とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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43.ジュカイノショウジョ

 

 

 

 

「試練頑張るぞ!」

「お、おー……」

「おぉ……」

「……」

 

 垂水ノ樹海に入口。石像の前で4人。

 今の掛け合いに、アガタが非常に不満を持った。

 

「全員声が小せぇ! もっとやる気だしてくれよ!」

「いや、そういうノリ苦手で……」

「アタシも……」

「もう行かない?」

「オレたち協力関係なんだよな!?」

 

 騒ぐアガタを流しつつ、垂水ノ樹海、いつもの遺跡の中へと入ることに。

 今日は探索ではなくナルメルの討伐が目的だ。深都の発見よりわかりやすい目標。

 

「またカナエには索敵をお願い」

「はい、任せてください」

 

 昨日と同じで敵を先に発見、気づかれないように近づいて仕留める。という流れだ。

 とてもスムーズな行程だけど、問題がひとつ。僕何もしてないという点がある。何故かエラそうに指示だけ出している状態だ。

 さすがにそんな状態のままじゃ気まずいので、せめてもとナルメルについて考えよう。

 

 ナルメルについてわかっていることはオオナマズの魔物。

 元老院いわく、暴れて遺跡を破壊する迷惑もの。

 ネローナさんとアーウラさんの感想は、すごく汚れたとのこと。

 

 昨日はこれぐらいしかわからないと思ったが、よくよく考えてみると他にも気づく点があった。

 

 樹海の中で何度も起きた地震と試練の期限だ。

 たしかカナエが言うには、僕とシャーロットさんが樹海に入る一日前から起きだしたもの。3日前からのものだ。

 そして試練の期限は残り3日。元老院が言うには、ナルメルを抑えておくのはせいぜい6日が限度とのこと。地震の始まりと試練の期限カウントが重なっている。

 この2つの点から、地震となんらかの関係がある魔物だとわかる。

 

「……地震を起こす魔物ってどんな姿なのか」

「急に何ぼやいてんのよ」

「ああ、ナルメルについてです。たぶん地震を起こす魔物です。どういう姿なのか想像がつかなくて……」

「どんなのが来ても倒すのには変わらないじゃない」

「倒す過程が大きく変わると思うんですけど」

 

 まぁ考え過ぎても仕方ないか。

 この樹海の構造、突然遺跡にできた大きな縦穴なんだ。案外揺れやすいだけなのかもしれない。崩れやすいとも言う。それなりの大きさの魔物なら、揺らすことは簡単かもしれない。

 

「前の川の中に、魔物が3匹います。あまり水辺に近づいちゃダメです」

 

 川の中に潜む魔物もわかるのか。占星術が万能すぎる。

 何故か魚類の魔物も空を普通に泳いでいるせいで、水の中にはいないと思いかけていた。ヘンテコな偏見だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日と同じく地下4階まで辿りつけば、同じくコスプレイヤーもといクジュラショーグン。

 休まずずっとここにいたんだろうか?

 

「元老院から試練について聞いてきたか?」

「はい、ナルメルの退治だと」

 

 頷いて肯定するショーグン。そして背嚢から羊皮紙を1枚出して渡した。

 

「ナルメルのいる部屋の前に衛士がいる。そいつらにこの紙を見せろ」

「あ、2枚もらえません? 僕たち2ギルドなので」

 

 たぶんこれ、受験票みたいなものだろうし。

 ショーグンはあっさりもう1枚も渡してくれた。

 

「聞いているかもしれないが、試練の期限が過ぎれば俺がナルメルを討つことになっている……。お前たちが試練を攻略できれば別だがな」

「だったらあんたの仕事はないわ」

「だといいがな。そう言って何人も散っていった。精々注意して戦うことだ」

 

 そう告げてクジュラショーグンは道をあけた。

 このショーグンは試練を見るわけではないようだ。期間中ここで通行止めする役目なのだろう。退屈とか感じないのだろうか。

 

「やっぱり怖いですね、あの人……」

 

 通してもらってからしばらくして、カナエが恐る恐る呟いた。

 

「ショーグン?」

「はい……」

「ま、性格が悪そうだものね」

「あと目つきが悪いよなー」

「そ、そういうのじゃなくて、なんていうか、雰囲気みたいなのが……」

 

 ショーグン、酷い言われようだ。

 性格、目つき、雰囲気が悪いと言われるなんてかわいそう。そういえば占星術でも魔物っぽいと判断されちゃってたんだっけ。

 

