とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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6.クロスジャンケ海賊団脱退

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君! 本当によくやってくれた!」

 

 足の治療を受けて、インバーの港へ戻ると真っ先に港長が出迎えてくれた。

 

「長年目の上の瘤だった問題はなくなったおかげで海都が各都市と繋がりを再び結ぶ足がかりができた! 本当によくやってくれた! これからは海都に訪れる者も増えるだろう! これで元老院も海路復活に力を注ぐようになればいいのだが……っと、これは関係のない話だったな。とにかく改めて、本当によくやってくれた」

 

 嬉しさ有り余っているのか何度も同じ言葉を繰り返してるんですが。

 

「む? そういえばスターブラザーズが見えないが……」

「彼らなら灯台に残ったわ。自分たちは星を見に来たんだからまだ帰れないってね。早く一人前になるためってね」

「? なるほど。では彼らへの報酬は戻ってからにするとして、これが今回の作戦の報酬だ。受け取ってくれ」

 

 港長はヴィクトリア姫にお金を渡そうとしたけど、彼女は受け取ろうとしない。

 

「私たちは金銭のために今回参加したわけじゃないわ。だからそのお金はミゼルに渡してちょうだい」

「彼にも報酬は用意してあるとも」

「彼の海賊に、でしょ? ミゼル個人に渡してあげて。彼にはとても助けられたから」

「ふむ、そこまで言うならそうしよう」

 

 何も言ってないけど報酬が僕にまできそうだ。

 

「えと、いいんでしょうか? 僕は船で運んだだけですし……自傷行為をしただけですし……ヴィクトリア姫が受け取るべきかなあと」

 

 自分で言っておいて何やってんだろう僕は。

 

「ヴィクトリア姫って……まあ姫だけど。普通にヴィクトリアでいいわよ。それに、その自傷行為がサエーナ鳥を止める有効手段だったんだから、あなたにも報酬があってしかるべきよ」

「ふむ……すまないな。それなら別途報酬を用意するべきなのだろうが、生憎とこの港はあまり財政的に余裕はないんだ。今回の報酬も恥ずかしい話だが、この老人の財布から出ているわけだからな……」

 

 遠い眼をしないでください。世知辛い話だけども。

 

「姫様の言う通り報酬は受け取っておきな。あんだけ頑張ってたんだからな」

「アルバートさん……」

「私としてはその報酬で海賊を辞めてほしいんだけどね。自分で生活できるための準備金として使ってもらえたら……まあ、あなた次第ね」

「姫様……金銭感覚が養われつつありますね……この旅は無駄ではなかったですね……」

「ベンジャミン、しみじみ言うのはやめなさい」

 

 海賊を辞める、か。

 サエーナ鳥討伐前の僕ならすぐにその通りにしていただろう。今はそんな気持ちはない。拾われた恩もあるし、なんというか、仲間として扱ってくれた人たちなんだ。悪人じゃないってのもわかってるし、このままでいようと思う。

 

「それじゃ、私たちはもう行くわね。私たちはアーモロードにしばらく滞在してるわ。縁があったらまた会いましょう」

「あ、はい。ヴィクトリアひ……さん! お元気で!」

「あなたこそね」

 

 ヴィクトリア姫、と呼びかけたら睨まれたので、急遽呼び方を変更した。

 王族との距離感としてはどうなのだろう。王族って感じはあまりしなかったけども。

 

 そういえばクロスジャンケの人たちはどこにいるんだろう。さっきから姿が見えない。

 

「彼女たちは行ってしまったことだし、報酬は君の手にだな」

「あ……」

「有無も言わさぬといったところかな。遠慮せず受け取りたまえ。私には何があったかわからないが、彼女の言う通り君は今回の作戦に大きく貢献したというのはわかるとも」

「あ、ありがとうございます」

 

 お金を受け取り、気になっていたことを聞く。

 

「あの、ザビィさんたちは?」

「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。アーモロードの酒が呑みたいと言って街へと三人で行ってしまったよ。フッフッフ。きっと報酬はすべて酒に変わるのだろう。豪快なことだな」

 

 だから君の受け取った報酬は隠し持っていた方がいいかもしれないね。と楽しそうに言われた。

 へそくりを管理する気持ちだ……

 

