とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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45.試練の結末

 

 

 

 

「くそっ、ふざけやがって!」

「ま、まだ下にいる……!」

 

 ムロツミの怒声が聞こえる。

 

「相手にしてる暇なんてないってのに……! しっつこい!」

 

 シャーロットさんの苛立った声が聞こえる。

 虫が顎を噛み鳴らす音が聞こえる。

 

「また揺れて……!」

 

 ナルメルの起こす地響きの音がすべてを覆う。

 

 ナルメルが地面に潜ってから、一気に劣勢へと変わってしまった。

 突如乱入してきた魔物に対応を追われ、なおかつ地面を揺らし体勢を整えさせない搦め手。

 

 事前にわかっていれば対策は容易だった。ナルメルを潜らせないようにするだけでいいのだから。だけど情報は秘匿されていた。試練のために。

 この状況を覆す力量がなければこの先やってられないとでも元老院は考えているのか。

 

「うわっ!?」

「ちぃ!」

 

 虫の爪を避けながら、シャーロットさんが蹴りつけた。追撃はせずすぐに僕の腕を掴み引っ張りながら走る。見れば左右からも虫が迫っていた。

 

「た、助かりました」

「まだ、助かってないけどねっ!」

 

 近くまで来た虫に彼女は剣を振るう。だが斬ることはできず、硬質な音を立てる。

 

「剣で駄目なら!」

 

 盾を振りかぶる。

 剣で駄目なら盾で殴る。単純な発想だけど悪くはない。硬いものには打撃で響かせるのが有効なはずだ。

 

「くっ……!」

 

 盾で殴ったはいいものの、間一髪だ。

 虫が盾を爪で掴もうとしていた。

 

 地面の揺れがまた起きる。虫の動きは速くないが、ヤツらは揺れをものともしていない。

 硬さはあるが動きの遅い虫。コイツだけならどれほど楽か。

 

「……やっぱりナルメルを先になんとかしないと」

 

 カナエの言葉通りなら、まだまだ虫はいる。この状況下では1匹相手でも手こずるのだ。ならば先に、こちらの妨害をしてくるナルメルをどうにかしなくてはいけない。

 ナルメルの位置は……さっきと変わらない。あの泡が出ている場所。

 銃弾を連続で撃ちこむ。だけど出てこない。また揺れが起きる。

 

「あの魚……!」

「あんた、まだ盾持ってる?」

「え? はい?」

「盾!」

「あ、はい! 2つ! 鞄の中に!」

 

 円形の盾。結局使ってないやつ。それは鞄の中だが、この戦いが始まった時に置いたので虫の向こうだ。

 それを聞いたシャーロットさんは自身の盾を外した。

 

「何を?」

「回収した後、ナルメルを斬る。それまで耐えなさい」

「あ、はい。じゃなくて盾を外す意味は!?」

「あのチビを参考にね」

「答えになってなくない!?」

 

 あのチビってアガタだろうけど、何を参考にしたら盾を外す発想に? 馬鹿なの? 馬鹿だった。

 

 アガタたちは、なんとか虫の攻撃を逃げ延びている。やっぱり身のこなしが高い組だ。だけど少しずつ、追い詰められているのがわかる。

 

「それじゃ行ってくるわ」

 

 少し買い物にでも、というようなノリで言われても。

 

 彼女は外した盾を迫る虫にぶつけ、盾の裏側から足を乗せて虫を踏み台にした。そのまま虫を越えて鞄へと向かって行く。

 何を企んでいるかわからないが、今は任せよう。僕は僕でこの状況を切り抜けないと。

 

 一番近い蟲を撃つ。当てる場所は何も考えず。その結果、胴体へとあった。だがやはり硬質な音が鳴るだけで、怯みもしない。

 効果は薄いと考えていたが、やっぱりだ。次は針を覗かせている口元に。すると僅かに身を縮こまらせた。

 

「よし、っとっとと!?」

 

