アーモロードが、海の問題解決から手を引いた?
そんな馬鹿な。
だって、あそこはどこよりも海の問題に頭を悩ませてきたんじゃないのか。海路を繋ぐことにあれほど執心していた。
「渦潮の元凶の海異コロトラングル、および霧の中から現れる魔獣マンティコア。この2体の討伐は海の平和に必要なこと。最初はアーモロードも乗り気だったよ。資源や兵力をシバに寄越してくれて、海の平和を取り戻すんだって意気込んでいた。それに釣られてシバのみんなも、他の都市もやる気が溢れていったよ」
港長は海の平穏を取り戻したがっていた。離れ離れになった仲間ともう一度再会するために、長い時間海と戦ってきた。だから当然、魔獣や海異の解決に彼も力を貸す。彼自身が歳で動けないとしても、何らかの方法で、兵や資源を。ここまでは想像できる。
でもなんで、解決から手を引いた?
「だけど少し前、突然アーモロードの兵たちがシバから撤退した。妾も国を治める立場上、自国優先という考えはわかるよ。何か国内で問題が起きたのかもしれないって思ったさ。だけどアーモロードの撤退理由を聞かされたら……馬鹿馬鹿しすぎて笑っちゃったなー」
「……なんて」
「100年前に海底に沈んだ都を見つけた。沈んだ都を助けるため、他に回す余力はない……だってさ」
海底に沈んだ都……深都のことだ。
ということは、トーマさんたちは無事見つけれたということだろう。少し安心した。
だが女王は、アーモロードの選択を許せなかった。
「ふざけるなッ! 100年前に沈んだ都市と今、海の上の各都市! この2つでどうして過去の遺物を取れる!? 海上の平和よりも沈んだ都市の発掘が大事か!? 今を生きる者たちの平穏よりも過去の都市が欲しいか!?」
……
「各主要都市が繋がり、ようやく100年続く厄災に立ち向かえる時が来たというのに……100年前の遺物より100年続いている問題を解決するべきではないのか!? 過去にしがみつくのは何故だ!!」
……なんでだ。
確かにアーモロードは、いや、元老院は深都を切望していた。見つかったからには何らかのアクションをするとは思っていた。だけど海の問題よりも優先する意味がわからない。
「……ごめん。そなたに当たったところで意味はないというのに」
「いえ、大丈夫です」
「…………とにかく、今、シバの兵士はアーモロードに不満を抱えている。士気が上昇していた時に肩透かしを食らってしまったからね。このままアーモロードに足並みを揃えるなんてとても無理。だからアーモロード抜きで問題解決に当たる。そのため、ダマバンドとアイエイアにも話を通したい」
元々その2都市も海の問題解決のために準備していたのだろう。アーモロードが突然抜けたことにより、二の足を踏まされている状態で。
「本来であれば、使者はシバの者が出すべきだろうが、少し問題が合ってね。問題というか不安なんだけど……」
「はい?」
「ダマバンドはともかく、アイエイアに奇妙な噂があるんだよ。悍ましい化け物が海を泳いでいるとか、美しい女が海を歩いているとか」
「なんですかそれ……」
「妾もわからない。だけど無視するわけにもいかないんだよね。この海は異常ばっかりじゃん。だから海を渡るには力が必要でさー、でも人間は海だとか弱い生き物からねー。で、この報告書だと、そなたは人魚の血を取り込んだおかげで溺れることはないんでしょ? なら何かあっても、情報を持ち帰れる可能性が誰よりも高い」
普通の人間なら船を沈められたらおしまいだろうけど、僕なら泳いで移動できる、みたいな感じかな。まぁ魔物に襲われたとしても、どんな魔物だったかを近隣に伝えれるだけでも大きく変わるだろう。使者としての役目を果たせる可能性も高いし、情報を抱えたまま消えることも早々ない。シバはこれ以上の肩透かしを望んでいない。
そう考えると僕はシバにとって渡りに船な存在なのかもしれない。