「まあそれほど時間はかからないだろう。その場で呑むのではなく、船上で呑むための買い出しだと言っていたからな」

「船の上って、お酒を呑む余裕なんてあるんでしょうか……」

「明日は大丈夫だろう。海兵隊も同行するのだからね」

「へ」

 

 港長の話は単純な話、アユタヤまでの航路を繋げること。一度アユタヤからアーモロードまで通ったことのあるクロスジャンケと共に航海するのだ。その日程が明日。

 

「結構急ですね……」

「あくまで予定はだよ。だが延期した方がいいかもしれないな」

 

 港長は顎髭を撫でながら僕の足を凝視した。

 正確には足に巻かれた包帯だ。

 

「スターブラザーズの弟君に治療してもらったのだろうが、安静にと言われなかったかな?」

「……まあ」

「やはりそうか」

 

 流石に数時間で完治なんかしていない。

 幸い銃弾が足に残っているわけではないので治りは早いと言われたけども、痛みが完全に引くまで安静にと強く言われた。

 

「延期ならともかく、もしも出航する場合は君は荒事から離れないとだな」

「それはすごいありがたいです」

「ずいぶんと海賊らしからぬ発言だ」

 

 冗談じゃなくて割と本気です。

 

 とにかくザビィさんたちが戻るまでは、出航か延期かわからない。僕は港長に誘われ、釣りをしながら待つことにした。

 

 

 

 

「釣れません……」

「はは、気が早いな。まだ始まったばかりだぞ?」

「かれこれ一時間は経ってません?」

「まだ一時間じゃないか」

 

 港長も僕もずっと釣糸を垂らしっぱなしだ。互いに釣り果ゼロ。

 

「そういえば彼女たちから聞いたよ。君は釣り上げられたんだってね?」

「ああ、みたいですね……」

 

 釣り上げられたのなら釣られたくなる釣糸の動きがわかってもいいのでは。いや、わかるわけがないか。

 

「まるで人魚のようだな。実は人魚だったりしないのかね? 海の底から来たとか」

「純度百パーセントの人間です。海の底からは来てないはずです」

「そうか。海の底からの来訪者なら面白かったのだが」

 

 いったい僕は何を求められているのか。

 

「ところで、君は海底には何があると思う?」

「いきなりなんですか」

「なに、老いぼれの好奇心に深い意味を求めないでくれ。率直に答えてくれたらいい」

 

 海底……僕の目覚めた場所より沈んだ場所。

 

「……大昔に人が住んでいた街、ですかね」

「うむ。今も人は住んでいると思うかな?」

「え?」

 

 普通に考えたら海底に沈んだ街なんて人が住めないのでは。ふざけてるのかなと思い港長を見れば、その目は真剣そのものだった。雑談ではなく、これは何か探られている? 探られる理由も、何を探っているかも想像がつかない。だいたいこの質問の意図がわからない。

 

「……住んでいてほしい、です」

 

 思いのままに答えるしかない。何を探られているのか怪しんでへんてこな回答するよりは正直に。

 

「そうか。住んでいてほしい、か」

「はい、そうあってほしいです。というか、街が沈んでいるって知ってるんですね」

 

 500年前の街なんて歴史から消えているものだと思ってた。

 

「ん? 100年前の出来事とはいえ深都が沈んだことは知っているとも」

「へ? 100年?」

「うん?」

「100年?」

「うん、100年前だな」

「500年じゃなく?」

「どこからそんな数字が出てきたのか気になるが」

 

 あれ? あれぇ?

 僕のコールドスリープカプセルの時間設定が狂ってたのだろうか。500年寝たつもりが100年だけだった?