 胴体の甲殻が異様に硬いみたいだ。

 口元、それとおそらく関節部分も甲殻に比べたら柔らかい。仕留め切れるほどではなかったが。だが場所が場所だけに、剣やナイフでは危険すぎる。爪で捕らえられてしまいかねない。

 

「カナエ! 虫の胴体は避けて、顔面に離れて攻撃を!」

「は、はい!」

 

 ムロツミ側にも虫への対処を教えておく。

 少しは状態がマシになってくれるはずだ。劣勢なのは変わっていないけども。

 それに起動符も数に限りがある。対応できる数を考えればそれほど長くは持たない。

 

 そんな考え事をしながら横目でムロツミを見れば、カナエの手に持つ物が起動符じゃないことに気づいた。

 

 ……あれ、たしかウミウシの触覚。

 

 ウミウシの触覚がカナエの手のひらから出る光を浴びて、形を崩していき、彼女の眼前に氷塊が形成される。

 起動符じゃなくても占星術が使える……?

 っと、今は向こうに注目している場合じゃないか。首元まで虫の爪が迫っていたので上体を逸らして避けながら銃を撃つ。今度は腹部狙い。首を狙ってくれたおかげで腹部が見えやすくなったからだ。

 

「……っ! またっ!!」

 

 地震がまた襲う。

 無理やりな体勢で銃を撃とうとしていたから、尻もちをついてしまった。おまけに銃弾も外れてしまう始末。

 さらに言えば、心なしか虫と目が合った気がした。

 

「──っぶな!」

 

 咄嗟に首を傾ければ、頬を掠めるように針が伸びた。ジュッ、と音が鳴った気がした。頬が痛い。

 そして左右から迫る爪。拘束しようとする気持ちがすごく伝わる。

 このまま掴まれてたまるかと、爪に向かって手を伸ばす。肉に虫の爪が食い込んでいく。これでは、ガードというにはお粗末だ。何せ結局は拘束されているのと同じ。それに、向こうには針があるのだから。

 

 途端、地面が再び大きく揺れる。

 今度は今まで以上に、そして粘りのある水音を大きく立てながら。

 

 原因はすぐにわかった。倒れながら見る虫の背後に、ナルメルの姿があったから。

 

 泥の中から、出てきた……? シャーロットさんがどうにかした?

 

「なっ……! まさかまた!?」

 

 いや、シャーロットさんではない。彼女の焦る声が聞こえた。

 ということは、彼女にとっても想定外の動き。ナルメルが自発的に出てきたということか。

 

 ……ていうかナルメルのやつ、こっち向かってない?

 

 宙を泳ぎ迫るナルメルの姿、それが今まで見てきた特定の魔物の姿とダブる。

 

 絶対これ、血で釣られたわ。

 頬の地味な痛み、腕に食い込む爪。どちらからも出血しているせいだ。どうやら僕の血はナルメルにも効果があるらしい。

 

 しかし、これは非常にまずい。虫は僕を拘束している。ナルメルは迫ってくる。

 シャーロットさんは遠い。ムロツミは目の前の虫たちの対応でいっぱい。兵士たちは事前に言っていた通り、助けに来ることはない。

 今までの魔物の様子からして、この血に釣られた奴らは何がなんでも殺しにかかってくる。虫の魔物に気を使って攻撃の手を緩める、なんて期待をしてもダメだろう。

 

 せめて虫をどうにかしないと。ほんとにこれ、死んじゃう。虫を……こいつ、離れる気がしない!

 

 繝舌う繝ウ繝ゥ繝?す繝・

 

「……は?」

 

 何が起きたか理解できない。

 

 突然、拘束していた虫がバラバラになった。

 

 視界の左右から、青い蔦のようなものが見えたと思ったら虫が解体された。

 

 今のはカナエの占星術? いや、全く異なる感覚だ。

 

 だが先の現象について考えている暇はない。ナルメルが迫っていることに変わりはないのだから。

 立ち上がり、迫るナルメルの動きをよく見る。どういう攻撃で来るかはわからない。単純な体当たりかもしれないし、また泥をぶつけてくるかもしれない。何が来ても対応できるように冷静に見なくては。

 ナルメルは泳ぎ迫りながら、大きく頭部を振り回した。

 

 頭突き……? いや、これは……髭!