「この試練が終わったら関わることなんてないだろ。あの将軍のことは忘れて試練に集中しようぜ!」

「う、うん……」

 

 この試練が終わってもまだ試練がある可能性とか……ないか。さすがにそれはくどすぎる。

 カナエは切り替えて周辺を探り、北東を指さした。

 

「この方角に、人が複数います。たぶん兵士です」

「他の冒険者って可能性は?」

「移動しないのでその可能性は低いと思います」

「それじゃそこを目指して行きますか」

 

 目指すべき方角がわかったことだし、これまでとやることは全く変わらない。先に魔物に気づいたら避ける、もしくは気づかれないように倒す。これだけだ。

 

 魔物の居場所は様々なもので、壁にへばりついているウミウシもいれば、水中や空を泳ぐ魚の群れ、穴で休んでいる大蛇もいた。ウミウシの触覚を嬉しそうに回収していたカナエはよくわからない。

 

 多種多様ではあるけど、当然上の階でも見た魔物も混ざっている。だけど、上の魔物と同じ種類も、気のせいかもしれないがやけに好戦的だ。

 かみつき魚は離れていたら問題なかったが、この階では遠くからでもこちらに気づくと積極的に襲ってくる。群れの中にいるから強気で動いているだけかもしれないが。

 

 今のところは魔物の素材も手に入るし、問題なく対処できているしと、特段困ってはいない。しいてあげれば一つ。

 カエルの魔物の素材を回収しようとした時のことだ。

 

「……え、舌なの?」

「舌です。この魔物は舌が一番高値だと聞きました」

「そっか、舌なんだ……」

「どうしたんだよ、さっきから」

「なんでもない。うん、なんでもない」

 

 カエルの舌を取るために解体だ。何も気にせず解体だ。

 

「よく伸びるなーこれ。ちょっとおもしれー」

「……ねえ、これって昨日あんたが食べた────」

「違います」

「でもこの」

「違います」

 

 そんなわけないじゃないか。あれは別の舌だ。

 カエルの舌なわけがない。たまたま似ているだけだ。

 

 といった具合に、ちょっとした勘違いが起きかけたことがあった。

 とにかく今のところ困ったことはこれぐらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿の縄張りを越えた先、野営の痕跡があるちょっとした広間を見つけたのでそこでテントを張ることにした。

 魔物との戦闘は全く問題がなかったが、さすがに体力の消耗もある。

 すでに時間は夜。ここで一泊しても期限には余裕があるし、今のところ兵の一団とこの階の入口を見張るショーグン以外に人間はいないらしい。だから焦らなくてもいいわけで。

 

「何かあったらすぐに叩き起こしなさいよ」

 

 そんな言葉を残してシャーロットさんもテントに入る。アガタとカナエも今は寝ている。

 見張りは前回と同じく二人で、となりかけたが断った。

 結局ここまで僕、何もしてないし。見張りも誰かとやったらその人に負担を掛け過ぎてしまう。

 それにもう以前のような失敗は繰り返さない。この樹海で人間に近づく獣は全部魔物だとよくわかった。

 普通の獣もいないことはないが、だいたい同種族以外の姿を見たらすぐに逃げるか姿を隠す。人懐っこい動物などこの時代にはきっといないのだ。

 

 相変わらず地面が時折揺れる。さすがにそろそろ慣れてきたので慌てることはない。自然現象として見れば異常な頻度だけど、魔物による作為的なものだと考えれば頻度は控え目だ。

 

 このまま時折聞こえる地響きと、川のせせらぎをゆったり聞いているのもいいが、そのまま退屈のあまり眠ってしまいかねない。

 というわけで今日の成果を見直すことに。といってもほとんど魔物の素材だけど、ひとつだけ違う物がある。

 魔物の素材のだいたいはムロツミと分け合ったが、ウミウシの素材はカナエがひどく欲しがっていたので全て譲ったのだ。するとお礼代わりにと、1枚起動符をもらえたのだ。すごくうれしい。

 

 そんなわけで起動符を取りだす。使いはしない。

 手に持ってじっくり見ると意外に厚みがあった。といってもせいぜい数ミリ程度。

 

「意外に丈夫……」

 

 単純に力を入れて引っ張っても破れない。絞っても畳んでも皺がついたりしない。効果を出すだけなら符の裏、まんなか辺りを強く擦ればいいそうだけど……符の効力を十全に発揮するには色々と理解しなくてはいけないらしい。