「まあ色々愚痴っちゃったけど、話を戻すとそなたら2人はダマバンドとアイエイアに向かってもらうよー。あ、お土産とかは気にしないでいいから。ダマバンドもアイエイアもちょっと妾の味覚と合わなくてねー」
「は、はぁ」
「それと、海異及び魔獣との戦いには2人にも協力してもらうよー」
その言葉に返事する前に、コルタナさんが間に入った。
「それは危ないだろう。こいつが怪我したら人魚が暴れるかもしれないんだ。使い程度ならともかく、厄災との戦いは外すべきだと思う」
「やっと妾に話してくれたねー。もちろん人魚の危険性は……実際に見たわけじゃないけど軽視してるわけじゃないよ。だけど魔獣も、海異も、軽視できる相手じゃない。やつらは腕試しや武者修行に挑むような相手じゃないよ」
「……っ」
この女王は雰囲気こそ崩しているが、その実内面は一切崩れていないのかもしれない。
コルタナさんが何も言えなくなったのは、彼にとって痛いところを突かれたからか。
「僕が役に立てるかは怪しいんですが……」
「そこは協力だねー。人魚の力でどうにかして、なんて言わないから安心して。でも使いに関してだけは、最悪人魚の力を使ってでも果たしてほしいな」
「泳ぐことなら、まあ……」
「ありがとねー。それじゃ密航者のサファイアもそなたらの護衛に任命させるよ」
「へ?」
え、なんで。あの人が護衛とか、不安要素しかないんだけど。
「サファイア、というよりシグナル三姉妹は全員優秀だからねー。全員性格がヤバイって話だけど。弱みを見せてくれたんだから最大限利用しないと」
「え、あの、姉妹全員性格がやばいんですか……?」
「それぞれ別方向にヤバイって聞くねー。シバにまで評判が届く天才だよ。奇人要素の方が強いけど」
そんなヤバイ人を護衛につかせるって何考えてるんだ。
ジュースをズズズと飲む女王は何も考えてなさそうにも見える。でもその実、ちゃんと考えていたりは……この護衛の任命は何も考えてないだろうなぁ。
「あー、そうだ。最後にこれ。たぶんダマバンドでそなたのことを魔物と考える占星術師がいると思うから、その時は今渡した紙を見せてね」
「……この紙は?」
「書いてある通りだよ」
……読めません。
ただ豪華な捺印があるから、特別な何かだとはわかるけど。
「……えっと、堅苦しい言葉だから噛み砕いて言うと『こいつ、半分人魚。敵じゃない。シバの女王、保証するよ』って感じ」
「何故カタコト……」
「噛み砕いた結果結果。とにかくこれはトゥリタという占星術師に見せること」
保証書みたいなものか。僕についての。
こんなものが必要ということは、普通にしてても占星術師にバレる可能性がある……? でもサファイアさんは……アレは参考にならないか。他の占星術師は、カナエ……もちょっと普通の占星術師と違うからなあ。あとはスカンダリア大灯台で一緒に戦ったカストルさんぐらいか?
でも魔物扱いは受けた記憶がない。となると、ダマバンドの特定の占星術師のみを女王は言ってるのかもしれない。
「それでは報告を終えてよろしいでしょうか」
「ん、いいよー。クーパーは連れてきただけで何も報告してなかったけどね」
「私は報告書を作成しましたから」
「医者が女王に見せる態度と思えないんだけどー?」
女王が下々に見せる態度とも思えないんですけどー?
「そんじゃよろしく頼んだよー」
部屋を出る直前までだらけきった女王様の姿だった。扉が開くときだけキリッとする辺りはさすがなのかもしれない。
ダマバンドに向けての出発は明日。それまではシバで身体を休めるようにとのこと。
そんなわけで宿へと案内してもらっているのだが。
「親しみやすい女王だったでしょう?」
「そうですけど、それよりクーパー先生の性格には失望しました、ちくしょう」
「医者って優しいわけじゃないんだな、ちくしょう」
「相手を想っての処置をするのが医者ですから」
「面白そうだったので、とか言ってましたよね」
「記憶に御座いません」
「こいつ……!」
滅私奉公を求める気はないけどもこの医者は……!