 

 2本の髭が鞭のように迫りくる。

 

 大きさに惑わされるな。ただの2本の髭。軌道だって頭部の振りですぐ読める。

 この軌道なら、しゃがめば躱せる。

 

 頭上で起きる風切り音。あの髭、発光しているから電気でも出すのかと予想していたのに、思いっきり物理攻撃だ。それもかなり鋭い。

 今のは最初に距離が空いていたからなんとか凌げたが、そう何度も続く気がしない。

 

「ほんといっつもいつも……! 無視ばっかり!」

 

 シャーロットさんの怒声が泥水を蹴る音と共に聞こえた。

 援護が来るのなら、もうひと踏ん張り耐えよう。ちらりと見えたが、彼女との距離はまだ大きい。ヤツの注意は完全に僕へと重点を置かれている。背後から迫る刃など気にしていない。シャーロットさんが来るまで耐えればいい。

 

 ナルメルはその場で回転するように身体を捻る。その際に迫るのはヒレと尾。

 

「お、おおお?」

 

 ヒレが届く前に、ナルメルの身体に電撃が襲う。

 

「今のが最後の雷術です!」

 

 カナエの起動符。

 助かった。だけど虫の対処は大丈夫なのか。

 

「虫は!」

 

 確認するより速く、ナルメルの動きが見えた。

 尾を振り上げる姿。また跳び上がる気だ。

 

「だからやらせねーっての!」

 

 またもアガタが尾に跳びつき、ナイフを地面へと投げ刺した。本数は、見えた範囲では4本。

 

「揺れなきゃ虫ぐらいどうってことないぜ! それよりコイツだ! ここは真ん中より床が固いからな! 今度は簡単には抜けね──あっ」

 

 アガタの自信満々な台詞に反して、すべてのナイフがあっさりと抜けた。

 だけどナルメルの跳び上がりを妨げることができた。シャーロットさんの距離はまだある。ヤツは抜く動作のために弓ぞりに剃る身体。今なら目を撃てるはずだ。

 

「っ! 髭、来る!」

「お、おお!」

 

 ナルメルはそのままの姿勢から、頭部を振り回してきた。巻き込まれかねない位置にいるアガタに短く注意をする。

 さっきより不規則な髭の動き。顔を首を守るように両腕を前に出した。腕ごと身体を持っていかれそうになる衝撃が襲う。

 

 馬鹿痛い。

 痛みのあまり銃を持っている感覚が消し飛んだ。落としてもおかしくない痛みだ。

 

 ナルメルの目は未だ敵意に満ちている。手加減一切なく、追撃が来る。

 

 次の痛みを覚悟していた時、

 

「アガタ、これ普通に沈むんだけど。おかげで余計時間かかったわ。まあでも」

 

 シャーロットさんの声が、ナルメルの頭上から聞こえた。

 両腕でサーベル状の剣を持ち、その切先はナルメルの脳天。

 

 頭上の異物を振り下ろそうとしてか、ナルメルが身体をくねり揺らす。

 そのタイミングを読み切っていた彼女は小さくジャンプした。やたらとガニ股で。

 

 てか何あの足。

 なんであの人、盾を足裏につけてんの。え、あれってひょっとしてアガタの水蜘蛛……じゃなくて板かんじき? 参考にとか言ってたのってそれのこと?

