とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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57.船に揺られて休息の時

 

 

 

 なんとか真祖が元の鞘に戻ったけども……差し当たっての問題はコルタナさんだなぁ。

 

 背中に件のコルタナをおぶりながら考える。

 

 突然真祖に狙われた被害者である彼が、どこまで記憶を残しているかだ。今は問答できない状態だから確認しようがない。

 だけどコルタナさんが身体を奪われる前、つまり僕の身体を操る真祖相手に戦っていた時の記憶は残っているだろう。彼から見れば突然襲ってきた自称漂流者。危険因子として拘束されたり殺されたりしかねない。

 

「そういえばアクマウリもなくなったんだよね……」

 

 マンティコアに石にされた人たちを戻すための薬。これについても船に戻ったら説明しないといけない。考えれば考えるほどおっくうになる。

 とりあえず真祖が暴れるのを防げた。そう、前向きに考えよう。石にされたままの人たちは申し訳ないけどもうちょっと我慢してもらいたい。

 

 あと前向きになれそうな情報といえば、アクマウリの効能だ。怪我をあっという間に治した治癒能力も驚きだが、食す前と今では変わった点がある。体内の真祖の感覚が明確にわかるのだ。不思議な感覚だけど、なんとなく今何を考えているのかわかってしまう。前のような一方的にこちらの思考が読まれるわけではない。今の真祖の考えは「時を待つしかないか……」という諦め気味な気持ち。おそらくもう騙されることは滅多にない。だからって信用もあまりしないけど。

 

「あとはメッツェンさんたちが無事に治療されてればいいんだけど……」

 

 サファイアさんがちゃんと処置したと思いたいが、彼女の処置がマンティコアの石化症状の治療法として正しいのかどうかも疑わしい。まあ、クーパー先生なら大丈夫か、と問われたら微妙ではあるが。何せ相手はマンティコア。真祖やクラーケンと同じ危険生物と考えた方がいい。

 

「……おい、お前、なんなんだ」

 

 背中から声が掛かる。

 さてさて、どう答えたものか。とりあえず今の状況説明をしとこう。

 

「あ、気づきました? 今船に向かってます。魔物は追ってきてません」

「質問に答えろよ」

「えーっとですね……説明がすごく難しいんですよ。何から話せばいいか……あ、先に言っときます。僕は魔物じゃないです。えっと、どこまで覚えてますか?」

「……気持ち悪い血の塊が入ってきて、身体が勝手に動いて、気持ち悪い血がまたお前に戻って行った」

「ほぼ全部覚えてるじゃん……」

 

 やっぱり乗っ取られてる最中も意識があったか。

 

「あの血と、お前、なんなんだ」

「……血は人魚ですね。僕の血じゃない、人魚の血です」

「なんでそんなものがお前の中にあるんだ」

「な、なりゆき……?」

 

 寝てるところを起こしたら体内に入られました。なんて、自分で思い出しても意味が分からない。理不尽トラップすぎる。

 

「詳しく話せ。船に着くまでに、全部」

「船に着いてからじゃダメですか?」

「ダメだ。俺は一応あの船の護衛として雇われたんだ。お前が巻き込まれただけの漂流者か、それとも危険な存在か、知っておかないといけない」

 

 自分で言うのもなんだけど、真祖が中にいる時点で危険な存在だと思う。傍から見れば、いつまた人魚が暴れるかわからないだろうし……でもオランピアみたいにすぐ殺そう、みたいな考えを持たれなくて安堵した。

 

「信じがたい話だと思うんですけど……」

「いい。血の塊が動きまわってたことに比べりゃどんな話も信じられるからな」

 

 うーむ。

 まぁ、話すしかないかな。それにこの時代の人に、僕の話の信憑性がどんなものなのか確認もしたかったし丁度いいかもしれない。

 周囲に魔物はいなさそうだし、いったんコルタナさんを降ろして話すことにした。

 

「僕が生まれたのは、500年以上前です」

 

 世界樹計画も、フォレストセルも、全てを聞いて彼はどう思うだろうか。人魚の血の塊よりも荒唐無稽に感じるだろうか。

 

 

 

「────弱っていた人魚を発見して、僕は寝惚けながらも人魚を起こしたんです。その人魚は目の前の人間の体内を隠れ蓑にしようと体内に入ってきました。ただ、僕の血には特殊な予防薬が溶け込んでいたせいで人魚は僕を乗っ取れず、いつしか1つの身体に2つの精神となったようで」

 

