奇妙な唄が聞こえたら、耳を塞げ。
事前にメッツェンさんから教えてもらった情報だ。魔獣が歌うのか、なんて疑問はすぐに解決した。
「これが、魔獣の唄?」
甲板の方から調子はずれの唄が聞こえる。お世辞にもうまいとは言えない。むしろ、ど下手くそ。
この下手な唄で石化? 原理がわからないが石にされたくはない。僕もメッツェンさんに倣い、遅れて耳を塞いだ。
甲板にいた兵士たちは大丈夫だろうか。耳を塞いでも魔獣に直接襲われてしまえば対応できないだろうし。
というか、本当に唄が原因なのか? 無防備に少し唄を聞いてしまったけど体に異常はない。
「……」
この体の血中にはシン君を抑える薬効成分が含まれているし、異常が起きないという可能性もあるか。ただお試しで手を離して、石になったら最悪すぎる。
チラリと船内の人たちを見る。
ぎゅっと目を瞑り、耳を強く抑えるメッツェンさんと相変わらずブツブツ呟いているサファイアさんとやら。
石にされても治療法はあるらしいし、メッツェンさんさえ無事なら石になっても大丈夫かな。
そう考えて耳から手を離した。もう唄は聞こえなかった。代わりに兵士の苦痛に呻く声や叫び声。
ほとんど意味のない声の中、情報の込められた声があった。
「助けてくれ! 何も見えないんだ! 船内に入れてくれ!」
明確に助けを求める声。交戦中の音は聞こえない。すでにマンティコアはどこかに行った?
扉についている覗き窓から甲板の様子を見れば、武器を闇雲に振り回して助けを求める兵士に、うずくまる2人の兵士。マンティコアらしき姿は見えない。
耳栓をしているかもしれないが、扉を開けずに尋ねる。
「マンティコアは!?」
「そ、そっちか! マンティコアはわからん! 何も見えないんだ!」
「……少し待ってください!」
視力を奪われた? そして今は襲われていない?
兵士たちを追いつめるだけ追いつめて、見逃すなんてありえるのか?
ゴツン、と音がなる。甲板から船壁に先程の兵士がぶつかった音。
「と、扉はどこだ……」
声を頼りに扉に近づいてきたか。窓から見える範囲にマンティコアはいない。
わざわざ兵士を見逃すなんて罠としか考えられない。
ありえるとすれば、助けに向かったところを襲う? 扉を開けさせて中に入ってくる?
「……マンティコアの大きさはどれぐらいでした!?」
「な、何を……」
「いいから! 扉を潜れそうな大きさでしたか!?」
「そ、それはない! 獅子より少し大きめだ!」
「わかりました!」
それなら扉を開けても中に来ることはない。
銃を構えながら扉を勢い良く開け、左右を見る。マンティコアはいない。次いで上を見上げれば、黒い影。
「……あれが」
ずいぶんと上空にいる。おそらくあれがマンティコアだろう。
遠目からわかる姿は、翼の生えた獅子。それぐらいしかわからない。
上空から目を離さず、兵士の元へ行き肩を貸す。
「す、すまん。奴に攻撃されてから何も見えなくなったんだ……」
「マンティコアが上空にいます。遠距離から何か飛ばしたりしてきましたか?」
「そ、それはなかった。奴は爪や尾を用いて戦っていた」
マンティコアはまだ何もしてこない。この兵士は罠ではない、とか? そこにうずくまっている2人の兵士が罠の本命?
