片方だけでは短すぎたのでひっつけてしまいました……
プピィィ……
なんと間の抜けた音だろう。玩具の剣を鳴らすたびに同じ感想が出てしまう。
剣の練習場所として選んだ場所は冒険者ギルドだ。夜でも開いているが人の数は少ないという、まさに練習場所にうってつけの場所。ここなら周囲の迷惑にあまりならない。
ちなみにギルド長は眠ったそうだ。今は代理の人が受け付けている。
シャーロットさんが持つのは模造剣。いい感じの棒は結局見つからず、ここにあった練習用の剣を使うことに。
「明日に響かないように、切り上げる時間はちゃんと考えるのよ」
「時間を忘れるほど熱くならないですよ」
「だといいけど」
ギルド長の代理さんに1時間経ったら教えてくれるように頼んでおいた。そこが今日の止め時だ。
別に今日中に勝つなんて考えていない。変に粘って互いに疲弊したら、試練合格が遠ざかる。僕は誰かと違って戦闘狂じゃないから。目的は見失わないです、たぶん。
「それじゃ、行きます」
今日はとにかく、どこまで通用するかだ。
そもそも剣の扱い方なんてまともに習ってない。ザビィさんの教えも「敵が近いなら斬れ」という教えでもなんでもないものだったし。
そんな僕だが一応は何人もの剣を使う人を見てきたのだ。その人たちのような動きを真似ていけばいいはず。キリカゼさんとか、あとは……あ、ドレークさんとか。
あの二人の剣術は、とりあえずすごい速かった。なんかすごい速かった。
だからきっと、全力で接近して剣を振ればいい。真似ならそれで十分だきっと。
「って近い!?」
「そりゃそうでしょ」
一気に距離を詰めたら向こうからも詰めてきた。剣を振る前に二の腕を捕まれひざ裏に足を引っかけられる。そのまま……
「あいたぁ!」
背中から転ばされた。
「ただの突進じゃない。剣使ってないし」
「キリカゼさんやドレークさんみたいな速さを求めて……」
「ああ、混ざってたのね。馬鹿じゃない?」
「ひどい」
やはりニンジャの技術を取り入れるには修行が足りない……当然か。
ドレークさんは海賊だし、近い物があると思う。次はドレークさんの動きだけを思いだしてやってみよう。
あの人の動きは……速かったけども、なんというか……ブンブンと振り回す感じだ。何かの教えとかがあるようには見えない。ただひたすら振り回すような、我武者羅な剣。
そう考えるとフィジカルでごり押しするタイプなんだよね、あの人。
「とにかく振るしかないかな……」
振って振って、相手の対応の癖を見よう。
どこかしら癖があるはず。そこを突けるようになればいい。
立ち上がり玩具の剣を振り回す。
実際の剣より軽いおかげで取り回し自体は楽だ。普通の剣ではできないような切り返しができる。だけど一度も身体まで届かない。どれも遮られてしまう。
そこは想定内。癖が見抜ければ……見抜ければ……
全然わからない。というか癖もなにもない。
どの角度からの攻撃も、迎えるように防がれる。剣を振り切る前に止められている。それもすごくつまらなさそうな表情で。
切り返しが早い分、試行回数も増えているせいで、このままじゃ心が折れるのが早くなっちゃう……
「まあ、だいぶあいつの剣には近いんじゃない?」
「あい、つ?」
「あの海賊よ。ドレークとかいう」
全然近い感じがしない。あの人はもっとこう……突進しつつすごい速い剣というか。そういえばあの人の剣は細剣だ。斬ることもできなくはないけど、突くことを主体としたもの。
あまり見えなかったけどシャーロットさんとの時、実は突きも混ぜていたとかあるだろうか。
もう今日で隙とか癖を見るなんて考えるのはやめだ。
今は自分にあったやり方を探す。それが優先だ。そして少しでも焦らせるんだ。それが今の目標。
目標は達成できなかったよ……
ギルド長の代理さんが1時間経ったことを知らせてくれたけど、この1時間進展はなし。