 

 擦り方を変える、なんて単純な違いはないだろう。効果発揮時に何かするとか? その場合符を使わないと何も調べられない。もらったのは1枚だけだから気軽に試すわけにもいかない。

 

 ううむ、と頭を捻っていた時。

 

 

「こんばんは」

 

 

 明るく響く女性の声が耳元で聞こえた。

 

「おわぁ!?」

「驚かせてしまったみたいですね。すみません」

「い、いえ、大丈夫です。オランピアさん」

 

 口では謝っているが、言ってる本人は全く申し訳なさそうにはしていない。

 

 真後ろに立って声を掛けてきた人物は、僕がペイルホースに所属していたころに出会ったオランピアさんだった。

 

「いつの間にいたんですか……」

「少し前からです。集中力があるのはいいですが、ここは樹海ですよ。いつ魔物が来るかわからないのですから気をつけた方がいいですよ」

「返す言葉もありません……」

 

 かなり起動符の仕組みに集中していたことを思い知らされる。まさかこんな近くに来るまでオランピアさんの存在に気づけないとは。これが魔物だったら今頃悲鳴も上げることができずに死んでいたかもしれない。

 

「それにしても、お久しぶりです」

「お久しぶりです。ミゼルさん。ペイルホースを脱退したようですね」

「まぁ、そうですね……」

「彼らはとても慎重ですから、仕方がないかもしれませんね」

 

 まるで世間話のようにオランピアさんは話す。

 武装がない彼女の恰好も相まって、ここが樹海の中ではないと勘違いしそうになるような気安い口調。まぁローブで装備が見えないだけで、何かしら持っているとは思うけど。

 

「オランピアさんは……あ、ひょっとして、オランピアさんも試練ですか?」

「はい? 試練、ですか?」

「あ、違いましたか」

 

 この階にいるということから彼女もナルメル試練を受けるのかと思ったのに。まだ試練の存在を知らないのかもしれない。

 いや、それだとクジュラショーグンの足止めを受けているか……ひょっとしてすでに合格組……?

 

「あの、ナルメル……ナマズの試練なんですけど」

「……魔魚ナルメルですね。そうですか。あの魔物を討伐する試練ですね」

「あ、やっぱり知ってましたか」

 

 知ってるということは合格組か。

 この人の力が底知れない。ひとり旅で試練も合格済みってなんだ。前も毒蜥蜴に追われていた時は疲れた様子を見せなかったし、その小柄なローブの下はムキムキなんだろうか。

 

「ミゼルさんは試練を受けに来たのですね」

「はい、ここで一度休憩を取ってから……おおっ?」

 

 喋っている最中にまた揺れた。

 特に転んだりすることはないし、慌てることもない。オランピアさんも同じように平然としていた。

 

「ナルメル、暴れてますね」

「やっぱりこの地震、ナルメルなんですねぇ……」

「ミゼルさん。ナルメルは何故暴れるのか、考えたことはありますか?」

「へ?」

 

 ナルメルが暴れる理由? 考えたことがあるか?

 

 そんなのあるわけがない。そもそもナルメルがどんな魔物なのかまだ全然わかってないのに、行動理由なんてさっぱりだ。たしか遺跡を破壊してまわるって話は元老院から聞いたような気はするけど、その理由は聞いていない。

 

 うーん、ストレートに考えたことありません、と答えるのもなぁ。

 

 そんな風に考えている間に、時間切れと見なされたのかオランピアさんが口を開いた。

 

「ありませんよね」

「す、すみません。試練のことしか考えてなかったので……」

「責めてるわけじゃないですよ」

 

 くすくす笑いながら言うが、責められている気分にしかなれなかったよ。

 やがて笑い声がなくなり、オランピアさんはその場に座り込んだ。

 

「ナルメルは人間を見つけても逃げるんです」

「はぁ」

 

 今度はナルメルの性質について?

 話の方向性がイマイチ見えない。

 

「目的があるのか、人間は襲わずにこの遺跡を破壊します」

「人間を襲わないってのはともかく、遺跡を破壊するっていうのは元老院でも聞きました」

「ですが理由は聞いていないんですね」

「まあ……考えてもいなかったです」

 

 遺跡を破壊する理由。巣作りとか? 自分の生態にあった環境を作るために、とかじゃないのだろうか。

 それより人間を見つけても逃げる、という情報が気になり過ぎる。つまり試練は逃げるナルメルを追いかけて、追い詰めて、そして倒すということでは?

