とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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61.生きていく基礎を忘れるなかれ

 

 

 

 夕食会で机の上で逆立ちしている女が2人、知り合った街から遠く離れた場所での再会が2つ。

 前者のインパクトが強すぎて言葉がすぐに出てこない。

 

 なんとか絞りだせた言葉は。

 

「わあ……」

 

 これだけだった。

 

「あ、あなた確か……ミゼル、だったかしら?」

「あ、えと、アーウラさん、お久しぶりです?」

「覚えていてくれたのね。嬉しいわ」

「あたしはあたしは!?」

「ネローナさんですよね」

「せーかい!」

 

 さっき名前を呼び合ってたのを聞いたから自信を持って答えられるとも。

 それにしてもこの2人は何故ダマバンドに。アーモロードで冒険者をしていたはずなのに。

 

 それを尋ねる前に今度はエイス君たちがやってきた。

 

「まさか俺たちを連れ戻しにきたのか!?」

「エイス君、何の話?」

「あ、違うのか。じゃあいいや!」

「でもミゼルさんがいるってことは、あの女の人もいるんじゃ……」

「げっ、そうだった……あれ?」

 

 エイス君たちの目が僕から後ろのサファイアさんへ、そしてコルタナさんへと移っていく。

 

「……男になってる。ヴィセン、マウマウ、俺は何を見てるんだ?」

「ち、違うよきっと。あの人はシャーロットさんなんだよ。髪型変えただけで……きっと。ほら、剣持ってるし」

「なるほど?」

「こいつらなんか変な勘違いしてないか?」

「面白そうですし放置でいきましょう」

「お前……クーパーのこと言えねぇぞ」

 

 しかし連れ戻すって何のことだ。気になることがまた増えた。ひょっとしてまた密航でもしたのか。密航者多いな。

 アーウラさんたちがアーモロードを離れている理由、エイス君たちの発言。あと逆立ちの限界が来たのか倒れた女性2人。

 そういやエイス君たちってアーモロードに行こうとしてなかったっけ。

 

 エイス君たちがうんうん頭を悩ませている間にアーウラさんが話しかけてきた。

 

「この子たちと知り合いなのね」

「アユタヤに行った時に少し……アーモロードに行きたがってたはずだけどなんでダマバンドに……」

「アーモロードに行きたくなくなったからでしょ? あなたもそうじゃないの?」

「へ?」

 

 何を当然のことを、と言わんばかりのアーウラさん。

 行きたくなくなったからダマバンドにいる。まあわかる。けど僕もそうじゃないのか、とは一体なんだ。

 

「あ、ひょっとして深都が発見されたからもう元老院から報酬がなくなったから、とか?」

「……知らないの?」

「えと……、何かあったんですか?」

「……何かが起きそうなのよ」

「……?」

 

 何かが起きたわけじゃないのか。

 予感がしてアーモロードを出た? なんとも、野性味あふれる回答だ。

 

「元老院は深都発見後も別の指令を出して報酬を用意しているわ。だけど問題は……ピリピリしてるのよね。みんな」

「みんなって?」

「アーモロードの衛兵たちも、残っていた冒険者も、深都の人たちも。聞けば今まで兵士や冒険者が死んだのは深都によるものだったらしいじゃないの。なのに協力して探索を続けろなんて難しいわ……。元老院の指示だからみんな従ってるけど、いつ爆発するかわからなくて私たちは逃げた」

 

 深都によるもの……オランピアか。

 アーモロードはオランピアの殺人を許容した? それどころか協力する……

 もしも今、アーモロードに戻ったら取り押さえられそうだな。深都に、オランピアに協力するってことは真祖死すべしだろうし。

 

 とにかくアーウラさんたちがアーモロードにいない理由はわかった。

 だが彼女たちの説明はまだ続く。

 

「あたしたち以外も結構出ていったよね」

 

 他の冒険者も出て行った。

 

「……結構って、どれぐらいですか?」

「え? うーん……いっぱい?」

「古株はほとんど出ていったわ。有名なところなら、トーマのいるバタフライズとか、スターブラザーズとかもそうね」

「……」

「残ったのは雰囲気を察知できていないギルドや、一層で止まっているギルドぐらいじゃない?」

 

 元々知り合いが少ない僕だから、知ってる名前はそんなに出ないと思いきや。トーマさんのギルドにカストルさんたちまでも。

 古株、つまり経験豊富な冒険者たちがほとんど出ていったとなると……港長が何もできなくなるわけだ。兵士は元老院が全権を握り、フリーの冒険者を頼ろうにもアーモロードからいなくなった。いたとしても戦力になるか不明な者だけ。

