シャーロットさんにオランピアとの出来事を話し、トーマさんの考案の「助けて衛士さん大作戦」について伝えた。
最初は彼女に伝えなくてもいいのではと考えたが、行先は樹海だ。となると魔物との戦闘がある。逃げる先が魔物のいる場所ってのは奇妙な話だけど、意外性をつくこともできる。
「オランピアを返り討ちにしたらいいじゃない」
「寝込みを襲われたらそんなこと言う間もなく死んじゃいますから……」
ムロツミにも一緒に逃げるように言うべきか考えたがやめておく。アガタは入院中だし、カナエは恐らく仇討ちのために暴走する。
それにオランピアの狙いは僕だけのようだし。あ、トーマさんもか。
トーマさんたちも準備すると言って解散となった。だけど出発はすぐ。集合場所は樹海入口の石像。
絶対にオランピアにバレないように、追跡を受けないようにしろと言われている。
そんなこんなで2人で集合場所へと赴けば、
「うげぇ……」
「やっと来たか。ボーグマン、どうだ?」
「……オデの獣、オランピア、いない、言った」
「よし、今のうちにいくぞ」
トーマさんとボーグマンさん、牛の魔物がいるのはいい。
「なんでデザートもいるんですか……」
「私がいちゃ悪いわけ?」
純粋に嫌なだけです。
「カカカッ、性格悪いもんなこいつ」
笑いながらトーマさんは樹海へと降りる階段に、は行かずに、横道へと進んでいく。
その先にあったのは光の柱だった。
「……」
「樹海地軸。お前らも使っただろ? 試練を越えたギルドの特権だ」
「まぁね。コレってなんなの?」
「さぁ? 俺もわかんね」
話を聞きながら目の前の柱の情報を頭に浮かべる。だってこれ、知ってるものだし。
樹海地軸。
一応シミュレーションで知っただけで、実物を見るのは前回の試練の時だけだ。これは世界樹と世界樹を繋げ得るものだとか。
元々各地の世界樹のシンクロ現象を引き起こす原因でもあるとか、別の地にある世界樹にも瞬時に飛ぶことが理論上可能なもの。だけど以前兵士と共に使った時や、今のトーマさんの物言いからして、距離としてはこの世界樹付近限定だろう。
使い方は樹海地軸に触れるだけでいい。行き先の指定もできるが、その知識は僕にない。専門外だ。
だが触れれば基本的に誰でも使える代物。
「とんでも性能すぎる……」
瞬間移動を可能とする技術が、特別な大樹によるものとはいえあっさり実現してくるとなぁ。
……しかし、地軸があるということはこの地の世界樹は確実にプロジェクトの産物だ。やっぱり僕たちは眠った位置から大きくズレたのかなぁ。あの地には世界樹はないはずだったのに。
考えていても仕方がない。
今はオランピアの脅威から逃れることが大事だ。
樹海地軸に触れ、視界が歪む。
歪みに目が眩めば、もうそこは海嶺ノ水林だった。
水林にある地軸のそばには数人の兵士がいる。彼らは武器を構えていたが、僕らの姿を確認すると構えるのをやめた。
「これから探索か。頑張れよ」
「どーもどーも。あんたらもお勤め頑張れよー」
トーマさんが軽く対応する。
その後、周囲を見渡し呟いた。
「いつ来てもここはこえーよなぁ」
「僕らは2回目ですけど、何かあるんです?」
「雰囲気怖くね?」
雰囲気て。何か特別危険な存在がいるというわけではないのか。
「オランピアがいないうちに早く行かない? さっさと見つけてカワイイ装飾品とか見つけたいし」
「トーマさん、この女何言ってるんです?」
「好き嫌いあるのな、お前……。深都に珍しいアクセサリを期待してんだろ」
「……何故に深都」
今ってオランピアから逃げる作戦だったのでは。
オランピアから逃げつつ深都を探す一石二鳥作戦にでも変わっていたのだろうか。
「今がチャンスだからに決まってるじゃない。じゃなきゃここに来ないわよ」
「誰が敵だったか今までわかってなかったからな。だけど今ならヤベーのはオランピア。しかもそいつは海都にいる。今ならオランピアの妨害はないってこと」
転んでもただでは起きない、と。
仮にオランピアが樹海まで追ってきても、元老院の兵士たちがいる。魔物との戦闘以外は良い作戦だ。デザートがいるということが嫌だけど……戦力として見れば彼女も悪くはない。
「はやく、行く」
