【おのれ! 逃げ回りおって!】
ケトスの怒鳴り声が頭の中に響く。
耳を塞いでも煩さを与えるなんて厄介な能力だ。
「誰が逃げ回ってんのよ。あんたが無駄に動いてるだけじゃない」
「デザート、そんなに馬鹿にしたらダメですよ。海王さまが可哀想じゃないですか。まあ馬鹿だから馬鹿にされてることにも気づけないかもですけど」
「それもそうね、なんたって海王さまだものねぇ。反省するわぁ」
【我を愚弄するかァ!!】
海王さま(笑)ことケトスは怒り叫ぶ。
だがその怒りの出どころは、結局のところやつの高いプライドのせいだ。プライドを守るために怒る。
だからこそ、プライドが取らせる無意識の選択が大きな死角になっている。
ヤツが全身で地面を削りながら体当たりすれば、僕たちはすぐに死ぬというのにそれに気づけない。
「ほい?」
肩をちょんちょんと叩かれ、デザートを見れば、彼女はジェスチャーで何かを伝えようとしていた。
口には出さない。ということは、ケトスに聞かれてはまずいなんらかの作戦。
……私、口元、あいつ?
……僕、口元、バツ。
「全然わかりません」
「……アンタはしばらく黙って役割を果たしなさい」
「あ、はい」
黙って、か。
あいつを挑発するのはデザートがやるってことかな。僕は銃でヤツの鎧を剥いでいけばいいと。
「海王さまぁ、私こわぁい。海王さまがこんなに馬鹿だもの。きっと海王さまのおともだちもすごい馬鹿なのよねぇ。こわぁぁい」
うっわ。ウッザ。
猫かぶりも相まって凄まじくウザい。僕が言われたわけじゃないのにウザすぎて引く。
【自分たちが護られていることにも気づかぬ愚か者がァ!】
まぁあれだけウザいとね。かなりイラっとくるよね。
でもやっぱり、馬鹿だよね。
デザートに向かっていくケトスの横から珊瑚を射抜く。銃弾による威力ではなく、込められた冷気によって珊瑚鎧は破壊されていく。
このままいけばもう数分で鎧は完全になくなるけど、トーマさんは何をするつもりだろうか。
いや、今は自分の役割を果たすことに集中だ。
「きゃぁ。おっきぃのに役に立たないのね海王さまぁ」
集中力乱れるわ。
まあ、的が大きいから外すことはないけども。
もうすぐ裸の海王さまが出来上がる。その時はどこを狙おうか。
【僅かにでも憐みを抱いたのが間違いだった! もはや汝らになんの憐憫も抱かん!】
耳に届くデザートの声はウザいし、頭の中に直接響かせてくるケトスの声は煩いし、なんだこの嫌な環境。
そんな環境の中、違う音が紛れ込んできた。
水のなだれ込む音。どこかの膜に穴を空けて、海水を入れてきたに違いない。当然下手人は、あの鯨。
しかし、海水が入ってきているにもかかわらず、空間が水で満たされる雰囲気はない。入ってはすぐに膜の外へと排出されているのだ。
ただ、完全に排出しきっているわけではないようで。
「おおぉ? オオオオオッ!?」
「何変な声あげてんの? ウケる」
「そっちにも行く! 足! 波!」
雪崩れ込んできた海水が勢いそのままに足元を掬う。水位は膝にも届かない程度なのに、この流れの強さは動くこともままならない。
【あの世で自らの行いを悔やむがいい!】
ケトスが迫る。
デザートも海水によって足を捕られている。さすがにこれは避けられないかも。
「ウォォオオオオ!」
「ぐべっ」
「獣臭ぁっ」
雄叫びと共に、ボーグマンさんが牛を走らせながら僕とデザートを回収した。
直後、周囲を強い風が包む。ケトスの攻撃の余波だ。
「た、助かりました!」
「2人、がんばった。オデ、がんばる」
牛から僕たちを降ろし、深く仮面を被りながら宣言。
心強い姿だ。それにしても、トーマさんとシャーロットさんの姿はない。どこかに隠れている?
