ダマバンドに向けての出航の時。
クーパー先生とメッツェンさんが見送りにきてくれた。見送りはついでで説明の方が大きいかもしれないが。
「オオオォォ……オオオォォ……」
「頼まれていたものです。銃弾に医療品、小瓶。あと旅費ですね。食料は船の厨房にすでに積んであります。2週間分の貯えはあるそうですよ」
「助かります」
「アアアァァァ……どうしてェェ……」
「鉄板装甲ですので丈夫ですが、できるかぎり魔物との交戦は避けてくださいね」
「はい」
用意された船は今までのより遥かに頑丈そう。なんでもアユタヤの技術者の力を借りているのだとか。とはいえ強力な魔物相手には大して意味はなさないらしい。
「そ、その、大変だと思いますが、お願いします! がんばってくださいね!」
「任せてください。メッツェンさんはもう大丈夫なんですか?」
「もう痺れも抜けました。今日から復帰です!」
「もう船に乗りたくないのにィィイィ……」
とうとう我慢できなくなったのか、コルタナさんが気まずそうに言った。
「なあ、アレ放置で大丈夫なのか?」
「触れちゃダメですよ。触れても意思疎通が難しいですから」
「今度こそおしまいよォォうふぉ!? ごほっ! げほっ……むせた……」
悲観的になっている面白占星術師ことサファイアさんは見ないことにした方がいい。触れると話がこじれかねないのだから。
「では、出航しますね。コルタナさんも忘れ物はないですか?」
「問題ない」
「わ、私、心の準備を忘れてるからシバに残って……いえ、なんでもないです。私ごときが意見なんてほんとごめんなさい」
「はい、出航ー」
「オアァァァ……アァァ…………」
渡り板を外し、錨をあげて船を出す。
シバの見張りいわく今なら出航も問題ないから急げとのこと。海異コロトラングル対策だとか。出るときはタイミングを計れるけど、シバに戻るときはコロトラングル対策が難しそうだ。鉄板装甲なんてきっと意味をなさないだろう。
シバを出れば青い空……は見えない。白い雲……も見えない。いつもの海である。
海図を見れば指定された航路がびっしりと書いてある。これ以外の航路は海流が危険だとか。
「……ダマバンドまでの道のりも長いなぁこれ」
「線だらけでさっぱりわからん。俺は何したらいい? とりあえず魔物が来ないか見ておこうか?」
「お願いします」
「あ、あの、私は……! 邪魔にならないように隅にいますね」
「サファイアさんもコルタナさんと見張りをお願いしますねー」
「え!? は、はい……」
彼女との会話のコツは掴めてきた。サファイアさんの主張を少しでも聞き入れたら話が変な方向へ飛び跳ねてしまうのだ。だから伝えたいことをびしっと言う。それでいいとわかった。
しかしひどいものだ。暗黒の森からシバへ戻る際は気にしなかったけど、この周辺の海域は飛びぬけておかしい。海流の流れはどこもおかしいが、ここの異常さは海流が密集している。一度流されれば全く知らない場所に出るか、渦潮一直線だろう。これも海異とやらの影響か。
渦潮と海流への警戒はいつも以上に引き上げて……あとは、アイエイアの噂か。化け物と美女。化け物は魔物だろう。美女については……ファンタジーなら確実に魔物だ。海を歩いている美女なんて普通じゃない。
この船には大砲のような兵装はない。だから遭遇した際は逃げるしかないだろう。甲板に乗り込んで来るようだったらコルタナさんやサファイアさんに応戦してもらうけども。
海異、魔獣、竜に真祖、それに謎の化け物と美女か。
問題が山積みすぎる。ただでさえこっちはセル対策のためにみんなと合流しなくちゃなのに。
問題といえば、アーモロードの撤退も気になる。
深都の発見に力を注いでいたのは知っていたけど、まさか他都市を無視してまで優先するとは思わなかった。港長はきっと黙っていなかったろう。彼はアーモロードの兵の撤退に反対したはずだ。海の厄災に対処するべきだと。だけどそれも叶わず。
アーモロードの海兵を使えないとなると、あとの手段は冒険者頼みか。
アーモロードでは冒険者を集めていたし、その集めていた理由の深都も発見できた。いわばフリーがいっぱいできたはず。勝手な予想だと港長は海兵がダメなら冒険者を雇うイメージがある。彼は何がなんでも海の平穏を求めていたのだから、自分の財産をなげうってでも、チャンスをものにしようとしたはずだ。
だけどシバの女王の発言を考えるに、冒険者集団は雇えてないのだろう。アーモロードから兵力は一切出されていない。
深都の発見からさらに元老院が冒険者に何かを求め始めた? それで手の空いてる冒険者がいないとか?