 

 いやいや、焦るな。深都って言ってたじゃないか。もしかしたら別。別の街が沈んでいるのかもしれない。

 

「深都っていうのは……?」

「ふむ……100年前の大異変について、何か聞いたことないかね?」

 

 ないです。

 首をふるふると横に振って答えた。知ってなくちゃいけない常識なのか。でも思いだせば100年というのはガブラーさんやザビィさんも言っていた年月だ。

 

「そういえば名前以外覚えてないんだったね。なら知らなくても仕方ないことか」

 

 自分のことなのにそうだったんですか、と言いかけた。

 このことはザビィさんから聞いたのかな。寝惚けてた時のやり取りのせいでザビィさんたちにそう思われたままだったし。けど説明するのも難しいしこのままでいいかな。

 

「100年前、このアーモロードはもっと大きな街だったのだよ。それに海も穏やかなものだったらしい」

「ほほー」

「だが大異変と呼ばれる災害が起きた。その結果、アーモロードの一部、深都は海に沈み、海も荒れ狂うようになった」

「その説明ざっくりすぎません? 途中で面倒臭くなったんじゃないです?」

「すまないね。歴史を語るのはどうも性に合わない。詳しく知りたければアーモロードの吟遊詩人に聞くといい」

 

 吟遊詩人への唐突なパス。まあ別に聞かなくてもいいや。とにかくアーモロードの一部が100年前に沈んだとわかったら充分。やっぱり僕は500年眠っていたんだとわかったんだから良し。

 

「海都の首脳部である元老院は、海底に沈んだ深都の発見を強く切望している。閉ざされた海とはいえ、漂流してくる者や小国の出の者、果ては荒くれものにも深都発見を協力させてね。協力者には報酬を、深都の人々には海都に住まう場所を用意している」

「それはまた……深都に人なんてありえるんです?」

 

 海底の街に人が生きて住んでいるとか、それは本当に人なんだろうか。

 でも元老院ってことはこの街のトップで……トップが妄言を吐いてるなんて考えづらいし……

 

「元老院は深都に人間がいることを確信しているのだろうね。100年探し続けてもなお見つかってはいないが……」

「確信する何かがあるんですかねぇ……」

 

 海底に沈んだ街……人間が住むには衣食住とかそれ以前に、酸素が必要だ。海底の街に空気があるのであれば、人間がいてもおかしくはない。海底に空気があり、なおかつ酸素が常に供給される状況だ。そんな都合が良いものが自然に用意されてるとは思えない……けど人がいるという確信を持つ何かがある。海底から地上への連絡手段、無線通信なんてなさそうだから、考えられそうなのはボトルレター?

 

 確信するための証拠が何かわからないけども、それよりもだ。海底に人が住んでいるというのなら、僕の仲間も海底にいる可能性も考えられないだろうか。

 僕が目覚めた場所は海だったが、もしかしたら海底で目覚めていたかもしれない。何かがずれて僕だけ海底ではなく、海上に行ってしまったとか。

 

 それに彼らなら、危険が及ばない場所に研究施設を新たに立ちあげるはずだ。海の魔物は今のところ深海魚のような存在は見ていない。なら海底は安全かもしれない。酸素の確保などができれば、だけど。それさえできれば彼らが拠点をそこに置くかもしれない。

 

「……」

 

 釣り糸が垂らされている海中よりもさらに下。海底に想像を膨らませていると奇妙な感覚が体の奥底で沸き上がった。

 

 何か、息が浅くなるような不思議な感情が沸き起こる。なんだろうか、これは…………懐かしさ?

 

「……深都発見の成果は出てるんです?」

「いいや、進捗は芳しくない。深都が気になるのかい?」

「少し……行かないといけない気がして……。何を言っているんだかって感じですよね」

 

 それなら、と港長が切りだす。

 

「君も深都発見のために動いてみるかね? 君のその使命感が何かわからないが、もしかしたら失った記憶に繋がることかもしれない。そういう冒険者もいないわけじゃないからな」

「……他にも記憶喪失の人が?」

「ああ」

「でも……勝手に船を降りるわけには……」

 

 もしかして500年前一緒にいたイミスではないか。そんなことを考えた。

 考えた途端、深都を探したい気持ちが強くなったけど、同時に拾ってくれたザビィさんたちのことを考えてしまった。

 仲間扱いしてもらってすぐにこんなの、非道なのではと。

 

 港長と僕の声、それと波の音しかない中、別の声が入ってくる。

 

「ふぅん、丁度いい話じゃないか」

「ザビィさん」

 

 いつの間にか来ていたようだ。

 その手には小さな巾着袋を持っている。

 