 ここまで話を遮られることがなかった。彼はずっと黙って聞いている。

 

「まぁ最初の方の世界樹計画とかは蛇足でしたけど、とりあえず僕の体内に人魚の血が入っている理由は以上です」

「……正直よくわからなかった」

「デスヨネー」

 

 いきなり口頭で世界樹計画から話されてもさっぱりだろう。目の前の人間は古代人です。古代の知識を語ります。なんて、突然言われても理解は難しい。

 

「わからないから知りたいことを俺から質問する」

「はい」

「お前自身は血を操ったり炎を出したりはできないのか?」

「無理です無理です。それは全部体内の真祖、人魚の力ですね。あ、でも水の中でも苦しくないからもしかしたらできるかも……?」

「試そうとするな。手を降ろせ」

 

 手のひらに、炎よ出てこいと念じたけど出なかった。辛い。

 

「あの時はなんで人魚が出たんだ? 制御できないのか?」

「騙されたんですよ……助けてやるって言うから、それに制御できると思ってたんですが」

「できなかった、と」

「言い訳になりますが、抜け道を使われました……。この身体の主導権は僕で、真祖が表に出ていてもすぐ取り返せるはずだったんです。ですが、僕の身体から血が足りなくなると、真祖に主導権を奪われるようで……」

「それであの自傷か。……じゃあお前が大怪我したらまたあの状態になるってことか?」

「おそらくは……」

 

 アクマウリの治癒能力も合わさって今は完全に主導権を奪い返しているけども、それどころか前よりも力関係がこちらに傾いている気がするけども、やっぱり大出血すればまた逆転されるだろう。

 

「……とんでもない爆弾だな。正直古代人とかどうとかより、俺が手も足も出せないような危険な人魚がいることの方が驚きだ」

「まあ古代人は嘘っぽく見えますよね」

「嘘とは思ってない。ただ、俺としては昔の話より今の話が重要なんだ。昔の話なんてどうでもいい」

 

 なんとなくわかる気がする。

 現在より遠い時間軸の話なんて、重要視は難しいものだし。それが未来ではなく昔の話となればなおさらだ。

 

 ……少しだけ寂しく思えてしまったのは何故だろうか。

 

 ひょっとして特別扱いを受けなくてがっかり、みたいな自意識でもあったのだろうか。そんな馬鹿な。

 

「あー、今のは俺が悪かった」

「え? 何がです?」

「お前の生まれた時代なんだよな。どうでもいいってのは言い過ぎた」

「……むぅ」

 

 むむぅ。

 ちょっと思いがけない感覚だ。

 

「それより! ……もう船に戻りません?」

「ああ、そうだな。船の状況が気になる。それとお前の説明は俺がするよ。お前の話通りなら、この時代の常識なんて知らないんじゃないか?」

「え、あ、はい。お願い、します?」

「なんで疑問形なんだよ」

 

 いや、なんか急に親身になってくれるとは思わなくて。

 いったいなんでだ。最初森の中で会った時はもっとこう、暴走しそうな人イメージがあったのに。第一印象で誤解されるタイプなのか、この人。

 

 話もこれで切り上げ船に無事戻れば、サファイアさんの処置は大丈夫だったようで石にされたメッツェンさんと兵士たちは全員無事だった。ただ石になっていた影響でか、まだ身体に痺れが残っているらしいので船室内でゆっくりしてもらうことになった。念のためクーパー先生がそばで看ているとのこと。

 

 この島まで操舵は兵士がやっていたそうだが一応そこは元海賊の僕。海図と羅針盤でもあれば問題ない。なので舵を握ってはいる。周囲の見張りはコルタナさん。ただ彼は今、船室のクーパー先生に森での出来事を報告しているので甲板にはいない。代わりに……

 

「生還できたって安心したところで来るのよ。絶対そうよ。私の人生はいつだってそうだもの。本でこういう展開いくつも見てきたし間違いないわ」

「……」

「どうして何も言ってくれないの? やっぱり私なんて屑なのよ。誰も私に期待してないし、氷属性には姉さんやアンバーみたいな派手さもないのは当然よ。三姉妹で使えない屑サファイア、いえ、クズイアよね……」

 

 なんて声を掛ければいいんだ。ちゃんと見張ってますー?って言ったらきっと信じてもらえないなんてってなって落ち込むよコレ。

 