 

 バッカじゃないの。

 

「時間稼ぎのおかげで助かった、わ!」

 

 脳筋はそう言い放ち、ジャンプから落ちる勢いのまま、刃をナルメルの頭部へ深く深く突き刺した。

 

 ナルメルは苦悶の雄叫びをあげる。

 頭を左右に振りながら、落ちゆく身体が少しでも地面から離そうとでもしているように、仰け反り……

 

 やがて力尽き、大きな音を立てて落ちた。

 

 

 巨体の落ちる音が耳奥で余韻となって残る。

 その余韻がじわじわと、ナルメルを討ったことに実感を与えてくれる。

 

 だが、それも長くは続かなかった。

 

 重く鈍い音が聞こえた。

 場所はすぐ近く。その音の方を見れば、カナエ。そして虫の魔物。

 

 まだ虫の魔物が残っている。

 かなり消耗したが、まだ続いているのだ。

 

「カナエ!」

 

 アガタの焦る声。

 それもそのはずだ。カナエに迫る虫の数が多い。3匹も。

 アガタは持ち前の速さでカナエの元へと走った。援護に行きたいが、

 

「こっちも……!」

 

 ナルメルがいなくなっても虫は変わらずとは。

 地震の援護がないため対応はしやすいが、ナルメルという巨体がいなくなったせいで群がりやすくなっているのかもしれない。迫る速度が先ほどより速い。

 応戦するために銃を構えようとして、痛みに視界が白ずむ。

 

 腕の感覚全然ない……!

 

 僕とシャーロットさんに迫る虫が攻撃を行う前に、炎がヤツらを呑みこんだ。

 

 今のは……

 

「急げ! 被害は出させるな!」

「へ、兵士……?」

 

 何故彼らが助けを。

 試練の最中は手だししないはずではないか。兵士たちは虫たちを対処していく。貴重な起動符をガンガン使っていく。

 

「ナルメルの討伐、お見事でした。あなた方の試練は終了です」

「え……」

「試練が終わったのであれば、我々も手だしを許されていますからね」

 

 あ、そういうことか。

 一気に身体の力が抜ける。試練の見張りだけでなく最後のケアもしてくれるわけか。

 

「すぐに治療を──」

「カナエェェ!!」

 

 兵士の言葉を遮るアガタの叫びが聞こえた。

 

 ムロツミの位置が、兵士たちのいた場所とは反対だったのがまずかった。

 

 アガタの異常な様子に周囲が驚き、その視線の先を見て理解した。

 カナエの足元から、虫が身体を覗かせている。カナエはそばの虫に対応を追われて気づいていない。

 

 次の瞬間にはカナエが刺し貫かれる光景が広がる。そう思った瞬間、アガタの火事場の馬鹿力か、これまでよりも遥かに早く、カナエの元まで駆けつけ、彼女を突き飛ばす。

 

「アガタ!?」

「間に、合っ──」

 

 安堵の言葉の最中、アガタの背を虫の針が貫いた。

 

「えっ……」

 

 アガタの腹から伸びる針に、カナエがあっけにとられる。

 

 遅れて、下手人の虫は兵士たちの炎に呑み込まれた。

 

「アガタ……なんで……アタシを庇って……?」

「鋏を用意しろ! 急げ! すぐに診療所まで運ぶぞ!」

 

 呆然とするカナエ。

 兵士の焦る声。

 血を吐くアガタ。

 

 試練を突破したというのに、安心はほど遠い状況。

 

「庇って……」

 

 兵士が焼けた虫の針を鋏で切ろうとする。このまま抜けば危険と判断して。適切な処置ができる場所まで、針はそのままにしておくため。

 その間もカナエが呆然としながら、庇うと言う言葉を何度も繰り返していた。

 

「またアタシ、庇われて…………また」

「へ、へへ。さっきのオレ……、すげぇ速かったよな」

「ア、アガタ! アタシのせいで、ひどい怪我……! 痛いよね、痛いよね……ごめん、ごめんなさい……!」

「オレ、稀代のシノビ、だぜ。こんな、の、痛くねぇよ。だから、謝んなよ」

「……アガタ」

 