船内まで兵士を運び、横にさせる。
メッツェンさんたちはまだ目を瞑り耳を塞いだままだ。
「他の2人も連れてきます。ここで待っていてください」
「すまない、感謝する……」
再び甲板に出て上を見上げる。マンティコアの場所は変わっていない。上空で羽ばたいている。
「……やば」
マンティコアが高度を下げるのが見えた。すぐに船内に戻る。
やっぱりあの2人を餌にしている? いや、でも降りてくるのが早すぎる。
扉をしっかり閉め、覗き窓から外の情報を見る。
マンティコアは甲板に降り、窓からこちらを見ていた。
ニタニタと嗤っていた。
「……」
なんで嗤っているんだ、この魔獣は。
人を嘲笑うかのような表情を浮かべながらも、魔獣はそこから動かない。
こちらも扉を開けるわけにもいかず、銃を構えながら窓越しにマンティコアを見続けていた。そんな折、背後から声がした。
「え、だ、大丈夫ですか!?」
目を開けたメッツェンさんが横になっている兵士のそばへと走りよる。
マンティコアはより一層、気持ち悪い笑みを深め、大きく息を吸った。
急ぎ振り向き、メッツェンさんたちを見る。兵士もメッツェンさんも、耳から手を離している。
「すぐに耳を塞いで!」
彼女が耳を塞いだ直後、耳を塞ぎたくなるような魔獣の咆哮が響き渡った。
メッツェンさんはなんとか間に合った。そう安心して直後、兵士の体に異常が起きる。
瞬く間に皮膚の色が変色。紫に染まったかと思えば、同じ色の煙を噴き出した。その煙は兵士の体、そばにいたメッツェンさんを包むには十分な勢いと量。
「ぁ」
呆気に取られた声を最後に、彼女の姿は煙で見えなくなり────煙がなくなるとそこには2体の石像だけがあった。
「──っ!?」
目の前の光景を理解しようと努めるなか、窓が割られた。マンティコアの尾による刺突。それは窓だけでなく、僕の肩へと突き刺さる。
尾が引き抜かれ、血が外へと溢れた。
【……】
マンティコアは動きを止め、笑みを消して僕を凝視した。
なんだ、こいつ。
って、ああそうか。またシン君絡みか。
マンティコアは再びニタリと笑みを浮かべると、翼を羽ばたかせ空へと飛び立った。
今度は上空で留まることなく、森へと向かっていく。
「今のは……」
【僕に気を遣ったか。気に入らない】
あれのどこが気を遣っていたのかと聞いてる余裕はない。
さっきまで元気だったメッツェンさんは──話通り、石にされている。甲板に残されていた兵士たちも石に……
「全員石にされるなんて……」
「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」
「……全員石にされるなんて」
【そこの人間は数にいれないのか】
意思疎通可能なら数に含めたいところ。
しかし占星術師のサファイアさんはもともとこの船の乗員ではなかったことを考えると、調査隊は全滅か。
石にされた人を戻す手段はあるらしいが、僕はそれを知らない。知っていたと思われるメッツェンさんは石化。処置は長くても1時間以内にしなければ生死に関わるだっけ。
耳を塞いで外界情報をシャットダウンしている彼女が石化治療を知っていることを期待するしかないか。
声を掛けるだけでは気づかれないだろう。前に立ってもキツく眼を閉じているし、肩を叩いて気づかせる。
ポンポンと叩く。
「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」
ポンポン。
「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」
バシバシと力を込めて叩く。
「ぎょ!? 魔獣!? 魔獣が肩を叩いてるの!? 死神のお迎え!? 姉妹で最初に先立つのはやっぱり私なのね!?」
意思疎通に難がありすぎる……
とはいえ諦めるわけにもいかない。
肩を叩く程度じゃ眼を開けてくれないなら……一応占星術師なんだしきっと戦いの経験もあるはず。もっと荒っぽくいこう。