「えっと……シバってどんなところなんですか。僕、初めてで」

「海上都市シバは私なんかが足を踏み入れるのが烏滸がましい場所です……。水門で囲まれていて水の管理と同時に魔物の侵入を防ぐ構造をしているんです。私も氷の占星術より水の占星術を勉強するべきでしたね。水なんて誰も使ったことがないし、そしたら、ああ、でも私なんかができるのは簡単な氷ぐらいですよね。自惚れすぎですよね」

「た、ためになるなぁ! サファイアさんのシバ情報は!」

「……そうですか? でもどうせお世辞ですよね。クズイア疲れるわーとか思ってるんですよね。いいですよ別に、気にしてませんし」

 

 コルタナさん、早く戻ってきて。サファイアさんと2人っきりって疲れるわ。

 

「本当なら今頃私も姉さんたちとダマバンドのお祭りに参加してたのに……なんで海の厄災の近くをうろついてるの。そういう星の下なのね。知ってた」

「ダ、ダマバンドのお祭りってどんなのですか! 僕、全然知らないんですよ!」

「竜に感謝と謝罪を捧げるお祭りです。あと占星術師のちょっとした集まりにもなってますね。たしか今年は封印祭も兼ねて……行かなくて良かったかも」

「竜……?」

 

 竜を祀るとかそういうのだったらなんとなくわかる。

 だけど出てきた言葉は感謝と謝罪。感謝は、何か伝説的な話があるのだろうが、謝罪はなんだ。

 

 疑問に答えたのは船室から出てきたコルタナさんだった。

 

「ダマバンドは竜によって栄えてる都市だ。竜を封印して、生かさず殺さずの状態で都市を守っている。その甲斐あってか大異変の時も、今までも、目立った被害がない場所らしいな」

「報告は終わりました?」

「ああ、まぁおとがめなしにはならなかったけどな。お前はシバで女王と会ってもらうことになった」

「意味が分からない」

「シバが求めてた果実をダメにしたんだしな」

「庇ってくれなかったんですね……」

「無茶言うなよ。まあ悪いようにはならないさ。調査隊の恩人みたいなもんだしな」

 

「私は空気。空気と同じ存在。いえ、酸素を消費している分空気よりたちが悪い澱んだ何か……」

 

 サファイアさんがまた負のオーラを出し始めた。ダマバンド説明の機会を奪われて落ち込んでしまったか。

 突然会話に入ってきたコルタナさんのせいだぞ、と目で訴える。彼は困ったように頭を掻いた後。

 

「あー……、俺は説明が下手だからな。ダマバンドの祭りについてはそこの占星術師から聞いとけ」

「サファイアさーん! 説明おねがいしまーす!」

「……気を遣わなくてもいいですよ。でもお祭りですね、お祭り……その、さっき彼が言いましたが、竜を利用して栄えているからその感謝。あと生かさず殺さず、自由も与えない状態だからその謝罪、慰めのお祭りです」

「ほほー」

「なるほどー」

「……でも時間と共に封印はほころびが生じるらしく、何十年に一度って頻度で封印し直す必要があるそうなんです。その年は封印祭って言って、守護竜と戦う祭りになるそうです」

「マジか! くそ、なんで俺はそんな年にダマバンドにいねえんだ……!」

 

 突然コルタナさんが元気よく喰いついた。なんだ、戦闘狂か。

 

「竜と戦うって言っても本当に戦うわけじゃないんですよね? 何かこう、戦いを模した芝居をするみたいな」

「本当に戦うらしいですよ。万全の竜相手じゃないから危険は少ないって手紙には書いてありましたけど……」

「手紙?」

「わ、私以外の姉妹は優秀なんです。封印祭は自主参加の人と指名参加の人がいて、指名されるのは優れた人に……何かの間違いで三姉妹ひとまとめで呼ばれちゃっていて……」

「そんな人が密航を……」

「シバで裁かれますね……縛り首ですよね……」

「恐怖政治すぎる」

 

 しかし……実際に竜と戦うお祭りか。

 竜の血が欲しい僕としては興味深すぎる話。シバでの謁見が終わったらすぐにでもダマバンドを目指してみたいところだ。

 

 シバに向かっているのにダマバンドの話で盛り上がっていたが、ようやく目的地である海上都市シバが霧の中から見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 






今船に乗ってる人たちの出身。
兵士ーず:シバ
クーパー&メッツェン:シバ
コルタナ:シバ
サファイア:ダマバンド

なイメージです。原作にはそんなこと一切書いてない。ザ・ねつ造。

Q.シグナル三姉妹はなんでシバにいたの?
A.いつもの暴走。深い意味は全くない。


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