「ウォォォオオオオオオオ!!」
「うるさっ」
牛に跨ったまま、雄たけびをあげてケトスへと彼は突撃していく。
あれも作戦の一種なのか、それとも高揚しただけなのか。
……後者な気がしてならない。
【小さき者が少しばかり増えたところで何になる!】
1人と1頭、人馬一体の突撃に……人牛一体の突撃にケトスが吠える。
頭に直接響かせる声ではなく、鯨の鳴き声だ。
今までとは違う行動。ボーグマンさんの雄叫びに釣られて叫んだだけなのか、それとも別の何かなのか。
ケトスの行動が何か見極めようとしたとき、通路の脇から飛び出る影があった。
影はケトスが破壊した瓦礫や珊瑚を踏み台にし、大きく跳躍。
「さらに増えたらどう!?」
シャーロットさんだ。
彼女の剣は発火している。薬を使用しているのか。
ということは、追撃をすぐにしないと。
横から現れた奇襲。それにケトスは反応などできるわけが────
【醜い獣は目くらまし、本命は汝か。浅はかなことだ】
「──っ!?」
あらかじめ来ることがわかっていたかのように、ケトスの巨体が火の剣を軽々と避けた。
【小さき者にしては、健闘した方だ】
跳躍しながら斬りかかったシャーロットさんは、自然の物理法則に従ってしか動けない。ケトスの反撃を避ける手立てがない。
ケトスに、そんな彼女を逃がす理由はない。
「ウオオオオオオオオオオオ!」
ボーグマンさんと牛がさらに距離を詰める。だが、ケトスは意に介してない。
落ちていくシャーロットさんを目がけて泳ぎ始めた。圧殺する気だ。
【さらばだ、小さき者よ!】
ケトスの宣言。その直前、牛が何かを咥えて、ケトスに向かってぶん投げた。
「そう言うなよ。あ、コレ奢りね。俺たちから、海王ケトスちゃまへの」
トーマさんだ。
トーマさんが、突進を開始したケトスのそばに現れた。
ふざけた口調と共に、彼は起動符をケトスに向ける。
「たっぷり味わえよッ!!」
【なっ────ァァアア!?】
ケトスの身体が起動符によって、業炎に包まれる。
その巨体を呑み込む炎は消える様子もなく、激しく燃え盛る。
奴らの事情により散っていった人たちの復讐の炎かのようだ。苦しみ悶えるケトスの姿にそんな感想を抱く。
「っとと。おー、やっぱり良く燃えるわ。珊瑚の鎧なんて着こんでりゃ、本体は火に弱いって教えてるようなもんだぜ? カカカッ」
【き、貴様ァア! 何故! 何故ここに!】
「俺の握力、すげーだろ。お前が浅はかって言った作戦の、目くらましの牛くんにずっとしがみついてたんだぜ? 腹の下にな。ま、作戦が深すぎて馬鹿なお前は気づかなかったみたいでちゅね~~~!?」
燃えるケトスを馬鹿にしまくるトーマさん。
その馬鹿にした言葉を聞きながら理解した。
ケトスは周囲の音を聞いて、相手の居場所を把握する。
シャーロットさんがバレていたのは、その能力のためだ。規模はどれほどかわからないが、シャーロットさんが独り言をつぶやきながら戦っていたとは考えづらい。おそらく人間の足音なら感知する。
だからトーマさんは、自分の足音を消すために牛のお腹にしがみ付いていた。背中であれば、目視で姿を見られるから。事前の軽い作戦会議で、嫌がらせの役割をシャーロットさんと自分と言っていた。それを聞かれていれば、姿を確認されたら警戒されると考えて。
ボーグマンさんの雄叫びは本当に目くらましだったんだろう。だが隠していたのはシャーロットさんではない。トーマさんの息遣いや、跳躍の瞬間だ。
【グ、ぅ────!】
まだ終わっていない。ケトスはまだ生きている。
身体を包む炎に苦しみながら、よろめき泳いでいる。
────海に逃げる気だ。
「薬! 使う!」
「はい!」
「逃がすわけない!」
「ウオオオオオオオオオオ!」
「まだまだ奢り足りねぇぞ!」
火の剣が、追撃する銃弾が、
冷気の剣が、鋭い槍が、獣の角が、火の起動符が、
逃げるケトスに一斉に襲いかかる。
【ガァ────ッ!?】
図体がでかいだけあってしぶとい!
まだケトスは沈まない。苦しみながらも海に向かって泳ぎ飛んでいる。
それなら、止まるまで何度も追撃をしてやる。
その時、ズシン、と大きな音が響いた。
音の発生源は、この階の入口の方角。不自然な大きな音の後、無機質な声が届く。
「させない」
【来たか、オランピア! その者どもを排除しろ!】
オランピア────!?