「そうだな。さっさと深都を見つけて帰ろうぜ! そのころにはオランピアも捕まってるだろうし!」
先導するのはボーグマンさんと牛。
獣の感覚で周囲を警戒しつつ、やっぱり獣染みた勘で対応していく形。
なんとなく、という理屈も何もない索敵。
牛が身体を大きく起こし、足元の珊瑚を踏み砕いた。時折踏まずに無視していくこともあるが、これで7回目。
「多いですね……」
「気ぃつけろよー。人食いサンゴなんて名前つけられてるからな、あんなでも」
踏み砕かれたものはすべて、珊瑚に擬態した魔物だ。
いや、珊瑚の魔物? とにかく魔物だ。
気づかれていないと思い込んでいたのか、無抵抗に砕かれてばかりだが、一度だけ活発に動いている状態を見た。その時は珊瑚とは思えない動きだった。腕のような器官を振り回し、積極的に捕食しようとしている姿。
しかし死ぬとその腕の柔軟性は失われ、カチカチに固まってしまった。
この硬度ならいい防具になったりしないだろうか。
「物欲しそうに見てっけど、あんなの珍しくもねぇ素材だぜ?」
「僕はこの階層初めてですから、良い防具にならないかなと思ったんですよ」
「無理じゃない? あっさり砕かれてるし」
まあ、牛に踏み砕かれている時点でそんなに期待してないけど。もちろんボーグマンさんの牛が特別だとはわかっているが。
「防具には使えないけど、お守りにならなるわよ。ダサすぎるデザインだけどね」
「デザインとかどうでもいいです」
「お前ほんとにデザートには棘がありまくりだなあ……。ま、あの珊瑚は耐火性が高いから悪いもんじゃねぇな。持ってるだけで火の熱を吸っては散らしてくれるぜ。1個2個じゃ意味ねぇけど」
火……。火を噴くような魔物とは出会ったことがないしなぁ。意外にもいそうでいない火噴き魔物。
氷塊を飛ばしてくる魔物なら見たけども……。となるとこの珊瑚の魔物の素材、使い道としては、占星術師の炎に巻き込まれないために持つとか、それぐらいしかなさそうだ。
ふと通路ではない海に小さな影を見つけた。
その影は少しずつ大きくなっている。
「ふふ」
見えてきた姿に少し笑ってしまった。セイウチだ。
大きな体の割にうつろな瞳。これはいわゆるあれだろう。ぶちゃかわ。
「何笑ってんのよ」
「いえ、やっぱり動物って和むなぁって」
どんどんこちらに向かって泳いできている。
「……ねぇ、あれ大丈夫なの? 魔物じゃない?」
「かもしれませんね。でもほら、ここは透明の粘膜で覆われた通路ですし、外から入ってはこれないでしょうから」
だからこのままあのセイウチが進めば間抜けな姿を見ることができるわけだ。絶対和む。
「何やってんだよお前ら!」
「へ?」
「ハイオンネプじゃない。あれタフだから嫌なのよね~」
この焦りよう。
迫るセイウチ。奇妙な名称。
もしかしなくても、膜を突き破ってくるやつだこれ。
もうセイウチの魔物は膜に触れた瞬間だ。
すると海水が通路へとなだれ込む。
「し、浸水とかまずいのでは!?」
「すぐに膜は閉じるから気にすんな!」
ハイオンネプが通路に入り込み、牙を振るう前に牛が突撃する。牛の魔物とセイウチの魔物の重量対決は、勢いを乗せていた牛に軍配があがった。その間、すでに開けられた通路の穴はもう閉じていた。だがすでに入り込んだ海水が足に押し寄せバランスを崩しそうになる。
押されてよろめく魔物の首を、シャーロットさんが斬った。血が噴出するも魔物はまだ動いている。
次いで銃弾を、デザートの斬撃を、最後にボーグマンさんの槍による刺突を。
そこまでやって、ようやくハイオンネプは動かなくなった。
「……タ、タフすぎでは」
「占星術師がいればもっと楽なんだけどな。火か雷でバーンってよ」
占星術師の需要過多問題。
ふと視界の端で動くものがあったのでそれを追えば海水だ。通路に入った海水は、引き潮のように通路の外へと戻っていた。
「あれ? デザートの籠手なら武器に雷とかも付与できるんじゃ」
「氷しか覚えてないわ。イマイチ合わなかったのよね」
氷……そういえば冷気以外を纏わせてるところを見たことがない。
ヴィクトリアさんは火とか雷とかやってたけど。
……ひょっとして、あの籠手があっても使うには何か勉強が必要?