「そうだ。入用のものがあれば教えてください。明日までには用意しておきますよ」
「話を逸らし始めた……。とりあえずこの銃に合った銃弾を、あと医療品と、小瓶なんかが欲しいですね。複数」
「俺は特にないな。旅費ぐらいは言わなくても出るんだろ?」
「大丈夫です。あと、大きな声では言えませんが、務めを果たせば報酬も用意されていますよ」
なんとまあ。しかし僕の欲しい報酬はここでは用意できないと思う。
まあもらえるって言うならありがたくもらうけど。
「そのためには無事に戻らないとですね」
「ええ、プレッシャーを掛けるわけではありませんが、あなたたちの働きがマンティコアの犠牲者を救う足掛かりにもなります。私からも、お願いします」
「……魔獣と海異の討伐なんですよね?」
「はい、魔獣がいなくなれば、安全を確保しつつ暗黒の森探索が可能になります。もしかすればアクマウリもまた発見できるかもしれません」
マンティコアを討伐できればこれ以上の犠牲者も増えない、そう続けるクーパー先生は真面目な雰囲気。人が緊張で固まる姿を面白がっていた人物には見えない。
魔獣、海異……正直海異ってのはどういうものかわかってない。せっかくだからと尋ねることにした。
「海異ってのはどんなのですか? 渦潮の原因とは聞きましたが」
「海異コロトラングル。シバの近海を根城にしている魔物です。特徴としては……巨大なエイだそうですよ。あとは、マンティコアと交戦している目撃情報がありますね。見間違いの可能性もありますが」
マンティコアとは仲が悪い……ってことはサエーナ鳥などと同じで真祖に反応して襲ってくるタイプか。出血は厳禁だ。
「魔獣に海異討伐。海竜は放置なのか?」
今度はコルタナさんが質問した。
そういえばメッツェンさんが言ってたっけ。海の厄災は4つ。霧、渦潮、魔獣に海竜だと。海竜だけ放置するのは奇妙な話だ。魔獣と海異討伐のあとに、ってだけかもしれないけど気になる。
「海竜については、私も知らされておりません。可能であれば討伐してほしいと個人的に思いますが……難しいでしょうね」
魔獣と海異の討伐への士気は高いが、海竜には消極的。強さの差があるのか。
「竜の血は霊薬になるって聞いたことあるけど実際のところどうなんだ? もしも本当なら魔獣より海竜を優先しそうなもんだけど」
「さあ、誰も試したことがありませんからね。気軽に試せることでもありませんし……」
「……ダマバンドに竜がいるんですよね? その竜の血はダメだったんですか?」
竜の血の話になっているのにダマバンドが無視されている。何も知らない僕としては聞かざるを得ない。
「ダマバンドの竜はダメだ。そもそも血がないからな」
「えぇ……」
「ダマバンドの守護竜に血は残っていません。一説では封印を施す際に弱らせるため血を奪ったとか。それでも生きているのは竜の力と言ったところでしょうね」
血液もなしに生きる生命体とは。それは本当に生命体なのだろうか。
しかし、となるとダマバンドの竜には僕の期待している性能はなさそうだ。海竜かぁ。確実に個人で撃破を狙える相手ではないだろう。魔獣と海異の討伐後のシバ次第といったところか。
なんにせよまずは使者として役目を果たすこと。目の前のことを確実にやっていかないとだ。
とりあえず今回の章のボス情報は部分的なとこもありますが出揃った気がします。
アーモロードの撤退について
海都で不穏な状態となってます。同時に深都でも。
その影響&姫様の願いのため、海底へ兵や物資を移動。他に回す余力はなしです。外交? そんなことより深都だ!な状態。
一部のアーモロードの人は海の問題解決を優先すべきと訴えますが、兵の指揮権はないため無力状態です。
それと書き溜め放出はこれでおしまいです。また溜め始めます。
この章のミゼルパーティは現地勧誘式のつもりでしたが、どうせなら一部固定しようと思いコルタナさんは強制加入です。サファイアさんは今後の展開次第。
書き溜め放出の間にボス一体も倒せてないってマジ?