 ようやく針が切れ、何人かの兵士たちがアガタを運んでいく。

 残った兵士は、

 

「みなさんもこちらへ! すぐにアーモロードへ戻りますよ!」

「は、はい」

 

 アガタを除く僕らの案内を買ってでてくれた。

 

「おい、笛を鳴らせ! 将軍にも試練終了を伝えるぞ!」

「了解!」

 

 兵士の吹く甲高い笛の音が樹海にこだまする。

 

 アーモロードへすぐに戻る道を案内されながら、僕たちはより地下へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試練を終えてから、5日後。

 

 アーモロードの診療所。

 アガタの容態は安定したらしい。だがしばらくは安静にするようにとのこと。腹部の怪我以外にも、泥の中傷だらけで戦ったことによる影響もあるらしい。

 まだ試練を終えたことについて、元老院へ報告してない。報告しに行くのであれば一緒にと考えてのことだ。別ギルドといえど協力関係を結んだのだから、試練が終わったのでさようならは非道に思えたから。

 

「でももうかなり元気そうだね」

「へへっ、まーな! それで今日は何持ってきたんだ?」 

 

 入院しているアガタのお見舞い。

 もはやいつも通りのうるさいアガタがそこにいた。

 

「バナナ」

「おいおい、もっといいもん持ってきてくれよ。他にもいっぱい果物とかあるだろ?」

「このチビ、死にかけの方が丁度いいんじゃない?」

「ひでぇ!」

 

 アガタはこの通り、すっかり元気だ。だけど反対にカナエは塞ぎ込んでいるのか、今も病室内に一緒にいるのに無言のままだ。

 

「……カナエ。このチビももう元気なんだし、いい加減沈むのやめたら?」

「そういうわけじゃなく……いえ、そうかもしれませんね……」

 

 かなり暗い。

 シャーロットさんが気遣うなんてことをしたのだし、僕もそういったことをしなくては。なにかいい話題はないものか。

 

「あまり気にしないでいいと思うよ。しばらく安静にしていたら元気に……すでになってるし。それより全員試練を突破したことを喜ぶべきだと、思う、よ?」

「なんでそこで断言できないのよ」

「も、もっと良い別の話題を探したいという気持ちが言葉にあふれて……」

 

 そもそも僕ら知り合って全然時間経ってないし、この病室以外だと樹海でしか一緒に過ごしてないし。

 共通で、別の話題なんてそう簡単に見つかるはずもなかった。

 

 もう黙り込んでおこう。黙る口実に……バナナでも食べてよう。

 

「え、それオレの見舞いの品じゃ……」

「あの……少し相談しても、いいですか……?」

「相談? 言うだけ言ってみなさい」

 

 カナエが相談……やっぱり最後の庇われたことに引け目を感じているとかだろうか。

 こういうのは人に話すだけでも案外スッキリすると聞く。バナナを食べてる僕は黙って聞く姿勢を見せた。

 

「オレのバナナ……」

「……アタシ、子供の頃に、父さまと樹海に来たことがあるんです」

「バナ……、カナエ、思いだしたのか!?」

「うん」

 

 アガタとのやり取りを見るに、記憶を失っていた?

 それと相談、どういう繋がりがあるのかまだ見えない。

 

 カナエの記憶が戻ったことに対し、アガタは嬉しそうに顔をほころばせる。反対にカナエは、沈んだ表情のままだ。

 

「父さまのギルドは、あの蒼い樹海まで進みました……」

 

 蒼い樹海と言われ、アガタだけが首を傾ける。

 アガタは兵士に運ばれている最中に意識を失ったため、見なかったのだろう。

 

 ナルメルとの試練の場よりも奥に、地下へと続く階段があった。

 その階段を降りた先には海の中を想わせる……いや、あれは海中だったのだろう。不思議な光景が広がっていた。兵士たちはそれも樹海だと言っていた。

 