彼女の両肩を掴んで思いっきり横に倒した。さすがにここまでされたら波の揺れとは思わないはず。というか肩を掴まれて時点で眼を開けてほしい。
「びゃあぁあ!? いま! 肩がヌチョッと!?」
「してませんよ!?」
「え、誰!? 誰ですか!?」
倒れた拍子でようやく耳から手を離してくれた。僕の手はヌチョッとしてない。被害妄想甚だしい。
「やっと気づいてくれた……サファイアさんですよね」
「は、はい……え、もしかして……」
「聞きたいことがあります」
「お金はないです! 一文無しなんです! あぁ、ダメよ私ったら! お金がないとわかればきっと売られちゃう。まだ若いのに奴隷になるのよきっと。魔獣と海賊、どっちがましだったんだろ。命か尊厳かなんて──」
「お願いだから意思疎通してほしいなぁ!?」
勝手にネガティブな妄想に走らないでほしい。そんな悪いことにはならないから……いや、マンティコアに船が襲われた時点で最悪か。これ以上の最悪を避けるためにも彼女の協力は必要だ。
「僕は海賊じゃないから! まずは落ち着いて、ゆっくり船内を見て!」
「そ、そうやって余所見させた隙に私をころ」
「さない! ほら、武器は捨てた!」
両手をあげて無害アピール。
そこまでしてようやく彼女はゆっくりと船内を見渡し始めた。チラチラとこちらを何度も確認しているが。
「……うぎょっ」
状況が状況じゃなかったら、その悲鳴をからかいたかった。
「見ての通りこの船はマンティコアに襲われた。無事だったのは僕とサファイアさんだけ。わかりました?」
「ひ、ひょっとしてあなたが魔じゅ」
「人間に化けた魔獣じゃないからね! 君が耳を塞いでいる間に拾われた漂流者だから! 先に言っとくけど漂流者のフリした海賊でもないから!!」
「あなた、その肩の怪我……」
今気づいたのか。少しは周りを見てくれるようになったのかな。
「マンティコアにやられた傷です。見た目は派手ですが痛みはそれほど。それよりも、石にされた人たちを治す方法って知ってますか」
「し、知ってます……」
「え、マジ?」
「テリアカで治ると思います。たぶん……」
テリアカ……ネイピア商会にもあった薬品。店主さんが「毒、麻痺、錯乱、肩こり、筋肉痛、その他もろもろを抑える必需品じゃよ」と宣伝してたっけ。宣伝文句が胡散臭すぎたやつだ。
「ただ、魔獣の石化に効くかどうか……」
「試してみてください。今はそれしかないです」
「わ、わかりました。まさか船医さんも石にされたんですか……?」
「……?」
メッツェンさんの石像ならそこにあるけど。
「え、えっと、クーパー、だったかしら。この船のお医者さんで……」
……そういえば、この森の調査にメッツェンさんの先生とやらと護衛が入っていると聞いた気がする。
「……念のため探してきます。サファイアさんはこのまま石化治療をお願いします」
「急いでくださいね。こんなところに1人残されたら私、寂しさのあまり衰弱して死ぬから」
「死因の主張が強い」
もしもテリアカの効果が無かったときのためにも、そしてこの島から出るためにも、調査に出ている船医と護衛を連れ戻さないと。
「あとはお願いしま」
「あ、待ってください」
「な、何ですか」
まだネガティブ足りないか。やめてくれ。
「これ、持っていってください」
「テリアカ……?」
「船の人たちの分はまだあります。森でもしも、船医さんたちが石になってたら、使ってください。口が空いてたら口に、閉じてたら目か耳に染み込ませるように塗れば」
「ありがとうございます」
「し、知ってましたよね!? ごめんなさい私ったら余計な真似して、先走って偉そうにしてもうほんと自分で自分が嫌になる……」
「い、いや知らなかったですから! もっと自信をもって!」
何も考えずに飛び出しかけたのを止めてくれてありがとう、だったのに、やっぱりこの人は意思疎通に難がありすぎる。
「それじゃ、今度こそ行ってきます!」