 

 

 今のアーモロードは、海上で孤立しつつある中で、さらに力を失いつつある。

 

 

【海都は沈みゆく船といったところか】

 

 真祖の声。珍しく意思を出したが、感情が読み取れない。いつもより冷めているかのようでよくわからない。

 

【お前に僕を理解できるはずがない】

 

 理解してやるとも。

 利用するためにも、それに追い出すためにも、理解は必要だとわかったし。

 

「あなたはどうしてダマバンドにいるの? アーモロードの状況を知らなかったみたいだけど」

「い、色々あって、今はシバの使者なんです?」

「私に聞かれても困るんだけど……」

「船の操舵ができるからっていうのと特殊な体質が原因で……」

 

 言ってて謎い。

 まあ伏せている部分があるからだけども。

 

「あ、ところでアーウラさんたちは魔獣討伐について知ってます?」

「ここの領主さまに聞かされたわ。報酬も美味しいみたいだし、悪い話ではないんでしょうけど……」

「何か気になることが?」

「ネローナがちょっとね……」

「あたし見たんだ!」

「ええと……、何を?」

「大きな竜が飛んでるのを!」

 

 飛ぶ竜? 海竜とは違う存在?

 竜って何気に多いのかな。

 

「たぶん見間違いなんでしょうけど、気になるから調べに行きたいって言って聞かないのよ……」

「見間違いじゃないよ。ほんとに見たんだって!」

「この調子でうるさいのよ……」

「どこで見たんですか?」

「ダマバンドに来る途中で!」

 

 範囲が広すぎてわからん。

 助けを求めアーウラさんを見る。

 

「……シバからダマバンド行きの船に乗って、すぐだったかしら。嵐に見舞われて、本当に勘弁して欲しいって時にこの子が甲板に出たのよ……」

「その時に竜を?」

「うん! 霧が無くなってて西かな? 西の空に竜を見たんだ。霧がなくなってたから絶対見間違いじゃないよ! きっと竜の巣があの空に!」

 

 霧がなくなっていた? 嵐で散ったということ?

 

「とにかく、この子がうるさいから調べに行くの。それっぽいので勝利の塔があるから、そこまで連れていってくれる船を探すところからだけどね……」

「なんというか、二人ともマイペースですね」

「海がどうとかあまり興味ないもの。島間で行き来がしやすくなるに越したことはないけど、興味のある島がないから」

「竜の巣に興味があるよ!」

「わかったって。とにかく私たちは魔獣討伐より竜の巣探しを優先するわ。あなたもどう?」

 

 逆勧誘だとう。

 しかし竜の巣が実際にあるのか怪しいし、それなら確実に存在しているっぽい海竜へ近づけそうな魔獣討伐の方が僕的には重要。

 

「竜は確かに興味ありますけどね。でも可能性が薄そうですし……」

「本当に見たんだって!」

「ま、普通そうよね。残念。操舵できる人がいてくれたら楽だったんだけど」

「こちらも残念です。討伐作戦参加者が増えてほしかったんですが」

 

 そこまで言って、ぐいっと袖を引っ張られる。

 引っ張ったのはエイス君だ。

 

「? どしたの?」

「参加者が増えてほしいんだろ」

「うん、そうだよー」

 

 アーウラさんたちがダメなら、あと声を掛けるとしたら……サファイアさんの姉妹かなぁ。会話、できるかなぁ。

 

 またもぐいぐいと引っ張られる。

 

「ここに未来の大冒険者になるやつがいるぜ!」

「あ、逆立ちやめてし今なら普通に話せるかな……」

「無視はやめろよ! 無視はよくない!」

「えー……コルタナさん、サファイアさんの姉妹の勧誘か子供の説得、どっち行きます?」

「どういう振り方だよ。どっちもお前がやってくれ。俺は嫌だぞ」

 

 我関せずと言わんばかりにコルタナさんは骨付きグリルチキンに齧りついた。よく見たら持っている取り皿にチキンの骨がすでに4本はある。ずっと話しより食い気を優先していた模様。

 

「エイス君や」

「説得って止める気か!? 俺たちの実力を知らないからって横暴だ!」

「いや、さすがに子供の力を借りるわけにはいかないと思うし」

「戦えるなら子供も大人も関係ないって! それにここで竜と戦ったんだぜ! アユタヤでも鮫に勝っただろ!」

 

 アユタヤでも危なかった気がするんだけど。それに勝ったって言ってもヴィクトリアさんの助太刀があったからだし。まあここでの戦闘はどんなものかは知らないし、領主に呼ばれるほどだから活躍はきっとしたのだろう。

 だけどなぁ……

 