「ってことは試練を突破してたのね」

「はい……アタシは父さまについていってただけでしたが……」

「……カナエ、勝手な想像だけど、もしも言いづらい展開があるなら言わなくていいからね」

 

 バナナを食べ終えてカナエに言い聞かせた。

 記憶を失ったことと家族との樹海探索。この先の展開が良いものと思えなかったからだ。

 

「……ありがとうございます。でも大丈夫です。話さないと、いけないことですから」

 

 カナエは小さく頭を下げた。

 今の言葉から、悪い推測は当たっていることがわかる。

 

「父さまのギルドは、深都の手掛かりがそこにあると聞いて、樹海の奥まで行ったんです」

 

 カナエの話を黙って聞く。バナナはもうない。

 

「だけど、行った先は魔物の巣でした……そこでギルドの方はみんな、父さまも命を落としました。最期は、アタシを庇って……」

「……ねぇ、ちょっと聞いていい?」

 

 シャーロットさんが口を挟んだ。

 不思議そうでならないと言った顔が嫌な予感をさせる。また変なことを言うんじゃあるまいな。

 

「なんでカナエは生きてるの?」

「シャーロットさん何言ってんの!?」

「え、だっておかしいじゃない。魔物の巣で他の全員が死んで、子供だったカナエが生き延びるって変じゃないの? まだ忘れてることがあるんじゃない?」

「あ、そういうこと。でも言い方がひどいんですよ!」

 

 言い方が最悪だったけど、確かに疑問が浮かぶ点だ。

 まぁ内容が内容だけに、あまり深く聞くのも傷口を掘り返すようで言いづらいことだが。

 

「それが、おかしいんです。気づいた時には、アタシは海都の入口にいて……父さまのことを、あのギルドのことを忘れていたんです……」

「どういうこと?」

「アタシもわからないんです……思いだせたのは、父さまの最期だけで……」

 

 部屋に沈黙が訪れる。

 カナエが無事だった理由は謎だ。だけど記憶を失った理由は精神的なショックによるものだろう。子供が自力で魔物の巣から脱出は難しいことを考えると、誰かが助けた可能性が高い。

 不明な点は誰がそこにいたのか。それともうひとつ。

 

「オレさ……ずっと樹海で見つけようとしてたものがあるって言ってたよな」

「うん……」

「だけど、ようやく見つかった。カナエの忘れた記憶。親父さんとの最後の記憶」

「……」

 

 アガタはなんでそんな、カナエに取って辛い記憶を呼び起こそうとしてたんだと疑問ができてしまった。新たな不明点を増やさないでほしい。

 

「……カナエ、ごめんな。無理に今まで付き合わせて」

「いいよ……」

 

 話題が話題だけに、暗い状況が続く。

 カナエの相談は、話を聞いてほしかったということだろうか。

 

「……よし! 思いだせたならオレたちが樹海を探索する理由もなくなったな! これでようやく一緒に里へ帰れるな!」

 

 アガタも暗い状況が続いていることを気にしていたのか、空気を変えるように明るく言った。

 確かにカナエの父との記憶を見つけるためという目的は達成されたわけだから、この2人はもう冒険する理由はなくなった。目的のものを見つけれるのは素直に羨ましく思う。

 

「……ごめん。アタシ、気になることがまだある」

「え? 気になることってなんだよ」

「…………すみません、今から話すことが、相談なんです」

 

 アガタに向けられていた言葉が、僕たちへと矛先を変えた。

 今までのは前置き。相談事は何か聞けば。

 

 

「オランピアさんのことについてです」

 

 

 

 

 

 




 

ナルメル戦終了です。
つまり試練終了です。

本当は盾を足場にして泥濘の上を走っていくだとう!?みたいな感じにしたかったのですが、ちょっとあまりにも……ノリで生きている感が強いなと思えたので無駄な行動になりました。

そしてカナエの記憶復活のタイミングを原作と変えました。それに伴い、今後変化していきます。
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