「丁度いいって何がですか?」

「あたしらはすぐにでもアユタヤに戻りたいんだ。アユタヤの人たちは今も不安の中にいる。だからさっさとこの街を出たいってのに、どっかの誰かさんが怪我したらしいからね」

「う……」

 

 そっと右足を見えづらい位置に動かそうとするが、痛くて小さく呻いてしまった。

 

「たかが鳥相手に大けがするような間抜けは、暗雲切り払うクロスジャンケにいらないんだよ。戦闘で碌に役立たない。じゃあオツムがいいかと言われたら記憶喪失で使えない。ごくつぶしにもほどがあるね」

「そんな言い方は…………いや、そういうことか。私が口を挟むことじゃないな」

 

 傷つく言い方をされたけど、少し離れた場所に心配そうに見ている二人の人影に気づいて何も言えなくなった。

 

 イビールさんとガブラーさん……大きいから思いっきり物陰からはみ出てるんですけど。

 

「海兵から顛末を聞いたよ。あんた、魔物を引き寄せるんだって? そんな体質のやつと海に出るなんてまっぴらごめんだね。だからあんたはここで船を降りな」

「…………すみません」

 

 僕はそれほど鈍くない。だからこの意味はわかる。

 

 記憶の手掛かりがあるかもしれないこの街にいろと、言われているのだと。

 

「その銃と剣は餞別としてやるよ。この小銭も重くて鬱陶しいから一緒にね」

 

 そう言って、手に持っていた巾着袋を投げてよこした。

 受け取れば硬質な物のこすれる小気味いい音が布越しに聞こえる。

 

「……わかりました。この街に残ります」

「ああ、そうしな」

「でも」

 

 仲間扱いしてもらったばっかりなのに、こうして別れ話を切りださせている。嘘をつくのが苦手そうな人にだ。

 このままでは駄目な気がする。だから続けた。

 

「僕の求めているのが見つかったら、そして、引き寄せる魔物にも苦戦しないようになったら、またザビィさんの船に乗りたいです。それじゃ、駄目ですか……?」

 

 言ってから気づいた。

 

 なんか、すごい恥ずかしい。

 

 顔が赤面する。こういう青春的なやり取りなんてしたことないから仕方ないんだと誰に向けてかわからない言い訳を心でしながら言葉を待つ。

 ザビィさんは肩を震わせ、そして。

 

「くっ……あははは! 真っ白な面が真っ赤だよあんた!」

「し、仕方ないじゃないですか!」

 

 笑うのひどい。

 しばらく笑いっぱなしだった。ようやく落ち着いたころ、と言ってもまだ少し笑っているけども、回答をもらえた。

 

「ふ、ふは……わかったよ。くふ。下っ端その3の席は空けておいてやるさ。ま、その時が来て、あんたの気持ちが変わってなければだけどね。あんたにはまだ海賊以外の道があるんだ。自由な奴じゃないとくだらない海賊になっちまうよ。あたしらクロスジャンケ海賊団は義賊でもあるんだからね」

「はい!」

「ま、それまでにあんたはくたばってしまいそうだけどね」

「ひどい」

「そうならないよう気をつけな。再会出来た時は、酒ぐらいは交わしてやるさ」

 

 お酒はあまり飲めないんだけどなあ。でもそれ言うタイミングじゃないよね。

 

 さて、とザビィさんは港長に顔を向ける。

 

「出航管理はあんたがつけてるんだろ。さっさと来な」

「ああ……と、ちょっと待ってくれ。今竿が引いて……」

「んなもん後にしな」

「それはあんまりじゃないか」

 

 港長はため息をつきつつ強く引っ張られている釣り竿を僕に渡した。

 

「君に続きは託すよ。彼女は私をご指名のようだからな」

「ふざけたこと言ってんじゃないよ」

 

 ザビィさんに引きずられていく港長と、物陰からハンカチを振っているイビールさんとガブラーさんを見ながら僕は魚を釣り上げた。

 釣れた魚はまだ成長途中のような大きさだったからリリースした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


メインキャラのミゼルさんのクラスは海賊を辞めましたがパイレーツです。
ただし銃&剣という装備。せかダン2のパイレーツかな?(せかダン2未プレイ)
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