とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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40.海都の将軍と元老院の試練

 

 

 

 縦穴の中から見える空の色は青と白。太陽が出ているために青空と雲がよく見える。天気は晴れだ。

 昨日の疲労感はまだ少し残っているけど、頭もスッキリしてだいぶ楽。テントを畳んで探索の続きを気持ちよく開始できるというものだ。

 自分で言うのもなんだけど、珍しく僕は眠気を引きずっていないのに対して他3人はそうではないようで、眠たそうに欠伸をしている。

 

「夜も揺れまくりだったな……」

「何かあるのかな……」

「え、揺れてた?」

「あんたは爆睡してたものね」

「一昨日から何度も揺れてます……」

 

 また地震があったのか。全く気づかなかった。

 しかし頻度が凄まじい。カナエの言葉通りなら一昨日から突然アーモロードの地盤が歪み始めたのか。もしくは魔物による作為的なものなのか。霧を出す魔物なんていたんだ。地震を起こす魔物もいても……さすがにそれはないかな。

 地震について考えても仕方がない。とりあえず探索を再開だ。

 

 2人ではなく4人での探索。人数が増えた分、魔物との戦闘が増えるかなと思いきやそんなことはなく。むしろ減ったまである。

 それもこれも、カナエの索敵能力の高さのおかげだ。魔物の位置だけでなく、身体の向きまで言い当てるものだから、死角から不意打ちを入れやすい。

 そして今またも、前衛2人に屠られる哀れな魔物が。

 

「普段なら孤立した魔物しか狙えなかったんですけど、やっぱり人数が多いとスムーズですね」

 

 カナエの言葉に頷く。まぁ僕は何もしてないんですけどね。

 銃は血ほどじゃないにせよ、魔物を引き寄せる可能性があるからあまり使えないし、剣は当然使えないし、地図を描いているわけでもないし……ほ、本当に何もしてない。

 

「……やっぱり剣を使えるようになるべきだコレ」

「まだ言ってんの?」

「僕の役割がない状態が辛いですし!」

「諦めなさい」

「バッサリ……!」

 

 怪我しないように剣を扱えるようになれば……! ニンジャのように舞い、ニンジャのように斬れれば! こんな想いはしなくてもいいのに!

 

「役割ない奴は放っておいて、占星術で魔物以外のことはわかったりしないの? 地形とか、下への道とか」

「扱いがひどい」

「すみません、そういうのはあまり……」

「お、あれ階段じゃねぇか?」

 

 下へと続く階段が見つかる。すごく順調だ。僕は何もしてないけども。

 最下層が何階なのかわからないから先行きは全くわからないけど、そもそも最下層に深都があるかどうか怪しいけど、とにかく順調なのは違いない。

 

 階段を降りている最中だった。

 

「この先、魔物が……え?」

「どうした?」

「何か、変」

 

 ここまで魔物の有無をはっきり断言してきたカナエ。それが妙に歯切れが悪くなった。

 

「人……? すごく、わかりづらい……もっと集中しないと……」

「……この先に何かいるってことは確実かな」

 

 一度全員立ち止まりカナエの答えを待つ。

 もしこの先にいるのが人なら、なんというか人か魔物か判断しづらい気配って可哀想な評価だと思う。まあ、カナエの判断がどういったモノなのかわからないので何とも言えないけど。

 案外魔物の肉を少し前に食べたから魔物に近づいた体質とか。パニック映画の怪物みたいな感じで。取り込んだ肉によってはおかしいことではない。

 

「え……」

「うん?」

「い、いえ、すみません。人、だと思います」

 

 何故か一瞬、信じられないといった目でカナエがこちらを見てきた。その後、先にいるのが人だと言う。それもやはり自信なさげなものだ。

 

「魔物っぽい雰囲気の人ってこと?」

「ええと……雰囲気というよりエーテルが魔物に近い人、かと……」

「エーテルね……占星術師じゃない私たちにはわからないわ」

「そ、そうですよね、すみませんっ。ええと、そうですね……ミゼルさんに近い人がいます」

「まさかの」

「あっ、す、すみませんっ。違うんですっ。ただ独特っていうか……」

「魔物じゃないならなんでもいいじゃん。いいから行こうぜ」

 