船から飛び出たはいいが、森のどの辺りまで調べに行ったかはわかってない。とにかく探すしかない。探し回って自分が船に戻れない、なんてことは避けたいから方角だけは見失わないように太陽の位置を確認。
いざ森へと入れば太陽の位置は見えないほどの木々枝葉が繁っている。木漏れ日なんて全然無い。
捜索は長くても1時間で切り上げよう。
太陽の位置は諦めて、手近な木に目印をつけようとすると先客の印があった。
きっと先に入った船医と護衛によるものだ。手掛かりがすぐに見つかるなんて幸先が良い。
次の目印を見つけたら、どれほどの間隔でつけているか、向かった方角はどこか、ある程度はわかりそうだ。あとはその先に石像がないことを祈ろう。
地面まで日光が届かない薄暗い森の中、耳に届くは怪鳥の鳴き声、猛獣の雄叫び、湿った枯れ葉を踏む音。
枯れ葉を踏む音は僕自身が立てている音だ。だが耳に自分以外が踏む音が届いた。
目的の人物か、それとも獣か、魔物か……マンティコアか。
…………人だ。話し声が聞こえる。
「船医と護衛の方ですか!」
こちらが獣と間違われる前に声をあげて走りよる。護衛と思わしき人は剣を構えて警戒していた。
その護衛の背後は戦えなさそうな身なりの人がいる。この人が船医だろう。たしか、名前は……クーパー先生。
「あなたは……、どなたですか?」
「漂流者です。メッツェンさんたちに拾われたんですが、先ほどマンティコアに襲われました。船から去って行きましたが、メッツェンさんや兵士は石にされて……」
そんな、と驚くクーパー先生の反応。護衛の人は舌打ちをした。
「向こうに出たか……。先生は船に戻るんだな」
「コルタナさんはどうするつもりですか?」
「マンティコアを探して倒してやるよ。あんたは船までの帰り道をそいつに送ってもらいな」
護衛の人、コルタナという人はなんとも、絵にかいたような好戦的な人なのかもしれない。しかしこの島に長居したくない。一緒に戻ってきてもらってさっさと出航したい。
ひとり暴走されるかと思ったが、クーパー先生がコルタナを止めた。
「コルタナさんも今は戻りましょう。幸い目的のうちの一つを手に入れたんです。これをシバまで持ち帰ることが重要ですから」
「……依頼主には逆らえないか。わかったよ」
「では船に戻りましょう。いつまた魔物に襲われるかわかりませんから」
【その人間、何かを持っているな】
シン君が急に言いだした。その声を聞こえるのは僕だけだけども。
その人間ってのは、クーパー先生だろうか?
【森で寝ていた者どもがざわめいている。どうなるか、見ものだな】
「えと、クーパー先生?」
「はい、なんでしょうか」
「何か持ってます? なんか、魔物が近づいてくる予感がするというかなんというか……。危険なものは捨てたほうがいいと思うんですが」
シン君の言葉が示すことを考えると、そういうことだろう。
何かが魔物を引き付けている。見ればコルタナさんの装備はつい先ほどまで戦闘があったことを示すように汚れている。
「……心当たりはあります。ですが、これは捨てるわけにはいかないものです」
「いったい何を……?」
「この森の瘴気に当てられながらも実った、特別な果実です」
「まあ、シバが求めている特効薬みたいなもんだ。それよりさっさと行こうぜ。魔物も海を越えてまで追っては来ないだろうしな……って言ってるそばから来たみたいだ」
コルタナさんがまた剣を抜く。
目線の先には何もない。強いて言うなら木々が立ち並ぶだけ。
「……多いな」
木の本数、なんてことはないだろう。魔物が潜んでいる? 全く見えないけども。
ふいに、木が揺れた。
風など吹いていないのに、揺れて、枝がパキリと音を立てながら折れる。
それを皮切りに周囲からもパキパキと連続して音が鳴り始めた。
「……囲まれてたか」
「船に急いで戻らないといけないってのに……!」
なんだ? 周囲の魔物はいったいなんだ。音ばかりで姿が見えない。枝が落ちているということは動きまわっているということか?