「本人がやりたがっているならいいんじゃない?」

「えぇ……」

 

 他人事のようにアーウラさんが言った。味方を得られたと考えたのかエイス君がここぞとばかりにアピールを始める。

 

「そうそう! やる気があるやつから使っていくべきなんだって! 俺たちはやる気もあるし将来性もあるからさ! 今のうちに頼んだ方がいいぜ!」

「主導はシバだから、そっちで参加可能か聞いてねー」

「わかった!」

「投げたわね」

 

 勘弁して。

 

 実際シバ主体だし、作戦の参加不参加はきっとシバで決めてくれるはず。そこでぜひとも断られてほしい。

 人手を求めてそうだけどさすがに子供を戦わせるなんてないだろうし。

 

 エイス君たちのいる席から離れ、いよいよ厄介集団との接触だ。サファイアさんには慣れてきたけど、また別の奇人。覚悟して挑まないと。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 意を決して声を掛ければ、最初に反応したのはサファイアさんだ。

 

「ミゼルさん、どうしました? 私何か粗相をしちゃいました? そうですよね、本当にすみません……」

 

 開幕ネガティブ。

 

「いえ、そういうわけじゃ」

「サファイアが何かしちゃったの? 私の方がもっとすごい粗相できるわよ!」

「姉さん、そんなことないから。私が一番迷惑だから……」

「白黒はっきりするべきだね!」

 

 なるほど、これは諦めたい。

 サファイアさん1人ならまだネガティブをスルーすればいいのだけど、これはダメだ。謎の化学反応を起こしている。

 姉はなんでかネガティブに張り合うし、妹はなんか意味がわからない。ダマバンドの領主が勧誘を任せたのはこの3人との会話をしたくなかったからでは、とか思ってしまう。

 

「シバ主体の魔獣と海異討伐作戦の参加者を探しているんですけどどうかなーっと!」

 

 サファイアさん相手と同じように向こうの意見を聞いちゃダメだ。とにかくこちらが話の主導権を握らなくては。そう思い語気を強めて言った。

 

「いいわよ! 私がいてあげないとだものね!」

「あざっす!」

「私は嫌なんだけど……あ、でも私はもう密航者として目をつけられてるのよね……私に意見なんてないの。空気なの」

 

 ……あ、すんなり。

 そして確信。絶対ダマバンドの領主は彼女たちに声掛けてないわ。

 

「元々そのつもりだったもの! サファイアが参加なんでしょ? なら姉である私も当然出るわよ!」

「あたしもー! アンバーです!」

「あ、はい。ミゼルです」

「私が最初に名乗るはずだったのに……ルビーよ! 次からは私が最初に名乗るからね!」

 

 よし、僕の役目は終わった。勧誘した時点で終わった。

 

「えっと、とりあえず詳しいことはダマバンドの領主さんに聞いてくださいね」

 

 名前の早口対決をし始めた姉妹たちにそう言い残し、僕はその場を離れた。

 

 

 

 

 他にも人はいたが、封印祭で活躍したのは3組。3組いて勧誘で色良い返事をくれたのは1組だけという結果で終わった。

 

 あとはトゥリタさんがなにやら話があるとのことなので、そちらへと向かう。

 周囲を見ればみんなご飯を食べながら歓談している。トゥリタさんだけ外れた場所に突っ立っていた。

 

「トゥリタさん、話ってなんでしょう」

「……夕食の後でいいが」

「ええ、もう大丈夫ですよ」

 

 トゥリタさんも食べ終わったような雰囲気だし良いだろう。

 

「先ほどから使者殿は何も食べていないようだが」

「お腹が空かないんですよ」

 

 中に真祖がいると自覚してから空腹感は全くない。食べることはできるのだろうが、食べなくてもいい身体になってしまっている。

 

「漣の女王から頂いた情報では、人魚に憑りつかれている人間とあったが……」

「そうですね、それで間違いないです」

「なら食べてこい」

「え、いや、食べなくても大丈夫なので」

「食べても問題ないのなら食べろ。自分から人の輪を外れようとするな」

「は、はい」

 

 食べない限り話をする気はなさそうだ。

 

 すごすごと僕は食事が並べられているテーブルへと戻ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 







シグナル三姉妹。
大航海クエスト共闘NPCであり、全員ゾディアック。ルビー、サファイア、アンバー。それぞれ炎、氷、雷を専門としている。
原作で台詞ありは次女のサファイアのみ。なので長女のルビーと三女のアンバーは妄想でカバーしてます。

登場人物増えすぎると把握難しくて読みづらくなっちゃいがち……
でも原作キャラだしぃ!!って開き直ってます。
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