何を求めているんだ、元老院は。全然わからない。
だけど今回の件でアーモロードは孤立したのではないだろうか。各都市共同での討伐作戦。それを無視しての行動だ。あの街はこの先、大丈夫なのだろうか。
「あの霧の形、命を狩りとる形をしてる……私のこの先の予言よねきっと」
「何も見えねえよ。勘違いそのものだな」
「見えないんですか!? 私にしか見えないなんて、本当の死神の鎌……!」
「実際鎌って武器としてどうなんだろうな」
「2人とも本当に海を見張ってますか!?」
アーモロードの心配より、この船の心配をした方がいいかもしれない。
そう思わせる甲板でのやり取りだった。
異常海域を抜けて、もうじきダマバンドが近いという距離になると、海は霧が出ていること以外は穏やかなものへと変わっていた。
「……同じ海とは思えないですね」
これがダマバンドの守護竜の加護か。竜の気配による魔物避け、なんて程度のレベルではなさそうな効果だ。
しかしそれでも海流が急な場所がある。この場合は竜がだらしないのか、それとも海の異常さが強いのか。
霧の向こうにいくつもの風車の姿がぼんやりと見えてきた。
海図と航路はズレていなかったようだ。あれは間違いない、交易都市ダマバンドだろう。
「やっとダマバンドに戻ってこれた……あぁ、願わくば封印祭は終わってますように。竜と戦うなんて絶対嫌よ。死んじゃう。確実に死んじゃう……」
「ずっと疑問なんだが、こいつ本当に優秀なのか?」
「私じゃないんです。姉妹が優秀なんです。私なんてグズイアですぅ……」
「の、能ある鷹は爪を隠すって言葉もありますから……」
「無能なグズイアでごめんなさいぃ……」
「さーてダマバンドの港はーっと」
ネガティブ空間が広がり切る前に脱出だ。あとはコルタナさんに任せよう。
港には船が多く並んでいた。交易都市と言われているだけあって、大小関わらず様々な都市と交易をしているらしい。それに祭りの時期もあってか船は本当に多い。
港から見える街並みも飾り付けがされていて賑やかなものだ。
お祭りを堪能したいが、今は先に女王から預かったものをここの領主に渡さないとだ。港で見張りをしていた老兵士にシバからの使いといえば、待っていたとばかりに案内役がやってきた。
領主の館へと連れられている際、案内役が言った。
「いよいよ討伐の日取りが決まったのですね。我々ダマバンドも協力を惜しまないですよ! 一丸となって立ち向かいましょう!」
厄災討伐についてこの都市もずっと気にしていたのかもしれない。
これは僕がアーモロード出身であることは隠しておいたほうがいいかもしれないなと思った。
「お祭りの方は大丈夫なんですか?」
封印祭とやらがどれぐらいの期間に渡るのかわからないが、ダマバンドにとって重要なことだろうに。まだ討伐実行の日まで時間はあるが。
「ええ、封印祭は滞りなく、昨日終わりましたよ。もう少し早ければ使者のみなさんも守護竜を見れたのですが」
「終わってた! やった!」
「終わってたか……惜しいな」
「後ろの2人は気にしないでください。竜と実際に戦うと聞きましたけど、大丈夫だったんですか? こう、怪我人とかは……」
「私も見ていてハラハラでしたよ! ですが終わってみれば死者、重傷者ともに0! 守護竜を封印した英雄スラエータオナ再来の時代かと思いましたよ!」
「は、はぁ……」
とりあえず大成功、と。
「封印祭は終わっても街はお祭りムードのままなんですね」
「感謝祭はまだ続きますからね。もし時間があるならぜひ参加していってください!」
一応時間に余裕はあるけど、それはアイエイアまで順調に航海できればって話だし……何が起きるかわからないしなぁ。せいぜい出店を少し覗く程度かな。祭りを見るとしても。
「こちらが領主さまのお屋敷です」
「広い庭ですね……」
庭木が見晴らしを邪魔することなく間隔を空けて道を作るように並んでおり、どれも枝の長さを整えられている。少し横を見れば小高い芝生で遊ぶ子供、離れて見守る親の姿。領主の館というよりはまるで公園のようだ。
「祭りの間は解放されているので自由に見て回ることができますよ。祭りがなくてもよく解放してますがね」
「それでですか」
庭の一角ではお茶会でも開かれてそうな雰囲気。
この時代で今まで見てきたどの都市よりも生活に余裕を感じられる姿だ。
屋敷の前まで来ると、ローブを着こんだ1人の男性が立っていた。
その男は僕たちを見てから案内人に尋ねる。
「なんだ、そいつらは」
「トゥリタさま、こちらの方々はシバからの使者です」
トゥリタという男は懐疑的な目を向けている。
しかしトゥリタ……どこかで聞いたことあるような……
「おい、女王が言ってたのってこいつじゃないか?」