「急いで戻らないと? まさかメッツェンたちに何の処置もしてないのですか!?」
「どう処置したらいいかわからず、サファイアさんに任せてここまで来たので……」
クーパー先生の顔が蒼白になっていく。
この人もサファイアさんの性格がアレだと知っているのだろう。頼りにするには不安だという気持ちはわかる。
「……先生は真っ直ぐ船に戻れ。こいつらはあの果実を狙ってるはずだ。俺たちがちゃんと持って帰ってやる」
「ですが……」
「敵の数が多い。少し足止めをしたら俺たちも逃げる。もたついてないで早くしろ!」
「わ、わかりました。えっと、あなた……」
クーパー先生が僕に握りこぶしほどの果実を差し出してくる。これが魔物に狙われている疑惑のものか。
「あ、ミゼルです」
「ミゼルさんですか。これをお願いします」
「わかり──」
「早く行け!」
枝の一本が槍のように真っ直ぐ飛んできた。それをコルタナさんが剣で払い落す。落ちた枝は糸に釣られているかのように宙へと浮き始めた。
「こ、これ……」
「お前は戦わなくてもいい。枝も木も魔物と思え。絶対に近づくなよ」
「は、はあ」
ひょっとして僕は足止め要員ではなく荷物持ち要員か。
まあ今は銃弾が心もとないし、甘んじて受け入れよう。すでにクーパー先生が走って逃げている。距離としてはまだ近い。
枝も木も魔物、その言葉は偽りなく、そこかしこから尖った枝の先端が飛んでくる。
さっきの光景を考えるにこれは、魔物が落としているというより魔物自身が突撃しているのだろう。狙いのほとんどが僕だ。いつもなら血か、と考えるところだが、今は果実狙いか。
迫る魔物をコルタナさんがバシバシ斬り落としていく。護衛として雇われるほどあって実力は確かなものだ。とはいえさすがに疲れがだいぶ見えているが。
「もう時間は十分稼げたと思います! 戻りましょう!」
「……ああ、走るぞ!」
敵を全滅させるまで戦う、なんて言わなくてありがたい。僕の知っているどこぞの人だと言いだしかねな……いや、言わなかったか。
「横に跳べ!」
「ほぁい!」
背中に掛かる言葉通り横へと跳ぶ。すると矢のような勢いで魔物が飛んでいった。
狙い外れた魔物は空中で止まり、くるりと向きを変える。さっきまでの枝より大きい。
パキパキと音を立てながら、蛇のように枝の身体をくねらせていく。ようやく姿が見えたが、背後からもまだまだパキパキ音が聞こえているあたり、これを倒して終わりとはいかないだろう。
つまり逃げる一択。
ちらりと先に逃げた医者を見る。追っ手はいない。この前にいる魔物はクーパー先生に見向きもしていない。
やっぱりこの魔物たちの狙いはこの果実なのか。
「これ、なんなんです!?」
「言っただろ! 特効薬だよ!」
「それがなんで魔物に狙われるんですか! これ捨てた方が逃げられる可能性が──!」
【捨てるな。それは必要だ】
シン君!?
必要って何だ。大好物なのか!? 美味しいのか、これ!?
「それがあれば長い間、石にされてた奴らが助かるかも知れねぇんだとよ!」
「これで!?」
「俺は雇われだから強く言えないが、それを捨てるのは最終手段だ! 逃げたいなら俺に渡せ! そしたら狙いは俺になる!」
でもそれをしたらまともに戦えなくなるんじゃ……!
やっぱり捨てよう! 長い間石にされてた人たちってことは、今回ダメでも次の機会があるのだろうし【捨てるな】
これを守って命を捨てるなんてできませんー!