「火や雷が必要なら薬で使えるけど」
「え。マジかよ頼りになる。うちのデザートと交換しない?」
シャーロットさんの言葉にトーマさんの提案。もちろんふざけての発言とはわかっているけども。
「絶対いやです。断固拒否です」
「私もこんなのと2人きりのギルドは嫌だわ。もっとイケてる男とじゃないとね~」
「シャーロットさんも性格がアレですが、デザートより遥かにマシなんで。それにシャーロットさんの暴走調整が可能なのは僕だけだと思いますんで。互いのために交換はなしで」
「……なんで私、ディスられてんの?」
「ボーグマン、周辺は大丈夫そうか?」
「大丈夫。オデの獣、安心」
トーマさん、変な提案しておいて違うことに興味を持つのはやめてください。いや、樹海で警戒は大事だけど。
「よし、行くぞー。次は外に魔物が見えたら逃げろよ」
「それを言われたら文句言えない……さっきはすみませんでした」
先行く人たちを追って駆け足。
足裏からは海水の感触が、完全になくなっていた。
海底の迷宮を歩くことしばらく。
外の様子はさっぱりわからないが、朝になったということはわかった。海によって弱まった陽の光がここまでなんとか届いているためだ。
牛がそわそわし始めた。
「何か、いる。たくさん」
「たくさん? ならオランピアじゃねぇな」
大勢がいる方角へと足を進めれば、ここを拠点としているのか何人もの兵士がいた。
パッと見で25、6人か。
そのうちの1人が僕たちに気づいて近づいてくる。
「冒険者か。ん? トーマじゃないか。珍しいな、こんな奥深くまで」
「お? 悪い、その恰好じゃ誰かわかんねぇ。声的に……ルッツ? いやキトか? それともオクトーヤか? あ、わかったユカだな!」
「総当たりする気か。どれも違う」
トーマさんの知り合いのようだ。飲み仲間とかそんなのだろうか。
どんどんとトーマさんから人の名前が出てくるが、正解が出てこない。
「お前、わざとじゃないだろうな? 今度は自分が奢るとか言ってたことを忘れるためとかじゃないよな?」
「あ……。いやー、誰だかわっかんねぇなぁ!」
「お前ぇ!」
「そこで何を騒いでいる」
トーマさんと兵士の言い合いに、別の声が入ってきた。
「うげ」
「す、すみませんクジュラ将軍。知り合いがいたもので」
赤い陣羽織を着た海都のショーグン、クジュラ。
彼もオランピア捕縛の任を受けているのだろう。
「冒険者か。俺たちがある女を追っていることは知っているか」
「そ、そうそう! それについて話があるんだ! ミゼルから!」
「突然僕に振ります!?」
「だってお前が最初に狙われてただろ!?」
「ほう……?」
コスプレイヤーショーグンの目が僕に向けられる。
その顔は驚きなど一切なく、冷静なものだ。
「狙われたというのはどういうことだ?」
「あ、あーっと。僕も狙われた理由は意味がわからないんですが、オランピアに昨夜襲われたんです。海都で。あ、トーマさんもターゲットにされました」
ほんと思い返しても理由がよくわからない。
人類の敵(笑)を匿っているなんて理由で襲われたとか、意味がわからない。
「それじゃあ、その女は海都にいるのか! クジュラ将軍、すぐに戻りましょう!」
「……いや、待て。こいつらを狙ってここまで追って来る可能性もある。何故襲われたか、わかる範囲でいい。報告しろ」
わかる範囲で狙われた理由……
口にするの恥ずかしいな。
「……なんでも、僕が人類の敵とかいうのを匿っているらしいです。オランピアの中ではそういう設定になっているようで」
「……」
「じ、人類の敵だと!? ミゼルが人類の敵を匿っぐふッ……匿っているだなん……ぶふ……くふっ……じんるいのてき! クッ、腹いてぇ……! これも人類の敵のせいだな!?」
トーマさん悪のりして自爆しないでください。
やっぱり口にするのが恥ずかしい内容だ!