新たな乱入者、どちらを対応したらいい。逃げるケトスか、向かってくるオランピアか。
ほんのわずかの逡巡。僕だけでなく、この場にいる全員が抱いただろう。
そして出した答えは、
「逃がさない!」
「いい加減止まれ木偶の坊!」
「デカブツを沈めろ!」
「鯨、止める!」
「アイツは後! まずは鯨狩りだ!」
奇しくも全員が一致した。
オランピアが距離を詰めるまでに仕留めきる。ここで逃げられたら倒すのが困難になってしまう。海はやつの完全なテリトリーなのだから。
「させない。私はそう言ったはず」
オランピアの声が、近くから聞こえた。
……いつの間に。
ただ距離を詰められただけでない。オランピアのローブの下に隠れていた右腕によって、5人と1頭の攻撃を完全に防いでいた。
その形状は盾。だが、明らかにこの時代ではない材質の盾だ。
半透明の光の板。それがオランピアの右腕から大きく広がりすべてを防いでいる。
時代錯誤な装備というだけで驚きだというのに、それ以外も驚きを誘う光景だ。
右腕は光学の盾、左腕は真ん中で2つに裂け、片方は巨大なブレード。もう片方は鉤爪になっていた。
「……人間じゃねぇ」
オランピアの身体は、人間のものではなかった。
人間の形に近づけた、機械の身体。外装が所々欠けており、内部器官が見えている姿。
この時代で見るとは思わなかった。
僕のいた時代ならともかく、世界樹によって一度滅びた時代で。
「アンドロイド……」
「知っていたか……。私のこともフカビトの真祖から聞いたのか」
……今、また変な誤解が深まった気がする。
「ミゼル! このびっくり人間についてあとで話聞かせろよ!」
「……」
トーマさんが黒い瓶を地面に叩きつけた。盲目の香。
黒い煙はオランピアの顔へと昇り、火の起動符が暗闇に包まれた者へ容赦なく襲いかかった。
「ボット配置、リフレクター」
冷淡な声と共に、煙に包まれたオランピアを襲うはずだった火がトーマさんへと跳ね返る。
火の勢いは強くなるおまけつきで。
「はぁ!?」
「トーマ!」
ボーグマンさんが火からトーマさんを庇うも、迫る熱に耐えるのに精いっぱいで、目を赤く光らせ、腕を振りかぶるオランピアに対処ができそうにない。
「させるわけっ……!」
「コンシリエイト」
オランピアの耳に生えた棘のようなものから、目に見えるほどの電磁波が周囲を襲う。
トーマさんたちへの追撃を妨害しようと近くまで迫ったデザートが電磁波を浴び、トーマさんとボーグマンさんもその余波を受けた。
「ア、あ……っ!?」
「さようなら」
死んではいないし、意識も失ってはいない。だが、痙攣を起こしている。剣を構えることができていない。
無防備な左腕の巨大なブレードが、3人を襲う。
「調子、乗り過ぎよ……!」
ブレードをシャーロットさんが剣で受け止めた。
オランピアは然したる様子もなく、淡々と言葉を紡ぐ。
「攻撃転換、シュート」
言葉が命令信号なのか、オランピアの背中から小型の機械が飛び出て、鋭い勢いでシャーロットさんを襲った。
彼女は受け止めていたブレードをいなし、地につけさせながら身体を反転して迫る小型の機械を避ける。そのまま反転の勢いを利用するように、
「っやぁ!!」
遠心力を乗せた嵐のごとし剣が──────オランピアの首を切断した。
「…………気分悪」
首を失ったオランピアを見てシャーロットさんがぼやく。
同族と同じ形状の、人型の首を斬り落とすのは気分が悪くなっても仕方ないかもしれない。
ゴトり。
斬り飛ばされた首が地に落ちた音だ。
機械の身体だから、血は出ていない。
オランピアは片付いた。次はケトスだ。
ケトスの姿を探し、すぐに見つかった。
燃えている身体を癒そうと、まさに海に入る直前の姿が。
…………最悪だ。
「……計算外」
──────落ちた首から、声が聞こえた。
「戦力を見誤っていた。フカビトに利用されている哀れな人間だと侮っていた」
「コイツ、まだ──!?」
首だけで喋り、眼球をぎょろぎょろと動かすオランピア。軽いホラー映像だ。
その眼球が朱く怪しく光り、
光線が走った。
「……え?」
「いてぇ!?」
「っ……!」
光線はシャーロットさんとトーマさん、デザートを貫いた。
それぞれ貫かれた部位は、腕などの末端だ。
しかし目からレーザーとか、ふざけた絵面なのに危険すぎる。
また眼が光りだす。その前に首の向きを変えてやれば……魔物に全く通用していないが、銃ならすぐにやれる。
「……本当に邪魔」
「うるさい電波系アンドロイド……!」