 なんでもいいわけないです。さらっと傷つく評価なんだけど。

 アガタに急かされるように階段を再び降り始める。この先に僕みたいな人がいるという評だし、白もやしな人間がいるのかもしれな……いや、もしかして僕と同じ時代の人がいる? 500年前の、あのカプセルに入った人が。

 その考えに自ずと足早になった。探し求めていた人がいるかもしれないのだ。聞きたいことがたくさんあるんだ。

 

 

 

 階段を降り切った先の階は、やっぱりこれまでと景色が変わらず遺跡の中。

 左右は遺跡の壁と流れの強い川。

 そのそばに人間がいた。

 

 甲冑に赤い陣羽織。背中には1本のカタナ。まぎれもなくサムライ……いや、違う。サムライコスプレイヤーだ。

 だって金髪だし、蒼い目だし、チョンマゲでもない。サムライのコスプレだ。

 

 僕に近い人というのは、ひょっとしてそういうことか。

 僕のニンジャへのあこがれ、この人のサムライへのあこがれ。この2つが似ているということか。

 でも残念ながら僕はコスプレをするほどの熱意を持っていない。

 

「お前たち、ギルドの名は」

 

 コスプレイヤーが無表情に尋ねた。興味があって聞いたという様子ではない。

 

「僕と、こっちの人はえっと……あ、アンチセルです」

「オレたちはムロツミ。そういうあんたは?」

 

 アガタの問いかけにコスプレイヤーは、淡々としたものではあったけど答えてくれた。

 

「冒険者ではない。元老院から指示を受けている者だ。アンチセルとムロツミといったな。この先は通行止めだ」

 

 他のルートを使えということだろうか。ようやく見つけた道が行き止まりだなんてなかなかしんどい。

 それか地震のせいで道が崩落したとか……? わざわざこの人間を配置している辺り、今までと違う現象が起きて被害を減らそうとしている……なんて可能性もあるかな。その場合復旧はいつになるのか。

 とにかくまずは通行止めの理由を聞いて判断しよう。

 

「通行止めの理由を聞いてもいいですか?」

「危険だからだ」

 

 地震の影響で……と判断するには足りないかな。漠然としすぎているし。

 

「危険なんてここだと普通のことでは」

「もちろんそうだ。だが、この先から魔物による危険の度合いが比べ物にならなくなる。よって、被害を少なくするために俺や海都の衛士がここにいる」

「何それ。深都を見つけてほしいから樹海に送りだしたんじゃないの」

「塵も積もれば山となる……という言葉があるが、この先は塵がいくら積もろうと散っていくだけだ。自分たちが塵ではないと言いたければ、一度元老院に戻るといい」

 

 元々樹海へ探索に行く人に命の保証なんてないはずだ。それなのに被害を減らすためにと足止めが行われる。

 それほどまでに危険な何かがあるということだろうけど、周囲の雰囲気は上の階と大差がないように見える。

 少なくとも、環境が厳しい、というわけではない……かな……

 

「元老院に戻って何しろっていうのよ。そこで暴れろってこと?」

「シャ、シャーロットさん、滅多なことは言わない方が……。た、たぶん試練ですよ試練。アタシ聞いたことがあります。深部に行くには元老院から出される試練を終えないといけないって」

「そういうことだ。わかったのならここで喚いてないで、試練を受けに戻るんだな」

 

 試練を受けるまでは通す気が無さそうだ。

 しかし、ここまで降りるのにも時間がかかったのに海都まで戻れって……なんて面倒な。最初から試練をひとまとめにしてほしいと思うのは我儘か。

 向こうはひとりだし面倒だからと強引に押し通る、なんて考えが頭に浮かんだがすぐ捨てる。通れたとしても元老院から犯罪者扱いを受けかねない。深都発見ができれば許されそうだけど、それまで追われる生活なんて絶対嫌だ。

 

 結局、これ以上この場所にいても仕方ないので、シャーロットさんをなだめながら全員ですごすごと逆戻りをすることに。

 カバの魔物を倒しておいて良かった。

 

 

 