「ほら、あんたには剣なんて向いてないのよ。才能ないし」
「突きを混ぜてから、少しは、良くなったと、思ったんですけど……」
相変わらずひどい言葉だ。容赦なく責めてくる。遠回しなんて一切なくストレートに剣はやめろと言ってくる。
地面が冷たくて気持ちいい。
息切れするほど疲れているからか、本当に横になるのが気持ちいい。もうここで寝たい。
「一太刀入れるだけでも普通は難しいことなのよ。ましてや魔物と白兵戦なんて、諦めたほうが遥かにいいわ」
「……近づくのは、危ないですもんねぇ」
アーマンの宿に戻らないといけないけど、もう少しだけここで身体を休める。
だいぶ呼吸が落ち着きつつある。
「ところで」
「何? 上達するコツなんてないわよ。あんたに何教えても無駄みたいだし」
「違います違います。ちょっと聞きたいことがあって」
「何よ。明日の出発を遅らせててもいいかとかならひっぱたくから」
たしかに遅らせたいけどそこまで自分勝手じゃない。
「クラーケンの時、なんであんなに自分の血を主張したのかなって」
「そんなこと?」
今更な質問だとはわかっている。だけど気になったのだ。
あのときはヴィクトリアさんもいたことだし、家族を見返す手始めとして、自分の手柄をアピールだと考えたりした。だけどよくよく考えればおかしいのだ。この人の目的は見返すこと。そして継承権を取り返すこと。魔物を引き寄せる血なんて、見返すどころかより継承権が遠ざかりかねない。
継承権なんて要らなくて、見返すことしか考えていないという可能性もあるにはある。だけど別の要素も思い浮かんでしまった。
「なんだっていいじゃない。結局あんたの血も、私の血も必要なかったし」
「教えてほしいですよ。気になって眠れません」
「熟睡のプロが何言ってんのよ。もう忘れたわ」
やっぱり素直に教えてはくれないか。
「じゃあ推測で話しますね。合ってたら教えてください」
「はぁ?」
「ゴーレムが血に対して無差別に反応すると思わせたかった、じゃないですか」
ゴーレムが反応した相手は、僕の血、推定人魚、クラーケンだ。
それ以外に対して反応することがなかった。人魚は置いておくとして、ここで問題なのはクラーケンに反応したこと。
ゴーレムの判定だと、クラーケンと僕は同じものになってしまうのだ。どちらも潰さないといけないものだと。
「ゴーレムが僕の血にだけ反応する場合、僕はクラーケンと同じ判定です。僕はここだと、出自不明の存在で、そんな怪しい立場の人間がクラーケンと同じ判定だと、周囲の目は変わっちゃいますよね」
さすがにクラーケンと同じ危険性とは認識されないだろうけど。
でも警戒、嫌悪などは考えられる。自身と異なる者、理解できない者を受け入れるのは難しい話だ。ましてや人間と敵対する存在。そんなのと良好な関係を結べる者なんて普通はいない。
「だけどゴーレム判定が人間の血なら何でもいいのであれば、そういった変化は避けられます。そういう思惑からあの時自分の血を主張してたのかなって」
「おおむね合ってるわ。同じギルドの人間が、変な目で見られてたら私まで同じ扱いを受けかねないもの」
ああ、そうなるのか。
でもそれ、正直苦しい。その言い分は苦しい。
だいたいペイルホースに入ってた人なんだ。
境遇がマイナス状態は望むタイプなのに。自分の偉業を目立たせるために、メンバーは弱いほうがいいとか言っちゃう人だ。魔物を引き寄せる、ゴーレムから敵判定を受ける存在なんて、この人が求める条件として嬉しいものだろう。
これってあれか。ツンデレか。
そう考えると、やたら才能がないないと言ってくる理由がわかる要素も出てくる。
本当に才能がないなら、訓練なんて今回きりで必要ない。希望的観測なだけかもだけど。本当に才能がないのかもしれないけどだ。
