中しながらの航海だったが、渦が発生することもなく灯台まで辿りつく。灯台のある沿岸部も霧で包まれているが、さすがに陸地なら渦の心配は一切ない。ここまでくれば一安心。
どうやらザビィさんたちは上手くやってくれているようだ。今なお金色の光は霧の中飛び回っているが、こちらに近づいてくる様子はない。
「ではあとはお願いします」
「ええ、灯台の屋上についたらこの信号弾を撃てばいいのよね?」
「はい。えっと……ご武運を?」
「やっぱり海賊なんて向いてなさそうなやつだな」
「アルバート」
インバーの港で渡された、青色、黄色、赤色の三発の信号弾が込められた拳銃を見せるヴィクトリア姫に頷いて慣れないやり取り。戦いとは今まで無縁だったのだから仕方ないと思う。
青色の信号弾は作戦成功を、黄色は作戦継続中であることを、赤色は作戦失敗を示す。
討伐隊にはサエーナ鳥の巣があるであろう屋上、そこに付いたら海上で戦っている人たちに黄色の信号弾を見せる。その知らせを受け、海上の船は撤退の手はずとなっている。僕は灯台の麓で待機だけど、サエーナ鳥の索敵能力を考えれば巣への侵入者を感知し、そちらを優先して排除しようとするはずだ。
「それじゃあ星を見に行くか」
「その前にサエーナ鳥の討伐よ」
「わかってるわかってる。だけどその前に階段だな」
戦いに赴く理由は両極端な二者だけど、特に険悪な様子はない。あとは純粋にサエーナ鳥との力量比べか。
スターブラザーズとロイヤルガーズを見送った後、僕は海に飛ぶ金色をじっと見ていた。
正直な話、この船を狙わないというのは希望的観測が混じった話だ。囮の位置より安全ではあるが、絶対ではない。サエーナ鳥の気分次第。光を見て対応できるわけじゃないけども、最悪に備えてすぐに船から離れられる位置にいたほうがいいだろうか。そう考えて船から降り、沿岸部に足をつけた。
「───っ!」
突然足に痛みが走る。
見れば手のひら大の赤い魚が足に噛みついていた。なんで、と思う間も与えてくれずに赤い魚は何度も噛み直しては鋭い牙を足に食い込ませていく。
「ま、もの……!?」
腰に差したままだったサーベルで魚を叩く。斬ることができなかったのは焦り過ぎたためだった。確実に斬るべきだったと小さく後悔。
とにかくサーベルによって叩かれた魚はようやく足から離れてくれた。
魚は数度、陸地でビチビチと跳ねた後、何事もなかったかのように──────空中を泳ぎ出した。
そのまま歯をカチカチとかみ合わせながら、僕に向かって襲い来る。
驚きが大きかったが今度は噛まれずにサーベルで叩き返した。だけどまた斬るのを失敗した。
つい先ほどの光景の繰り返しのように、赤い魚は陸地でビチビチ跳ね───間髪入れずに銃を抜き魚を撃つ。動かなくなるまで撃つ。
計三発。魚に撃ちこんだ弾の数だ、足の痛みと魚の不規則な跳ねで二発外したので消費は五発だ。とにかく魚は息絶えたのか、ピクリとも動かなくなった。
「…………っなんなんだ。魚なら海を泳げよ……足痛ぁ……」
ふくらはぎをがっつり噛みつかれた。血がドクドクと出ている。見てしまうとより強く意識してしまい、貧血で倒れてしまいそうだ。でもそれより早く止血しないと。
「……!」
ぞわり。
言葉にするならそういう感覚が背筋を襲う。
先の魚とは比べ物にならない圧倒的な害意。
何かに見られている。
この沿岸部ではない。灯台からではない。海から……いや、海の上──────空から。
視線を感じる方角からは、金色の光が見えた。
だんだんと大きくなる光が。
「っ!!」
最初に遭遇した時よりも強い敵意。殺意というのはこういうものなのか。このままここにいてはいけない。サエーナ鳥が辿りつく前に逃げなくては。アレは確実に僕を狙っている。
なんで? 血の匂い? 銃の発砲音?
疑問がいくつも頭に浮かぶが答えを考えている暇なんてない。
隠れることは無理だ。船に乗ったって沈められるのがオチだ。逃げ場はせいぜい……
灯台の中!
足の痛みを堪えながら、よたよたと灯台へと駆け込む。扉のサイズは人用の規格だ。サエーナ鳥の大きさではせいぜい片足を入れれる程度。中に入ればひとまず安全だ。
中に駆け込みすぐさま扉を閉める。閂を掛けて開かないように入念に。
「……なんなんだよこれ。足痛いぃ……」
足が痛い。頭が痛い。目が痛い。体温が上昇する。
体全体が異常を訴えている。
雑菌が入っての反応にしては早すぎる。もしかしてあの赤い魚は毒でも持っていたのか。
途端、灯台が大きく揺れた。
巨大な何かがぶつかった音だ。何か、なんて言うまでもない。サエーナ鳥だ。
「しつこい奴……」
灯台に攻撃しているのだろう。自分の巣があるはずなのに、何度も何度も、執拗に。
揺れるたびに埃や塵、小石がパラパラと落ちてくる。灯台の耐久力が心配だ。
揺れる音と小石が床にあたる音、それらに混じって階段を降りてくる音が聞こえた。
「───んで灯台に攻撃をっ!? ミゼルさん!?」
拳法家の服装をした、気功師ポルックスさんだ。
「その怪我はいったい……!」
「魚に、噛まれまして……」
事情を説明しようとして、今までより一際大きな音が劈く。
灯台の入口、鉄の扉が歪められて蹴破られた。閂などなかったかのように、いや、あったからこそ歪な形となったのだろう。
サエーナ鳥が中に入れたわけではないが、巨大な足が見える。扉のあった位置に足を差し込んでは暴れ、建物へヒビを入れていく。
「ミゼルさん、ここは危険です! 上に行きますよ!」
ぐいっと引っ張られ、肩に担がれる形でポルックスさんに背負われた。なんだっけこれ、消防士が救助の際する担ぎ方って聞いたことがある。
そんなどうでもいいことを思いながら、長い階段を駆け上がっていった。
原作既プレイ者で恐らくお世話になった方も多いNPC「キリカゼ」さんの登場はすみません……別クエストで……