レーザーはあらぬ方向へ飛んでいった。ついでに悪態をつかれたのでお返しする。
【よくやった、オランピア。あとは我がその者どもに死を与えよう】
脳内に響く声。
さっきまで必死に逃げていた海王さま(笑)が余裕を取り戻したか。海中に入って炎が消えた途端この強気とは、ふざけた王さまだ。
だが強気にもなるか。こっちは5人のうち負傷者4人。無傷なのは僕だけ。あ、牛くんも大きな怪我はないか。
「わかりました。あとはお任せします」
「え、な……!? 言ってることとやってること違うくない!?」
オランピアの首なし胴体が、僕の足を掴んだ。
任せると言いながら何する気だこいつ。
「この者はフカビトと繋がりがあります。確実に排除を願います」
「こいつ、まだそんなこと──ぁぁああ!?」
文句を言う前に、オランピアが僕を大きく投げ上げた。
宙に放り投げられた僕に、ケトスが近づいてくるのが見える。完璧なパスだこと。ここなら地面も遠いし、やつは全力でぶつかってこれるわけだ。むかつく。
【フカビトに利用されたか! 無知なる者へのせめてもの情け、遺体は母なる海へと返してやろう!】
ケトスの攻撃に、全身が引き裂かれる痛みを覚える。
強大な破壊力の塊から、全身の細胞が逃げようとし、体表に阻まれる。それでもなお逃げようとしたために、身体中が裂け、弾け、血をばら撒く。
しかしケトスは止まらない。宣言通り、海までこの身体を押しやるつもりだ。
海に放り込まれ、ようやくケトスが離れる。
身体中の血液を海に流す者に見切りをつけて。
次は他の人間を狙うつもりだ。
そりゃそうだ。今の僕は走馬燈が見えている脳内と、見える視界がブレている。まだ息があるのがありえない。だがそれもすぐに無くなるだろう。
そもそも完全な海中だ。たとえもう少し元気であっても、呼吸できずに窒息死だ。今だって苦し、い……?
苦しくない。
痛みのせいで苦しさを感じない? いや、なんだこれ。
記憶の中、かつての室長の言葉が再生される。
『血液に溶け込んだこの薬によって、毒から体を守ることはできるだろう。研究ばかりの我々の体も逞しくなるかもな』
いや、逞しくなりすぎでは。
【随分と愉快な勘違いだ】
脳内に、声が響いた。
ケトスではない別の声。なんだこの声は。どこか、しゃがれた声。男とも女とも判断つかない、歳も老いているのか幼いのか、よくわからない不思議な声。
潰れたはずの腕が動く。
潰れたはずの足が動く。
僕の意思とは無関係に、勝手に動く。
次いでは口が、勝手に動きだした。
「まさか、白亜の供物を血に溶け込ませていたとはな」
海水の中だというのに、どういうわけか鮮明な声となって自身の耳に届く。
口から出た声は、脳内に響いた声と同じくしゃがれたもの。
周囲に散らばる血が蠢き、足に集まっていく。
まるで意志を持っているかのような血の動き。それはやがて、魚の尾のような形状を取りだした。
【まだ、生きているだと? いや……この感覚は……。貴様は……ッ!】
今度はケトスの声だ。
信じがたいといった反応のあと、何かに気づき、声に深い敵意が宿る。
敵意を向けられたこの身体は、別の存在に乗っ取られたかのように、勝手に動くのを止めない。
「体内から血を減らしてくれたことは褒めてやろう。だがこれ以上は僕の存在にも関わる」
【そうか……! 100年前、貴様は人間の中に逃れて──!】
吠えるケトスを尻目に、周囲に散らばった血肉が蠢き形状を変える。
それは人型のようで、人ではない。下半身は魚のもの。
人魚だ。
血肉が人魚に変化した。
「……長く抑えられていれば、力が激減もしようものか」
形成された人魚を見て、嘆きとも取れる言葉を漏らす自身の身体。
「仕方がない。僕自らが、相手をしてやろう」
言葉と共に人魚の形が溶けて血肉へと戻り、球状に変化した。
不気味な球は小さくなっていく。小さく、小さく圧縮されていく。周囲の水を、光をも吸い込みながら。
【深王の願いがひとつ! 貴様を滅ぼし、この地に平和を齎さん!】
「うるさい木偶の坊だ。ソーンカッター」
圧縮されていた水の球が、中に閉じ込められていた力が一点から放出される。まっすぐ、鋭く、ケトスへと。
【グゥッ──!?】
「思えばケトス。かつての戦い、お前には僕の眷属を多く屠られてきたな。お前が数の多い弱き眷属を薙ぎ払い、深王が力持たせた眷属を斬り裂いた」
ソーンカッターによって、身体を貫かれたケトスを見据えながら、僕の知らない思い出話が語られる。
なんだこいつは。勝手に人の身体を乗っ取って……!