わざわざ訓練をつけてくれる。しかも何気にちょくちょくアドバイスがある。諦めさせたいのは本当だろうけど、その理由は怪我をさせないためとかだろう。
人に戦うなとやたらいうのも、守るためとかだろうか。それは考え過ぎかな。でもそういうことができる自信と強さはあるわけだ。
まあ、やり方や言動は全く褒められたものじゃないけども。
「あれですね」
「何よ。いい加減宿に戻るわよ」
「今日は、ありがとうございます。わかりづらいけど、優しさがわかりましたし、この訓練やってよかったです。またお願いします」
うわ、ものすごい奇妙なものを見る目だ。
そんなに変なことを言ったわけじゃないのに。
『ヴィクトリアさまもシャーロットさまも、文武共に優れておられますね。国の未来は安泰でしょう』
まだ背も伸びきっていない子供ではあったけど、褒められていることはわかった。
こうした言葉は良く聞いた。世辞かもしれなかったけど、嬉しく思えた。
だけど、不満は常にあった。
その日の剣術稽古、初めて兵士長から一本を取れた。
試合形式ではない稽古。それでも初めて一本取ることができた。
『聞いたぞシャーロット。あの無愛想な兵士長から一本取ったそうだな。さすがは我が娘だ』
取るまでに何本も取られているようなものだったけど、父は褒めてくれた。
褒められたことが初めてではない。
だけど、私だけを褒めてくれたのは初めてだった。それが嬉しくて、だからこそ剣術稽古が楽しみになった。
次も褒められたい。
次も一本を取って、褒められたい。
『また兵士長から取ったそうだな。あいつめ、悔しがっておったぞ。さすがは我が娘だ』
先日より兵士長の剣は確実に速かった。だけどその日も一本を取ることができた。
その結果、父が笑いながら褒めてくれる。私だけを褒めてくれる。その喜びは際限を知らず、更なる喜びを求めた。
何本も取られたけど、一本取ってこんなに褒められるんだ。
じゃあ取られることなく、同じことすればもっと褒めてくれるはず。
完膚なきまでに、勝つことができればもっと。
そんな考えが稽古に熱中させた。
他の習い事をサボり、模造剣を振り回す。
『ヴィクトリアさまは真面目に講義を聞いてくれるのですが、申し上げにくいのですが、シャーロットさまはあまり集中力がなく……』
『また抜け出したのか』
父と目つけ役の話。
いつしか姉のヴィクトリアとまとめて褒められる日はなくなっていた。
だけどそれがまた嬉しかった。同じように扱われるのは嫌だった。
『だがまだ子供だ。勉強が嫌いなど珍しくもないだろう』
『ですが王族としての自覚をお持ちでないのは問題かと……』
『遊びに行くわけでなく、剣を励んでいるのだ。民を導くための力を得る。この国の王族として十分ではないか』
王家は力を示すという国是が、そんな子供を肯定的に捉えていた。
力があればさらに褒められると考えるには十分だった。
そして、ついに兵士長を完膚なきまでに負かすことができた。
『……まさかこれほどとはな』
その日の稽古は父が見に来てくれていた。
すぐに褒めてもらえると思い、父の元へと駆け寄った。だけど父の瞳には、勝者ではなく倒れている兵士長を見ていた。
『父さま?』
『……シャーロット。強くなったな』
『はい!』
想定していたよりも、喜びの少ない褒め方だった。
『父さま。剣術の先生、もっと強い人にしてください。もう練習にもなりません』
『……』
兵士長からこれ以上得る物はないと、感覚でわかった。もうどのように勝ったところで褒められないとも、直感的にわかった。だから先生を変えてほしいと望んだ。
『……このところ、お前が勉強をサボっていると聞いている。しばらく剣術は禁止だ』
しばらく、という期間は非常に長く感じられた。
剣術稽古が禁止されて数年。
それまでの間、せいぜい同年代とのチャンバラごっこ程度しか許されなかった。
そんな退屈で仕方がない日々、森に凶暴な魔物がいるという話を聞いた。