 戻る道中はトラブル一切なく、ただ足に疲労感が募るものとなった。階段がしんどかったぐらいか。

 そんなわけで、だいたい1日ぶりの海都についた。

 

「これから元老院に行くんだよな」

「そのために戻ったんじゃない。さっさと行ってすぐに戻るわよ」

 

 すぐ戻るのは遠慮したい。

 せっかく戻ったのだから、色々としたいことがあるのだ。具体的には買い物。

 

「元老院に行くのはいいですけど、すぐに樹海へ行くのはやめときましょう。買い物したいですし」

「買い物って、あんたね……」

「呆れた感じに言わないでください。大事なことですよ」

 

 お札探しに行きたいし。他にも何かあるかもだし。

 あと買い物を終えたらテントじゃなくて宿のベッドで身体を休めたいし。

 

「と、とにかく元老院に行きましょう。試練の内容次第で今後の動きも変わりますし……」

 

 確かに、カナエの言う通り試練の内容次第だ。最初は地図を描くという内容だったらしいし、次は戦闘力を見るとか? それとも知識とか? 試練はすぐに済むものなのか、何日もかかるものなのか、それすら僕たちはわからないのだから。

 

 

 

 元老院の入口で立っていた兵士に試練の話を聞けば、婆さまと話すようにと言われて中へ進む。

 アポイントとかいらないのは楽だからいいけど、あの人と話すのかぁ……前は質問が多かったせいか突然怒りだしたからなぁ。

 

 どうにでもなれという気持ちのまま、以前も来た部屋の中に入る。前と変わらず、いるのは元老院の婆さまことフローディアさんのみ。

 

「試練を受けに来たわ」

 

 向こうが何か言う前に、シャーロットさんが超簡潔に述べた。

 一応相手は海都のお偉いさんだからね。言葉をもうちょっとね。

 

「シャーロットさん、僕が話しますんで!」

「何よ、私じゃ問題なの?」

「なんか不安なんで!」

「やかましいやつらだね。あたしはどっちでもいいさ。それより、迷宮の4階まで進んだのかい」

「はい、そこで試練を受けに元老院に戻れって言われました」

「昨日から始めてもうそこまで行ったのかい。思っていた以上に順調そうだね」

 

 まあ兵士のストーカーをして近道を見つけたからだけどね。

 

「試練は垂水ノ樹海の主、4階にいるオオナマズの退治さ」

「樹海でやるんですか……」

 

 元老院に戻る必要なくない? あのコスプレイヤーから話を聞いていたらすぐにナマズの元へ向かえたのに……

 

「ナマズと言ってもただの魚じゃないよ。この試練で命を落とした数も少なくないんだ」

「……あの、変なこと聞くようですけど、この試練って毎回同じなんですか?」

「そうさ。主がいない時期は試練を受けることができない。だからあんたらは運がいいね」

 

 ナマズ退治が試練……試練を受けないと樹海の奥へは行けない……。

 じゃあ一度の試練で合格をもらえるのは1ギルドのみ? 少なすぎでは。

 主の出没頻度だってそんなに頻繁ではないだろうし、この試練は見直すべきなのでは。

 

「それで、アンチセルは試練を受けるのかい」

「もちろん受けるわ」

「婆さん、ちょっと待ってくれよ! オレたちムロツミも試練を受けたいんだ!」

「なんだい、別のギルドだったのかい」

 

 まあ、そりゃムロツミも受けたいよね。となると、どちらが先にナマズを退治できるかの競争になる。これはのんびりしてられないかもだ。

 

「試練を受けることは構わないよ。だけどね、この試練は命を落としかねないものだと覚悟しな。その覚悟ができてないなら今のうちにこの部屋を出ていくことだね」

「……」

 

 少しカナエが不安げだ。だけど出ていかない。

 

「覚悟は決まってるようだね。試練の説明をするよ」

「ナマズ退治じゃ……?」

「黙って聞きな!」

「はい!」

 

 何か補足説明ってことかな。茶々を入れた感じに思われたかもだけど、怒鳴らなくてもいいと思う。

 

「試練の最中は兵士たちがあんたらを見てるんだけどね、どんな状況になっても手助けは行わない。冒険者の力だけで試練を突破しな」

 