性悪組も何言ってんだと言わんばかりの目でこっちを見ないでほしい。ボーグマンさんだけが普通でいてくれる。あの人は癒し。いや、ショーグンも冷静な顔立ちのままだ。
「……他に何か言ってなかったか?」
「え、えっと……」
「世界の滅亡、とか……じんるいの、ぶふふ、てきだしな! もっと面白いこと言ってるだろ絶対!」
トーマさんは放っておこう。
「フカビトのシンソ?とか、深王さまとか、色々言ってました。どういう意味か聞いても答えてくれませんでしたが」
「そうか……」
トーマさんが倒れてしまった。
きっと彼の中では不思議な世界観が広がっているのだろう。勝手に想像して勝手に笑い転げるとは。
ショーグンは後ろへと振り向き兵士たちに指示を飛ばした。
「全員、聞け。隊を2つに分ける。1班から4班は海都に戻りオランピアを探しだせ。5班は俺と共に引き続きここを捜索。以上!」
その指示を受けた兵士たちはどんどんと移動していき、残ったのはわずか5人の兵士。さっきのトーマさんの飲み仲間もいた。
一気に人数を減らしすぎだと思う。
「……この人数だけって、大丈夫なんですか?」
「……わかんね。海都に何人か衛兵を戻すとは思ってたけど、ここまで減らすなんて考えてねぇよ……。こりゃ俺たちも海都に戻った方が安全か?」
復活したトーマさんも予想外のようだ。
この会話が聞こえたのか、先の兵士が話に入ってくる。
「狙われているのならここの方が安全だぞ。何せクジュラ将軍がいるからな。情けない話だが、衛兵全員の力量よりクジュラ将軍の方が上なんだ」
「誇らし気に言うことではないな」
「す、すみません将軍!」
そういえばこのショーグンは、元老院から1人でナルメル討伐を任されていた人でもあるんだ。
「お前たちはオランピアから逃れるために来たな。ならばこのまま樹海に残れ。5班……残った衛兵は探索能力に優れた者で構成されている。無駄に数を多く揃えたところで、悪戯に犠牲を増やすだけだからな」
ショーグンはそう言いながらその場で座り込んだ。
一方で残った兵士たちはばらけて行動しだす。
「それじゃあ俺も行くよ。トーマ、あとでちゃんと奢れよ。海老のマリネな」
「しつけぇな! わーったわーったよ! 同じ値段のとか拒否したら俺がケチくせぇやつになるじゃねぇか!」
「やっぱ覚えてるじゃないか!」
兵士はトーマさんと口喧嘩してから、ショーグンにひと睨みを受けて慌てて去って行った。
「オランピアを見つけ次第、あいつらには笛を鳴らすように伝えてある。探索中に笛の音が聞こえたらそこから離れるんだな」
ショーグンは探しに行かないんですか。
そんな内心のツッコミは予想していたのか、あっさり答えが来る。
「俺は笛の音が聞こえるまでここで待つ。この先へ行くには必ずここを通らなければならないはずだ。オランピアが他の道を知っている可能性もあるがな」
このコスプレイヤー、また通行止めしてる……
いや、今回の通行止めはありがたいけど。
「ねえ、私たちがオランピアと遭ったとして捕まえたら賞金って出るの?」
「何聞いてんのデザート? 俺いやだよ? あいつ捕まえるのあぶねぇもん」
「当然、報酬はある。だが簡単には捕まらないだろうな。精々命を落とさないことだ」
「オデ、死なない。死なせない。誰も」
デザートの様子を見てシャーロットさんを確認。
この人も同じこと言いだしかねないし、っていうかオランピアを倒せば解決じゃない、とか言っちゃってたし。
「シャーロットさん、僕たちの目的はオランピア捕縛じゃないですからね?」
「わかってるわよ。深都に近づくチャンスでもあるんでしょ? 人数が多いのは少し不満だけど……まあいいわ」
目的も再確認したところで、ショーグンに見送られる形でさらに奥へと僕たちは向かった。
オランピアが近くに来ることはない。背後を気にすることなく進めると安心したのも束の間。
甲高い笛の音が届いた。
樹海地軸登場です。
地軸が世界樹の力を利用したものとして考えたので、世界樹の発現前に眠りについた人は知識でしか知りません。
生き残った人たちが手を加えたor世界樹が勝手にうっかり作っちゃった。という体でいきます。そのためミゼルさんは地軸については専門外。
あと久しぶりの登場なので
大航海クエスト共闘NPCデザート
自称姫系剣士。ゲーム中の紹介文見た時はウォリアーと勘違いしましたプリンセスです。
このお話では幽霊船に参戦。口調がシャーロットさんと被りまくりで困る人です。