近隣への被害を鑑みて、王家の騎士団直々に討伐へと向かう流れとなった。
討伐はつつがなく終わり、騎士団が戻ってきた日のことだった。
中庭で騎士団団長が独り、鬼気迫る表情で剣を振っていたのだ。
『おや、シャーロットさま』
団長が見られていることに気づき、柔らかな表情へと変わった。
『討伐が終わったその日でも鍛錬をするのね』
『ええ。もうじき剣術大会がありますから。それに、私はまだまだ未熟ですゆえ』
『もう十分な歳じゃない』
『ええ。もう老いて衰えてしまいました。今日の討伐、一歩違えば私は命を落としていた場面があったのです』
『ひょっとして怖かった?』
『もちろんですとも。誰だって死は怖ろしい。私とて例外ではありません……ですが私は騎士団を率いる身です。たとえ恐怖を感じようと、何に対しても屈してはならない立場なのですよ。ああ、今の弱音はどうかご内密にお願いします』
その話を聞いて、自身のやるべきことを考えた。
騎士団とて、騎士団の団長といえど、この国の民なのだ。王家は民に力を示さねばならない。力を示し、民を導く。それがこの国の国是。
目の前にいるこの民は今日、魔物相手に死ぬかもしれない恐怖を感じた。
そして団長を続けている限り、今後も同じ場面に合うだろうことは想像に容易かった。
だから辞めさせることにした。
剣術大会の決勝戦が終わり、優勝者と自身を戦わせた。優勝者は団長だった。
父には渋られたが、これまで剣術の稽古を我慢していたために許されたのか。それとも伸びきった鼻をへし折られることを期待していたのか、許可をもらえた。
久しぶりの、父の見ている前での手合わせ。
以前、兵士長を相手にしたときはたいして褒められなかった。あの時以上の勝利を得なくてはならない。さらには団長も辞めさせてあげるべきだ。
複数の点が、ひとつの結論を出した。
剣も使うことなく勝つ。
それならば、あの時以上の勝利をし、民には自身の力を示せるし、団長の弱さまでも示せる。
妙案だと思えた。実行こそ難しいが、自分ならばできるとも思えた。
試合が終わると、迎えた言葉は予想通りのものは何一つなく。
『何故剣を持たずに試合に臨んだ』
ひっくり返すことができないほどの力の差を見せるためだ。
民に力を示すためだ。
この国の国是は、民に力を示すことではないか。
『どうしてあんなことをした』
あの民が戦うことに恐怖を感じていたから。
戦いから遠ざけさせなくてはならなかった。
どうして弱い民を団長にした。
『お前に導かれたいと望む民など一人もいない。シャーロットの継承権を永久剥奪する』
どうして怒っているんだ。
私は国是に従ったのに。力を示したのに。民を守ったのに。
どうしてわかってくれない。
どうして、褒めてくれない。
「今日はありがとうございます。わかりづらいけど、優しさがわかりましたし、この訓練やってよかったです。またお願いします」
どうして、今になってそんな言葉が聞けるのか。
「……」
「痛い!? 何故今叩いたんです!?」
「なんか、むかついたから」
叩いた理由なんて、きっとそれだけだ。
この人の価値観を決める過去回想を入れる機会がもうこの先なかったので、慌てていれた次第です。
というわけでシャーロットさんから見た過去話でした。
致命的なまでに口が悪い馬鹿です。あ、間違えた。優しい……ですよ……? たぶん。
これまでの彼女の行動はそういったモノを致命的な馬鹿な発言でわかりにくくしながらも、根底には自分が前線に立つことで守ろうとしているみたいな感じで書いてたつもりです。
表現できてない? いいんだよ隠してたから!
そのため基本的に他者から戦いを取り上げます。「私戦うから下がってろ。余計なことして敵意を集めるな」みたいな。
なお最近は勝率が微妙だったり、周囲の活躍を見て、自信を少しなくしかけている模様。