 試練じゃなかったら手助けしてくれるのか。まあそれが普通か。ずっと助けてくれることはなさそうだけど、試練の最中でなければ見殺しには基本されない。

 まあ今回は見殺しにされる可能性があり、と。

 

「試練の期限は残り4日。それを過ぎればクジュラがナルメルを退治することになってるからね」

「ナルメル?」

「……魔魚ナルメル。古い言葉で荒れ狂うナマズって意味さ。ナマズ呼びじゃ締まりがないからね」

「あ、あとクジュラっていうのは……? それに残り4日って短すぎません?」

「ちゃんと説明してやるから最後まで黙って聞きな!」

「はい!」

 

 怒鳴らなくても……

 

 しかし残り4日ってなんだか変な表現だ。もしも今日でなく、明日にここに来ていたら試練の期限が3日になっていたかのような言い方。

 

「ナルメルは他の魔物とは違って、滅びることがなくてね。倒してもしばらく時が経てばまた暴れる迷惑なやつさ」

 

 滅びない……?

 詳細をより深く聞きたくて口にだしかけるけど我慢。また怒鳴られちゃうし。

 

「ナルメルは放っておくと樹海を……あの遺跡を破壊して回る。やつの甦る場所を把握できたから今は無闇に破壊されることはない。だけど6日が限度ってとこだね。それ以上は一ヵ所に留められないんだよ。だから試練は残り4日さ」

 

 復活する魔物とか、ちょっと意味がわからない。ある意味不死の生物じゃないか。まあその特性を利用すれば毎回同じ条件の試練になるわけか。ナルメルに人権はない模様。

 

「それと試練はナルメルの退治と言ったけどね、厳密にはナルメルの退治に貢献することさ」

 

 あ、それはうれしい。

 これは要するに、試練の合格ギルドは複数も有り得るということだ。蹴落とし合いを推奨していない。樹海のさらに奥では、即席チームで協調性を求められる可能性もあると視野に入れてるのかもしれない。

 まあ深都発見を切望する元老院が、蹴落とし合いのシステムを作っていたら命の無駄遣いすぎるし当然か。資源は有限なのだ。

 

「あとは、クジュラだったね。クジュラは海都の将軍。見た目はそうだね、刀を背負った紅い派手な格好の小僧さ」

 

 コスプレイヤーはクジュラ。クジュラはショーグン。覚えた。

 

 しかし……時代の変化かなぁ。イメージと全然違うや。

 

「説明は終わりだよ。まだ質問はあるかい」

「オレたちはねぇな」

「僕も大丈夫で……あ! 試練の参加状況とかって聞けますか!」

 

 あぶないあぶない。

 これは超大事なことだ。僕たちとムロツミだけなら協力関係をすぐに結べば問題は少なくなるけど、他のギルドも受けているなら急がないといけなくなる。

 

「今のところはあんたたちだけだね。もともと試練を受ける数は少ないんだ。焦らずどっしり挑むんだよ」

「へ、あ、ありがとうございます?」

「なんだい、その気の抜けた礼は」

「いえ、なんでもないです」

 

 まさか助言のようなものをもらえるとは思わなかったので、聞き間違いかもと思いながら言葉にしちゃっただけです。

 

 まあとにかく、焦る必要は今のところなし。でも期限は残り4日。ナルメルの場所は樹海の地下4階。

 ムロツミと協力関係になればカナエの占星術で場所もある程度わかるだろうし日数的には余裕があるかな。

 となると、今日は探索を休んで試練の準備に回してもよしだ。

 

「それじゃあ、僕たちはこれで」

「せいぜい用心するんだね」

 

 意外に優しいのか、それとも命という資源の無駄遣いを許さないだけなのか、判断に悩む。

 幽霊船を放置していた元老院だしなぁ……

 

 

 まあ今はいいか。

 それよりも試練についての話し合いだ。

 

 

 




 

原作立ち絵もち、クジュラ登場回。
あと第一層ボス、ナルメル討伐ミッション発令回。

クジュラは設定画集のネタを少し拾って書いてみたり。
妖刀に影響を受けてる感じです。
ミッションは色々独自設定をモリモリしてみました。
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