 

「あたしの推測ですが」

 

 オランピアさんはそう前置きをして、ナルメルの行動理由を話しだした。

 

「ナルメルは、深層への道を閉ざすために遺跡を破壊しようとしている」

 

 巣作りとかじゃなくて、いきなりすごい推測が飛んできた。

 

 魔物の知能についてはよく知らないけど、その予想は突拍子が過ぎる。というか被害妄想が入ってる気がする。深層への道を閉ざす、なんて理由じゃただ人間への嫌がらせがしたいってことではないか。

 

 なんて言えばいいか悩んでいる間にもオランピアさんの話は続く。

 

「人間には感知できない何かを深い地の底に感じ取り、それが人間の目につかないように、そして表へ出ないように道を閉ざしたのではないか。そうやって人間を守っているのではないか」

「……」

「納得していないですね」

 

 いや、だってあまりにも具体性がないというか、明確化されていないというか。

 オランピアさんって案外架空の物語に大ハマりしているタイプなのかな。読んで楽しむ分はいいけど現実にまで当てはめようとするのはいかがなものか。

 

「ナルメルは他の魔物と異なり、人間を積極的に襲ったりはしないんです。攻撃された際は別ですが」

「そうだとしても、人間を守るためっていうのはいささか難しいかなと……」

 

 できる限りやんわりと否定する。

 しかし推測を否定されても、オランピアさんは特に気にしたそぶりもなく「そうですか」とにっこり笑って答えた。

 

「変なお話を聞かせてすみません。考えてみたら、あなたたちはこれから試練でナルメルを倒すのですから。ナルメルについての話なんて聞かされても困るだけですよね」

 

 ……怒ってる?

 表情も口ぶりも、穏やかなものだけど、なんとなく怒っているのではと不安になってしまう。

 やや気まずい空気になるのでは、と危惧した時、助け人がやってきた。というか起きてきた。

 

「……あれ? 誰かいるんですか?」

「あ、カナエ。起こしちゃった?」

 

 話し声がうるさかっただろうか。

 カナエが眠たげに目をこすりながら、よろよろとテントから出てきた。

 

「……」

「オランピアさんがここに。ちょっと話し込んじゃったんだ」

「え、あ、やだアタシ、誰もいないと思って……!」

 

 誰もいなかったら僕は独り言を結構な声量で言ってた寂しい人になっちゃうよ。

 

 オランピアさんに与える第一印象をいいものにしようとしてか、髪を手櫛で整えたカナエが慌てながらシャキッと立ち上がった。だけどもう遅いと思う。

 

「……初めまして、カナエさん。オランピアです」

「は、はじめまして。ムロツミのカナエです」

 

 オランピアさんは微笑みを浮かべ、カナエもつられるようにはにかみ、そして首をかしげた。

 

「……どうかされましたか?」

「い、いえ。どこかで会った気がして……」

「おそらく海都ですれ違ったのでしょう」

「あ、そ、そっか……すみませんっ」

 

 まぁずっと樹海にいるわけないだろうし、アーモロードのどこかですれ違ったりしてても全然おかしくない。だけどカナエはまだ少し納得がいってないようだった。

 

「ミゼルさん。妙な話を聞かせてしまってすみません。試練、頑張ってください」

「休んでいかないんですか?」

 

 オランピアさんが出発するような発言。

 座ってから10分程度しか経ってない。もうどこかへ行くというのか。

 

「薬草の採取に来ただけですので。それでは失礼しますね」

 

 止める間もなくいっちゃった。

 

「もしかしてアタシ、何か怒らせたでしょうか……?」

「い、いや。僕の方が怒らせた可能性が結構ある……」

「……」

「……」

 

 

 今度会った時に謝った方がいいかなぁ。

 

 

 

 




 

オランピア再登場回。
彼女の視点ではミゼルさんと会うのは2週間ぶりですね。倒したFOE復活しちゃう。

ということで、久々登場なのでここに紹介。

オランピア
原作で立ち絵をもつNPC。
樹海でよく手助けしてくれるとか。あと賛否両論キャラ。
このお話では、やっぱり樹海で手助けをしてくれているとか。

なおナルメルの説明はオランピアさんの主観によるものです。


本当に人間を襲わないのでござるかぁ?
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