【僕に身体を渡せ。そうすれば果実も命も、捨てる必要がなくなる】
「へ!? 身体をって……ケトスの時みたいに!?」
「どうした!?」
「あ、いや、ちょっと……」
体内で暮らしている方と話してました、なんて言えないよ。うっかり声に出して返事してしまったけども。
【今までと違い、お前は僕を認識した。血を流さずとも意識すれば身体を渡すことも、そして取り戻すこともできるはずだ】
「伏せろ!」
「はいぃ!」
尖った枝が頭上を通った。すぐにパキパキ音を立てて、先端の向きを直している。
膝が笑ってる。疲れが蓄積しすぎたか。
「早く離れろ!」
【早くしろ! 僕に寄越せ!】
「わ、わかったよ! お願い!」
交代ー!!
念じた甲斐があったのか、身体から自由がなくなる。
ガクンと首から力が抜け、見えるのは地面のみ。その姿勢のまま、口が弧に歪む。
そのままシン君は右手を空にかざした。
「それでいい」
迫り来る宿り木の針が突如現れた炎に呑まれ、灰となって散った。
「は!? 占星術か!?」
「……」
これで確認できる宿り木は残り2体。この分なら楽勝そうだ。
シン君は自身の(というか僕の)右手に噛みついた。強く噛みつき、肉が千切れる。
シンくーん!? 痛いんですけど!!
「何やってんだお前!」
「……」
傷口から血が流れ、その血は地面に落ちることなく形を変えていく。その形状は小さなナイフだった。
あ、武器作り? 先に言って欲しかった。
「……なんだそりゃ」
さっきから驚き連発のコルタナさんになんて説明しよう。後の事を考えると憂鬱だ。まあ後の事を考えれる余裕ができたと喜ぶべきか。
血のナイフを構えたシン君は、そのナイフでこの身体の腹部を引き裂いた。
「は?」
────え?
まだ武器にする血が足りなかったってこと? え、でもこれ。ちょっと危険な傷では。
「これでお前は戻れない。血が足りないために、主導権を取り戻せない」
「お、おい、大丈夫かお前!」
え。
何を考えて────
「せめてもの礼だ。邪魔な者は排除してやろう」
あの炎、スパインブレイズが残った宿り木を燃やし尽くした。
それはいい。それはいいが……身体の自由が戻らない。
「無駄だ。万全であれば、血の中の供物がお前に主導権を戻す。だがその血の大半は外に流れている今、真祖たる僕が自由に動かせる」
乗っ取られ────
いや、でもこれだと出血多量で死ぬ。僕もシン君も。
それを防ぐために怪我を治す必要がある。そのときに主導権は取り戻せるはずだ。
「お前が死ねば僕も死ぬ。それはお前の中に僕が残っている場合の話だ。ならば他の器に入ればいいだけ」
「さっきからお前、変だぞ……」
他の器……まさか。
「もっとも、弱りきった僕という存在では器の精神に逆に呑まれかねない。だがアクマウリがあれば別だ。これも供物に近い性質を持つ。僕の身体の再生は無理だろうが、違う身体に僕という存在を固定するには十分な効能があるだろう」
「おい、聞いてるのか?」
逃げて、と叫ぶも声は上がらない。
自由が戻らない。
心配するコルタナさんに、真祖が顔を向けた。
「人間、喜ぶがいい。神に仕えるために、お前の身体を使ってやる。まずは邪魔な中身を衰弱させるとしよう」
言い終わると同時に夥しい量の血が、お腹から噴出。
血は蛇のように形作り、コルタナさんへと迫った。
Q.真祖の手助けはケトス戦だけでは?
A.真祖も退屈かなって思って……。それに狙いがある時は暴れますよね真祖さんも。
とりあえず原作キャラ紹介。
コルタナ
大航海クエスト共闘NPCのウォリアー。
覚えているスキルは剣型ですが、報酬にメイスをくれるので両刀型っぽい。性格は一匹狼型。暗黒の森に赴いたのも武者修行という。
クーパー、およびメッツェン
大航海クエスト共闘NPCのモンク&モンク。
二人とも医者なので使うスキルは回復系のみ。戦闘経験がないためなのか、基本的に状態異常解除は次ターンになってから。先読み解除はできません。