「炎に弱い、か。人間の知恵に負けた世界樹の守護者など、なんの障害にもなりえない」
海中にいるはずなのに、手のひらに炎が生まれる。
その炎をケトスへと投げつけた。
手のひらサイズの炎は途中、大きく広がり、樹状突起の形状となってケトスを包んだ。
「スパインブレイズ」
【ガァァ────ッ!?】
スパインブレイズ……脳神経の、樹状突起スパインの炎?
この身体を操ってるやつ、ネーミングセンスあんまりだな……
「お前の記憶から近いモノを引きだし、名付けただけだ。僕のセンスとは関係ない」
思考が読まれちゃってる。
【我は、負けぬ……! この身が滅びようと、貴様を必ず】
「バインラッシュ」
【貴様をォォォォ────!!】
腕から伸びた青い触手が、ケトスを斬り裂いた。
コマ切れにされながらも、激しい敵意を向け続けるケトスの断末魔を聞きながら。
とうとうこの身体、触手生えちゃったよ。僕の身体がヘンテコ改造されてる……
「最後まで煩いやつだ。次は木偶人形か」
空気の膜の中にいる、オランピアに視線を向ける。
オランピアはすでに首を繋げており、やはり敵意の篭った目でこちらを睨んでいた。
「リベレイト……あ」
呟きと共に、身体の傷が癒えていく。
周囲の血が戻っていく。
今の「あ」って言ったの何?
「おわぁ!?」
急に身体の自由が戻った。
腕が自分の意志通り動く。口もだ。足に纏っていた血の魚尾はなくなっている。
元に戻った? でも水中で呼吸ができている……
ひょっとして…………おーい、もう一人の僕やーい。僕のイマジナリーフレンドやーい。
【愚劣な呼び名をつけるな】
いたわ。やっぱりいたわ。
完全に別人格だ。何これ、どう説明したらいいの?
空気膜の中に目を向ければ、相変わらず敵意むき出しのオランピア。
それと、異常なものを見る目のシャーロットさん。
「……」
【忠告してやろう。このまま戻れば、お前の命はない。深王の人形に成すすべもなく殺されるだろう】
「……まぁそんな雰囲気するなぁとは思ってた」
【お前を守る人間もいない。お前がこの僕と、同一の存在になりつつあるからだ】
このイマジナリーフレン【やめろ】……オランピアの言ってたフカビト……?
人類の敵とか言われていた存在……?
いつの間にこんなものが……いや、今はそれよりもだ。
どうすればいい。このまま戻れば、もう一人の僕の【僕はお前じゃない】……中の奴の言う通り、殺される。
「……声、届くかな」
この中の存在が。どうやって入り込んだのかわからない。
わからないまま死ぬなんてお断りだ。
海中で喋るなんて経験なかったから、聞こえるかわからないが試してみよう。
「すみませーん!! 僕、一度逃げますねー!!!」
そう叫んで、海面へと泳いで目指した。
トンデモ設定をぶっ込みました。
この設定があったので、どうあがいても原作沿いタグ外すべきでしょ、と思ったのでした。
というわけでミゼルさんは憑依型主人公です。憑依、というか乗っ取りされてる方です。
というわけで中の人紹介。
フカビトの真祖。
原作における重要NPC。
細かい紹介は追々。とりあえず原作ではもっと違う場所にいます。なんか、3の方々って結構なんでもありだよね、とかモチーフを考えてこうなりました。
これまで何度か出た文字化け文章はこの中の人のもの。
また、中の人の影響でやや倫理観が所々変になったりしてました。
今までの文字化けのトリガー条件は
1:中の人の想い出が刺激される
2:出血が多い
のどちらかに引っ掛かると文字化けって考えてました。
アユタヤ編やロード元老院初回時は1ですね。
ナルメル戦の時は2です。
数話前のは1です。恐怖の中死んだ兵士たちの血溜り+海の中という環境で、的な。
これまでは中の人を認識していませんでしたが、今回で完全に認識したので文字化けは当分ないです。たぶん。
ちなみに現在の予定では、今回のケトス戦のみです。
今後戦ってくれる予定はないです。
まああくまで予定ですが。