「あ!」
そうだ。保証書を見せろって言ってた相手だ。
懐疑的な態度の理由は人魚関係がバレ気味だからか。本当にわかるものなんだ。
「トゥリタさん、女王からあなたに見せるように言われてたものが」
「……確かにシバの女王の捺印だ。案内ご苦労。あとは私が引き継ぐ」
彼は案内役を帰らせて、女王からの手紙と僕を交互に見た。それから後ろのコルタナさん、サファイアさんへと目線が移り、そこで止まる
「……珍しく三姉妹揃っていないと思えば」
「ヒョォッ!? ば、バレてますよね! すみません封印祭をすっぽかすつもりはなかったんです本当なんですでも私はいても役に立つことはなかったと思います!」
サファイアさんの凄まじい速さの謝罪と自分を卑下する内容。
トゥリタさんは慣れているのか気にした様子はない。
「事情は姉のルビーから聞いている。バラバラになった理由を理解するまで数時間も掛かったがな……」
「私の説明だったらきっと数日は掛かりますよね本当にすみません」
「……疲れる。ルビーもアンバーも丁度屋敷に招かれている。あとで会うといい」
ルビーとアンバーはサファイアさんの姉妹かな。ヤバイ三姉妹かぁ。会いたくない。
「さて、使者殿の歪な流れは理解した。領主さまの元まで案内する。だが奇妙な真似はしないように」
「はい」
「はい、私は息を止めておきます!」
「……」
「……」
「…………息は止めなくていいだろ。倒れるまで止めそうでこわいわ」
本当に息を止め始めたサファイアさん。僕もトゥリタさんも彼女に何も言わなかったらコルタナさんが突っ込んだ。彼女のお守りはコルタナさんに任せよう。
領主との話、といっても手紙を渡すだけだからあっさりと終わった。
領主はなんというか、まあ人のよさそうな方で、これまでのイロモノとは違った安心感がある。感想としてはこれぐらいしか出てこない。
この後アイエイアにも行くことを伝えると、せめて一泊はしていけと勧められたので泊まることに。
領主の屋敷に泊まるわけにはと断ろうとすれば、今は封印祭で活躍した人たちも屋敷に泊めているらしく、是非会ってほしいと言われた。
ついでに海異と魔獣討伐の参加者としてその人たちを勧誘してほしいとか。なんでも活躍した人たちは冒険者が多数らしい。ダマバンドで雇えばいいだけでは、と聞けば、既に断られてしまったらしい。
一応シバ側からも声を掛けてほしいとのことで、とにかく庭で夕食会を開いているそうな。
そんなわけで夕食会までトゥリタさんに案内されている最中。
「封印祭で活躍した人たち……。トゥリタさん、ひょっとして、えっと、彼女の姉妹もいたりします?」
「……いるな」
「……そうですか」
あえて名前は出さない。存在感を消そうとしているサファイアさんがまた濃くなっては困るから。
「……使者殿、夕食会が終わった後、話がある」
「はぁ、今じゃダメなんですか?」
「人魚が中に潜む使者殿以外には話せない話だからな」
コルタナさんとサファイアさんをちらりと見て言う。サファイアさんは頭に?マークを浮かべていた。
そんなやり取りをした後、夕食会の場につけばそこには、占星術師っぽい恰好をしていて、机の上で逆立ちしている女の人が2人いた。たぶんサファイアさんの関係者。
それと、
「あー、白い人だー! アーウラ、白い人がいるよ!」
「ネローナ、いきなり失礼なことするなって言ってるじゃない。領主さまの屋敷なのよ、本当に勘弁して」
アーモロードで会ったことのある2人組の冒険者。ネローナさんとアーウラさん。
「あー! あんたは!」
「ちょっとエイス、急に叫ばないでよ。あと野菜もちゃんと食べて」
「ヴィセンはお肉も食べようよ」
「マウマウは食べ過ぎだよ」
アユタヤの三人組の子供たち、エイス君とヴィセン君、マウマウちゃんがいた。
原作NPCいっぱ出でつつあるや……
とりあえず今回の新規さん紹介。
トゥリタ
大航海クエスト共闘NPC。ダマバンドのゾディアック。使える属性は全部。メテオもできます。
このお話でも全属性可能です。ダマバンドの、というか北海の中でも高名な占星術師となっております。
再登場組紹介。
ネローナ&アーウラ
2人組のボウケンシャー。ウォリアーのネローナと、ゾディアックのアーウラ。
ネローナは鎚使い。アーウラは雷専門の占星術師です。
このお話ではナルメル戦前にネイピア商会で会ってます。
トライルーキーズ
3人組のボウケンシャー志望の子供たち。パイレーツのエイス。バリスタのマウマウ。ゾディアックのヴィセンで構成。
このお話ではアユタヤ編で登場。
書き溜めは途中までしかできてない。私の意志はよわいです。
途中までとはいえ、一応キリのいいとこまでは書いたので……